SDGsの実践 ~自治体・地域活性化編~

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地域でSDGsに取り組むための実践書

本書は、現在直面している課題や目指すべき目標が異なる地域での持続可能性の実現を目的として、自治体や地域におけるSDGs実践の導入方法、政策、事例についてまとめています。SDGsの理念を地域課題の解決に活かしたい人におすすめの一冊です。

事業構想大学院大学 出版部 (著, 編集), 村上周三 (著), 遠藤健太郎 (著), 藤野純一 (著), 佐藤真久 (著), 馬奈木俊介 (著)
出版社: 宣伝会議 (2019/4/25)、出典:出版社HP

巻頭言 | 持続可能な地域社会の実現に向けて

SDGsを踏まえた地方創生と未来の姿

国連サミットにおいて、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、17のゴールと169のターゲットからなるSDGs(持続可能な開発目標)が策定されて3年あまりが経過しました。SDGsは、国家戦略として位置づけられるなど、政府の積極的な取り組みが強化され、日本経済団体連合会(経団連)による行動憲章改定やESG投資の流れを受けて、大手企業を中心に急速な浸透がみられます。同時に、地域および中堅規模の組織やスタートアップ企業も、自らが成長を果たすための考え方・方針としてこれを重視し、情報を収集しながら検討を重ねています。

SDGsを達成するには、理想とする全体像を構想し、必要とされる要件やツール、サービスを生み出すイノベーションが必要不可欠 であると思われます。自らの経営資源を見極め、それを活かして目標に向かうことが大切であり、そのうえで、企業や自治体が単独で取り組むことにとどまらず、社会全体が目指す共通の理想に向けて、それぞれの資源や強みを活かし、連携を意識した行動をとることで、理想の未来は近づきます。理想を共有するためには情報が不可欠です。その重要性を認識し、私ども学校法人先端教育機構事業構想大学院大学出版部では、雑誌および書籍を通して最先端の研究の成果を、社会の知として広げ深めていきたいと考えています。

SDGsの理念を地域課題の解決に活かす

少子高齢化をはじめ、生産年齢人口が急減している地域社会においては、地域の経済基盤となる地域企業の維持や、医療・介護サービスの担い手確保、交通システムの維持や老朽化するインフラへの対応など、課題が山積しています。課題先進国といわれる日本ですが、SDGsを取り入れ、未来を構想し、行動することで、持続可能な地域社会を構築する可能性が現実のものとなります。

すでに多くの自治体が積極的に活動し、「SDGs未来都市」や 「ジャパンSDGsアワード」のように課題解決に向けて、好循環を生み出している地域もみられます。先進的な取り組みを実践している地域はベストプラクティスの成果とその背景にある知見を他者に伝え、さらなる成長を志向することが求められます。有効な情報を 循環させ、裾野が広がることで、あらゆる地域での取り組みが加速することが期待されます。

社会の一翼を担い、地域を創る人材

SDGsについて考え、その活かし方を考え、実行する担い手は、理念を理解する人材です。学校法人先端教育機構は、文部科学大臣 の認可を得て2012年に事業構想大学院大学を、2017年に社会情報大学院大学を開学し、高い志、使命感、専門性の追究によって社会の一翼を担う人材の教育と研究に力を注いでいます。地域の活性化 には「産官学金言労士」の力と協業が欠かせませんが、あらゆる人 が自らの役割に気づき、価値を高めるために、教育と研究は地域に根ざす視点がより大切な時代を迎えているように思います。事業構 想大学院大学は、現在、東京、名古屋、大阪、福岡に展開をしていますが、各自治体、大学をはじめとする高等教育機関、地元産業界 の皆様方と連携し、SDGsの動きを加速することができればと願っています。

2017年に創設したSDGs総研では、持続可能な社会の実現に向けた教育と研究を目的として、さまざまな業種業界の経営者や新事業開発担当の方々とともに、SDGsの理解を深めながら、新たな事業 の開発を目指しています。

2025年に開催される大阪万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」、すなわち「SDGs万博」との方針が打ち出されています。未来社会のショーケースのみならず、あらゆる地域、企業、組織、 人々が、理想の社会を考えるきっかけになるような企画とアイデア が集まり、展開されるためにも、自らの経営資源を活かした特色ある活動と同時に、迅速な情報共有が問われてきます。

構想と構想計画でイノベーションの実現へ

本書は、直面している課題や目指すべき将来像が異なるそれぞれ の地域での持続可能性の実現を目的として、自治体・地域における SDGs実践の導入手法・政策・事例についてまとめています。

