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120分で聖書についてよくわかる
本書では、比喩表現が多く理解が難しい旧約聖書および新約聖書が、わかりやすい表現で解説されています。また、イラストや写真も用いられているのでより一層理解しやすくなっています。聖書に関する初学書としておすすめの一冊です。
はじめに
皆さんは「聖書」という本にどのような印象をお持ちでしょうか。難しいと思われる方も多いと思います。しかし、決して難しい本ではありません。
聖書は古い本であり、その内容が私たちの日常からかけ離れているところに、そのような印象があるのではないでしょうか。もっとも新しい時期に書かれた部分でも、1900年ほども前のものです。それだけの年月を経ているわけですから、ユダヤ教やキリスト教以外の多くの人々にも読まれています。聖書が世界のベストセラーである、といわれている理由はここにあるのです。
本書は、聖書の世界を名場面形式でやさしく解説しました。とくに後世の文学や絵画に影響を与えた感動的なシーンはすべて網羅しています。そして、「世界の常識」である聖書のダイジェスト・ストーリーが120分で読める本です。
聖書には、ご存じのように「旧約聖書」と「新約聖書」があります。
簡単に説明すると、旧約聖書は、人間と、この地上のすべてのものの誕生から、イエスの誕生を預言する物語であり、新約聖書はイエスの生涯と、彼のメッセージやキリスト教が世界に伝播していく物語です。ただ一貫して変わらないのは、神と人間の数千年にも及ぶ、交わり(契約)の話であることです。
彼らが記した、長い広大な道のりをこれから紹介していきます。
目次
はじめに
旧約聖書と新約聖書の違いは何か
旧約聖書
旧約聖書の成立
旧約聖書の舞台
旧約聖書の歴史一覧
第1章 天地創造からヨセフの死まで―旧約聖書
創世記について
天地創造
万物ができるまで
アダムとエバ
知識の木の実と失楽園
カインとアベルの悲劇
最初に記録された殺人
大洪水とノアの箱船
悔い改めない人々への神罰
バベルの塔
言葉はどうして世界共通ではないのか?
アブラハムの物語
民族の父、アブラハム
神の永遠の約束
「義の人」に子孫の繁栄を告げた
退廃の町、ソドムとゴモラ
神の破壊に没した町
近親相姦と近親憎悪
苦難のロトと、その娘たち
神の授けた試練
愛するわが子を捧げものに
奪い取った祝福
双子の兄弟が演じる葛藤劇
ヤコブの格闘
ひと晩中、神と闘って勝つ
ヨセフの夢占い
兄たちの怒りを買った夢
ヨセフの夢解き
エジプトを襲う不気味な夢
司政者、ヨセフ
夢のとおりに始まった飢饉
ヨセフの遺言
出エジプトを預言した
第2章 モーセの出エジプトと十戒―旧約聖書
出エジプト記
申命記について
苦難の日々
イスラエルはなぜ虐げられたのか?
モーセ誕生秘話
エジプトで過ごした若き日々
燃える柴の出来事
モーセと神との出会い
モーセが下した10の災い
強情なファラオへの天誅
葦の海の奇跡
そして海は真っ二つに割れた!
荒れ野の旅
飢餓の民に授けられた奇跡
神からの十戒
契約はいかにして結ばれたのか?
神との契約 人々は律法から逸脱し始める
モーセの死
モーセはカナンに入れなかった
第3章 聖戦を指揮したヒーロー、ヒロインたち―旧約聖書
ヨシュア記 士師記 ルツ記について
ヨルダン川渡河作戦
契約の箱が起こした奇跡
エリコ攻略
奇想天外!7日間の聖戦とは?
アイの陥落
ヨシュアは敗者復活戦をいかに戦ったか?
デボラの歌
女士師、デボラと青年バラク
ギデオンの少数精鋭の戦い
神は数ではなく質を重視する
エフタの悲劇
出迎えた娘を捧げものに
怪力サムソン
豪快で物悲しい士師
サムソンとデリラ
領主に雇われた悪女デリラ
ナオミとルツ
神を信仰した嫁姑の美談とは?
第4章 ダビデの威光、ソロモンの栄華―旧約聖書
サムエル記 列王記 他について
神に選ばれたサムエル
士師時代の最後の預言者
奪われた契約の箱
箱が起こした怪奇現象
初代王、サウル
同体から王制へ
油を注がれた少年ダビデ
新たな王を求めたサムエル
ゴリアトとの一騎打ち
勇猛にも志願したダビデ
逃亡者ダビデ
サウル王のもとから然と姿を消す
イスラエルの王、ダビデ
エルサレムを創建
バト・シェバとの不倫
大王の犯した罪とは?
