伝えるための心理統計: 効果量・信頼区間・検定力

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統計解析のあり方がわかる

最近の統計解析を使用した研究報告において、今まで重要視されていなかった効果量・信頼区間・検定力の報告が不可欠なってきています。本書は、注目されつつある効果量・信頼区間・検定力についての情報を体系的に解説している本です。読者として、学部学生から研究者まで幅広い方々が対象になっています。

大久保街亜 (著), 岡田謙介 (著)
出版社 : 勁草書房 (2012/1/26)、出典:出版社HP

まえがき

近年,帰無仮説検定にかたよった旧来の統計解析に,確実に変化が起こっています.この変化は心理学だけに見られるわけではありません.医学,公衆衛生学, 生態学など,さまざまな分野で変化が見られます。心理学では,この変化を統計改革 と呼ぶ研究者もいます(Cumming, Fidler, Leonard, Kalinowski, Christiansen, Kleinig, LO, McMenamin, & Wilson, 2007; Finch, Cumming, Williams, Palmer, Griffith, Alders, Anderson, &Goodman, 2004).

帰無仮説検定の問題点や限界は,古くから指摘されて来ました.入門レベルの統計解析の講義でも、そのいくつかにふれるはずです.たとえば,帰無仮説 検定が「差がない仮説」を調べるには不適切な枠組みであることや,有意水準 設定の恣意性などです。これらは,講義における頻出例でしょう。
最近,統計解析やその結果の記述に関して、「改革」が進んでいます。主に論文投稿の規則に関して、改革は今でも進行中です。その結果,帰無仮説検定に 対する過度な依存が少しずつ弱まってきました。たとえば,論文を投稿する際, 原稿に帰無仮説検定の結果しか記載しなかったら,(国際的な論文誌で)採択される可能性は高くないでしょう。少なくとも審査の過程で何らかの指摘を受けると思います(そのような例を多々見てきました).実際,多くの論文誌では,帰無 仮説検定を行う場合,あわせて効果量の報告を義務づけています。国際的な論 文誌の最新号を手にとって見てください、結果のセクションには,必ずと言ってよいほど,効果量が書かれているはずです。
しかし残念ながら、日本で改革の兆しはほとんど見られません。筆者は,心理学における日本語論文を対象に,最近の動向を調査しました(大久保, 2009). その結果,効果量や信頼区間の報告といった統計改革に関連した変化は,日本語論文に全く見られなかったのです.

改革が進まない背景には,情報不足があるのかもしれません。たとえば,箏者は(大久保は), 効果量や信頼区間に関する教育を,大学,大学院を通してきたちんと受けたことがありません.当時,私が読んでいたテキストにも,ほとんどふれられていませんでした.もちろん,これはわたしの不勉強ゆえかもしれません.しかし,情報不足の可能性について,他の研究者も指摘しています.井上 (2008) や水本・竹内(2008)は,効果量や信頼区間そして検定力について,日本語で体系的に解説した書籍がほとんどないと述べています.実際,英語で書かれたものですら,読みやすいものが出版されるようになったのは最近です.もちろ ん,日本でもメタ分析に焦点をあて効果量について詳述した芝・南風原 (1990) や. 入門書にもかかわらず効果量や信頼区間の説明に紙幅を割いた南風原(2002)のような意欲的な取り組みもありました.それでも,あくまでも例外的なものでしたし,実際のデータ解析に活用できるほど詳しくはありませんでした。

帰無仮説検定は,まだまだ有効な枠組みです。心理学では,現在でもほぼすべての実証的な研究で,帰無仮説検定が使われています.しかし,それだけで は十分な情報を読者に伝えることができません。だからこそ,統計改革が進んできたのです。
このような状況を鑑み,筆者らは近年の統計改革を受けて起こった変化を理論と実践の両面からまとめることにしました。具体的には,研究報告で最近は不可欠となった効果量,信頼区間,検定力を中心に詳細に取り上げました.これらについて,実際の研究場面での使用に耐えうる情報を本書に載せました。そのまま論文の執筆にも対応できるように APA Publication Manual 第6版(American Psychological Association, 2009) にしたがって,統計記号(p. 115)を記述しました.また,単に実践的なだけでなく,統計改革に至る歴史的,理論的な背景もあわせて紹介しました。これは,本書を単純なデータ分析プロセスだけを書いた無味乾燥なハウツー本にはしたくなかったからです.
そこで,本書は2部構成とし,第I部において改革が起こった歴史的,理論的背景をまとめ,第II部では効果量,信頼区間,検定力の理論的な説明と計算方法など実践的な使用法を紹介しました.内容は,認知心理学を専攻し,主にユーザーとして心理統計に関わってきた大久保と,心理統計それ自体を研究対象としてきた岡田が,お互いの立場から議論し決定しました.そして, 1, 2,4, 5音は主に大久保が, 3,6章および付録は主に岡田が担当し,その後,議論を重ね修正を行いました。

