デジタル時代の人材マネジメント: 組織の構築から人材の選抜・評価・処遇まで

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withコロナを生き抜く人事戦略

本書は、人材マネジメントの中でも、デジタルに関するものに焦点を当てています。新型コロナウイルスの影響で大幅に進んだデジタル化に伴い、人材マネジメントのあり方も日々変化しています。本書ではデジタル時代の人材マネジメントを正確に捉え、時代に合った戦略を提唱しています。

内藤 琢磨 (著, 編集)
出版社 : 東洋経済新報社 (2020/7/17)、出典:出版社HP

デジタル時代の人材マネジメント:組織の構築から人材の選抜・評価・処遇まで

目次

序章 デジタル時代に適応できない日本の人事制度
第1章 デジタル化の現状
1 まだ成果が出ないデジタルトランスフォーメーション
2 デジタル化で実現したいこと
■デジタル化による顧客への価値提供
■デジタル化による業務プロセス改革
3 改革を阻む組織とヒト

第2章 デジタル人材処遇の勘所
1 デジタル人材をめぐる問題意識
■デジタル人材とは
ビジネス系デジタル人材
IT 系デジタル人材
■デジタル人材の特性考察
デジタル人材の全体傾向
ポジションや立場によって異なるワークモチベーション
デジタル人材が共感する経営理念、ビジョン
所属組織による格差
ビジネス系デジタル人材は上位概念重視
他国 IT 職種人材との比較
■現場の管理職が意識すべきこと
2 日本型人事制度とデジタル人材
■人事制度の大別
職能型人事制度(純日本型人材マネジメント)
職務型人事制度(欧米型人材マネジメント)
役割型人事制度(新日本型人材マネジメント)
■既に機能不全化している純日本型人材マネジメントモデル
■デジタル化とリーダー人材
3 経営者のリーダーシップでコンフリクトを乗り越える

第3章 デジタルトランスフォーメーションを 実現する組織・人材戦略
1 デジタルトランスフォーメーションに必要な人材とは
デジタル人材(IT系・ビジネス系)の獲得
必要なのはデジタル人材の獲得だけではない
デジタルトランスフォーメーションを実現する
組織・人材戦略の3つのポイント
2 デジタルとビジネスを繋げるブリッジパーソンの獲得
デジタル時代に求められるミドルリーダー像
Tech ベンチャーへの「留職」制度を持つパナソニック
デザインシンキングの活用によるブリッジパーソンの育成
全社員がデザインシンキングを身に付けることを目指す
SAPI デザインシンキングの「実践」により自社の変革を目指す
コニカミノルタ
ブリッジパーソンを招聘するダイキン
3 秩序破壊のできる経営人材.
外部人材の招聘による秩序破壊
サイバーエージェントの経営人材育成方法
リスクテイクできる経営人材の育成
デジタル人材とビジネス人材の共存組織
技術人事本部による横串機能
「あした会議」による事業部発信の人材育成施策
4 デジタルトランスフォーメーションの下地づくり
ダイキンの全社員向け AI 教育制度
パナソニックの AI 人材育成プログラム

第4章 デジタルトランスフォーメーションを 支える処遇制度
1 外部市場価値を意識した報酬制度
部長クラスと同額水準で処遇できるか
社内序列を崩したトヨタの幹部職制度
外部市場価値連動型の人材を獲得できる仕組みが必要
外部市場価値に基づいた職種別の報酬
非IT 企業における職種別の報酬水準設定のハードル
仕事に給与を払うことで外部市場価値に連動させる
2「既存の人材」と共存するためのアプローチ
1有期雇用形態の活用
大日本印刷のケース
戦略子会社A社・B社のケース
〈無期転換ルールへの対応〉
〈有期雇用形態の不安をどう解消するか〉
2職務給と能力給のハイブリッド型の報酬制度
YKK グループのケース
3「出島組織」における外部市場価値連動型の報酬制度
戦略子会社C社のケース
コラム 給与体系の抜本的変革が難しい場合
3 デジタル化のステージに合わせた外部市場価値連動型への移行
事業の状況や得たい成果に応じてアプローチは変わる
職務の総量をモニタリングする仕組み
4 デジタル時代の評価制度の潮流
デジタル時代に固有の「評価の目的」は存在するか
デジタル時代の事業運営のトレンド
1評価の短サイクル化
2テレワーク下における評価
3現場への権限委譲
4外部市場を意識した評価
5多面的なフィードバック

