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持続可能な都市・建築デザインについて学ぶ
本書は、スマートシティの中でも、都市や建築デザイン分野にスポットを当てて解説されています。本文中には図やグラフが多数挿入されていてわかりやすく、スマートシティ時代に重要となる持続可能な都市や建築デザインについて詳しく学びたい方におすすめです。
目次
スマートシティが目指すもの
まえがきに代えて
序章 スマートシティ時代のサステナブル都市・建築デザインへ
第1章 サステナブル建築デザインからスマートシティへ
1-1 環境からみた建築と建築論の歴史
1-2 環境問題と都市の関係の歴史
1-3 温暖化対策に関する国内外の動き
第2章 サステナブルな都市づくりにむけて
2-1 スマートシティの今日的課題
2-2 スマートシティの国内での展開
2-3 スマートシティのデザイン
2-4 情報革命とスマートシティ
2-5 座談:スマートシティ時代の都市計画・制度
第3章 エネルギーとスマートシティ
3-1 東日本大震災以降の地域とエネルギー
3-2 エネルギーの有効利用から見たスマートシティ
3-2-1 「環境」と「防災」を両立させるレジリエントな都市づくりへ
3-2-2 都市形態(Urban Morphology)とサステナビリィティとの関係性
3-2-3 CASBEE- 街区の概要紹介
3-2-4 建物がつながることによる低炭素化等の効果
3-2-5 欧州のスマートシティ調査から考える建築とスマートシティの関係
3-3 エネルギーの有効利用から見た具体的効果の事例
3-3-1 デマンドレスポンスとダイナミック・プライシング
3-3-2 地区防災拠点の事例
3-3-3 横浜市のスマートシティ実証事業の現状
3-3-4 北九州スマートコミュニティ創造事業
第4章 サステナブル建築デザインの技法
4-1 コンピュテーション――サステナブル建築とスマートシティをつなぐもの
4-2-1 熱環境解析
4-2-2 気流解析・換気回路網計算
4-2-3 光環境の計画技術の系譜
4-2-4 ヒートアイランド解析と対策技術
4-2-5 交通解析
4-2-6 都市のエネルギーの有効利用計画とデザイン
第5章 スマートシティ時代の建築の快適性を探る
5-1 スマートシティ時代の新しい建築の実例
5-2 空間とアクティビティのモード変化
5-3 内外が溶け合い、都市と連続する自由な働き方
5-4 環境のムラと開放性を併せ持つ一体空間
5-5 外部環境を変換し現象させる箱
付章 都市と建築をつくる職能の再構築
座談:都市と建築をつくる職能の再構築
個人が発信する都市コンセンサスへの期待感 あとがきに代えて
スマートシティが目指すもの
まえがきに代えて
建築家・神戸芸術工科大学教授 小玉祐一郎
暑い夏を迎える頃の季節には、節電が焦眉の課題として新聞をにぎわせる。原発の稼働が停止して以来、夏の電力消費のピークをなんとかやりくりするため、どのように消費を抑制するか、また、どのように供給を融通し合うか、産官学各界あげての取組みが要請されている。スマートシティ構想はその有力な切り札の一つとされる。
地球温暖化は、予想を超えて早く進行しつつある。先進国は現在の炭酸ガス排出量を2050年までには80%ほど削減しなければならないということが、世界の暗黙の共通認識になりつつある。原子力の活用で徐々にその目標を達成しようとしてきた日本は、3.11以後、根本的な見直しを求められている。そもそも日本のような地震国で原子力発電をするのは、所詮無理な話ではないのか。早いうちに脱原発を宣言して、再生エネルギー資源に移行する戦略を立てるべきではないのか…と筆者は思うのだが、その是非はともかくとして、そのように思う理由はもう一つある。これをきっかけにして、これほどまでにエネルギー依存を強めてきた「現代の都市や建築に代わる、新しい近未来のビジョンを考えてみたいと思うのだ。
20世紀はエネルギーの世紀と呼ばれるにふさわしかった。人類の歴史の上で、初めて大量のエネルギー供給が可能になった時代であり、世界のエネルギー消費が急激に増えた時代である。20世紀後半のその増え方は、ほぼ20年ごとに倍増する勢いであった。私たちの日常生活にも大きな影響を与えてきた。灯油やガスが急速に家庭にいきわたって暖房や給湯が普及し、家庭の契約電力量は倍増し続けて、あっという間に住宅は便利な家電製品で埋まってしまった。都市や建築も大きく変わった。エネルギーを用いて「問題をブレークスルーするという思考法が一般化し、その技術は著しく進歩した。暖冷房・照明・エレベータなどの新しい技術は建築を大きく変え、建築を束縛してきた地域や気候風土のしがらみから解放したように見える。
これは建築の歴史の上でも画期的なことであった。その典型的な例が超高層建築であろう。エネルギーの絶え間ない供給を得ることで、人間の居住空間を著しく拡大してきた。都市もまた、エネルギーの恩恵に浴してきた。ヨーロッパの国際会議などに出てみると、都市や地域のエネルギー画の歴史があり、研究も盛んに行われてきたことがわかる。一方、振り返って日本を見ると、意外にもこのような分野が小さい。日本の都市計画は最近まで、無制限のエネルギー供給を前提にして社会のニーズに応えてきたようにも見える。しかし、私たちはそのような多大な恩恵を享受する一方で、エネルギーがなければ何もできないエネルギー依存症、エネルギー中毒になってしまったようでもある。
