インフラ投資 PPP/PFI/コンセッションの制度と契約・実務

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PFIがよくわかる

本書は、インフラ投資の概要とPPPを含むインフラ投資を取り巻く環境について解説した本です。基本的な内容や具体的な事例の紹介の他にも、セクター別でのコンセッション事業の動向やインフラ投資の契約と実務などが記載されています。インフラ投資の制度の背景や全体的な潮流をまとめています。

佐藤 正謙 (著, 編集), 岡谷 茂樹 (著, 編集), 村上 祐亮 (著, 編集), 福島 隆則 (著, 編集)
出版社: 日経BP (2019/9/20)、出典:出版社HP

はじめに

わが国におけるインフラビジネスが花開きつつある。空港コンセッションを中心とするPPP/PFIの分野での新しい取組みが、関係者の長年にわたる努力を経てようやく実を結びつつある。再生可能エネルギー分野を中心とする国内プロジェクト投融資市場が大きな発展を遂げたことも、周知のとおりである。

しかし、課題は少なくない。世上言われる幾つかの例を挙げると、コンセッションに関しては一部インフラ資産を除き期待されたほどには案件が出てこない、官民連携にかけるモーメンタムが公共サイドでどの程度働いているのか見えにくい、制度面での環境整備は相当進んだが改善の余地もまだ残されている、案件組成・契約実務に不透明な部分が残っており海外を含む幅広い投資家・金融機関の参加を確保するための水準に未だ達していない、セカンダリー投資市場が未整備なため資金循環のメカニズムが形成されていない等々。

とはいえ、ポジティブな材料も数多く見出される。空港以外のインフラ資産のコンセッションは、産みの苦しみの時期にあるともいえるが、幾つかの案件が既に組成途上にあり、関連する法制・ガイドライン等の整備も進められている。契約実務上の論点も、案件数を漸次積み重ねる中で、関係者の創意と工夫を通じて自ずと適切な市場標準が形成されることが期待される。何よりも、根本的な事情として、老朽化した社会資本の維持・整備のために民間の資本および経営力を活用するニーズは間違いなく存する。民間の力の活用は地域住民の利益と背馳するものではなく、むしろこれを増進する可能性に満ちている。問題は、この途をどのようにして突き詰めていくかである。

本書は、わが国最大手の法律事務所である森・濱田松本法律事務所に所属する弁護士と、インフラ投資に関わる最先端の情報を発信し続ける株式会社三井住友トラスト基礎研究所の主席研究員が、変化・発展が著しいインフラ市場の「実務に携わる過程で培った現在の実務や今後のあるべき方向性に関する旺盛な問題意識をぶつけることにより出来上がったものである。

本書の特徴は以下のとおりである。
第一に、コンセッションに関する実務の説明・検討に重点を置いた。コンセッションは、従来型のPFIとは取引内容や契約実務が全く異なる。運営権者はインフラ施設の維持・運営に係る事業に従事することになるが、その実態は、民間から見た場合、官民連携という土俵上での(期限付きの) M&A案件ないしプロジェクト投資である。このような取引の特色から派生する様々な問題に光を当て、あるべき実務上の対応を考える際のヒントを可能な限り示すように努めた。
その際、空港のように既に実績がある程度積み上がった分野はもちろん、上下水道、スタジアムその他文教施設のように、今後の案件形成が期待される分野にも相当程度紙幅を割き、今後の新たなビジネスの展開に備えるための材料を提示した。

第二に、プロジェクトファイナンスや運営権者SPCへのエクイティ出資等を通じた、PPP/PFI事業のための資金調達に関わる問題の解説に力を注いだ。その延長線上にある、SPC株式・持分の流動化やインフラファンドの組成に伴う論点にも踏み込んだ。金融・資本市場との結び付き、資金循環のメカニズムへの理解なくして、今日のPPP/PFIを語ることはできないからである。

第三に、民間事業者や投資家・金融機関の目線からの記述が中心となっている。海外を含む幅広い投資家・金融機関の参加を確保するために、何に留意する必要があるか、どこに改善の余地があるかという問題意識が基礎にある。他方で、公共の担当者から見た場合でも、事業スキームや契約内容の策定に際して有用な視点の提供になり得ているのではないか、と考えている。

インフラ投資の実務は変化が激しい。特に個別事例やガイドライン等に関する情報は、それほど間を置かずして、本書で述べた内容が最新のものでなくなる可能性もある。その点はご容赦頂きたい。しかし、本書に通底するインフラ 投資に関する基本的な発想は、時代を越えて妥当するものと信じている。
最後に、本書の趣旨に賛同して下さり、執筆・出版作業にお付き合い頂いた日経BPの日経 xTECH副編集長の瀬川滋氏と、執筆作業に関わった株式会社 三井住友トラスト基礎研究所の方々、森・濱田松本法律事務所の同僚弁護士、秘書・スタッフに、この場を借りて厚く御礼申し上げたい。

