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会津若松市のスマートシティ化プロジェクト

震災からの復興をきっかけに、スマートシティ化へと取り組んできた会津若松のプロジェクトの一部始終を解説しています。日本で実際に行われた取り組みなので、他地域で行う際にも取り入れやすいポイントを学ぶことができる一冊です。

アクセンチュア=海老原 城一 (著), 中村彰二朗 (著)
出版社 : インプレス (2019/4/30)、出典:出版社HP

はじめに

「東北、特に福島は復興に長期間を要することが想定される。だからこそ、単なる復興支援ではなく、多くの雇用を生み出す新たな事業を福島で興してほしい!」

会津若松市で地域プロデュース事業を手がける会津食のルネッサンス(現・本田屋本店)の代表で、福島県代表として参加した本田勝之助氏が発したメッセージだ。2011年3月1日に発生した東日本大震災から約1カ月後の4月20日、被災地の復興支援策を協議するために開かれた復興会議でのことだった。当時、被災者の安全や衛生環境を確保するため、被災地では復旧作業が急ピッチで進められていた。社会的責任を果たすべく、日本中の名だたる企業が復興支援チームを組んで支援策を模索していた。

アクセンチュアも復興支援チームを立ち上げ、ボランティアに行ける者、義援金を出せる者を募るといった具合に、当初はできる範囲のことから支援を始めた。しかし、コンサルティング企業である私たちが考えるべき課題はもっと先にあった。ライフラインが復旧した後、家も仕事もなくした彼らの生活を立て直すにはどうしたらいいのか。その時に必要となる支援は何か。私たちは机上の空論を繰り返していた。これは私たちに限らず、他の企業や政府も同じだったと思う。

こんな状況を打破するため、動いたのは経済産業省だった。岩手・宮城・福島の3県から代表者を東京に招き、「被災地は今、何を求めているか」という生の声”を伝える会議を開いたのである。それが前述の復興会議だ。現地の声を聞こうと、会議には業界問わず数百人もの人が集まっていた。復興会議を主催した経済産業省の担当官が発した「ここに参加している皆さん一人ひとりが何を考え、どう行動に移すか?日本の将来は、皆さん個人と各企業の行動にかかっています」という言葉は、今でも心に残っている。

後日、アクセンチュア復興支援チームは本田氏をお招きし、被災地のメッセージを直接伝えてもらった。そして2011年6月8日、異例の速さで拠点開設を目的とした福島訪問が実現した。その日、本著者である海老原と中村を含むアクセンチュア復興支援メンバーの3人は、福島県南相馬市の現状視察から福島県を表敬訪問した後、会津若松市に向かった。

磐梯山の麓から会津若松市の盆地に下る坂道で、3人で見た光景は忘れることができない。これぞまさに「コンパクトシティ」だと感じた。会津若松市は盆地のため、周囲の山々から見下ろされている。磐越道の猪苗代IC(インターチェンジ)から会津若松ICに向かう長い下り坂を下っていくと、ひとかたまりになった街の中心地と山の裾に集落が点在しているのが見えてくる。中心の都市部と周辺の限界集落という風景は、まさに会津若松市をハブとして近隣自治体が連携している「コンパクトシティ」のイメージそのものだったのだ。人口も2万人と多くない。このとき、3人は皆、示し合わせたかのように全く同じ印象を抱いていた。会津若松市の復興改革デザインの青写真は、こうしてイメージされていった。

2011年7月5日、会津若松市と、会津大学、アクセンチュアが共同で、福島の復興に向けた産業振興・雇用創出の取り組みを開始するとプレスリリースを配信した。ここから、壮大なスマートシティプロジェクトがスタートしたのである。これらの経緯からもわかるとおり、このプロジェクトの始まりは、純粋な復興支援だった。しかし、私たちが会津若松市のスマートシティ化こそ地方創生につながると気づくまでに、それほどの時間はかからなかった。

実は、私たちがいち早く福島に復興支援チームの拠点を立ち上げられたのには理由がある。当時アクセンチュアは日本でビジネスを始めて3年を迎え、日本への恩返しとなるプロジェクトを計画していたのだ。そんな最中に東日本大震災が発生。その恩返しプロジェクトは急遽、社長直下の復興支援プロジェクトへと切り替えられることになった。

さて、私たちが活動してきた会津若松市の人口規模は「日本国民1億2000万人の1000分の1」である。会津若松市が取り組む実証実験や市民オプトイン型の現状は、規模こそ小さいが、スモールステップ、ジャイアントリープ(小さく始めて大きく育てる)、だ。

