避難所に行かない防災の教科書

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自分と家族を守るための知識

2019年の台風15号/19号の被害の中で、実際に役に立った技術やツールの実践的な活用方法をわかりやすく解説しています。また、2020年には新型コロナウイルスの流行により、従来の「避難所に避難する」だけが正しい選択肢ではなくなってきています。そのための自宅の安全度を高める具体的な方法も紹介されています。

西野 弘章 (著)
出版社 : 扶桑社 (2020/8/30)、出典:出版社HP

まえがき……..「逃げなくてもいい防災」を考える

2019年9月8日深夜、東京湾を縦断した台風15号は、私たちが暮らす房総半島に甚大な被害をもたらしました。周囲の電柱はつぎつぎとなぎ倒され、ひと抱え以上もある太い樹木がエンピツのようにボキボキと折れる猛烈な風。自動車が横転するほどでしたから、もちろん建物も無事では済みません。近隣の家々では屋根やブロック塀などが吹き飛び、知人宅では隣の家から飛んできた屋根の瓦が窓ガラスを突き破り、寝室の枕元まで飛んできて命の危険を感じたそうです。

今回の台風では、最大瞬間風速8mの観測史上1位を記録。時速だと200km超、新幹線にも匹敵するスピードです。体感では、震度4ぐらいの地震が息もつかせぬように数十分、数時間も続くイメージといえば、そのリアルな恐怖を想像していただけるでしょうか。木造住宅の我が家は、かなり丈夫に造っていたつもりですが、家全体がひと晩中ミシミシ、ガタガタと大きく揺れ続け、そのうち木っ端みじんになるのではないかと一睡もできませんでした。

結局、この台風による住宅被害は千葉県内だけでも7万戸超。約2,000本の電柱が損壊し、5万戸が停電になりました。一部の地域では、1カ月以上停電が続いたところもあったようです。ところで、たとえば100年に一回レベルの超大型台風が接近しているとき、自分の家を離れて避難所に駆け込むことができるでしょうか。2018年の西日本豪雨では、特別警報の避難勧告が何度もアナウンスされていたにもかかわらず、実際に避難所に行った人は全体のわずか5%。2013年の京都の大雨特別警報で避難した人は1%だったそうです。

人は、なぜ逃げないのでしょう?一説によると、「正常性バイアス」という人間にとって都合の悪い情報は無視するという特性からきているもののようです。実際、今回の千葉県の台風でも、正直、私を含めて多くの人が「大丈夫でしょ?」と甘く考えていて、台風前に避難した人はいませんでした。その一方、私が暮らす地域では、避難所の収容能力が足りないという現実的な問題もありました。ましてや、都市部の人口過密エリアで避難者が殺到すれば、あっという間に避難所は定員オーバーになってしまうでしょう。2011年の東日本大震災では、10万人の方々が避難所で生活しました。そして、今後発生するといわれている南海トラフ地震では950万人もの避難者が想定されていて、避難所に入れる可能性は格段に低くなってしまうのです。

運よく避難所に入れても、停電が続いていれば冷暖房はなく、堅い床に直接寝なければならないこともあります。もちろん、プライバシーが守られる保証はありません。そうした過酷な環境からのストレスで体調不良になり、とくに高齢者はそれが原因で亡くなる方も少なくないそうです。さらに 2020年には、コロナ禍によって「三密」の典型である避難所へ行くこと自体がリスクになるという新たなハードルも考えなければならなくなりました。もちろん、東日本大震災の津波の例のように、いち早く避難したおかげで助かった命は多いですし、洪水や土砂崩れの 危険があるときも絶対に避難するべきです。それでも、災害 が通り過ぎた後は、住み慣れた自分の家に帰りたくなるのが人間の本能なのかもしれません……。

