会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方

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楽しく決算書を読む

財務諸表の勉強で無機質な数字の羅列を見るだけでは、会計初心者にとって理解することが難しいです。本書では、実在の企業の決算書を使い、図解を入れながら解説することで、具体的なイメージを持ちやすくなっています。また、クイズに答えながら読み進めることで、自然と決算書の基本を身につけることができます。

大手町のランダムウォーカー (著), わかる (イラスト)
出版社 : KADOKAWA (2020/3/28)、出典:出版社HP

はじめに−−決算書の魅力とは、「実利」と「謎解きの面白さ」である

“企業のイメージ”と“損益計算書”の中身はイコールじゃない!

はじめまして。大手町のランダムウォーカーと申します。
僕は普段、「日本人全員が財務諸表を読める世界を創る」を合言葉に、Twitter上で本書のサブタイトルでもある「会計クイズ」という全員参加型のイベントを行っています。
ご好評をいただき、今では毎週3万人ものフォロワーの方に参加していただいています。
この本を手に取ってくださったあなたは、普段「会計」や「決算書」に縁のある方でしょうか。それとも、全くない方でしょうか。少なくとも、本書を読まれている今、「決算書の読み方」に興味をお持ちということは、間違いないと思います。
決算書は「一般に広く公開されているもの」ですから、どんな立場の人でも無料で読めるものです。ただ、専門用語や数字の羅列が続くため、前提知識なしには、なかなか読み解くことは難しいものでもありますね。

そもそも決算書って、誰が読んでいるんですか?

確かに、最初は「あの紙って誰が読んでいるの?」と不思議に思いますよね。ごく一部ではありますが、例として挙げるならば、こんな方々が読んでいます。

・投資家
企業の決算書に目を通して、「これから伸びる会社か・沈む会社か」などを判断し、投資の判断材料にしています。
・銀行員
企業への融資(お金を貸すこと)に際して、「この企業にお金を貸して大丈夫か」などの判断材料にしています。
・企業の経営企画ポジション、大企業の本部長クラスなど
企業のお金の出入りを管理する経理や、事業計画を作成するための発射台となる実績を把握したり、企業買収における買取価格の価値算定をしたりする経営企画ポジションの方。また、企業のトップに今後の事業提案をする立場の本部長クラスの方も、決算書を読む能力が必要です。また、課長などの中間管理職になっていきなり「PL分析をしろ」と言われて、ほとほと困っているという方もいらっしゃるでしょう。

・就活生
優秀な就活生は、決算書やIR情報などを用いて「今後伸びる企業か」「どのような事業展開を見据えているか」などを分析し、志望する企業の判断材料としています。また、企業分析から得られた情報を志望動機などに盛り込むことで、エントリーシートや面接などで、志望度合いの説得力を深めています。

こういった方々をはじめ、企業の経済活動には直接的・間接的にもいろいろな方が関わっていて、様々な利害関係があります。この利害関係者をステークホルダーというのですが、決算書はこういったステークホルダーのために公開されているのです。

なぜ決算書は「難しい」と感じるか

しかし、先にも述べた通り、決算書は何も知らないまま読み込もうとすると、結構難しくて挫折しやすいものでもあります。「入門書を何冊も買って読んでしまう」「何回読んでも、なんとなくしかわからない」という声をよく聞きます。
これはなぜかというと、一番の理由は「読んでも、自分ごととして理解できないから」ということです。会計の入門書の多くは、「よりかんたんに、わかりやすく」するために、架空の企業の財務諸表をもとに勉強できるようになっています。
ただ、サンプルの決算書例を見て数字を追うだけでは、顔のない人の名前を覚えるようなもので、理屈の理解はできても記憶に定着しませんし、本心から納得するのは難しいでしょう。
また、サンプルの例だけを見ていては、当然ですが企業の戦略をひもとく能力は身につきません。