新たな時代に向かう日本社会は、有望な要素を多く包含し、かつ 未来への布石が打てる素晴らしい時を迎えています。この時期に、多くの読者の皆様がそれぞれの持ち場でSDGsについて考え、実践 することにより、持続可能な社会の実現が達成され、よりよい未来 を拓くことにつながると確信しています。

学校法人 先端教育機構
理事長 東英

事業構想大学院大学 出版部 (著, 編集), 村上周三 (著), 遠藤健太郎 (著), 藤野純一 (著), 佐藤真久 (著), 馬奈木俊介 (著)
出版社: 宣伝会議 (2019/4/25)、出典:出版社HP

目次

巻頭言 持続可能な地域社会の実現に向けて (東 英弥)

序章 地域におけるSDGs
―なぜ地域・自治体がグローバル目標 に取り組むのか(村上周三)
はじめに
1. 地域・自治体が直面する課題
2. SDGsの枠組みと日本社会の取り組み
3. 自治体/企業等がSDGsを導入することの必要性とメリット

第1章 地方創生と自治体SDGs
―グローバル目標の実践(村上周三)
1.自治体の行政ツールとしてのSDGS
2.自治体へのSDGS導入の方法
3. パートナーシップと官民連携
まとめ

第2章 地方創生に向けたSDGsの推進(遠藤健太郎)
1. SDGsの特徴と政府の取組
2. 地方創生に向けたSDGsの推進
3. 地域におけるSDGsの取組のモデル事例の創出と普及促進
4. 地域の社会的課題の解決に向けたSDGsを活用した官民連携の促進
5. 「SDGsモデル」の海外発信と都市間連携

第3章 地方自治体におけるSDGsの実践事例
(藤野純一) 【執筆代表者] 1. 世界の中での地方自治体におけるSDGsの展開
2. 実践事例1 福岡県北九州市
3. 実践事例2 富山県富山市
4. 実践事例3 北海道下川町

第4章 パートナーシップで進める
“地域のSDGs”(佐藤真久)
はじめに
1.複雑化する日本の地域課題と求められる
“地域の課題対応力”
2. “複雑な問題”をシステムとして解決する
3. “地域のSDGs”協働取組事例
4.参加・協働の仕組みとプロセスを活かして、多様な主体を包摂し協働をする
5. “持続可能で包容的な地域づくり”における“協働の段階”
6. “持続可能で包容的な地域づくり”に向けて

第5章 SDGs推進における評価指標と政策立案
(馬奈木俊介)[執筆代表者] 1. SDGs推進に向けた政策立案の動向
2. SDGs推進に向けた評価軸の重要度:日本国内のアンケート調査
3. これまで評価されにくかった「環境」「社会」「教育」
4. 新国富指標という考え方と活用

[付録1] 自治体 SDGSチェックリスト
[付録2]自治体SDGs 一進捗管理のための指標リスト
執筆者一覧

序章 地域におけるSDGs
なぜ地域・自治体が グローバル目標に取り組むのか
村上 周三

事業構想大学院大学 出版部 (著, 編集), 村上周三 (著), 遠藤健太郎 (著), 藤野純一 (著), 佐藤真久 (著), 馬奈木俊介 (著)
出版社: 宣伝会議 (2019/4/25)、出典:出版社HP

はじめに

SDGsはグローバルスケールの社会変革に向けた高邁な理想を掲げたもので、持続可能な社会構築のための目標として多くのゴール、ターゲットが掲げられている。しかしこれらは既存の自治体に 政にとって馴染みやすいものではない。SDGs自体は目標を並べたもので、そこに地方創生のシナリオが示されているわけではない。自治体関係者から、SDGsの重要性は理解できてもその導入の具体的方法がわからない、という声を聞くことが多いのはこのためである。

しかしながら持続可能社会構築のための新たな行動規範としての SDGsの理念・枠組みを自治体行政に導入することができれば、活性化に向けた自治体行政のパラダイムシフトをもたらすことになる。大きな波及効果を考慮すれば、チャレンジに値する取り組みで ある。このような状況を踏まえて、本章ではSDGsの多くのゴール、ターゲットに基づいて自治体活性化のシナリオを描くための方法について解説し、SDGS導入の意義を明らかにする。自治体における SDGs導入、実践の取り組み全般をここでは自治体 SDGsと呼ぶ。自治体SDGsのシナリオを具体的に描くのは自治体の役目である。

