図解とあらすじでよくわかる 「聖書」入門 (知恵の森文庫 t ほ 3-1)

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図解とあらすじが豊富でわかりやすい

本書は、タイトルの通り、「図解とあらすじ」で聖書について解説しているのが特徴です。聖書におけるキーワードを取り上げ、その内容をあらすじで記してあるので、スラスラと読み進めることができます。また、地図や人物相関図が挿入されているのでわかりやすく、入門書としておすすめです。

保坂俊司 (監修)
出版社 : 光文社 (2011/9/13)、出典:出版社HP

まえがき

『聖書』の教え、とりわけキリスト教の教えは、現代に生きる私たちの倫理道徳、あるいは文化に至るまで、深い関わりを持っています。たとえば、現在では当然視されている一夫一婦制の婚姻制度や、夫婦を単位とする家族制度も、聖書が提示する価値観に起因しています。
また、現代では常識となっている商習慣や法体系にも、聖書の「契約」の精神が生かされています。さらに、新聞やテレビで目にする地域紛争や国際政治に関する報道の内容も、聖書の価値観や論理を知らずに理解することは難しいでしょう。
世界の人口は現在、六十数億ですが、その約三分の一の人々が、キリスト教信者と言われています。この事実を考えただけで、聖書の教えが世界を支える、あるいは動かしていると言っても過言ではないことが、理解できるのではないでしょうか。
さらに、近代文明そのものが、聖書を中心とするキリスト教文化の中から生み出されたものであり、キリスト教文化の精華であることを考えると、我々平均的な日本人も、キリスト教の教えや、聖書に関しての基本的な知識を、ある程度持っておく必要があると言えます。

ところが、一般的な日本人は、そもそも宗教と日常社会を関連づけて考えるという発想が弱いようです。たしかに最近では、たとえばユダヤ教やイスラーム教などの信者たちが、厳しい宗教的なルールに則って生活していることは、理解されるようになってきました。ただし困ったことですが、日本人はこのような宗教規範に支配された生活を、「遅れた社会」というふうに考えているふしがあります。このような見方が、宗教と社会の関係をますます分かりにくくさせているのです。そして、日本人の世界理解を一層困難な、あるいは危うい方向に導きつつあります。

こうした日本的な宗教観の特殊性を前提に、世界を見ることは大きな誤りです。日本的な宗教観は、いわば日本にのみ通じる常識であり、世界の常識ではないのです。このことを、聖書の知識を分かりやすく解説した本書を通して理解していただくことが、私の狙いです。
本書は、聖書の内容があらすじで簡潔にまとめられ、また多くの図版が多用されているのが特徴で、初めて聖書の世界に触れる方々にも理解しやすい構成となっています。なお、本文中の人名・地名などの固有名詞は「新共同訳」を基準にしましたが、すでに人口に膾炙して幅広く使われているものについては、必ずしも新共同訳にとらわれない表記としました。
グローバル化が日々加速度的に進展している今日、聖書を知らずして国際社会を生き抜くことはできません。本書が、聖書をよりよく理解するための手助けになれば幸いです。

保坂俊司

目次

まえがき

― 序章 ― 聖書とは何か?
聖書とは?
世界を席巻したキリスト教、ユダヤ教の聖典
天使と悪魔
天使は神の言葉を伝え、悪魔は神に抗し人間を誘惑する
契約とは?
聖書を読み解く上で重要な「旧約」「新約」の意味

第1部 『旧約聖書』
第1章 神と人類の交渉の始まり
天地創造
絶大なる神の力によって世界が生まれた七日間
エデンの園
神によってつくられた最初の人間アダムとエバ
楽園追放
アダムとエバが禁断の実を食べ、人類は原罪を背負う
カインとアベル
敬虔なる弟に対する兄の嫉妬が招いた人類最初の殺人
ノアの箱舟
堕落した人類を洗い流した大洪水と、神に唯一赦されたノア
ノアの息子たち
酔いつぶれたノアに対する態度が決した民族の関係
バベルの塔
神の怒りに触れた、人間の傲慢さの象徴