つまり、最短で決算書を読む力をつけるためには、実在する企業の決算書を読むのが一番手っ取り早いのです(ここでいう「読む」とは、会計的な分析の話ではなく、ビジネスパーソンが販売戦略を分析したり、その分析をもとに、具体的な新規の打ち手までイメージできる能力のことを指します)。もちろん、利益率や負債比率などの会計的分析は有用ですが、これらの数値を計算できるようになることは、単なる「把握」のステップに過ぎません。決算書を読む目的は、企業を分析し、分析をもとに具体的な打ち手を考えることにあるはずです。
決算書に挑む際に、それが知っている企業や興味のある企業であれば、おのずと推測しやすく、興味も持ててなおよいでしょう。

ただ、前提知識がない状態のまま一人で決算書に突撃しても、謎の数字の羅列という壁の前で撃沈するのみであることは、すでに皆さんがお察しの通りです。
そのため、本書では筆者である私と一緒に、また、Chapter1以降では個性豊かなキャラクターたちと一緒に、「実際の企業の決算書を様々な視点で読み解きながら、決算書のキホンのキが自然と身につく」ような仕掛けをほどこしました。
その仕掛けを、ここで少しだけお見せしましょう。

「ドトール」と「ルノアール」のコーヒーの値段の違い、あなたは説明できますか?

会計は英語・ITと並ぶ「ビジネス三種の神器」ともいわれますが、それは会計が日常生活に役立ち、どんなビジネスを行う上でも必要不可欠な数字を活用できるスキルであるからです。特に、このビジネス上必要な数字を活用するという部分については、決算書を読むというスキルでほぼ全て得ることができます。
しかし、決算書を読めることの最大の魅力は、読むスキルを身につけた際のメリットが大きいという「実利」の面と、企業の隠された戦略を読み解けたときの面白さがあるという「謎解き」の面の両輪を兼ね備えているところにあります。

会計が謎解きって、一体どういうことですか?

ということで、ここで1つ問題を出したいと思います。
老若男女問わず、誰もが一度はカフェを利用したことがあるでしょう。皆さんはそんなカフェで、「同じコーヒーという商品を売っているのに、なぜ値段がこんなにも違うのだろう?」と、疑問を抱いたことはないでしょうか。
ご存知の方も多いでしょうが、こうした値段の違いは企業それぞれの販売戦略によって生じます。

企業経営においては、「持続的に利益をあげる」ということが必要不可欠です。ただ、利益をあげるためには販売戦略を入念に練る必要があります。そして、販売戦略を考えるためには、他社が過去に行った販売戦略の効果を分析して、より効果的な戦略を練っていかなければなりません。
しかし、企業の販売戦略は公表されることは少なく、もしもあなたが「とある企業の販売戦略を分析したい」と思った場合、分析は自らのカで行う必要があるのです。
ものは試しに、「カフェのコーヒーの値段の違い」をテーマにして、ドトールとルノアールの販売戦略がどのようなものか、考えてみましょう。

今回の登場企業
●ドトール・日レスHD
ドトール・日レスHDの事業会社が日本で展開するセルフ式のコーヒーショップチェーン「ドトールコーヒー」で有名。ドトールの店舗数は2019年12月現在でフランチャイズが918店、直営が188店と日本国内での店舗数は業界最多。
●銀座ルノアール
銀座ルノアールが展開する主要喫茶店チェーンが「喫茶室ルノアール」。東京・神奈川を中心に展開しており、大正ロマンをテーマとした内装に、ビジネスユースや語らいの場といったニーズに応えるゆったりした空間を提供する。

ドトールのコーヒーは220円~320円前後、ルノアールのコーヒーは530円~650円前後で販売されています(2019年12月現在)。この約2.6倍の価格差は、どのようにして生まれていると思いますか?

●Price:コーヒー1杯の値段

決算書は分析のエビデンスとなる

「商品の材料」や「店舗の立地」など、考えるための材料はたくさんありますが、実際に「どのようなものが、その価格に大きく影響しているのか」?それは、机上で想像することはできても、根拠がなければ断定まではできませんよね。
こうした影響の大きさを測るためには、数字などの定量的なデータを分析することが必要不可欠です。

そしてお気づきの通り、企業の数字に関する情報が詰まっているのが「決算書」です。
決算書は、「企業が今持っている資産や負債の状況」「1年間の売上や費用に関する情報」などをまとめたものです(詳しくは後述します)。これを読み解けるようになれば、先ほどのような「疑問」を分析するためのエビデンスが得られるのです。

参考までに、まずはドトールとルノアールの決算書を見てみましょう。
いきなり「はい、読んでくださいね」ということではなく、ざっとどのような項目があるのかを流し見していただければ結構です。

ドトールとルノアールの値段に違いが生じる原因とは?