1. 地域・自治体が直面する課題
1-1 全国自治体の多様性
全国約1,730の基礎自治体の経済性能、社会性能、環境性能を評 価した結果を図0-1に示す。


図0-1:全国自治体の経済・社会・環境性能の評価事例(2010年):
評価ツール「CASBEE-都市」による

これは、CASBEE-都市という自治体の評価ツールを用いて分析 したものである。この都市性能評価ツールは、内閣府の環境未来都 市のプログラムで利用されてきた。
日本地図における細かい濃淡は自治体の性能の良し悪しに対応する。濃い部分が高い評価を得た自治体、白い部分が低い評価を得た 自治体を示す。この図から、濃淡が複雑で全国の自治体は経済、社 会、環境性能においてきわめて多様であることがわかる。例えば、 90-1の経済性能と環境性能は、濃淡の全国分布において全く逆の 傾向を示している。

本図に示されるように全国自治体がきわめて多様な経済、社会、 環境性能を示すならば、自治体が対応すべき課題、目指すべき将来 像なども当然自治体毎に異なる。この日本地図から得られる示唆 は、本稿の主題であるSDGsの実践において、各自治体が自身の立地条件の特徴を踏まえた独自性の高い導入計画の策定が必須である ということである。CASBEEツールの詳細については参考文献iを参照されたい。

1-2 自治体が直面する課題
都道府県別の人口の増減の予測を図0-2に示す。2015年を基準に して2045年を予測した結果である。東京都と沖縄県を除いてすべて顕著な減少傾向を示し、特に地方の小規模な県において著しい。 このような人口減少は、今後の自治体運営に深刻な影響を与える。 それらの課題をまとめて図0-3に示す。ここに示されるように、多


図0-2:2045年に向けた人口増減の予測(都道府県単位)

図0-3:人口減少から発生が懸念されるまちづくりの課題(事例)

図0-4:「まち・ひと・しごと創生法」とSDGs

くの自治体は今後、地域インフラの維持や住民サービスの提供が困難な状況に直面する危険にさらされている。
このような状況の下で、政府は地方創生を最も重要な政策課題のひとつと位置づけ、「まち・ひと・しごと創生法」をはじめ多様な地方活性化政策を展開している。この政策の趣旨とSDGsの取り組みとの関連をモデル化して図0-4に示す。
多くの自治体は今後直面する難局を予想しており、そのために従 来とは異なる切り口を求めている。先導的な自治体では、そのため の新たなツールとしてSDGsの利用に関心が高まっている。

2. SDGsの枠組みと日本社会の取り組み
2-1 国連主導の2030アジェンダと中核文書としてのSDGs
2030アジェンダーすべての国、地域の賛成の下に国連総会で 採択された2030アジェンダ(2015年9月)のタイトルは「我々の世界を変革する」というものである。社会変革に向けて高邁な理想 を掲げたグローバルスケールの行動規範といえる。その内容を特徴づけるものとして、「新たな人権宣言」、「新たな社会契約」等の理 念が国連の主要文書等に示されている。その優れた理念は下に示すようなキーワードで表現される。
1. 包摂性(誰一人取り残されない)
2. 普遍性(途上国も先進国も)
3. 多様性(国、自治体、企業、コミュニティまで)
4. 統合性(経済・社会・環境の統合性)
5. 行動性(進捗管理の徹底)


図0-5:2030 アジェンダ(SDGs)の枠組み

一方、以下の点が問題点として指摘されている。
1. 多すぎる目標
2. 理解が容易でない、導入方法がわからない
3.法的拘束力がない
4. 指標のためのデータの未整備
これらの問題点の多くは主としてその実行段階における障害として出てくるもので第1章1節において詳しく述べる。しかし問題点は長所の裏返しという側面もあり、2030アジェンダの理念としての価値の高さを損なうものではない。
SDGS SDGsは2030アジェンダの中核文書をなすもので、その枠組みを図0-5に示す。 17のゴール(意欲目標)の下には169のターゲット(行動目標)


図0-6: SDGs ウェディングケーキ:3レイヤーによる整理

と232のインディケーター(評価指標)が設定されている。貧困、飢餓、経済成長から平和までをその活動目標とする広範なものであ る。最後のゴール17がパートナーシップであり、自治体、企業、 NGO/CSOなど幅広いステークホルダーの参加の重要性を強調している。 SDGs ウェディングケーキ SDGsの17のゴール群は、それ自 体ではシナリオを持たない。これがSDGsの理解を難しくしている ことのひとつの原因である。2030アジェンダでは地球環境時代の 行動規範を目指して、経済・社会・環境のトリプルボトムラインが 理念構成の柱とされている。17のゴール群を、トリプルボトムラ インの観点からシナリオ構成し、並べ替えたものが図0-6に示す SDGsウェディングケーキ”である。ゴール群を編集してわかりやすく示した先導的事例である。


