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自分のために役立つ1冊
本書は、看護師の方をはじめとして、患者さんのケアをする立場の方々に向けて書かれています。しかし認知行動療法についてやさしく解説されているので、自身のストレスマネジメントに使いたいという方にもピッタリです。
著者略歴
伊藤給美 (いとうえみ)
洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長。
臨床心理士、精神保健福祉士、博士(社会学)。
慶應義塾大学大学院修了後、都内の精神科クリニックにてカウンセリングの仕事をはじめる。その後精神科デイケアの運営に携わるようになり、グループの面白さに目覚める。
しばらくの間民間企業でEAP(従業員支援プログラム)の仕事をしたのち、認知行動療法を専門とするカウンセリング機関を開設し、今に至る。
主な著書に、『認知療法・認知行動療法カウンセリング初級ワークショップ 星和書店、『認知行動療法、べてる式。』(共著) 医学書院、『認知療法・認知行動療法事例検討ワークショップ』(共著)星和書店、『事例で学ぶ認知 行動療法誠信書房、など。
訳書にジュディス・ベック『認知療法実践ガイド』星和書店、ロバート・リーヒイ『認知療法全技法ガイド』星和書店、ジェフリー・ヤング『スキーマ療法』金剛出版、ほか。
ケアする人も楽になる
認知行動療法入門BOOK1
発行 2011年2月1日 第1版第1刷©️
2020年2月1日 第1版第8刷
著者 伊藤給美
発行者 株式会社医学書院
代表取締役 金原 俊
〒113-8719 東京都文京区本郷 1-28-23
電話03-3817-5600(社内案内)
ブックデザイン DESIGN WORKSHOP JIN
印刷・製本 アイワード
本書の複製権・翻訳権・上映権・譲渡権・貸与権・公衆送信権(送信可能化権 を含む)は株式会社医学書院が保有します。
ISBN978-4-260-01245-4
本書を無断で複製する行為(複写,スキャンデジタルデータ化など)は、「私的使用のための複製」など著作権法上の限られた例外を除き禁じられています。
大学,病院,診療所,企業などにおいて、業務上使用する目的(診療、研究活動を含む)で上記の行為を行うことは、その使用範囲が内部的であっても、私的使用には該当せず,違法です。また私的使用に該当する場合であっても、代行業者等の第三者に依頼して上記の行為を行うことは違法となります。
JCOPY〈出版者著作権管理機構 委託出版物>
本書の無断複製は著作権法上での例外を除き禁じられています。
複製される場合は、そのつど事前に,出版者著作権管理機構
(電話 03-5244-5088, FAX 03-5244-5089, info@jcopy.or.jp)の許諾を得てください。
目次
BOOK 1
はじめに:
ケアする人のセルフケアに認知行動療法を役立てよう
第1章 ストレス状況とストレス反応を目に見える形にしてみましょう
①ストレスって何?
②認知行動療法の基本モデル
③階層的認知モデル
第2章 アセスメントしてみましょう
①アセスメント
②コーピング
③認知行動療法の進め方
④認知行動療法の適応と限界、および実施にあたっての注意点
第3章 プリセプティとの相性が悪く悩む先輩看護師アヤカさん
①認知行動療法に望みをかけて来談したアヤカさん
2自己観察と外在化で
かなりスッキリ
3目標リスト作成までこぎつけた
4認知再構成法で「認知」に
焦点を当てる
5 問題解決法で「行動」に
焦点を当てる
6コーピングレパートリーを
可能な限り増やす
1これまでより上手に
ストレスと付き合えるようになった
アヤカさん
第4章
BOOK1で紹介した 理論・技法・ツール
索引
BOOK2はこんな展開になります
ちなみに BOOK2の目次は
第1章
無能な同僚管理職に腹が立って 仕方がないカオルコさん
第2章
キレる医師のいる職場に 恐怖を感じるサチコさん
第3章
精神的に不安定な看護学生との かかわり方に悩む教員タマキさん
第4章
BOOK2で紹介した 理論・技法・ツール
第5章
さらに学びたい人へのガイド
はじめに
ケアする人のセルフケアに 認知行動療法を役立てよう
◎ケアする人のために書いた本です
本書は、ケアを職業とする人たち、特にナースの方々を対象に書きました。
