ゲーム理論・入門 新版–人間社会の理解のために (有斐閣アルマ)

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有斐閣アルマからのゲーム理論入門

ゲーム理論の基礎的な内容を中心に解説しています。ゲーム理論の学問的な位置づけや成り立ち、ゲーム理論が扱う人間のモデルのような、そもそもゲーム理論とはなんぞや、といったポイントから始めています。また、意思決定の背景にあるミクロ経済学の考え方についても示されており、ゲーム理論がよくわからない初心者の方でも理解しやすいと思います。

肝心のゲーム理論のトピックですが、寡占市場での均衡や公共財、ナッシュ均衡、囚人のジレンマといった有名な項目に加えて、先読み理論、ゲームの情報構造、繰り返しゲームといった応用的な理論についても解説されています。難しい数学が必要となることで理解しにくいイメージが強いゲーム理論ですが、本書は、数学がそれほどできなくても理解できるものとなっています。ゲーム理論について基本を学びたい方向けの本でしょう。

岡田 章 (著)
出版社: 有斐閣; 新版 (2014/9/18)、出典:出版社HP

新版へのはしがき

初版の出版以来,本書がゲーム理論に関心をもつ多くの方々に 読まれ、フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンの『ゲームの理論 と経済行動』出版 70周年の記念すべき年に新版を出版できること は、私の大きな喜びである。

人間社会において、私たちは異なる価値観や文化をもつ他の人々 とどのようにして利害の対立を克服し、協力関係を築くことができ るだろうか。このような人間社会の根本問題を考察するためには、 社会と人間行動の基本的なメカニズムを研究し理解する必要があ る。現在, ゲーム理論は,経済学を超えて、人文・社会科学や自然 科学,工学の広範囲な学問分野で活発に研究が行われている。今 後,さらに、すべての人々にとって幸福な人間社会を実現するため の基礎的な学問として発展することが期待されている。また,ゲー ム理論のものの見方や考え方を身につけることは、グローバル化し た社会を生きる私たちの新しい教養の1つとして有用であると思う。
新版では、読者の方々が学びやすいように2色刷とし、表現や 説明をよりわかりやすいものに改訂した。また,近年,発展が著し いオークション理論の基礎的事項を追加した。

有斐閣の尾崎大輔氏には,初版と同様に,本書の企画,編集,出 版について大変お世話になりました。ここに記して深く謝意を表し ます。

2014年7月
岡田章

初版はしがき

21世紀に入り,私たちの社会はインターネットなどの新しい情報技術の発達によって、個人,企業,組織,国などのさまざまなレベルでグローバル化が急速に進んでいる。現代社会では,私たち自身と他の人々とのつながりはますます緊密なものとなっている。 私たちの行動は互いに影響を及ぼし合い,相互に依存している。社会 を構成する私たち1人ひとりはそれぞれ独自の価値や目的を追求 する存在であり,その結果として,地球温暖化問題や経済格差など の例に見られるようなさまざまな利害の対立が生じている。いかに して,このような利害の対立を克服して他の人々と協力関係を実現 するかが,現代社会を生きる私たちにとっての大きな課題である。

ゲーム理論は、社会や経済における複数の主体の相互に依存する 行動や意思決定を研究し,さらに,人間の行動をとおして、社会の 成り立ちやあり様を研究する学問である。ゲーム理論は経済行動を 分析するための数学理論として誕生したが,その後,自律した行動 主体(システム)の相互作用というゲーム理論の研究対象は,経済 学だけにとどまらず他の社会科学や人文科学,さらに自然科学や情 報科学などの広範囲な学問分野で共通に見出されている。そして現 在では、ゲーム理論は普遍的な理論としてさまざまな学問分野で活 発に研究されている。今後、さまざまな学問分野をつなぐ共通言語 としてのゲーム理論の役割はますます大きくなることが期待されて いる。

また,研究のフロンティアだけでなく、ゲーム理論の考え方や見 方を身につけることは,国際化が一層進展している現代に生きる私たちの新しい教養の1つとして有用であると思う。とくに,こ れからの新しい時代に活躍する若い世代の人々にとって,異なる 価値観や文化をもつ他の人々の考え方や行動を理解し,利害の対立 を克服して協力関係を築くための理性と感性(著者はこの2つをとも にもつ心をゲーム・マインドと呼んでいる)を磨くことが大切であり, ゲーム理論の学習はこのために役立つはずである。