これが他の地方都市にも広がっていくことで、日本のスマートシティの進歩、政府が掲げる「クラウド・バイ・デフォルト(クラウドサービスの利用を第一候補として検討すること)」の実現につながると私たちは考えている。会津若松市で始めたことが今後、日本全国にじわじわと広がっていくはずだ。スマートシティは今後も進化し続けていくだろう。スマートシティに終わりはない。会津若松市でも、市民の参加率をもっともっと高めていかなければならないし、実証事業を行うためのインフラ整備もまだまだ改善の余地がある。継続していくために予算をどう捻出するかという課題もある。

私たちが会津若松市に拠点を構えて7年10カ月。復興の象徴として始めたスマートシティプロジェクトをスタートさせてから約8年が過ぎた。2019年4月9日には雇用創出の場としての「スマートシティAiCT(アイクト)」も完成し、第1ステージとして計画した内容は、ほぼ成し遂げたといっていいだろう。

本書では、2011年3月1日に起きた東日本大震災の復興支援から始まり、地方創生を成し遂げるためにデジタルをどう活用してきたか。地域の皆様の参加によってスマートシティプロジェクトをどう育ててきたか。そして、産官学民が集まれるスマートシティAiCTができたことで加速する第2ステージの計画や、その先に見えてくる日本の他地域におけるデジタル地方創生の展開についても触れていきたい。少子高齢化、労働力不足という課題先進国である日本において、デジタルを活用して地方創生を成し遂げることの重要性は言うまでもない。この8年にわたる会津プロジェクトの軌跡を明らかにすることが、日本の明るい未来を切り拓くスマートシティへの変革に携わる皆さまの一助になれば、これほど嬉しいことはない。会津プロジェクトに関わるすべての皆さまへの感謝を込めて、本書を贈りたい。

アクセンチュア=海老原 城一 (著), 中村彰二朗 (著)
出版社 : インプレス (2019/4/30)、出典:出版社HP

CONTENTS

はじめに
CHAPTER1
地方都市が抱える 課題の共通点とSmartCity
1-1 人に選ばれる街になるための地方創生
1-2 市民を巻き込むための「自分ゴト」化の仕掛け
1-3 デジタルに向けた会津若松市の資産と課題

CHAPTER2
SmartCity AIZUの実像
2-1 会津若松スマートシティ計画の構造
2-2 情報提供ポータル「会津若松+ (プラス)」
2-3 インバウンド戦略術としての「デジタルDMO(Destination Management Organization): DDMO」
2-4 予防医療へのシフト術となる
「IoTヘルスケアプラットフォームプロジェクト」
2-5 小さく始めて大きく育てる

CHAPTER3
SmartCity5.0が切り拓くデジタルガバメントへの道程
3-1 行政や企業の変革条件
3-2 都市のためのIoTプラットフォーム「都市OS」
3-3 デジタルシフトによる地方創生
3-4 デジタルシフトをやり抜くための四つの条件
3-5 スマートシティに不可欠なデジタル人材育成
3-6 地域の商品・サービスの価値を上げる施策

CHAPTER4
世界に見るSmartCityの潮流
4-1 「SmartCity」は環境問題やエネルギー産業の振興から誕生した
4-2 データ駆動型スマートシティの価値向上とマネタイズモデル
4-3 世界の「新規開発型」スマートシティと「レトロフィット型」スマートシティ
●新規開発型
藤沢サステイナブル・スマートタウン (神奈川県藤沢市)
Sidewalk Toronto (カナダ・トロント市)
●レトロフィット型
アムステルダム市 (オランダ)
スマートカラサタマ(フィンランド・ヘルシンキ市)
4-4 スマートシティの今後

CHAPTER5
[対談] 会津若松の創生に賭ける人々
5-1 会津若松市 観光商工部 企業立地課 白岩 志夫 課長と
AiYUMU 八ッ橋 善朗 氏
5-2 本田屋本店 代表取締役 本田 勝之助 氏
5-3 会津大学 岩瀬 次郎 理事
5-4_スマートシティ会津 竹田 秀 代表
5-5 アクセンチュア・イノベーションセンター福島
若きスタッフたち

おわりに

アクセンチュア=海老原 城一 (著), 中村彰二朗 (著)
出版社 : インプレス (2019/4/30)、出典:出版社HP