そこで、これからの防災の新常識として、現在まさにクローズアップされているのが、「逃げない防災=自宅避難」です。内閣府や人口の多い首都圏エリアの行政でも、前述の理由から自宅や職場などでの避難を推進する方向に舵を切り始めました。職場や学校などは行政の指導で災害時の対策も整えられつつありますので、さしあたっては自宅を災害に強い家にすることを目指してみませんか?強烈な台風や大地震などでも「逃げなくていい家」に。

私が考える逃げなくてもいい家とは、「立地、強度、断熱&調湿、日常対策、備蓄、ライフライン」を考慮した建物です。飲食料や生活用品の備蓄といった簡単なことから、家具の転倒防止、さらには建物の耐震化・耐風化、ライフラインの自給自足など、災害に備えて準備できることはたくさんあります。災害時には、正常性バイアスが想像以上の強さで人々 の行動を制限することが判明していますが、安心な避難所としての自宅を確保できていれば、これ以上心強いものはありません。まずは、自分たちの身の安全を守ること。こうした「自助」のスタイルの確立が、地域でお互いに助け合う「共助」につながっていくのです。
「もちろん、立地や状況によっては、すみやかな避難が大切なことは過去の災害からも明らかです。そうした逃げる避難のノウハウは、東京都が発行している冊子『東京防災』にくわしいので、ぜひ一読することをお勧めします。その一方、本書では「逃げなくてもいい防災」をテーマに、家族を必ず「守ってくれる家をDIYで実現する方法、停電や断水などとうまくつきあいながらストレスなく避難生活を送るためのノウハウをご紹介したいと思います。

2020年8月 西野弘章

目次

逃げない防災2週間の体験
被災体験で学んだ知恵のいろいろ
まえがき

第1章 DIYで災害に強い家にする
災害時でも「逃げなくていい家」の6つの条件とは?
ハザードマップで、自宅の「危険度」をチェックする
DIYで手軽にできる自宅の「台風・大雨対策」
DIYで手軽にできる自宅の「地震対策」
DIYで自宅の「調熱&調湿性能」を高める
DIYで自宅の「断熱性能」を高める
DIYで自宅の「耐震性能」を高める
DIYで自宅の「耐風性能」を高める
◆COLUMN◆ 私が「防災住宅」にこだわる理由

第2章 災害で役立つライフラインの自給自足
防災用に絶対に備えたい「非常用電源」とは?
「モバイルバッテリー」は大容量タイプがお勧め
「エンジン発電機」を安全、かつ賢く使う方法
3万円で「ベランダ発電所」を実現する方法
役立つ防災アイテム「ポータブル電源」の賢い選び方
停電時に「自動車」を非常用電源にする方法
「太陽熱温水器」が再脚光を浴びている理由とは?
究極の料理器具「ロケットストーブ」を作る
「トイレパニック」を乗り切るためのアイディア
断水時に役立つ「雨水利用」の仕組み
◆COLUMN◆ 災害時の「SNS」の威力に驚愕した日々

第3章 体験してわかった「備蓄」のノウハウ
体験したからわかる「食料の備蓄」の本音とは?
「生活用品」の備蓄は、使い慣れたものでOK!
あると便利な補修アイテムとDIYツール
「小さな子供」や「高齢者」に必要な備蓄を考える
「ペット」の自宅避難のための対策と備蓄
◆COLUMN◆ 災害時の「保険」を考える

第4章 災害後の2週間を生き延びる技術
災害発生! まずは生き延びることを最優先に
初期行動で頼りになる被災時の「情報収集」
非常用電源で自宅内の「ライフライン」を稼働させる
「暑さ・寒さ対策」が自宅避難の最大のポイント
停電が3日続いたら「断水」に備えよう!
一時避難を「車中泊」で乗り切る方法
避難生活でもおいしく食べたい「防災クッキング」
自宅を DIYで応急修理する① 雨漏り対策
自宅をDIYで応急修理する② 壁や窓、浸水対処

西野 弘章 (著)
出版社 : 扶桑社 (2020/8/30)、出典:出版社HP