本書は,ゲーム理論を初めて学習する読者を対象に書かれた入門 書である。執筆にあたっては、読者がゲーム理論の学習をおもしろ いと感じ,さらに学習を進めていくにつれてゲーム理論の基本的 な考え方や見方が自然と身につくように配慮した。そのため,数学 的記述はなるべく避けるようにした。なお,本書を学習するための 必要最小限の数学知識は、Helpとして適宜説明を加えているので 必要に応じて参照してほしい。また,入門書ではあるが扱う内容の レベルは下げず,基礎から最新の研究成果までをわかりやすく解説 するように努めた。しかしながら,著者の力不足のため,初学者の 方々にとっては記述がわかりにくい点も残っているかもしれない。 その点は、読者の方々のご批判を仰ぎたい。本書が,少しでも読者 の方々のゲーム理論の学習の手助けとなれば,著者にとってこれ以 上の喜びはない。

本書の執筆にあたっては、多くの方々から多大のご支援をいただ いた。ゲーム理論の入門書を執筆することを着想したきっかけは、 2002年から2年間,京都大学の経済学部と法学部の学生有志諸君 と催した「初学者のためのゲーム理論勉強会」である。勉強会で は、初学者の斬新な発想や,初めてゲーム理論を学習するときに感 じるハードルがどこにあるのかを理解できて,著者にとって大変有 意義であった。一緒に楽しくゲーム理論を勉強する機会を与えてく れた参加者の方々に感謝したい。また、京都大学総合人間学部と一橋大学経済学部でゲーム理論の入門的な授業を担当する機会が与えられ,本書の内容はこれらの授業の講義ノートにもとづいている。 2007年は、一橋大学経済学部の授業「応用ゲーム理論」で本書の 原稿を実際に用いて講義した。授業に出席し多くの質問やコメント をしてくれた学生の皆さんに感謝したい。2004年に京都大学から 一橋大学に移った後は、大学院と学部のゼミを担当し,日頃,ゼミ の学生諸君から多くの刺激と励ましを受けている。ゼミの学生諸君 が,ゲーム・マインド(院生諸君はゲーム・スピリット)をもった自 由な個人として社会のさまざまな分野で活躍することを期待して、 ゼミのモットーは「自由とゲーム・マインド」である。読者の方々 にも,本書を通じて,ぜひゲーム・マインドを身につけていただき たいと願っている。

次の方々は、本書の原稿を丹念に読んで大変有益なコメントを下さった。丸田利昌教授(日本大学大学院総合科学研究科,以下肩書きは執筆当時),宮川敏治准教授(大阪経済大学経済学部),加茂知幸准教 授(京都産業大学経済学部), 福住多一講師(筑波大学大学院人文社会科 学研究科), 新井泰弘氏(知的財産研究所)。ここに記して謝意を表し ます。津田塾大学の味曽野梨果さんには原稿の作成で大変お世話に なりました。
最後に,有斐閣の尾崎大輔氏には、本書の企画、編集、出版につ いて大変お世話になりました。ここに記して深く謝意を表します。

2008年6月
岡田章

著者紹介

岡田章(おかだ・あきら)
1982年、東京工業大学大学院総合理工学研究科システム科学専攻博士課程修了(理学博士)
1982年より東京工業大学理学部情報科学科助手,1989 年より埼玉大学
大学院政策科学研究科講師,同年助教授,1991年京都大学経済研 究所助教授,1996年京都大学経済研究所教授,2004年一橋大学大学院経済学研究科教授,2015年京都大学経済研究所教授を経て,
現在、一橋大学名誉教授
専攻:ゲーム理論,理論経済学
主著:『ゲーム理論』(初版1996年,新版 2011年,有斐閣);『経済学・経営学のための数学』(2001年,東洋経済新報社): 『ゲーム理論の 新展開』(共編著,2002年,勁草書房);『ゲーム理論の応用』(共 編著,2005年,勁草書房); 『国際紛争と協調のゲーム』(共編, 2013年,有斐閣); 『ゲーム理論ワークブック』(監修・著, 2015年, 有斐閣)