図0-7: ゴール、ターゲット、インディケーターの3層構造

このような並べ替えにより、17のゴール群の位置づけは理解し やすくなる。ただしこれはあくまでもひとつの見方であり、17の ゴール群の解釈は多様であるべきでこれに限定されるものではない。 3層構造と実行性SDGsの特筆すべき長所のひとつは、ゴール、ターゲット等の目標に対してインディケーターを定めて達成度 を測り、進捗管理のガバナンスを徹底させている点である。これを 3層構造にして図0-7に示す。この3層構造の提示により、取り組み実行の手段としてはやや抽象的であったSDGsの枠組みがより具 体的になる。
SDGsの枠組みを3層構造として実行性に留意したものとして受け止めると、SDGsが行政支援ツールとして利用しやすいものであることがより理解しやすくなる。このような理解により、2030 アジェンダの理想主義的な理念やSDGsの多くのゴール、ターゲットを、自治体行政活性化のためのさまざまなノウハウに翻訳するため の方向が見えてくる。
ローカライズ SDGsは基本的に国レベルを単位として、グロ


図0-8: 「SDGsアクションプラン 2019」における3つの柱(概要)

ーバルスケールの課題解決のための枠組みとして企画、提案された ものである。SDGsを自治体レベルの課題解決に活用しようとする 場合、そのままでは利用しにくい状況が多々発生する。そのため、 SDGsの枠組みを地域レベルの課題解決に適用するための翻訳の作 業が必要となる。これをローカライズと呼ぶ。ローカライズに際し ては、前述した自治体の多様性に留意した独自性のあるSDGsの取り組み、すなわちSDGsの独自化が求められる。

2-2 日本政府、地方政府の取り組み
実施指針とアクションプラン 国連の動きに対応して、日本政 府もSDGsを重要政策課題と位置づけ、2016年6月に推進本部を発 足させた。推進本部は日本政府としての実施指針”を策定し(2016 年12月)、日本として特に推進すべき目標として8つの優先課題を 発表している(2016年12月)。さらに政府は「SDGsアクションプラン 2018」(2017年12月)、「同2019』(2018年12月)を策定し、

(3) ステークホルダーとの連携(実施指針8頁)
(地方自治体) SDGsを全国的に実施するためには、広く全国の地方自治体及びその地 域で活動するステークホルダーによる、積極的な取組を推進することが 不可欠である。この観点から、 各地方自治体に、各種計画や戦略、方針の策定や改定に当たってはSDGs の要素を最大限反映することを奨励しつつ、関係府省庁の施策等も通じ、 関係するステークホルダーとの連携の強化等、SDGs達成に向けた取組を促進する。
図0-9: 日本政府が掲げる実施指針:地方自治体に関係する部分(2016.12)

取り組みの具体化を急いでいる。2019年度のアクションプランの概要を図0-8に示す。このアクションプランの柱は、企業、自治体、 若者・女性の3者である。
地方自治体への働きかけとSDGs未来都市 政府の実施指針においては、SDGsに対する自治体の参加が強く要請されている。 その部分を抜粋して図0-9に示す。
政府は地方創生政策の枠組みの下で、自治体へのSDGs導入を促進する施策を推進している。その一環として、2017年度に「SDGs 未来都市」のプロジェクトを発足させている。その取り組みの概 要を図0-10に示す。このプロジェクトに沿って2018年度には 「SDGs未来都市」の優良自治体を公募し、図0-11に示すように29 自治体を選定、表彰している。 自治体におけるSDGsの取り組み 「SDGs未来都市をはじめと する地方自治体活性化に向けた政府の取り組みの効果で、自治体におけるSDGsへの関心は急速に高まってきた。自治体におけるSDGs


図0-10:「SDGs未来都市」推進の枠組み

図0-11:選定されたSDGS未来都市


図0-12:SDGsの認知度の調査(全国自治体に対するアンケート)


図0-13: SDGsの取り組み状況の調査(全国自治体に対するアンケート)