本書では読者として,記述統計や推測統計の基礎を理解し,実際にデータを取り扱う人たちを想定しています.具体的には、学部学生から,大学院生,研究者に至る幅広い方々が対象です。内容は決して難解なものではありません。効果量も信頼区間も検定力も最先端の解析手法ではありません。昔から使われてきたものが,改めて脚光を浴びるようになったものです.統計解析の入門書を 読んだことがある,あるいは統計解析の入門クラスの単位を取得済みなら,十分に理解していただけるでしょう。我々としては,理論と実践を兼ね備えた読みやすい本にすべく準備したつもりです。もちろん,その成果については読者の皆様に判断していただくしかありません。

最後になりますが,本書は専修大学社会知性開発研究センター/心理科学研 究センターにおける研究プロジェクト「融合的心理科学の創成:心の連続性を探る(平成 23 – 27 年度文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業,S1101013)」の成果の1つです。このプロジェクトにおいて,個々の専門分野をこえて議論する研究の場を与えていただけたからこそ,本書をまとめ上げることができました.また,本書の企画にあたり、勁草書房の永田悠一氏に大変お世話になりました。改めましてみなさまに厚く御礼を申し上げます.

平成23年夏
大久保 街亜

大久保街亜 (著), 岡田謙介 (著)
出版社 : 勁草書房 (2012/1/26)、出典:出版社HP

目次

まえがき
第Ⅰ部 背景と歴史
第1章 心理統計における新展開:統計改革がはじまった
1.1 Cohen (1994)
1.2 心理学における統計改革
1.3 さまざまな分野における統計改革
1.4 日本における統計改革
1.5 統計改革の現状と将来
1.6まとめ

第2章 帰無仮説検定:その論理と問題点
2.1 「有意」の誕生
2.2帰無仮説検定の論理
2.3 帰無仮説検定の問題点
2.4 帰無仮説検定を擁護する
2.5 まとめ

第II部 理論と実践
第3章 効果 :効果の大きさを表現する
3.1 効果量とは
3.2 d族の効果量
3.3 r族の効果量
3.4 効果量の解釈
3.5 ノンパラメトリックな効果量
3.6 元の測定単位での効果量
3.7 効果量を求める(実践編)
3.8 まとめ

第4章 信頼区間:区間推定と図のカ
4.1 検定と推定
4.2 母平均の信頼区間
4.3 頻度の信頼区間
4.4 相関係数の信頼区間
4.5回帰分析の信頼区間
4.6 効果量の信頼区間
4.7 図の力
4.8 まとめ

第5章 検定力:研究の信頼性と経済性を高めるために
5.1 検定力とは何か?
5.2 なぜ検定力を分析するか?
5.3検定力と標本サイズ
5.4 高すぎる検定力・低すぎる検定力
5.5 適切な検定力
5.6 さまざまな検定力分析
5.7まとめ

第6章 さらなる改革に向けて
6.1 メタ分析
6.2 ベイズ統計学によるアプローチ
6.3 Prep

付録:Rプログラム
第3章のR プログラム
第4章のR プログラム
第5章のRプログラム
第6章のR プログラム

あとがき
参考文献
索引

コラム
コラム1:統計的有意性と臨床的意義
コラム2: Fisher vs. Neyman & Pearson
コラム3:有意水準ではなく、正確なp値を報告しよう
コラム4: Stiglerの法則
コラム5:標準偏差と標準誤差
コラム6:白衣の天使と円グラフ
コラム7:マジカルナンバー2010
コラム8: Fisherの抱えていた矛盾

大久保街亜 (著), 岡田謙介 (著)
出版社 : 勁草書房 (2012/1/26)、出典:出版社HP