リーマン予想とはなにか 全ての素数を表す式は可能か (ブルーバックス)

【最新 – リーマン予想を知る・学ぶおすすめ本 – いつ証明されるのか?】も確認する

全ての素数が完全にわかる

「リーマン予想」は150年前に生まれた数学の未解決問題で、難解にもかかわらず人気があります。本書では、リーマン予想の全体像と意味について丁寧に解説されています。数学の奥深さがわかる1冊です。

はじめに

数学は、同じ自然科学の中でも、物理学や化学とは大きく異なる点があります。その一つは、画期的な業績を上げても、それで大金を手にするようなことは基本的にないだろうということです。しかし、中には例外もあります。その一つが、本書のテーマである「リーマン予想」の解決です。成功すると、少なくとも100万ドルを手にすることができます。もちろんそのような大金を提供しようとする人がいるわけは、リーマン予想の解決が、私たちがこの世界を理解するうえで、とても大きな進展をもたらすだろうと期待されているからです。

リーマン予想というのは、今から150年ほど前に生まれた数学の問題です。問題文としては今でも、当時と変わっていません。150年間何も変わっていないのなら、この間数学者は怠けていたのでしょうか?もちろんそんなことはありません。多くの数学者が、血のにじむような努力を重ねてきました。関連する研究の成果は、数学の世界を大きく変えてきています。それでも、いまだ解かれていない難問なのです。

ところで、リーマン予想とはどのような問題でしょうか。

それは、「リーマンのゼータ関数と呼ばれる複素数の関数の値が、どのような場合に0(零)になるか」という問題です。リーマンは、このような場所がどこであるかを予想したのですが、彼自身はそのことを証明することはできませんでした。そこで、後世にそれが正しければ証明し、間違いであれば反例を示すことが問題として残ったのです。

しかし、ある関数の性質が、どうしてそこまで重要な問題になるのでしょうか。

実は、リーマンのゼータ関数がどのような場合に0になるかを完全に知ることによって、原理的には全ての素数を知ることができるようになるのです。素数は、古代ギリシャの昔から、人々の興味を惹いてきました。それでも疑問は次々にわいてきます。素数の全てを知ることができれば、これまでにわからなかった素数に関する多くの事柄がわかることになります。また、素数にまつわる新たな発見ももたらされるでしょう。そのような期待があるからこそ、ここまでリーマン予想が注目されるのです。

注目の高さの反映として、リーマン予想をテーマにした書物はたくさん出版されています。しかし、リーマン予想と素数を結びつける、リーマンの研究の数学的な詳しいことについては、専門書を読むしかないでしょう。そこで、本書は、その点に、少しだけ踏み込んでみます。でも、専門書では読者がもっていると仮定されている数学的な知識も、できるだけ説明するようにします。ただし、専門書に比べるとどうしても少しざっくりとした説明になることをご容赦ください。

本書では、第1章で、リーマン予想と素数の結びつきについてのあらすじを説明します。数学的な詳しいことにあまり興味がない、あるいは理解する自信がないという人でも、この章は頑張って読んでみてください。その後の第2章から第5章は、数学的なことを少し踏み込んで知りたい人のために、第1章の説明のうち、ポイントとなる部分について説明していきます。とはいえ、あまり専門的にならないようにします。また、少し込み入った数式の操作が必要な事柄については、付録にまとめます。最後の第6章では、リーマン予想が生まれた後の研究の進展についてまとめます。

したがって、とにかく全体像を知りたいという人は、第1章に続けて第6章を読めば、十分だと思います。

リーマン予想が、いまだ解かれていないのは、究極まで考え抜かれた問題だったからなのです。このことは、この問題を考え出したリーマンが、大変に優れた数学者だったことを物語っています。実際、現代数学の基礎は、彼によって築かれたといっても過言ではありません。本書では、リーマンが現代の数学の基礎に広くかかわっていることもわかるように工夫してみました。

この本が、リーマン予想について、読者がこれまでより深く理解する助けになることを願っています。

平成27年8月 中村 亨

もくじ

はじめに

第1章 リーマン予想とは何だろう

1.1 素数の分布
素数とは
100以下の素数
素数はどこまでも増え続ける
双子素数予想
グリーン-タオの定理
素数の間隔はいくらでも大きくなる
素数の個数を表す関数π(x)
π(x)がわかることと全ての素数がわかることは同じ
π(x)の振る舞い−100まで
π(x)の振る舞い−1000まで
素数定理
リーマンの研究の目的

1.2 リーマンのゼータ関数 –
バーゼル問題とゼータ関数の出現
オイラー積表示
π(x)とゼータ関数
リーマンのプログラム
複素数の登場
リーマンと複素関数
リーマンのゼータ関数に関する研究
関数等式とリーマン予想
ゼータ関数のさらなる追求
リーマンのプログラムの完成

第2章 オイラー積とは

2.1 ゼータ関数
無限和の表し方
ディリクレの関数
nsとは何だろう
指数関数
自然対数
積の対数は、対数の和
自然対数の底
結局、nsとは

2.2 オイラー積
不思議な因数分解
約数となる素数が2だけの数の逆数を全部足す
約数となる素数が2か3だけの数の逆数を全部足す
オイラー積登場!
オイラー積の正しい説明

第3章 リーマンのゼータ関数とは

3.1 複素関数とは
複素数の四則演算
代数学の基本定理
複素平面

3.2 リーマンのゼータ関数
ゼータ関数の成分①:指数関数ez
ゼータ関数の成分②:Γ(S)
ゼータ関数の成分③:複素関数の積分
複素数の極形式と対数
複素関数の積分とは
コーシーの定理
複素微分とは
ゼータ関数は正則か
コーシー-リーマンの方程式
ゼータ関数は一つだ!

第4章 リーマン予想とは

4.1 リーマンのゼータ関数の極
ゼータ関数の特異点
(e2πis-1)=0となる時
正則関数のテイラー展開
零点での関数の形
Γ(s)=0となる時
複素関数のローラン展開
極での関数の形
留数と留数の定理
ここまでのまとめ
ゼータ関数の極はs=1だけ

4.2 ゼータ関数の零点
ゼータ関数の関数等式
ゼータ関数の零点
リーマン予想の誕生
臨界線とζ(s)の対称性
第4章のまとめ

第5章 リーマンの素数公式とは

5.1 ゼータ関数の積表示
グザイ関数ξ(s)を作る
ξ(s)の極
ξ(s)の零点
(5.2)式のからくり
多項式の積表示
オイラーの研究
ゼータ関数の非自明な零点の分布

5.2 素数公式
J(x)をζ(s)から計算する
対数積分Li(x)
後ろの2項は定数とみなせる
π(x)をJ(x)から計算する
π(x)の計算
リーマンの素数公式
その後

第6章 それから
素数定理のその後
零点の計算
鏡像の原理
近似計算
臨界線上の零点の存在
ジーゲルの発見
非自明な零点探索の加速
ゼータ関数の研究のその後

付録1 オイラー積とJ(x)
付録1.1 オイラー積からJ(x)の(付1.2)式を求める
付録1.2 関数J(x)とπ(x)
付録2 J(x)の方程式を解く
付録2.1 フーリエ変換とリーマン
付録2.2 リーマン積分
付録2.3 J(x)の方程式を解く
付録3 ゼータの特殊値
付録4 数式のまとめ

参考になる本
さくいん