アブサロムの復讐
解体した王室と預言の的中
神はこの国を見捨てたのか?
北のイスラエル王国
王国の分裂
「3代目の悲劇」が王国を襲う
ソロモンに突きつけた難問
シェバの女王の訪問
世界が聞き入るソロモンの知恵
知恵の王、ソロモン
純金の神殿を建設
ソロモンの栄華
南のユダ王国
バビロン捕囚という末路
王を批判した預言者たち
民族を存続させようとした人々
エルサレム再建
4万人の捕囚民が帰国
ユダヤのヒロイン、エステル
即止したイスラエル人根絶計画
ヨブの試練
真の信仰とは何か?
第5章 預言者たちの不思議な話―旧約聖書
預言書について
預言の巨人、イザヤ
イエスの出現を預言する
涙の預言者、エレミヤ
激しい感情を甘露
幻想預言者、エゼキエル
不思議な神の幻
ダニエルの預言
夢で解いたバビロニアの運命
回心したヨナ
神の愛は異邦人にも注がれている
箴言
人生の目的と生きる知恵
コヘレトの言葉
生きるという意味
雅歌
2000年前のラブレター
詩編
心をいやす言葉の宝石
新約聖書
新約聖書の成立
新約聖書の舞台
新約聖書の歴史一覧
第6章 イエスの生涯と奇跡―新約聖書
イエスの生涯について
4つの福音書
イエスの言葉を継ぐもの
受胎告知
大天使ガブリエルの出現
イエスの誕生
実現したイザヤの預言
羊飼いと学者の訪問
救世主への祝福と殺害指令
イエスの幼年時代と家族
ナザレでの生活
ヨルダン川での洗礼
洗礼者ヨハネとは?
荒れ野での誘惑
メシアとしての試練を受ける
弟子の召命
人間をとる漁師とは?
山上の説教
イエスに耳を傾ける群衆
カナの婚礼
水をぶどう酒に変えた奇跡
病人をいやす
奇跡はイエスの名を高めていった
ヤイロの娘
死者をも生き返らせる
食べ物の施し
5000人にパンと魚を与える
ガリラヤ湖の奇跡
自然をも支配するイエス
イエスの宣教
求めた悔い改めること
ヨハネの死
サロメの踊りとヨハネの首
イエスの戦い
「旧約」の巨人たちとイエス
エルサレム入城
イエスの戦いとその幕開け
ユダの裏切り
心の革命への不信感
最後の晩餐
パンとぶどう酒の意味は?
ゲッセマネの園
悲痛なイエスの祈り
イエスの救出を試みたローマ総督
ピラトの裁き
イエスの受難の始まり
最高法院での裁判
イエスの死
イエスの最後の言葉とは?
イエスの復活
始まった神と人の愛の契約
第7章 たとえ話とイエスの教え—新約聖書
イエスのたとえ話について
善きサマリア人
イエスの考える隣人とは?
ラザロと金持ち
貧しき者の死後の行き先
種をまく人
豊かな収穫をもたらす人は?
タラントンの教え
財産を預かった3人の僕
放蕩息子
帰ってきた息子と父の愛
1匹の羊となくした銀貨
見つけた喜び
10人のおとめ
物事に備える心の日
愚かな金持ち
神が授けたもの
第8章 使徒の戦いとヨハネの黙示録―新約聖書
諸手紙と黙示録について
炎の舌とペトロの演説
キリスト教会の誕生
ステファノの殉死
ユダヤ教徒からの弾圧
サウロの回心
迫害者から信者へ
パウロの布教
海を渡るキリスト教
パウロの手紙
各地へ届いたパウロの声
ペトロの手紙
迫害のなかでの信仰とは?
ヨハネの手紙
福音書の正しい理解を!
ヨハネの黙示録
世の終りと神の国の降下
ひろさちやの視点
神は唯一絶対のもの
契約と自覚と所属と
日本人と信仰心
自由に生きる
宗教と風土
神の御心のままに
人間の物差しと神の物差し
コラム
ミレニアム―千年王国とは何か?
パピルスとバイブル
魅惑の死海
謎に包まれていたシェバ王国と女王
死海文書とは?