の認知度に関する調査結果を図0-12に示す。同じく取り組み状況に関する調査結果を図0-13に示す。これらの調査”は、内閣府に より 2017年度と2018年度の2年にわたって実施されたものである。 図0-12において、「存在を知らない」と答えた自治体は52%から5%に急減している。図0-13の取り組み度の調査において、「今後 推進していく予定がない」と答えた自治体は64%から49%に減少 している。自治体におけるSDGsの取り組みは始まったばかりである。これらの調査結果からは多くの自治体の意欲的な姿勢の向上が読み取れ、今後のSDGsの普及に関して明るい見通しを持つことができる。

2-3 産業界の取り組み
国連で提案されたSDGsには、企画段階から産業界が積極的に参 画してきたという経緯がある。産業界はSDGsの取り組みにおける最も主要なプレイヤーの一人である。図0-8に示した日本政府の 「アクションプラン 2019」においても、産業界が3つの柱のひとつ と位置づけられている。
日本経済団体連合会(経団連)は企業行動憲章を改定して、 SDGsに積極的に取り組む方向を明確にしている。かねて提言して きたSociety 5.0の実現を、SDGsの枠組みとの連携の下に実現するとして、「Society 5.0 for SDGs」を発表している。これを図0-14に示す。
これを受けて、産業各分野においてもSDGsの取り組みは急速に 進展している。例えば、(一般財団法人)日本建築センターは、『建築産業にとってのSDGs 一導入のためのガイドラインー』~を作成し、刊行している(2019年2月)。

2-4 金融界の取り組み
今後SDGsの取り組みを広く展開するためには、投資・金融面からの支援が不可欠である。投資・金融分野では近年、ESG投資が


図0-14:経団連によるSociety 5.0 for SDGsx

図0-15:ESG投資とSDGsの関係:GPIFの事例

主流化している。ESGは国連が主導する PRI(責任投資原則、2006 年)の具体的取り組みの一環として実施されているもので、環境、 社会、事業ガバナンスの課題に対して長期的視点からの投資を促す 運動である。SDGsとESGは表裏一体の関係にあり、SDGsの社会 的課題にかかわる多様な取り組みを投資・金融を通じて支援するの がESG投資と考えることができる。ESG投資とSDGsの関係を、 GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の取り組みを事例にして図0-15に示す。
この事例のようにSDGsを支援する動きが金融面で活発化していることは、SDGsの展開にとって大変心強いことである。自治体に 対しては、投資・金融分野の賛同が得られるよう、経済合理性に優れたビジネススキームに基づく事業計画の立案が求められる。その 意味で、自治体に対するSDGsの導入においては、産業界との連携の一層の強化が求められる。

3. 自治体/企業等がSDGsを導入することの必要性とメリット
3-1 SDGs導入の背景
自治体/企業等がSDGsを導入する背景、意義として、以下の点を指摘することができる。これらの指摘はSDGsに取り組むことの 必要性、メリットにそのまま通じるものである。 1) 自治体/企業が直面する経済・社会・環境面での多くの課題
冒頭で指摘したとおり、人口減少、高齢化をはじめとして、自治体は取り組むべき多くの課題を抱えている。地域企業もこれらの課 題を共有する立場にある。これを克服するために新たな切り口が求められており、そのための手段としてSDGsの利用が提案される。 SDGsは課題解決だけでなく、課題発掘の手段としても活用することができる。
2) SDGsの主流化
自治体や企業をはじめ、内外のさまざまな組織、団体において SDGsの導入、推進が主流化される傾向にあり、SDGsは世界の共 通言語となりつつある。その結果自治体行政や企業経営に関して、 SDGsにかかわる情報が世界の舞台で蓄積されている。SDGsに参加してこのような情報にアクセスすることは自身の自治体運営や企 業運営に対して貴重な指針を与えることになる。逆にSDGsに参加しないことは、情報の遮断という意味のリスクを抱えることになる。
3) CSR(企業の社会的責任)、CSV(社会的共有価値)等の新
たな社会軌範の主流化 近年企業の行動パターンに対して、価値の共有等を通して社会貢 献を求める声が強くなり、企業も社会的責任としてこれに積極的に 対応する姿勢を見せている。SDGsの理念はこのような動きと軌を一にする取り組みである。このような社会的責任は自治体行政においても十分に認識して追求されるべきものであり、これにより自治 体と企業の一層の連携を期待することができる。
4) 投資・金融面でのパラダイムシフト
前述のように、国連が主導する PRI(責任投資原則)の枠組みに基づいたESG投資の運動が盛んである。ESG投資の活動における社会・環境面に対する非財務的価値重視の傾向は、SDGSの理念と よく対応するもので、投資・金融面でもSDGsの考え方の主流化が 進展している。
5) 多様なステークホルダーの社会参画自治体行政においては、市民をはじめとして、産官学金言労といった多様なステークホルダーの参画が必須である。SDGsでは パートナーシップを基盤的理念のひとつとして掲げており、多くの 主体の参加を促す構造を有している。SDGsの導入は、企業をはじめとする多様なステークホルダーの自治体活動への参加をより具体 化し、地方行政の一層の活性化に資するものである。