第2章 族長たちの伝説
アブラムの旅立ち
約束の地カナンを与えられた古の族長
イサクとイシュマエル
母親同士の争いに巻き込まれた息子たち
ソドムとゴモラ
神に滅ぼされた悪徳の町とカナン周辺異民族の誕生
イサクの犠牲
究極の選択によって証明されたアブラハムの信仰心
ヤコブの策略
老いたイサクを騙し長子権を奪い取った次男 ヤ
コブの帰還
天使と互角に闘ったヤコブは新たな名を与えられる
エジプトに売られたヨセフ
兄たちから嫌われたヤコブの秘蔵っ子の悲劇
ヨセフの出世
王の夢解きにより奴隷の身からエジプトの宰相へ
ヨセフと兄弟の和解
飢饉によって解決した兄弟のわだかまり

第3章 約束の地を目指して
モーセの出生
イスラエル民族を解放した導き手の誕生
モーセの逃亡と十の禍
殺人者としての逃亡から神の啓示を受けるまで
十戒
イスラエルの民、モーセを介して神との契約を交わす
カナンの偵察
神を信じなかった十人と神を信じたふたりの偵察者
モーセの死
神とイスラエル民族に生涯を捧げた預言者の終焉
エリコの攻略
強固な城壁が崩れる奇跡によって得た勝利
ヨシュアのカナン征服
ついに約束の地へ足を踏み入れたイスラエルの民
土地分配
約束の地「カナン」を切り分けたイスラエル十二部族
士師時代
悔い改めた民を救うべく遣わされたカリスマたちの時代
士師オトニエルとエフド
最初の危機を救ったふたりの士師
士師デボラ
カナン王ヤビンを破り、「イスラエルの母」と謳われた女士師
士師ギデオンツ
ミディアン人に少数で挑んで勝利をおさめた英雄
士師エフタ
大切なひとり娘を犠牲にして神との約束を守った士師
士師サムソン
ライオンを引き裂き、ペリシテ人と戦い続けた怪力のナジル人
サムソンとデリラ
愛する女性に裏切られた末に迎えた壮絶な最期

第4章 イスラエル王国の誕生
ルツとナオミ
救い主の先祖となった献身的な異邦人女性の物語
ダン族とべニヤミン族
土地を巡る争いとレビ人に対する蛮行
サムエルの登場
ペリシテ人の圧迫に苦しむイスラエルに現われた最後の士師
サウルの即位
民の求めに応えて登場したイスラエル最初の王
ダビデとゴリアト
竪琴を持った勇気ある少年、ペリシテ人の猛将を討つ
サウルの死
嫉妬から生まれたイスラエル最初の王の悲劇
ダビデの王国
エルサレムを制する偉大な王の誕生
バト・シェバ事件
英雄王ダビデによる人妻との恋が招いた神の怒り
ソロモンの知恵
ダビデの後継者として即位し、大いなる知恵を授かった賢王
ソロモンの外交と背信
最盛期を迎える一方で、国家分裂の予兆が忍び寄る

第5章 バビロン捕囚への道
イスラエル王国の分裂
繁栄を極めたダビデ・ソロモンの王国の崩壊
エリヤとアハブ王
ヤハウェ信仰を守るべく、異教徒との戦いに臨んだ預言者
アハブ王の回心
神への不信仰が招いたイスラエル王の悲劇
エリシャ
奇跡物語に彩られる一方、冷酷な一面を見せる預言者
サマリアの陥落
神に見捨てられたイスラエル王国の最後
ユダ王国の興亡とイザヤ・ミカ
アッシリアの圧迫に耐え抜くエルサレムの諸王たち
ヨナの冒険
神の意志を疑い、逃げ出した人間味あふれる預言者
エレミヤ
民に届くことのなかった預言者の悲痛な訴え
バビロン捕囚
エルサレム陥落の悲劇が生んだ、ユダ国民の大量連行
捕囚下の人々
存亡の危機から生まれた民族意識
ダニエル書
ふたつの世界帝国で重用されたユダヤ人宰相の物語
エステル記
ユダヤ民族を大虐殺から救ったヒロインの物語
エルサレムの再建
半世紀以上にわたる捕囚からの解放と聖都の復興
諸書・文学
古代イスラエルの知恵が詰め込まれた書物群
ヨブ記
なぜ神は苦しみと試練を与えるのか?
詩編
古代イスラエル王国で歌われた宗教詩の集大成
雅歌
ソロモンの作とされる、男女の間に交わされる恋の歌
箴言
生きるための知恵が詰まった金言集
コヘレトの言葉
知恵の王ソロモンによる人生論