割礼の民、ユダヤ人
あとがき
さくいん
●旧約聖書と新約聖書の違いは何か?
「わたしは熱情の神である。わたしを拒む者には父祖の罪を子孫に三代、四代までも問うが わたしを愛し、わたしの戒めを守る者には幾千代にも及ぶ慈しみを与える」
これが聖書の伝える神の本質である。日本人にはわかりにくいとされる聖書だが、冒頭に 述べた神の本質さえ理解していれば聖書には強くなれるのである。
わたしを拒むのか? それとも愛するのか? じつは聖書全編を通じて流れているのは神の この問いかけなのだ。だからこそ、二者択一を迫る神とそれに答える人間との間に契約が必 要とされるわけだ。拒むのか? 愛するのか? という契約である。その中間などありえない。 そして愛すると契約したその時点から、熱情の神は文字どおり情熱的にその人を愛しはじめるのだ。まずここを押えてから聖書の扉を開いてみよう。
聖書には旧約と新約があることはすでに皆さんご存知だろう。では旧約と新約はどう違う のか。一言でいえば旧約とは「旧い契約」であり、新約とは「新しい契約」のことである。
さて、旧い契約とは紀元前1250年頃、それまでエジプトで奴隷として虐げられてきたイスラエル民族がエジプト脱出後、シナイ山の山麓で大預言者モーセを介して唯一神ヤハウ ェとの間に結んだ契約のことを指す。つまりイスラエル民族が神の与えた律法を守るのなら、彼らは神ヤハウェの民となり、同時に神もイスラエル民族を守ろうというのだ。したがって、他の神々を信じるようなことがあれば、この契約は破棄されることになる。しかもその時、神はイスラエル民族の前から消え去るだけではなく、冒頭述べたように「わたしを拒む者には、父祖の罪を子孫に3代、4代までも問う」というぐあいだから恐ろしい。
では「新しい契約」とは何だろうか。その意味をイエスの使徒パウロは「人間が救済を得るためには『律法』を守る必要はない、信仰だけで十分である」と解説している。もう少し詳しく説明しよう。
1世紀初頭にパレスチナのガリラヤ地方で宣教活動を行なったイエスは「神の国」に入るためにはユダヤ教の頑迷で煩雑な律法を守る必要はない。「神の愛」を信じればそれで足りるのであると語り、さらに貧しい人々を救うためにユダヤ教の生命線ともいうべき安息日や食事などに関する儀礼的な律法を大胆不敵に破ってみせたのだ。
つまり旧い契約を「神の罰」を恐れ「神の律法」という行動規範を守っていさえすれば救済が来ると位置づけるならば、新しい契約つまり新約とは神の愛、ひいては神そのものを心の内で信じるようにしようではないか、という新たなる約束事を呼びかけたものと考えられるのである。
旧約聖書
旧約聖書の成立
聖書を、ヘブライ語で書かれた「旧約聖書」とギリシア語で書かれた「新約聖書」とに分けて呼ぶことは広く知られている。
「旧約聖書」は、イスラエル人(ユダヤ人)の公の聖典として、世界中に知られてきた。「旧約聖書」 こそがイスラエル人の唯一の教典であり、イエスが用いた聖書である。「旧約聖書」を構成する諸要素では、時代的背景とその舞台が重要になってくる。1000年以上にわたり書かれており、書かれた時期や作者をはっきりと特定できないが、もっとも古いものは紀元前1500年ごろに書かれたと推測され、大きく律法書、預言書、そして、詩編や歴代誌を含む諸書に分かれている。
その後、紀元30年ごろ、イスラエル人学者がパレスチナ地方のヤムニアの地に集まり、聖書正典決定の会議を開き、ヘブライ語3書を集めたものを旧約聖書と定めている。
旧約聖書の舞台
「旧約聖書」の舞台となっているのは、エジプトからシナイ半島をへて、チグリス川、ユーフラテス川へ至るメソポタミア地方である。
特に、カナンと呼ばれる地中海の東側、死海の近くの一画には、イスラエル人が神から与えられた「約束の地」がある。彼らはここを中心に栄え、王国をつくり、多くの民族と争いを続けるのである。
この一帯は周囲を砂漠に囲まれるが、大河や豊かな水に恵まれ、開墾し農作物を栽培して、家畜を放牧することもできた。
つまり、古代文明発祥の地であるエジプトと、メソポタミアを往来した砂漠の道や多くの富や民族が集約された土地が、「旧約聖書」の舞台だ。