さて、問題に戻りましょう。なぜこの二者のコーヒーには、値段の違いが生じるのでしょうか。

そもそも、ドトールとルノアールでは、注文方法や店内の設計が大きく異なります。
ドトールでは、お店に入ってすぐのカウンターでコーヒーを注文し、会計を済ませた後にコーヒーを受け取って席に着きます。
一方のルノアールでは、お店に入ったらまずは席に着き、席で店員さんにコーヒーを注文し、最後に伝票を持って、レジで会計を済ませます。

●Place:どうやって届けるか?

また、ドトールは席に背もたれがないイスを採用するなど、テーブルのスペースが小さめに設計されていますが、ルノアールは高級感のあるイスを採用し、テーブルのスペースが広めに設計されています。

●Product:何を売っているか?

このように、同じカフェでも様々なものが異なります。ここから読み取れることは、「ドトールは顧客の長期滞在を前提とせず、たくさんの顧客に商品を購入してもらうという戦略なんだな」ということです。これを、一般に「回転率が高い」と表現します。

一方で、「ルノアールは顧客の長期滞在を前提としていて、顧客に快適な空間を提供するかわりに、その代金も商品の中に組み込むという戦略なんだな」と読み取れます。

そしてこのような差は、しっかりと決算書にも反映されています。ルノアールのように店内の空間や設備にお金をかけると、もちろんそのぶんは大きくコストがかかります。ですが、スペシャリティコーヒーなどを除けば、こういったチェーンのカフェにおけるコーヒーの原価はお店によってそれほど異なるわけではありませんので、1つのコーヒーあたりの単価が高いルノアールの方が、原価率は大きく下がります。
言い換えると、ドトールとルノアールでコーヒーの原価が同じ場合、1つのコーヒーあたりの単価が大きい方が、商品に占める原価の割合が小さくなるということです。

実際に次図の損益計算書(P/L)を見てみると、ドトールの原価率が39%なのに対し、ルノアールの原価率は12%しかありません。原価率の違いは、単価によって生じているもので、単価はそれぞれがどこまでのサービスを顧客に提供するか等の販売戦略によって異なるということがわかります。

実際に分析の裏付けとして決算書という数字の根拠があることで、筋の通った分析ができるようになるんですね。

ちなみに、ドトールとルノアールの価格差は他にも原因があるのですが、それは本書の後半でしっかりと解説していきますので、楽しみにしながら読み進めてみてください。

「原価率」って?
原価率(%)=売上原価÷売上高×100%
売り上げた商品に対して、どれほどの原価がかかったのかを図る指標。どのような業種にも使われる重要な指標。

決算書は、難しくない!

さて、先ほどの例で、皆さんはもう決算書の一部を読めるようになりました。
決算書分析の中でも特に重要な売上高と売上原価、そしてその関係性についてが、なんとなくでも頭で理解できたと思います。

このように、事例を通じて決算書を見ていくことで、どんどん決算書の内容が理解できるようになるのです。
ただの数字や専門用語の羅列にしか過ぎなかった決算書が、事例というフィルターを通すと、たちまち身近なものになります。

また、決算書からは、普段は見ることのできないその企業のビジネスの全貌はもちろんのこと、その企業の強みや弱み、販売戦略さえも読み取ることができるのです。

仕事上、競合企業や特定の企業を分析したり、自社を分析したりする必要のある人は、たくさんいます。それは、決算書にそれだけ重要な情報が詰まっているからです。

しかし、こうした分析を初めてする人のほとんどが、どのように分析すればよいのかわからず、苦しんでいるというのが現状です。
これから本書では、皆さんが「とにかく楽しく決算書を読めるようになる」ことを主眼にご説明していきます。