2019年9月
編著者を代表して 森・濱田松本法律事務所
弁護士佐藤 正謙

推薦の辞

PFI 3.0:次の20年への羅針盤
−PFI法20周年におけるインフラ投資の詳細解説と展望−
PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)は1999年7月に制定された。本書はそれからちょうど20周年の節目に刊行される。PPP/PFI/コンセッションに関する現状における制度と契約および実務に関する分かりやすい解説とともに、これまでの20年を振り返り、そして、これからの20年を展望する時宜を得た意欲あふれる著作である。執筆陣はインフラ市場の最前線で活躍中の精鋭ぞろいである。本書は全編を通してその豊かな経験とそこから得られた知見に裏付けされている。

わが国は高齢化の世界トップランナーであるとともに、都市自体もインフラ老朽化などのハードだけでなく、時代変化に取り残された諸制度などのソフトのエイジングも進行している。このように人も都市もエイジングしていく中で、短期的判断でのアンチエイジングではなく、長期的視野に立ち都市が賢く成熟化するスマートエイジングを目指すべきだと私は提唱してきている。本書では 都市のスマートエイジングに欠かせないインフラ制度改革が語られている。

本書の題目である「インフラ投資」は、民間鉄道事業などを除き少し前までは公共投資がほとんどであった。インフラがもたらすサービスは公共財としての特性や利用者以外にもたらす外部経済効果が大きいことから、基本的には国や地方公共団体自らが社会的厚生を高めるために公債や税財源に基づき投資をする構図であった。本書の「インフラ投資」もその事業の必要性に関してはインフラ整備がもたらす社会的便益が目的であることに変わりはない。しかし、従米は公共が独占的に担ってきたその調達市場に民間が参入することにより、広い意味でのバリューフォーマネーが高まるとの判断にもとづいて、様々な事業力式が世界的に展開し、わが国においても多くの努力のもとに導入されてきた。

しかし、本来公共事業を対象としていたことから、いまだに従来型の名残と新しい市場への対応の遅れなどの制度上の課題がある。
本書においてはまずはコンセッションを中心に現状の制度における実務上の対応について分かりやすく解説している。インフラの基本的考え方から事業方式はもちろん契約制度さらには金融・資本市場に関わる内容も、専門でない読者にも理解が容易なように丁寧に説明がなされている。その内容は基本的には民間事業者や投資家・金融機関の視点からの解説ではあるが、公共側にとっても事業形成に際して重要な情報を与えるものである。それだけでも十分に価値が高いが、本書はそれにとどまらず、先に記した現状制度における課題を論旨明快に明らかにし、さらにその解決の方向性に関しても極めて合理的な提案をしているところに類書にない特色がある。

また、本書ではPFI法制定後初期のハコモノPFIが中心の状況をPFI 1.0、コンセッション方式導入後をPFI 2.0、そして、これからの方向性を国際的な標準を視野にPFI 3.0と定義している。PFI 3.0では、インフラ投資のセカンダリー市場の確立と、事業運営における民間ノウハウのより積極的な活用方式の導入が掲げられ、本書ではその課題と展望を明示している。

本書が広くPPP/PF1関係者に読まれることにより、直近の事業形成への貢献はもとより、次の20年につながるPFI 3.0への羅針盤となることを期待するものである。

2019年9月
東北大学名誉教授、東京都市大学名誉教授
パシフィックコンサルタンツ株式会社技術顧問
宮本 和明

佐藤 正謙 (著, 編集), 岡谷 茂樹 (著, 編集), 村上 祐亮 (著, 編集), 福島 隆則 (著, 編集)
出版社: 日経BP (2019/9/20)、出典:出版社HP

目次

はじめに
推薦の辞
略語の凡例

第1章 いざインフラ投資の世界へ

|1|インフラ投資とは何か
1 インフラの種類とリスクプロファイル
2 「PPP」「PFI」「コンセッション」の包含関係

|2|インフラ投資は年金基金や保険会社に最適
1 公共を悩ませるインフラの老朽化
2 運用難に苦しむ投資家
3 年金基金や保険会社こそ資金の出し手に
4 インフラはリアルアセットの1つ

|3|インフラ投資市場の規模感
1 世界のインフラ投資市場規模は60兆円強
2 利用料収入を伴う国内インフラストックは185兆円
3 現在の市場規模は1.2兆~1.7兆円か

|4|インフラ投資のリスク・リターン特性
1 直接投資や間接投資など3つの形態
2 分散効果が期待できる非上場インフラ
3 インフラは個別性が強いアセット
COLUMN ファンドが主導する世界のインフラ投資市場