― 断章 ― 『旧約聖書続編』
トビト書
敬虔なトビトの苦難とそれに対する神からの祝福
ユディト書
知恵と美貌を兼ね備えた女性の勇気ある物語
スザンナ
ダニエル書補遺
神を信じる美女を救ったダニエルの知恵
ベルと竜
ダニエル書補遺
正しい信仰を守るために用いられたダニエルの機転
マカバイ記
ヘレニズム文明への抵抗から登場したユダヤ人最後の王朝

第2部 『新約聖書』
第6章メシアの誕生
ヘロデ大王の治世
異民族による支配とユダヤ教の分裂
洗礼者ヨハネの誕生
エルサレムの祭司に下されたもうひとつの受胎告知
受胎告知
天使によって告げられた救世主の誕生
イエスの誕生
先祖の地ベツレヘムに降誕した運命の赤子
エジプト逃避
天使の勧めによりヘロデ大王の虐殺を免れたヨセフ一家
十二歳のイエス
神の子であることを大人たちの前に示した少年時代のイエス
洗礼者ヨハネ
荒野において教えを述べ、人々に洗礼を施したイエスの先導役

第7章 イエスの教えと足跡
イエスの洗礼
ヨハネのもとに現われたイエスが、聖霊をその身に宿らせる
荒野の誘惑
三度にわたるサタンの誘惑を聖書の言葉で退けたイエス
ペトロの召命
ガリラヤ湖の畔で始められたイエスの伝道活動
十二弟子
漁師、徴税人、過激派……様々な人々を取り込んだイエス
カナの婚礼
婚礼の宴会においてイエスが起こした最初の奇跡
洗礼者ヨハネの最期
ヘロディアの策略の前に命を落とした洗礼者
山上の説教
ガリラヤ湖畔の丘の上から信者に示された教えの骨子
サマリアの女と百人隊長
メシアの来訪を望む異邦人に差別なく広められたイエスの福音
癒しの奇跡
罪人とみなされた病人たちを救ったイエスの癒し
ガリラヤ湖を歩く
自然の摂理を覆すことで示された神の力とメシアとしての証
ナザレの人々
奇跡のみを期待し、イエスの教えを聞き入れなかった故郷の人々
善きサマリア人
隣人愛の本質を説いた最も有名なたとえ
放蕩息子のたとえ
罪人の悔い改めを受け入れる神の無限の愛
十人の乙女のたとえ
信仰を見失わないよう、日頃の心構えが大事だと説くたとえ
マグダラのマリアと女性信者たち
イエスの処刑と復活に立ち会い、聖人に列せられた女性信者
ラザロの蘇生
ベタニアの姉妹の信仰が実現させた死者蘇生の奇跡

第8章 イエスの受難物語
信仰告白とイエスの変容
ペトロの信仰を確認したイエスが予告した死と復活
エルサレムへの旅
教えを理解しない弟子たちを諭し続けたイエスの最後の旅
エルサレム入城
聖書の預言を現実のものとした救世主イエスの入城
宮清め
イエス、神殿を穢す商人たちに激怒する
論争物語
イエスに対し幾重にも張り巡らされたユダヤ教指導者層の罠
ナルドの香油
イエスに注がれた香油の香りとともに漂い始めた裏切りの予感
最後の晚餐
過越の夜に示された新しい契約の証明と、弟子たちの裏切り
ゲッセマネの祈り
神に対する祈りのなかで露にされたイエスの苦悩
イエスの裁判
救世主の死を決定したのは、彼を歓迎した民衆だった
イエスの処刑
群衆の嘲りと罵倒のなか、ゴルゴタの丘で最後を迎える
イエスの復活
埋葬されたはずのイエスがマグダラのマリアの前に現われる