第5章 デジタル時代の人材戦略を実現に導く6ステップ
トランスフォーメーションができるかどうか
デジタル化に向けた人材戦略は改定ではなく変革
変革を実現するための6ステップ
ステップ1 トップが人材戦略に対して自身の想いを持ち、コミットメントを明確にする
デジタル化による事業変革に応じた人材戦略の策定が必要
人事委員会の運用高度化
ステップ2 役員層の視点を全体最適視点へ転換する
デジタル化は組織のサイロ化を加速し、個別最適視点を強める
儀礼的な会話から生成的な対話への転換(個別最適から全体最適視点へ)
ステップ3 役員層でありたい姿を描く
ギャップアプローチからポジティブアプローチへの転換
コラム デジタル化を自分事として捉え、デジタルマインドを持つために
ステップ4 役員と CHRO が現場管理職を共鳴型で巻き込む
現場管理職をどう巻き込むか(職務給への転換のケース)
策定一浸透モデルから共鳴モデルへの転換
ステップ5 現場管理職による双方向のマネジメントへの転換
1on1 を活用した双方向マネジメント
情報通信企業A社の役員起点の1on1 浸透・導入のケース
ステップ6 人事部門がHRテクノロジーを活用して
社員エンゲージメントをモニタリングする
エンゲージメントサーベイやパルスサーベイの活用
デジタル化に向けた人材戦略を実現するために
あとがきに代えて
デジタル化と同一労働同一賃金 会社組織と社員の定義が変わる?!
謝辞(お世話になった皆様へ)

内藤 琢磨 (著, 編集)
出版社 : 東洋経済新報社 (2020/7/17)、出典:出版社HP

序章 デジタル時代に適応できない日本の人事制度

2020年4月、新型コロナウイルス感染対策として非常事態宣言が発出されると多くの企業では可能な限り、社員をテレワークとする勤務体系に移行 した。
ZOOM や Skype、Teams といったアプリ・ツールを活用した働き方の変 革が一気に加速するだけなく、デジタルを活用し対面接触を極小化する新た なビジネスモデルも次々と生まれている。
そして with コロナの時代に一層加速するデジタル化に伴い、「デジタル 人材」というキーワードも毎日当たり前のように目にするようになってきている。
データサイエンティストや AIエンジニアの獲得に向けて、伝統的な国内 大手企業が一般社員とは別枠で高額報酬を提示したり、社内の人材に AIス キルを習得させたりするための教育体系を再整備する動きが加速している。 こうした動向は従前からの IT 人材不足問題とはその切迫度、危機感の強さ においてまったく異次元の対応に見える。

デジタル化はビジネスモデルの破壊的な変化をもたらすだけではなく、従 来の仕事のやり方(業務プロセス)にも劇的な変化を迫る。デジタルトラン スフォーメーションと呼ばれるこうした進化を実現するためには、高度なデ ジタルスキルを有するデータサイエンティストや AIエンジニアだけではなく、デジタル化による変化を主導するリーダー人材の確保が不可欠である。 そういった人材を確保すべく、日本企業はこれまでの育成体系やキャリアパ スを見直さなくてはならなくなってきた。 「こうした変化は長期雇用を前提とした新卒一括採用、職能(職務遂行能 力)をベースとした長期決済型の賃金システム、あるいは相対的に遅めの経 営人材選抜といった日本型人材マネジメントモデルに大きな変化を迫ること をも意味する。
過去、日本企業は経営・事業のグローバル化や低成長経済下における事業 構造改革の各局面において、抜本的な人材マネジメントモデル変革を先送り してきた。その結果、IT やデジタルに限らず優秀人材の獲得・リテンションについては、グローバル IT プラットフォーマーや魅力的な仕事を提供する国内スタートアップ企業に対しても大きく劣後する結果となってしまった。