ナースを対象とした認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)の本と書くと、「患者さんの心のケアのため に、認知行動療法を活用しましょうという本なのかな」と思われてしまいそうですが、実はそうではありません(全く違って いるわけでもないのですが、これについてはあとで述べます)。
本書の主な目的は、ナースの方々自身の心身のセルフケアの ために、認知行動療法を学び活用できるようになっていただき たい、というものです。
◎ストレスマネジメントにぴったり
私は大学と大学院で心理学を学び、大学院の博士課程に在籍しているときから、臨床心理士として精神科クリニクリニックにて心理療法やデイケアの仕事に携わるようになりました。
そのときに学んだのが認知行動療法です。
当時日本では認知行動療法はあまりよく知られていませんでした。私は認知行動療法のことを知り、特に米国においてうつ病に対する治療法として薬物療法に匹敵するエビデンスが揃い、 はじめていると知ったことで、「これは絶対に勉強しなくちゃ」 と思ったのでした。そして実際にクリニックで患者さんに対して認知行動療法を適用することをはじめましたが、その当時か ら強く感じていたのは、「認知行動療法を単なる“治療法”のまにとどめるのはもったいない。もっと広く健康な人の“スト レスマネジメント”の手法として使えるはずだ」という思いで した。
そこで「認知行動療法の考え方や手法を、一般の人々のメン タルヘルスやストレスマネジメントに役立てるためにはどうし たらよいか」ということを研究テーマに選び、博士論文を書き ました。その後、クリニック以外にもいくつかの現場で臨床の 仕事を行い、2004年より認知行動療法に特化したカウンセリ ング機関を東京の大田区に開設しました。
このようにしてかれこれもう20年近く認知行動療法を学び、 実施しているのですが、「認知行動療法を病気の治療法にとど めず、一般の人びとのセルフケアに広く役立てていきたい」と いう強い思いは、今も変わりありません。本書はそのような私 の個人的な思いが発端となっています。
◎ 私自身が助けられています
なぜ私が強くそのように思うか、というと、それにはいくつ かの理由があります。
まず、私自身が自分のために認知行動療法を使っていて、実 際とても助かっているということがあります。私はよくいろいろな人から、「いつも元気でいいね」「ストレスとか、あんまり ないでしょ」と言われるのですが(「能天気な人」とみなされ やすい。それはそれでありがたいのですが)、実際はそうでも 「ありません。自分では、気が小さく、ささいなことにストレス を感じやすく、グジグジうだうだしやすい人間だと思っていま す(家族はこれに同意してくれるでしょう)。
そんな自分がこれまでなんとかやってこられているのは、間 違いなく認知行動療法のおかげです。つい数年前も、仕事や家 庭の負荷やストレスがどっと増え、「このままだと本当に参ってしまうかもしれない。うつ病になってしまうかもしれない。 やばい!」という危機状態に陥りましたが、それをなんとか乗り越えられたのも、自分のために必死に認知行動療法を行った からだと考えています。
このように、認知行動療法を専門とする私自身が、自分のためにも認知行動療法を実施して効果を実感している、というの が一般の方々に認知行動療法を勧めたい最大の理由です。
認知行動療法の専門家には、私のような人が少なくありませ ん。クライアントさんや患者さんをよりよく援助したり治療したりするために学んだ認知行動療法を、同時に自分自身のストレスマネジメントのために活用している臨床心理士や医師を私は何人も知っています。皆さん口を揃えておっしゃるのは 「患者さんの治療のために学んだ認知行動療法だけれども、自分自身が認知行動療法によって大いに助けられている」 ということです。 そうです。皆さん、私と全く同じなのです。
◎病気は予防できるに越したことはありません
一般の人々に認知行動療法をお勧めするもう1つの理由は、 これまでの臨床経験を通じて、特にうつ病や不安障害などの精 神疾患の予防教育がいかに重要か、私自身骨身にしみて感じているからです。
私は普段自分のオフィスでは、病名がすでについている人、すなわち、すでにはっきりと具合が悪くなっており、何らかの 治療や援助が不可欠になってしまっている状態の人びとを対象 として認知行動療法を行っています。慢性化した人、再発を繰り返している人、いくつもの併存疾患をかかえて苦しんでいる 人も少なくありません。