本書を読むにあたって

●本書の構成
本書は全12章と,文献ガイド,練習問題の解答で構成さ れています。まず第1章で、ゲーム理論とは何か,本書で扱われる内容の 概略を解説します。次に第2章では意思決定と,ゲーム理論の学習で重要 な確率について丁寧に説明し,第3章ではさまざまな日常生活などにおけ るゲームの例を概観します。第4章以降では,理論の基礎から最新の研究 成果まで解説します。豊富なゲームの例を示しながら,楽しく学び進める ことができ、基本的な考え方や見方が自然と身につくように工夫しました。 第12章では、ゲーム理論を実際に検証する実験研究について概観します。 本書を通じて,現代社会を生きるうえで重要な,利害の対立を克服して協 力関係を築くための理性と感性「ゲーム・マインド」をぜひ身につけてく
ださい。
●ポイント
各章の冒頭には、その章の位置づけや概要をコンパクトに解 説した「ポイント」を用意しました。
●キーワード
各章で学ぶ重要な用語や概念を青色太字で表記しました。 索引でも,その用語や概念がとくに説明されている箇所の数字が青色太字 で表記されています。
●Column
本文の解説の背景となる知識や,追加的な話題を解説した7つ の Columnを収録しました。
●Help
本書を学習するための必要最小限の数学知識は、適所にHelpと して7つ挿入し、説明を加えています。必要に応じて参照してください。
●練習問題
各章末に、本文の内容確認やより進んだ学習のための「練習 問題」をつけました。巻末には「練習問題の解答」を収録しています。
●文献ガイド
巻末に、次のステップへ進むための参考文献をテーマごと に紹介しています。さらにゲーム理論を学ぶためにぜひご活用ください。
●索引
巻末に「事項索引」「人名索引」を収録しました。索引です。 キーワード(とくに説明している箇所)のページ番号を青色太字で表記 ています。「人名索引」には,それぞれ原綴りも掲載しています。

岡田 章 (著)
出版社: 有斐閣; 新版 (2014/9/18)、出典:出版社HP

目次

新版へのはしがき
初版はしがき
著者紹介
本書を読むにあたって

第1章 ゲーム理論とは何だろうか?
1 人間社会の科学
ゲームとは?
ゲーム理論の考え方と対象
2 ゲーム理論の創設者
●フォン・ノイマン、モルゲンシュテルン、ナッシュ
ゲーム理論の誕生
ナッシュの貢献
3 ゲーム理論における人間のモデル
人間をどのように捉えるか
合理的な人間とは?
4 ゲームの基本用語
5 経済学とゲーム理論

第2章 選択と意思決定
1 意思決定のモデル…
選択と選好
合理的な意思決定
2 リスクを含む選択対象
3 期待効用仮説
期待効用仮説の成立条件
期待効用と意思決定
リスクに対する態度
4 不確実性と主観確率
5 確率の基礎知識
確率とは
確率変数
条件つき確率とベイズの公式

第3章 戦略ゲーム
1 ゲームの例
2 確率的な戦略
ペナルティキックの戦略
混合戦略
3 クールノー寡占市場
4 公共財の供給
5 オークション

第4章 ナッシュ均衡点
1 最適応答
2 ナッシュ均衡点とは?
ナッシュ均衡点の求め方
協調ゲームのナッシュ均衡点
男性と女性の争いのナッシュ均衡点
タカーハトー・ゲームのナッシュ均衡点
ナッシュ均衡点の定義
3 均衡点の2つの考え方
●合理的均衡と集団均衡 合理的均衡
集団均衡
2つの考え方の違い
4 均衡点の計算方法
混合戦略のナッシュ均衡点
連続変数のナッシュ均衡点
5 支配戦略とマックスミニ戦略
支配戦略
第2価格封印入札
マックスミニ戦略

第5章 利害の対立と協力
1 囚人のジレンマ
2 個人合理性
3 集団合理性
パレート最適性
一般的なパレート最適性の定義
囚人のジレンマの特徴
4 ナッシュ均衡点とパレート最適性
パレート最適な戦略
クールノー寡占市場と公共財の供給
値下げ競争のジレンマ
5 協調と協力
相関戦略と相関均衡
ジレンマの解決

第6章 ダイナミックなゲーム
1 ゲームの木
逐次的なゲーム
ダイナミックなゲームの例
最後通告ゲーム
2 先読み推論
チェーンストア・ゲーム
レディファーストのゲーム
最後通告ゲームでの理論予測
3 ゲームの情報構造
情報集合
情報分割
完全記憶ゲーム
個然手番
4 展開形ゲームの戦略の概念
戦略と行動
行動戦略
偶然手番をもつゲームの戦略
5 部分ゲーム完全均衡点
展開形ゲームのナッシュ均衡点
完全均衡点
部分ゲームと完全均衡点
複数回の逐次手番ゲーム

