海外インフラ投資入門

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初心者向け!インフラ入門書

本書は、PPP(Public-Private Partnership)の形式で行われる、海外のインフラ事業への投資に関する基礎的な解説を行なっている本です。海外インフラ事業の特徴や解説、実務的な内容だけでなく、事業とPPPの関連性や投資を行う際のポイントの基礎知識も詳しく解説されています。

佐々木仁 (著)
出版社: 中央経済社 (2018/6/23)、出典:出版社HP

まえがき

本書は,海外におけるインフラ事業,とりわけ官民連携(Public-Private Partnership, PPP)の形で実施される事業への投資に関して基礎的な解説を行うとともに、PPPの本質を伝えることを目的としている。
日本語で汎用されるインフラとは、インフラストラクチャー (Infrastructure) の略語であり、人々の生活や企業の活動等を支える基盤施設を意味する。代表的な例としては,道路,鉄道,空港,港湾,発電所,上下水道などが挙げられる。また,広義には,学校,病院,福祉施設,廃棄物処理施設等の社会施設も含まれる。本書では,海外を舞台とするそうしたインフラの整備や運営にかかる事業を,海外インフラ事業と称する。

一方,PPPという用語は,我が国を含む多くの国や国際機関においてかなり普及している。しかし,世界的に統一された定義はなく,国や個人によってその解釈や用法が異なっている。そのような実態を踏まえつつも,本書では, PPPを「公共機関と民間事業者が,契約に基づいて連携して公的サービスを提供する手法」と定義し,その解説を行う。

海外インフラ事業におけるPPPの活用が増えたのは、1990年代に入ってからである。世界的な政府の財政難を背景として,英国,東南アジア、中南米などで民間活用型のインフラ事業が数多く実施された。1997年のアジア通貨危機や2007年~2008年の世界的金融危機の影響はあるものの、現在も開発途上国(以降では単に「途上国」と称する)を中心としてPPPの活用は増加している。この大きな趨勢は今後も継続するものとみられる。

PPPの世界的な増加は,多くの民間企業に対して新たなビジネス機会をもたらしている。本邦企業においても,総合商社をはじめとして,建設会社,エンジニアリング会社,メーカー,オペレーター,金融機関等,多くの企業が関心を有し,また実際に事業に参画している。日本政府も,インフラ輸出を国の成長戦略の重要な柱の1つとして位置づけ,本邦企業による海外インフラ事業への参画を支援している。

現実には,海外インフラ事業への参画は,必ずしも容易ではない。多くの場合、事業参画のためには熾烈な国際競争過程を経る必要がある。また,事業を開始した後もさまざまなリスクにさらされる。それらを適切に管理し成功裏に事業を実施するためには,海外インフラ事業やPPPについて,適切な理解や知識を有している必要がある。

しかし、海外インフラの文脈においてPPP事業への投資に焦点を当てた書籍(とりわけ和書)やウェブ情報は少なく,その基礎的な知識を得るのがことのほか難しい状況にある。そのためか, PPPに関する基礎的な理解の不足や誤解がみられることもよくある。

そうしたなかで,本書は,海外インフラ事業におけるPPPというテーマに焦点を当て、その基礎および本質について実務経験に基づくリアルな解説を試みるものである。それを通じて、本邦企業による海外インフラ事業への投資や参画,あるいは政府その他公的機関による関連政策の形成・実施やアカデミアによる研究等に役立てていただくことを意図している。

佐々木仁 (著)
出版社: 中央経済社 (2018/6/23)、出典:出版社HP

目次

まえがき
本書における用語について
略語解説

第1部 海外インフラ事業とPPPの基礎知識

1 海外インフラ事業の仕組み
1 インフラ事業の特徴
2 海外インフラ事業の与件
3 海外インフラ事業への参画業種とその役割
4 インフラ事業の実施手法:従来方式とPPP

2 PPPの定義,目的および適用分野
1 PPPの定義
2 PPP活用の目的
3 PPPの適用分野
4 PPPの事業スキーム
5 PPP事業のステイクホルダー

3 海外インフラ事業におけるPPPの変遷
1 PPPのトレンドと期間区分
2 黎明期:1981年~1997年
3 学習期:1998年~2008年
4 創造期:2009年
5 海外インフラ事業においてPPPを加速させた要因

4 PPPの類型①:契約のタイプによる分類
1 コンセッション型
2 オフテイク型
3 アベイラビリティ・ペイメント型
4 それぞれの事業類型の比較

5 PPPの類型②:業務内容/事業方式による分類
1 業務内容による分類
2 事業方式による分類
3 その他の分類

6 PPPとVEM
1 VFMの概念:理論と現実
2 VEMOER
3 VFMの検証
4 PPPの本質〜インセンティブの付与とコントロール〜

7 PPP事業のライフサイクル
1 PPP事業のプロセス
2 事業の特定・準備
3 事業者の選定
4 事業施設の建設
5 事業の運営
6 事業の終了

8 PPP事業におけるリスク分担と管理
1 リスクとは何か
2 リスク分担の原則
3 PPP事業における代表的なリスク
4 「リスク分担」の実態と留意点

9 PPP事業の資金調達と政府支援策
1 従来方式とPPPの資金調達の違い
2 公共ファイナンス
3 民間ファイナンス
4 ハイブリッドファイナンス
5 政府による支援策

10 PPP事業とプロジェクトファイナンス
1 プロジェクトファイナンスとは何か
2 なぜプロジェクトファイナンスがPPP事業に適しているか
3 途上国における多様なプロジェクトファイナンスの例
4 プロジェクトファイナンスの組成プロセス
5 プロジェクトファイナンスの融資実行・返済プロセス
6 バンカビリティとセキュリティパッケージ
7 PPP事業成功の要諦