第2章 PFIの変遷とコンセッションの潮流

|1|ガラパゴス化していた日本のPFI
1 民間の力を生かしきれない従来型ハコモノPFI
2 変化が求められる地方公共団体の役割
3 SPC株式の流動化も課題に
4 SPCの所有と運営の分離
5 コンセッションで高まる流動化の期待
6 所有と運営の分離への理解を

|2|「PF1 1.0」から「PFI 2.0」へ
1 ハコモノの建設が主導した第1世代
2 コンセッション方式が登場した第2世代
3 空港事業の民営化が議論をリード
4 アクションプランで数値目標を掲げる

第3章 PFIとコンセッションの法制度

|1| PFIとコンセッションに関する日本の法制度
1 PFI法
行政財産の貸付けに関する例外措置
公共施設等運営権
PFI推進機構の役割
2 PFI基本方針
3 各種ガイドライン
PFI事業実施プロセスに関するガイドライン
PFI事業におけるリスク分担等に関するガイドライン
VFM(Value For Money)に関するガイドライン
契約に関するガイドライン
モニタリングに関するガイドライン
公共施設等運営権及び公共施設等運営事業に関するガイドライン

|2|欧州における制度の変遷
1 英国:世論の批判を取り入れた制度改正など
PFIの導入
PF2への改革
PFI/PF2OŠE IL
英国のPPP/PFIの特色
PFI/PF2廃止宣言が日本に与える示唆

2 フランス:2つの類型に整理・統合
コンセッション契約
パートナーシップ契約
フランスのPPP/PFIの特色

第4章 セクター別コンセッション事業の動向と論点

|1|空港
1 日本の空港事業を巡る動き
空港事業の現状
空港事業の課題
民活空港運営法の制定

2 空港コンセッションの基本的な仕組み
民活空港運営法の内容
運営法と基本方針に基づくコンセッション

3 優先交渉権者の選定手順と方法
基本的な考え方
第1次審査
競争的対話
第2次審査

4 空港コンセッションの実務上の論点
設備投資の取り扱いなど
ターミナルビルの取得方法
リスク分担
議決権株式譲渡に関する事前承認
その他の論点

5 小括

|2|道路
1 日本の道路事業を巡る動き
道路事業の現状
道路事業の課題

2 道路事業における官民連携
道路事業の法的な位置づけ
特区方式によるコンセッション
コンセッション方式以外の官民連携手法

3 愛知道路コンセッション
概要
事業範用
運営権対価
愛知道路コンセッションの実務上の論点
リスク分担

4 海外の道路事業民営化
収入源やリスクに応じて3つの種類

5小括

|3|水道
1 日本の水道事業を巡る動き
水道事業の現状
水道事業の課題

2 課題解決に向けた方策
民間事業者の裁量拡大と効率化
第三者委託、包括委託、官民共同出資事業化
コンセッション方式

3 水道法と水道事業のコンセッション
水道法における水道事業認可制度
水道法の2018年改正

4 水道コンセッションの実務上の論点
事業範囲
利用料金の改定
利用料金の徴収方法
災害などの不可抗力
モニタリング

5小括

|4|下水道
1 日本の下水道事業を巡る動き
下水道事業の現状
下水道事業の課題

2 下水道事業における官民連携

3 下水道コンセッションの基本的な仕組み
下水道法との関係
事業スキーム
運営権者の業務範囲
下水道利用料金と下水道使用料の設定
利用料金などの徴収・収受方法
利用料金などの滞納者への対処方策
管理者から運営権者への補助金などの交付
モニタリング
リスク分担

4 小括

|5|文教施設
1 日本の文教施設を巡る動き
文教施設の現状と課題
導入実績が多い指定管理者制度
コンセッション導入の期待と動向

2 文教施設コンセッションの実務上の論点
「公の施設」と特定の第三者による利用
文教施設の設置目的との関係
施設の特徴とコンセッション導入目的との関係
多様なステークホルダーとの関係
専門的人材の確保