そういった方々との認知行動療法は非常に時間がかかります。 面接も50回、100回というふうにかなりの回数がかかります し、それに伴って2年、3年と終結までにかなりの期間を必要 とします。もちろん回数と時間がかかれば、そのぶんお金もかかります。
つまり診断がつくような状態にまで悪くなって、さらにそれが長期化してしまうと、回復までにコスト(時間、エネルギー、 お金)がものすごくかかるのです。私は一般の人びとがそのような状態に陥るのを予防するための方法を、できれば健康な状 態のうちに習得しておくのがよいと考えています。風邪を予防 するのに手洗いとうがいが役立つことを知っていれば、それを しない手はないでしょう。認知行動療法もそれと同じです。
みんなの感想「これは使えそう!」
実際に私は、一般の方々を対象として認知行動療法の研修や ワークショップを行う機会が以前より増えています。そして一 般の方々に認知行動療法をお勧めするさらなる理由としては、 おおむね参加者の方々の「受けがよい」ということが挙げられ ます。
「一般の方々」とは、会社員や公務員、主婦の方、学生さん などさまざまです。ちょっと変わったところでは、刑務所や保 護観察所や少年院といったところで認知行動療法を教える機会 も最近増えています。
「認知行動療法」という名称がちょっと堅苦しいこともあっ て、どこで教えても最初はとっつきづらそうな様子の方がいらっしゃいますが、一緒にワークをやったり話し合いをしたり して実際に体験してもらうと、多くの方が、「これは自分のために使えそう」と言ってくれるようになります。刑務所や保護 観察所では、罪を犯した方がそれこそ半強制的に認知行動療法のプログラムを「受けさせられる」わけですが、驚いたか、 にそういった方がプログラムを受講し終わると、「今後の人生に役立つ方法を学べてよかった」「もっと早く認知行動療法を知っておきたかった」など、非常にポジティブな感想を述べる。 ことが少なくありません。 このような体験を続けているうちに、私は、「やはり認知行 動療法は一般の方々のセルフケアの方法として役立つのだ」と 確信するようになりました。
人をケアする職業人のストレスこそが問題です
さて、本書のもう1つの特徴は、一般の方々のなかでも、あ えてナース(本書では看護職の方を基本的に「ナース」と呼ぶ ことにします。「看護師」より「ナース」という呼称のほうが、 「私にとって親しみやすいからです)を対象にしているということです。
一般の方々に認知行動療法を広めたいのであれば、幅広く一 般の人向けの本を書けばよいということになりますが、今回は、 あえてナースに対象を絞って書いてみることにしました。その 理由もいくつかあります。 第1の理由は、私自身、だいぶ前から、人をケアする職業 の人(対人援助職)のストレスの問題に関心があったからです。 対人援助職のストレスは、他の職種に比べて深刻になりやすい。 ことは、皆さんもご存知のとおりです。言うまでもないことですが、人間は誰しもユニークでかつデリケートな存在です。そういった人が何らかの事情により他人のケアを必要とするとい うことは、それだけでその人がすでに深く傷ついている可能性 があると考えられます。ということは、傷ついている人のケア をするという仕事は、仕事とはいえ(仕事だからこそ、とも言 えるかもしれませんが)、ケアする側も同時に傷つく可能性を 常に孕んでいるのではないかと私は考えます。ケアする側の人 は、傷ついている当事者に最も近い存在であるからこそ、ケア する人自身もまた当事者になりうるということです。
この思いは私自身、心理学的な立場から他者をケアする仕 事をずっとしてきたことによる実感でもあります。このことは、 対人援助職、なかでもナースのバーンアウト(燃え尽き)に関 する研究がさかんに行われていることともおそらく関連するで しょう。 「だとすると、他者をケアすることを職業とする人は、それだけ自分自身のケアやストレスマネジメントを自覚的に行う必要 があることになりますし、実際にそうするべきだと私は考えて います。そこで本書では、人をケアする職業の中心的存在とも いえるナースのセルフケアに焦点を絞って、認知行動療法という手法を紹介してみようと考えたわけです。
私はナースが好きだから
ナースを対象として本書を書いた第2の理由としては、これは非常に個人的なことですが、私の妹がナースをしており、 またなぜか親戚にもナースが多く、私が勝手に親近感を抱いていることが挙げられます。 かつて精神科のデイケアの仕事をしていたとき仕事をしたナースが皆非常に気持ちのよい方々で、互いに出会ったり役割分担をしながら大変楽しく仕事ができた、という 個人的な体験もあります。本書がそういうナースの方々に小)