深刻化する地球環境問題は、たとえ人類が無尽蔵の化石エネルギー源を発見したとしても、もはやこれ以上使うことができないことを示した。差し当たって思いつくことは、エネルギーの節約(省エネルギー)と再生可能エネルギーの開発(創エネルギー)である。原発を創エネの一つとして設定すれば問題は氷解するようにも思えたが、上述したように、これには疑問符がついている。再生エネルギーにもまだまだ多くを期待できない。とすれば、省エネこそが喫緊の課題である。では都市や建築の分野では、どのような省エネの方法がとられるべきなのか。
一つの有力な方法は、エネルギー機器・システムの「高効率化」である。住宅でいえば、暖房や給湯や照明の機器やシステムだ。それらの技術の進歩には目を瞠る。また情報技術を駆使して、居住者が常に運転状況を把握し、エネルギーの消費を最適に制御するマネージメントシステムも急速に普及している。いわゆる「見える化」である。システムの洗練、効率化は日本の技術のお家芸だが、さらに、効率化を住宅や建築の単体でバラバラに考えるだけでなくより広域的に行えば、エネルギーの消費、供給のさまざまなレベルで生じている無駄を省くことができる。近年、広域レベルで日本の技術の高さが顕著に示されるのは、エネルギー消費密度の極めて高い都心地域での地域冷暖房計画であるが、これもまた、「高効率化」に特化したわが国の技術開発の成果の良い例である。さらに広い地域や都市のスケールで総合的に、一体的に効率化の向上を考える、これがスマートシティの発想であろう。
効率化と異なる、省エネのもう一つの考え方は、20世紀に私たちに取りついたエネルギー中毒を克服し、根本からエネルギー依存を減らすことだ。さまざまな社会的制約や気候的制約から人類を解放し、どこにでも住める自由をもたらしたエネルギーの恩恵は疑いもない。しかし一方で、それゆえの制約や不自由もあると感じ始めてもいる。いくつかの例をあげてみよう。
私たちは、暖冷房や照明といった、人工的に環境をつくる室内気候制御技術への依存を強めるほどに、建物の内外の遮断を強めてきた。外の自然環境の変化を外乱ととらえ、その影響を最小限にする努力をしてきた結果、人間と自然の関係がいささかいびつになってきたようだ。とりわけ日本のような比較的温暖で四季の変化に富む地域では、太陽や風をある時は取り入れ、ある時は遮断するといった融通無碍な建物のつくりを特徴とし、自然の変化を楽しむのが伝統的な住宅のつくり方・住み方の作法だった。
これは不均質で変化のある快適さを理想とするが、均質で安定的な室内気候の形成を目標とする近代以降の人工環境制御技術とは相反する面を持つ。均質さ・安定さの追求が利便性を第一とするあまり、しばしば室内環境の退屈さ・平板さの原因となり、地域性や身体性を無視しがちであること、これは、人工環境技術の一面としてつとに指摘されてきたところだ。さらにまた、内外の隔離は、外部環境への居住者の無関心を招き、人々の社会への無関心をも招いてきたように見えるところもある。短絡的に過ぎるとの非難を恐れずにいえば、物理的な遮断が個と共の関係を弱め、社会的分断を助長してきたといえるのではないか。個人主義の台頭とコミュニティの衰退とが、人工環境技術の普及と軌を一にしているのは単なる歴史の偶然とは思われない。
困ったことに、エネルギーへの依存を深め、人工環境技術の効率化を進めるほどに、内外の遮断が強化される。その関係には、室内の環境を良くするほど外部の環境を汚染するというジレンマもつきまとう。効率の追求の結果、暖冷房の効率を上げるために、快適な季節にも窓も開けられないというのでは、どこか本末転倒のような気がするではないか。
エネルギーの世紀のあとの21世紀は環境の世紀と呼ばれることがある。エネルギーへの依存を深めた末の地球環境の危機であることを考えれば、エネルギーシステムの効率化を考えるのは必須である。一方、エネルギー中毒に陥った人類のライフスタイルがその根本にあると考えれば、20世紀的思考とライフスタイルの変換、言い換えて、20世紀的パラダイムのシフトが必要だとの思いに至る。しかし、パラダイムの変換はしばしば、「効率化」の発想と矛盾する。そもそも効率化とは、無駄をなくすことによって現状のパラダイムの隘路を打開しようとするものであり、その目的はパラダイムの維持・延命を図ることだといえるからだ。
スマートシティが、新しい環境の世紀のまちづくり・都市づくりを意図するものであるならば、以上に述べたような効率化がもたらすパラドックスを解消することも、その射程に入れておかねばならない。エネルギーシステムの効率化を図るとともにエネルギーへの依存を減らすライフスタイルを構築していかなければならない。室内環境を快適にすることと外部の自然環境を保全することの両立を考える必要がある。
われわれは明日どこに住むか。私たちのライフスタイルが問われている。近未来の都市や建築のビジョンが求められている。スマートシティはこのような時代の要請にどう応えるか。本書の資図はそこにこそある。
M.フレデリックの「101 Things I Learned in Architecture School(建築学校で学んだ101のこと)」の21番目には次のような文がある。
「建築家はすべてのことについていくばくかを知っている。技術家は一つのことについてすべてを知っている」
建築家と技術家の協同が重要だ。この本が改めてそのきっかけになることにも期待したい。