3-2 SDGs導入のメリット
SDGsの取り組みは世界のビジネス界に巨大な経済効果をもたらすと予想されており、企業活動の活性化が期待されている。 WBCSD(世界経済人会議)による、SDGsに関連するビジネス


図0-16 SDGsに関連するビジネスチャンスと市場規模(WBCSD による)

チャンスと市場規模増加の予測を図0-16に示す。ビジネス分野における企業の活性化は当然、自治体の活性化につながる。自治体 SDGsの企画、運営においてはこの点に留意し、企業との連携を通じた活性化を積極的に図るべきである。第1章3節で述べる官民連 携のプラットフォームはこの点をねらったものである。
上記のビジネスチャンスの予測事例が示すように、SDGsの導入は多様な分野に大きなメリットをもたらすと予想される。自治体に とってのメリットを図0-17に、企業にとってのメリットを図0-18 に示す。

1. 地域活性化
⇒SDGsにおける経済、社会、環境面の統合的取り組みの効果
2. 世界の共通言語への参画
⇒ 自治体行政にかかわるSDGsの取り組みにおいて、国際的に広く蓄積される優れたノウハウへのアクセス
3. ローカルアイデンティティの確立
⇒独自性のあるSDGsの取り組みの結果として
4. 国際的パートナーシップの推進
⇒SDGsに取り組む内外のステークホルダーとの連携

図0-17 自治体がSDGsに取り組むことのメリット

1. 将来のビジネスチャンスの見極め
⇒地球規模の課題に対する新たな市場開拓の機会
2. 持続可能な開発への貢献による企業価値の向上
⇒ブランド力の強化、ガバナンスの向上、リスク回避
3. ステークホルダーとの関係の強化
⇒多様な経営戦略の展開
4. 社会と市場の安定化
⇒SDGs達成のための投資が全体として市場の安定/活性化をもたらす
5. 世界の共通言語への参加
⇒世界のSDGsの取り組みが生み出す巨大な知的資産へのアクセス
⇒SDGsに参加しないリスクの回避
図0-18 企業がSDGsに取り組むことのメリット

(参考文献)
i 一般財団法人建築環境・省エネルギー機構:CASBEE-都市
(http://www.ibec.or.jp/CASBEE/cas_city/casbee_city2013.htm)
ii 国連: 2030アジェンダ
(http://www.un.org/ga/search/view_doc.asp?symbol=A/70/L.1)
iii SDGsウェディングケーキ
(http://www.stockholmresilience.org/research/research-news/2016-06-14-how-food
connects-all-the-sdgs.html)
iv 首相官邸:持続可能な開発目標(SDGs)実施指針
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/dai2/siryoul.pdf)
v SDGs 推進本部 : SDGsアクションプラン2018
(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/dai4/siryoul.pdf)
vii SDGs 推進本部 : SDGsアクションプラン2019
(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/pdf/actionplan 2019.pdf)
vii SDGs未来都市
(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/teian/pdf/result01.pdf)
viii SDGs認知度アンケート調査
(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/kaigi/dail0/sdgs_hyoka10_
shiryo2-4.pdf)
ix一般社団法人日本経済団体連合会: 企業行動憲章
(http://www.keidanren.or.jp/policy/cgcb/charter2017.html)
x一般社団法人日本経済団体連合会:Society5.0
(http://www.keidanren.or.jp/policy/cgcb/charter2017.html)
xi 日本建築センター: 建築産業にとってのSDGs一般導入のためのガイドライン
(https://www.bcj.or.jp/publication/detail/111/)
xii GPIF: ESG投資とSDGsのつながり
(https://www.gpif.go.jp/investment/esg/)
xiii WBCSD:ビジネスチャンス
(https://docs.wbcsd.org/2017/03/CEO_Guide_to_the_SDGs/Japanese.pdf)

事業構想大学院大学 出版部 (著, 編集), 村上周三 (著), 遠藤健太郎 (著), 藤野純一 (著), 佐藤真久 (著), 馬奈木俊介 (著)
出版社: 宣伝会議 (2019/4/25)、出典:出版社HP