第9章 使徒とパウロが広めたイエスの福音
聖霊降臨
不肖の弟子たちを伝道活動に目覚めさせた五旬節の奇跡
ペトロの布教と原始宗教
共有財産制を敷く原始キリスト教会が誕生する
ステファノの殉教
ユダヤ教の指導者を論破したため最初の殉教者となる
サウロの回心
迫害者から一転して伝道者へと変貌したユダヤ教徒
伝道旅行
パウロの熱意によってヨーロッパへ渡ったキリストの福音
エルサレム使徒会議
ユダヤ教から独立させたペトロの決断
パウロの書簡と教え
イエスの教えを世界宗教へと発展させた伝道の思想
第三回伝道旅行
ローマの地に消えたキリスト教最大の伝道者
使徒たちの伝道と殉教
世界へ福音を伝えるなかで、異郷に倒れたイエスの弟子たち
ヨハネ黙示録
生々しく語られるパトモス島のヨハネが見た終末の幻影

聖書関連年表
参考文献

コラム
グローバル化は「聖書的な価値観」の広がりである
聖典と契約にはどんな意味がある?
ユダヤ教・キリスト教・イスラーム教は三兄弟
日本人には理解しづらい「戒律」の位置づけ
「聖戦」は選民思想から生まれた
「ユダヤ三兄弟」はなぜ仲が悪い?
ユダヤ教徒はなぜ弾圧されてきたのか?
なぜアメリカ大統領は聖書に手を置いて宣誓するのか?
世界でも稀なアメリカ人の宗教意識
終末思想の意味とは

構成/インフォペディア 図版作成/イクサデザイン

保坂俊司 (監修)
出版社 : 光文社 (2011/9/13)、出典:出版社HP

序章 聖書とは何か?

聖書とは?

世界を席巻したキリスト教、ユダヤ教の聖典

◆世界の始まりから終末までを記す壮大な物語
ひと口に聖書といっても、大きくふたつにわかれる。ひとつが「旧約聖書』、もうひとつが『新約聖書』だ。
まず『旧約聖書』は、「創世記」や「出エジプト記」、数々の預言書など、三十九の書から成る。神の手による世界および人類の誕生に始まり、神に選ばれたイスラエル民族の興亡の歴史が、物語を貫く神と人との交流のなかで語られる。そして、イスラエル人の王国の滅亡ののち、彼らを救う救世主の到来を預言して終わっている。
それに対し『新約聖書』は、『旧約聖書』で約束された救世主イエスの生涯を、それぞれの視点から描いた四つの「福音書」と、イエス昇天後の使徒たちの布教活動を記した「使徒言行録」および手紙、そして世界の終わりと最後の審判について記す「ヨハネの黙示録」など、二十七の書から成り立っている。

いわば聖書は、数多くの書物の複合体であり、世界の始まりから終わりまでを記す壮大な物語なのである。
では、これらの書は、いつ誰によって著されたのであろうか。
『旧約聖書』における最も古い書は紀元前一一○○年頃の執筆で、新しいものは紀元前一五〇年頃の執筆といわれている。一○○○年近い歴史のなかで、作者不明のものも含め、モーセ、ダビデ、ソロモンといった人々によって書き継がれてきた。
これに比べると『新約聖書』の執筆期間は短い。
四つの福音書のうち最も古いものが「マルコによる福音書」で、紀元六八年頃に書かれたといわれている。
その後、八○年代後半に「マタイによる福音書」と、「ルカによる福音書」が書かれ、九○年代に「ヨハネによる福音書」が書かれたと伝えられる。
聖書を聖典としているのは、キリスト教、ユダヤ教である。だが厳密にはユダヤ教は、あくまでキリスト教徒の『旧約聖書』にあたる聖書を聖典として、救世主としてのイエスも『新約聖書』も認めない。しかし、本書では両者の宗教的な対立には大きく立ち入らず、一般的な理解のレベルとして「旧約」「新約」を取り扱う。

天使と悪魔

天使は神の言葉を伝え、悪魔は神に抗し人間を誘惑する
聖書に欠かせない存在が多くの天使たちである。
天使は神の使者として人間の前に現われ、神の言葉を伝えたり、時には行動を共にしたりする。つまり、天使は天上と地上の世界をつなぐ媒介者であり、神に奉仕する存在なのだ。聖書において具体的な名前が出るのは、ミカエル、ガブリエル、ラファエルだけであるが、中世、存在するすべての天使の数は「三億百六十五万五千七百二十二」とされた。そして、九つの階級を形成し、天使長ミカエルに率いられているとされる。

一方、神に敵対する存在として描かれているのが悪魔である。じつは悪魔もまた、元は天使だったとされ、高慢な心を持ち、神の座を脅かそうとしたために天から追放された。その堕天使が悪魔だというわけである。
たとえば有名な悪魔サタンは、元は天使長ルシフェルであったが、神に抵抗を試み、ミカエルと闘って敗れ、天から追放されたとされている。

契約とは?