でも役に立つのであれば、私としては個人的にも非常にうれしいのです。
そして患者さんのケアに役立ててほしいから
さて、本書がナースを対象とする理由の最後です。それは、 冒頭に書いた「本書は患者さんの心のケアのための本ではない」ということと矛盾するかもしれませんが、ナースの方々が セルフケアのために認知行動療法を使いこなせるようになった あとに、ぜひ多くの患者さんのケアに認知行動療法を役立てて もらいたい、という思いです。
「認知行動療法は多種多様な疾患や症状や問題に効果のあるア プローチとして、世界的に注目され、急速にその普及が進んで いる心理学的手法です。しかし、実は日本では認知行動療法の 普及そのものがだいぶ遅れているという現状があります。
今はインターネットのおかげで、たとえ専門的なことであれ 情報を入手する手立てがありますので、認知行動療法のエビデ ンスを多くの方が知ることができます。となると、うつ病や 安障害やその他の問題をかかえる多くの方々が、「自分も行動療法を受けたい」と思われるのは当然です。
しかし大変残念なことに、現在日本においては認知行動療法 を提供できる対人援助職が非常に少ないのです。需要が爆発的 に増えているにもかかわらず、供給が全く追いついていないと いうのが現状です。「認知行動療法を受ければ助かるかもしれ ない」という確実な情報があるにもかかわらず、それを受ける ことができないというのは、なんてむごい現実なのだろうと思います。
この問題を解消するためには、認知行動療法を提供できる専 門家をできるだけ早く、そしてできるだけ多く育成する必要が あります。私自身このような問題意識にもとづき、これまでに ワークショップを開催したり、ワークショップをもとにした教 材を作って出版したり、スーパーヴィジョンを行ったり、という活動をずっとしておりますが、まだまだ不十分であると自覚しています。
そこで今回、ナースを対象とした認知行動療法の本を書くに 「あたって、もちろん最大の目的はナース自身のセルフケアを支援することですが、さらにその後、今度はナースの方々が認知行動療法を使って、患者さんや周囲の方々のケアを行ってくださるようになるといいなぁという思いを込めることにしたので
まずは自分のケアに使ってみてください。
「認知行動療法は心理療法の一種ですが、精神分析など他の 心理療法と異なり、特別な心理学的知識がないとできないとか、
事例は1つにつき1章を割き、ストーリー仕立てで紹介し ています。各章のタイトルから事例のおおよその内容は想像が つくと思いますので、興味のある章から読んでいただいて大丈 夫です。各事例をお読みいただいたあとに再度BOOK 1に戻って読んでいただけると、認知行動療法に対する知識がさらに深 まるでしょう。 2つの本とも巻末に、その本で紹介した「認知行動療法の理 論・技法・ツール」をまとめています。また、BOOK 2には 「さらに学びたい人へのガイド」を書きました。認知行動療法 を本書だけでパーフェクトに学ぶというのは不可能です。本書 を読んで認知行動療法に興味を持った方には、ぜひ「さらに学びたい人へのガイド」を参考に、学びを継続し、深めていって いただけるとうれしいです。
安全第一で使ってくださいね
最後に。認知行動療法はとても役に立つツールです。私自身 認知行動療法をずっと使い続けて、その効果や魅力を深く実感 しています。だからこそこのように本などを書いているわけで すが、本書を読むと、あたかも認知行動療法が万能なツールの ように見えてしまうかもしれません。
が、この世に「万能なツール」はあり得ません。しかもツー ルですから、「使う人次第」というところも多分にあります。 認知行動療法というツールにももちろん限界はあり、また使い ようによっては人の役に立つどころか、逆に人を傷つけてしまうことだってあり得ます。したがって認知行動療法を実際には、くれぐれも慎重に、安全第一で使っていただきたい お願いいたします。
本書は医学書院の石川誠子さんと一緒に企画したものです。 本当はもっと早く世に出るはずだったのが、ひとえに私の「ぐずぐず病」によって、こんなに時間が経ってしまいました。心 からお詫びを申し上げると共に、ここまで辛抱して付き合ってくださったことに心から感謝いたします。ありがとうございました。「ぐずぐず病」は治らないながらも、なんとか本書を世に出すことができました(これから認知行動療法を使って「ぐずぐず病」に取り組みます)。
2011年1月吉日 伊藤絵美