第7章 繰り返しゲーム
1 繰り返し囚人のジレンマ
完全情報をもつ繰り返しゲーム
繰り返し囚人のジレンマの戦略
将来利得の割引
繰り返し囚人のジレンマのナッシュ均衡点
トリガー戦略
しっぺ返し
戦略
2 フォーク定理
個人合理的利得ベクトル
暗黙の協調
3 利己的動機と利他的行動
利己的動機と利他的動機
互恵的利他主義
4 不完全情報とシグナル
不完全情報と繰り返しゲーム
ベルトラン寡占市場

第8章 不確実な相手とのゲーム
1 情報不完備ゲーム
不完全な知識
非対称情報
ベイジアン・ゲーム
2 プレイヤーの信念とベイズの定理
事後予想と信念
整合的な信念
3 完全ベイジアン均衡点
情報不完備ゲームの均衡
分離均衡
一括均衡
4 逆選択とシグナリング
情報の非対称性による問題
シグナリング・ゲーム
5 モラルハザード
モラルハザードとは
プリンシパル=エージェント問 題
固定賃金契約のゲーム
ボーナス賃金契約の ゲーム
6 オークションの収入同値定理
参加者の入札戦略
主催者の期待収入

第9章 交渉ゲーム
1 2人の交渉問題
2 ナッシュの公理
公理論的アプローチと戦略的アプローチ
交渉解の4つの公理
3 ナッシュ交渉解
4 交渉の戦略ゲーム

第10章 グループ形成と利得分配

1 協力ゲーム
提携の形成
優加法的ゲーム
協力ゲームと非協 力ゲームによるアプローチ
パレート最適性と個人合理性
3人ゲームの配分の集合
2コア
3 シャープレイ値
4 交渉の戦略的アプローチ .
5 市場ゲーム

第11章 進化ゲーム
1 進化ゲームの基礎
進化的に安定
メイナード・スミスの考え
進化
ゲームによる新しい視点
2 進化のダイナミックス
3 進化的に安定な戦略(ESS)
4 協力の進化

第12章 ゲーム実験
1 実験研究の意義
理論の検証
経済学と実験
実験研究の3つの意義
2 最後通告ゲーム
最後通告ゲームの最初の実験
互恵性の発見
正の互恵性と信頼
3 公共財の供給
限定合理性と学習
ただ乗りと処罰機会
4 平均値推測ゲーム
ケインズの美人投票
ゲームの理論予測
予測に対する実験結果

よりゲーム理論を学ぶための文献ガイド
練習問題の解答
索引

Column一覧
1 科学とは何か?
2 プロスポーツ選手はゲーム理論を使う?
3 ゲーム理論と夏目漱石「私の個人主義」
4 チェーンストア・パラドックス(134)
5 情報不完備ゲームと不完全情報ゲーム
6 天才ナッシュ
7 日本の大学生による平均値推測ゲームの実験

Help一覧
1 集合,数,関数
2 関数の微分と最適化
3 十分条件と必要条件,逆と対偶
4 数列と無限級数
5 確率変数の分布関数
6 関数の積分
7 閉集合と口集合

ゲームの例,一覧
2.1 個人の目標
2.2 宝くじの購入
2.3 株の購入
2.4 事前予想の更新
3.1 ピザ店の顧客獲得競争ゲーム
3.2 協調ゲーム
3.3 男性と女性の争い
3.4 タカハト・ゲーム
3.5 ペナルティキック
3.6 クールノー寡占市場ゲーム
3.7 公共財の供給ゲーム
3.8 封印入札の価格ルール
4.1クールノー均衡
4.2 公共財の供給
5.1 ピザ店の値下げ競争ゲーム
6.1 チェーンストア・ゲーム
6.2 レディファーストのゲーム
6.3 最後通告ゲーム
6.4 ペナルティキックのゲーム
6.5トランプ・ゲーム
6.6 不確実性下での値下げ競争ゲーム
6.7信頼ゲーム
7.1 贈り物ゲーム
7.2 ベルトラン寡占市場
8.1 不確実な相手とのゲーム
9.1 収益分配の交渉
9.2 債権回収の交渉
9.3 共同行動の交渉
10.1 ベンチャー企業の起業
10.2 3人多数決ゲーム(230)
10.3 1人の売り手と2人の買い手
11.1 囚人のジレンマ
11.2 コンピュータの OS 選択
11.3 タカー ハト・ゲーム
11.4 「男性と女性の争い」における共進化

岡田 章 (著)
出版社: 有斐閣; 新版 (2014/9/18)、出典:出版社HP