聖書を読み解く上で重要な「旧約」「新約」の意味

◆現代と異なる契約の概念
聖書は『旧約聖書』と『新約聖書」から成る。では、この「旧約」「新約」とは何なのか。じつはこの「約」は「契約」を意味する。神と人との「契約」、さらに言えば「契約証」という意味だ。この契約の概念が、聖書を読み解くにあたって重要なポイントとなる。
ただし聖書における契約は、現代使われているような意味での相互的な関係ではない。
この契約は、民が神に従い、律法に忠実であれば幸福が約束されるが、忠実でなければ禍が降りかかる、という一方的な内容だ。契約は神によって一方的に示され、人間はそれにひたすら従うのみなのである。
『旧約聖書』では、神がシナイ山においてモーセを通じてイスラエルの民とこうした契約を結んだものの(第3章参照)、やがて民は契約を破って神を裏切り続け、国家滅亡という禍を受ける。そして、神が新しい契約を結び、罪の赦しと救いがもたらされるだろうと預言して終わっている。
キリスト教に限れば、これを受けて登場したのがイエスである。イエスは十字架にかけられることで自身を契約の犠牲(証) とした。
これにより、『旧約聖書』のなかで示さた新しい契約の預言を、神と全人類との
契約という形で成就させたと解釈されている。
一方、イスラームでは、最新にして最後の契約が天使ジブリールから預言者ムハンマドに下された『コーラン(クルアーン)』であると考えられている。

Column コラム

グローバル化は「聖書的な価値観」の広がりである

近・現代ヨーロッパ文明とキリスト教との関連性については、あまり関心のない方が多い のではないでしょうか。というのも、とくに日本では、「ヨーロッパの近代は、脱キリスト教化、即ち世俗化された社会であり、先進的かつ世俗的文明である」と、学校教育などで教え込まれてきたからです。

しかし現実は大きく異なっています。ヨーロッパの近代が目指したものは脱教会支配であって、脱キリスト教ではなかったのです。それよりも、ヨーロッパ近代が目指したものは、 教会支配の頃のキリスト教以上に、神と、ひとりひとりの人間が強く結びつくという、個々 人の神への信仰を重視する社会だったのです。

その象徴的な存在が、清教徒(ピューリタン=信仰に純粋な人々)の存在です。彼らはキリスト教信仰に純粋であることを目指して、カトリック教会など他の宗派と対立し、その多くが信仰の自由を求めて新大陸、特にアメリカに旅立ったのです。
アメリカのピューリタンたちは、この新大陸への旅立ちを、モーセがユダヤ人同胞を引き連れてエジプトを脱出した「出エジプト」になぞらえて、第二の「出エジプト」と表現しています。こうしたことからも、聖書の記述にある出来事を通じて、自分たちの歴史を理解しようとするキリスト教徒の考え方が理解できるでしょう。

さて、現代は、近代資本主義という欧米型の経済体制が世界の隅々にまで行き渡り、グローバル化の名のもとに、経済のみならず文化的な価値観まで均一化しつつあります。このグロー バル化の基準、たとえば商習慣や高度な法体系にも、聖書の「契約」の精神が生かされています。また、国際語の象徴とも言える英語の多くの語彙や表現にも、聖書からの借用が非常に多いのです。このように、否応なしに進むグローバル化とは、実は聖書を共通項とする「近代西洋文明化」であると言えるのです。
もちろんそれは、単なる通商や言葉のレヴェルに止まらず、聖書が提示する価値観においても同様です。つまり、私たちの日常生活における倫理道徳、あるいは文化に至るまで、様々な基本的価値観に、キリスト教の教えは深く関わっています。
グローバル化が日々加速度的に進展している今日、「宗教音痴の日本人」などと暢気なことを言っていては、ますます国際的なスタンダードから取り残されていきます。キリスト教、とりわけ聖書を知らずして二十一世紀の国際社会を生き抜くことはできないと言えるほど、世界は、「聖書的な価値観」に満たされつつあるのです。

保坂俊司 (監修)
出版社 : 光文社 (2011/9/13)、出典:出版社HP