本書は、デジタル時代を迎え、日本企業が立ち向かうべき、人事・人材マ ネジメントの変革を先進企業の取り組み事例を交えながら紹介をしていく。 日本型人材マネジメントモデルを維持してきた日本企業が、今後デジタル化 を進める上でどのように人事・人材マネジメントモデル変革を進めていくの かを、コンサルティングの経験も交えて示していきたい。
デジタル化に向けた人事・人材マネジメント変革がいまだに大きなムーブ メントとならない真因には、「日本の経営者自身にデジタルの本質に対する 理解や経験が欠如していること」「デジタルでビジネスモデルを描くリー ダー人材の不足」、そして「デジタル化によるビジネスモデル変革や業務プ ロセス変革に対する現場・組織の抵抗」等があげられる。本書では、デジタ ル人材の獲得やその処遇方法といった人材育成体系、人事処遇制度の考え方 や紹介にとどまらず、デジタルトランスフォーメーションに向けた組織変革 やそのステップについても言及していく。

第1章ではデジタル化の現状を、人材視点から総括したい。デジタル化に 対する多くの企業の取組みはPoC1にとどまり、まだ成果に繋がっていない と言えるが、組織・人材問題からその原因を整理する。 第2章ではデジタル人材処遇の勘所を取り上げる。株式会社野村総合研究 所(以下、NRI)では今般、ワークモチベーション調査を実施し、デジタル 人材のモチベーション要因や思考特性を考察した。高額の報酬が新聞紙上を 賑わすデジタル人材だが、そもそもどのような役割・ミッションを負う人材 なのか、旧来的なIT 人材との違いは何かを当該調査を基に整理した上で、 その処遇や育成・獲得方法と日本型人材マネジメントモデルとの親和性を述べていく。
第3章ではデジタル時代の人材育成や人材獲得のあり方を述べる。AII ンジニアやデータエンジニアの獲得だけではデジタルトランスフォーメー ションは実現できない。デジタルで経営のかじ取りができる「経営人材」、 デジタルテクノロジーとビジネスを繋ぎ、新たなビジネスモデルの創出や業 務プロセスの抜本的改革をリードする「ブリッジ人材」、そして AIやビッ グデータを操ることのできる人材を幅広く確保するための「デジタルビジネ スの下地づくり」のすべてがこれからの企業には必要である。どのようにしてそうした人材を獲得するのかを、先進・萌芽事例を交えて紹介していく。

第4章では処遇制度のあり方について述べていく。デジタル人材の処遇方 法は多くの企業において最も頭を悩ませる問題である。なぜならばそれがデ ジタルビジネスに直接的に従事していない非デジタル人材や従来からの IT 部門に所属する IT 人材の処遇との公平性やバランスの問題に直結するから である。こうした解くことが困難な問題に対して、我々は「外部市場価値連 動型」職務給制度の導入をそのアプローチとして提案していく。また雇用形 態も従来の無期雇用契約型だけではなく、有期雇用契約型や業務委託形態も 含めて様々な枠組みについて実例を交えて紹介していく。

そして第5章ではデジタル化に向けた人事・人材マネジメントの変革を会 社全体にどのように働きかけ、実行し、組織の隅々にまで浸透させていくか について、「組織開発」の観点から整理していく。まずは経営トップ自らが この改革に対して想いを持ち、役員全員を改革に向けてチームアップしていくことが求められる。そうした一連のステップには「組織開発」のアプロー チが有用であると考える。デジタル化に向けた人材育成体系や処遇制度の仕 組みができても、その思想面も含めて組織に適切に浸透させていかなければ この改革は過去の日本企業の失敗を繰り返すだけとなる。 20~30年間その会社でキャリアを重ねないと一人前と見なされない、と いったような日本型マネジメントモデルはあらゆる業種・業界におけるグローバル競争において苦戦を強いられている日本企業の状況と無縁ではない。
逆に言えば、デジタル時代の到来はこれまで日本企業が何度も挑戦し跳ね 返されて来た日本型人材マネジメントモデル変革の絶好の機会となる。今こそ、人事・人材問題を先送りした過去の経営からは決別すべきである。

1 PoC:Proof of Concept 新しい概念や理論、原理、アイデアの実証を目的とした、試作開発の前 段階における検証

第1章
デジタル化の現状

内藤 琢磨 (著, 編集)
出版社 : 東洋経済新報社 (2020/7/17)、出典:出版社HP