3 施設の種類ごとに見た実務上の論点
スタジアム・体育館など
博物館・美術館など
劇場・音楽堂など

4 小括
COLUMN インフラ運営を通じて地域活性化に一役

第5章 インフラ投資の契約と実務

|1|事業実施プロセスと事業者選定手続き
1 官民による事業の構想と検討
構想・検討段階における官民対話
PFI法における民間提案制度

2 事業化に向けた検討
実施方針の策定・公表
特定事業の選定
債務負担行為の設定
公募条件検討段階における官民対話

3 民間事業者の募集と評価・選定
事業者選定の方法
入札説明書や募集要項の公表
資格審査
競争的対話
提案書類の作成
提出に向けた検討
審査

4 事業者選定後の手続き
選定結果の公表
契約の締結
運営権の設定

|2| PPP/PFIの事業スキーム
1 サービス購入型
2 独立採算型
3 混合型
4 最低収入保証とレベニュー・シェアリング

5 所有権の移転に着目した分類
BTO
BOT
BOO

6 建設・運営を統合したコンセッションの可能性
7 バンドリングで事業規模を拡大

8 民間資金を伴わない官民連携
民間委託
指定管理者制度
DBO

|3|官民のリスク分担
1 不可抗力リスク
義務の免責
経済的損失の填補
保険で対応できない場合のリスク分担
事業の終了

2 法令変更リスク
法令の内容に応じたリスク分担

3 提供情報リスクと既存施設の瑕疵リスク
情報の正確性と完全性
既存施設の瑕疵リスク

4 リスク分担の具体的な方法としての補償措置
補償の内容と支払い方法
事業期間の延長による補償
損害輕減義務

|4|事業期間満了前の終了手続き
1 終了事由
公共側の事由による終了
事業者側の事由による終了
不可抗力による終了

2 終了に伴う補償
公共側の事由による終了に伴う補償
コンセッション方式におけるPFI法上の補償
事業者側の事由による終了に伴う補償
不可抗力による終了に伴う補償

3 事業の終了時における対象施設の取り扱い

|5|コンセッション方式の実務上の論点
1 既存施設の瑕疵リスクへの対応
情報開示・デューデリジェンス
瑕疵担保責任

2 更新投資による増加価値の取り扱い
3 運営権対価の支払い方法
4 エクイティ保有を通じた公共側の継続関与

5 インフラ投資市場の拡大に向けた取り組み
セカンダリー・マーケット醸成の意義
制度・運用上の課題とルールの整備
ファンドを通じたSPC株式への投資と取得ルール

6 コンセッション促進のための環境整備

第6章 「PFI 3.0」の官民連携モデル

|1|海外の先端プロジェクトに学ぶ
1 「三方よし」のアベイラビリティ・ペイメント
米国の道路事業で採用が増える
インターステート595号線改良事業…
マイアミ港トンネル事業

2 アセット・リサイクリング・イニシアティブ

3 シュタットベルケ型まちづくりモデル
浜松市のシュタットベルケ構想
総合ユーティリティ企業構想を掲げる大津市
浦添市はエネルギー事業で連携

4 公的不動産の活用に適したLABV

|2|JV型官民連携モデル
1 JV型の水道事業官民連携
2 JV型の地域新電力会社

|3|コンセッション方式以外の手法の追求
1 代表企業スイッチモデル
2 運営事業者選定先行型入札

第7章 PPP/PFIとインフラファイナンス
|1|プロジェクトファイナンス
1 プロジェクトファイナンスの意義
プロジェクトファイナンスが用いられる理由
融資者が果たす審査機能などに期待

2デットストラクチャー
調達資金の分担
優先貸付契約

3 担保パッケージ
株式担保の意義
劣後貸付債権や匿名組合出資持分に対する担保設定
地位譲渡予約

4 ステップイン
ステップインの方法

5 スポンサーサポート
スポンサーサポート契約の主な内容

6 直接協定
直接協定の主な内容

|2|インフラファンド
1 上場インフラファンドの法令規則
投信法関連法令
特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令
租税特別措置法関連法令
投信協会規則

2 インフラファンドの上場制度
インフラファンド市場の上場商品
インフラ資産とインフラ関連有価証券
オペレーター
内国インフラファンドの新規上場
適時開示
上場廃止
特例インフラファンド

3 投資対象
再生可能エネルギー発電設備
公共施設等運営権(コンセッション)
その他のインフラ資産

4 ストラクチャー構築上の論点
インフラファンドの法形態
間接投資形態の可能性
議決権過半保有禁止要件の制約
導管性要件の制約

5 私募インフラファンド

おわりに

キーワード索引

略語の凡例
本書では特に断りのない限り、以下の略語を用いる。

佐藤 正謙 (著, 編集), 岡谷 茂樹 (著, 編集), 村上 祐亮 (著, 編集), 福島 隆則 (著, 編集)
出版社: 日経BP (2019/9/20)、出典:出版社HP