第2部 海外インフラ投資実務の基礎知識

11 インフラ事業への参画形態
1 インフラ事業への参画形態
2 参画企業の業種ごとの役割等
3 スポンサーの利益相反
4 事業からの撤退(エグジット)について

12 主要セクターにおける事業の特徴
1 有料道路
2 鉄道
3 空港
4 発電
5 水道
6 病院

13 スポンサーから見た事業サイクル
1 PPP事業のプロセスと事業リスクの変化
2 事業情報の入手および応札検討
3 入札および契約.
4 事業施設の設計・建設
5 事業の運営
6 事業の終了またはエグジット

14 契約とリスクのマネジメント
1 契約の種類
2 PPP事業契約の基本構成とポイント
3 PPP事業に関するリスクの分析とマネジメント
4 リスク転嫁の法務テクニックに関する補足説明

15 事業投資分析
1 フィナンシャルIRRとエクイティIRR
2 デモの仮定および前提条件
3 事業投資分析のフレームとデモ結果
4 投資分析に関するその他の知識および留意点

16 PPPとODA等
1 ODAにおけるPPPの意義
2 JICAによるPPP支援
3 JICAによる民間支援
4 ECASによる民間支援
5 国際機関によるPPP支援:ADBの例

あとがき
添付資料1 ASEAN Principles on PPP Framework
添付資料2 モデル事業契約
添付資料3 インフラ事業の詳細リスク一覧(例)
参考文献
索引

佐々木仁 (著)
出版社: 中央経済社 (2018/6/23)、出典:出版社HP

本書における用語について

本書においては,官民連携(Public-Private Partnership, PPP)を中心とした海外インフラ事業について解説するが,特に以下の用語については,意識的に使い分けているので、読者におかれてはその点に留意されたい。

■公共機関、公共契約機関等
政府組織,地方政府,独立行政法人などの公的機関については、一般的な文脈で用いる場合には、「公共機関(Public OrganizationまたはPublic Agency)」の用語を用いる。また、PPP事業の公共側の当事者,すなわち発注者としてPPP事業契約を締結する公共機関については,「公共契約機関(Government Contracting Agency)」の用語を用いる。なお,世界的にみると,ソブリン・レベルでの「中央政府(Central Government)」に準ずる組織として、州政府,県政府,市政府などがある。これらのサブソブリン・レベルでの組織の名称や機能はさまざまであるが,本書では支障のない限り,それらについて「地方政府(Local/Municipal Government)」の用語を用いる。

■民間事業者、プロジェクトカンパニー,スポンサー等
インフラ事業に投資やその他の形で参画する民間企業を一般的に称する場合は、「民間事業者(Private Enterprise)」の用語を用いる。また,特にPPP事業を実施する事業主体については,「プロジェクトカンパニー(Project Company)」の用語を用いる。なお,SPC (Special Purpose Company)やSPV (Special Purpose Vehicle)は、特別目的事業体としてのプロジェクトカンパニーの性格を示すものであり、厳密にいうと「プロジェクトカンパニー」と同じ意味で用いるのは適切ではない。
また,一般的にインフラ事業に対して投資を行うことを生業とする民間企業のことを「投資家(Investor)」としている。また、特にプロジェクトカンパニーへの出資企業ということを意識した場合は、「スポンサー(Sponsor)」の用語を用いている⑹。

⑹ 国(例えばモロッコ)によっては、安定期かつ継続的な事業運営を確保することを目的として、国や公的機関による出資を義務付けているものある。この場合の出資は、明らかに収益獲得を目的としたものではない。現実にはこのような例外はあるものの、本書では、「PPP事業のプロジェクトカンパニーへの出資者=スポンサー=投資家」というシンブルな解釈および認識に基づいて、各種の解説を行う。

■金融機関,レンダー 等
インフラ事業に対するローン等のデットの供与者については,本書では広く「金融機関(Financial Institution)」の用語を用いる。また,PPP事業を実施するプロジェクトカンパニーへの融資者を強調する場合には、レンダー(Lender)の表現を用いる。特に,本書でレンダーといった場合は,基本的に市中銀行を想定している。むろん、現実には事業資金の供与者としては、市中銀行以外の金融機関(例えばリース会社や公的金融機関)や,年金基金や保険会社といった機関投資家 (Institutional Investor) が存在するが,本書では差支えのない限り,それらをまとめて「金融機関」と称する。

略語解説

佐々木仁 (著)
出版社: 中央経済社 (2018/6/23)、出典:出版社HP