読むだけで「決算書のキモ」を理解し、何よりも、「決算書をビジネスの視点で読み解けるようになる気持ちよさを味わえる」ことを目標としました。
「利益率」「流動比率」のような指標の意味とその算出方法を知っているだけでは、残念ながら財務諸表を読めるようにはならないからです。

決算書を読むということは、数字に目を通すだけではなく、決算書から企業の戦略まで読み解くことを目指すべきです。そして、その目的のもとでは、生きた財務諸表を使って、実際の戦略と決算書の数値を併せて見ていく必要があります。
本書の提案する「世界一楽しい決算書の読み方」で、会計に興味を持ち、決算書を読む楽しさに気づいていただくことができたなら、著者として、これ以上にうれしいことはありません。
キャラたちの会話を読み、一緒にクイズに答えながら、決算書を最速でマスターしていきましょう!

2020年3月
大手町のランダムウォーカー

大手町のランダムウォーカー (著), わかる (イラスト)
出版社 : KADOKAWA (2020/3/28)、出典:出版社HP

CONTENTS

はじめに ―決算書の魅力とは、「実利」と「謎解きの面白さ」である
登場人物紹介

Chapter0 introduction:決算書の全体像って?
Theme1 決算書って何のためにあるの?

Chapter 1 貸借対照表(B/S)ってどんなもの?
Theme0 貸借対照表って何だろう
Theme1 【中古販売】中古販売の貸借対照表を見抜け
(メルカリ/ブックオフグループHD)
Theme2 【小売】 小売3社のビジネスモデルの違いを見抜け
(ニトリHD/ファーストリテイリング/良品計画)
Theme3 【銀行】銀行3社のビジネスモデルの違いを見抜け
(三菱UFJ銀行/スルガ銀行/セブン銀行)
Theme4 【自動車関連】自動車のビジネスモデルの違いを見抜け
(日産自動車/パーク24/ウーバー・テクノロジーズ)
Column1 決算書からその企業の給与もわかる?

Chapter2 損益計算書(P/L)ってどんなもの?
Them0 損益計算書って何だろう
Theme1 【小売】原価率の数字マジックに騙されるな
(ブックオフグループHD/セブン-イレブン・ジャパン/キャンドゥ)
Theme2 【飲食(喫茶店)】 P/Lから企業の販売先を特定できる?
(ドトール・日レスHD/銀座ルノアール/コメダHD)
Theme3 【小売】企業の成長ドライバーを見抜け
(パン・パシフィック・インターナショナルHD/コストコ)
Theme4 【アパレル】 利益率はどこで変わるか
(ファーストリテイリング/インディテックス/しまむら)
Column2 Twitterで毎週発信される会計クイズに参加しよう
Column3 前澤さんはなぜお年玉を配れるのか

Chapter3 キャッシュ・フロー計算書(C/S)ってどんなもの?
Theme0 キャッシュ・フロー計算書って何だろう
Theme1 【IT】 P/Lが赤字なのにC/Sが黒字になる?
(Sansan/スペースマーケット)
Theme2 【IT】 投資C/Fのカラクリを見抜け(ヤフー/LINE)
Column4 会計クイズのInstagramを辞書として使おう

Chapter4 B/S+P/Lの複合問題に挑め!
Theme0 B/SとP/Lはつながっている
Theme1 【鉄道】複数事業を展開する企業の稼ぎ頭は?(東急グループ)
Theme2 【小売】多角化のビジネスモデルを見抜け
Theme3 【EC】 B/SとP/Lの大きさを比較せよ(楽天/アマゾン)
Column5 ドン・キホーテが24時間営業する理由
Column6 会計クイズのコミュニティに参加してみる
Column7 日常で見かけるコーヒーの微妙な違い
Column8 会計クイズを作ってみよう

おわりに ―会計クイズを支えてくださる方々、これから参加してくださる方々への御礼とともに
Special Thanks

大手町のランダムウォーカー (著), わかる (イラスト)
出版社 : KADOKAWA (2020/3/28)、出典:出版社HP