ドローン・ビジネスの衝撃 小型無人飛行機が切り開く新たなマーケット

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ドローンは社会をどう変えるのか

本書は、小型の無人飛行機であるドローンがどのようにビジネスで活用されるのか、またドローンによって私たちの社会がどのように変化するのかについてまとめています。2015年に出版された本であるため、最新の動向というよりは、その当時の動向を振り返る材料として、もしくは、ドローンのポテンシャルを見つめ直すためのきっかけとなる本だと言えます。

CONTENTS

はじめに

第1章 なぜいま「ドローン」か
「ドローン」は何を指すのか
なぜ注目されるのか
ドローンとはどのような機械か
どのくらいの市場があるのか
これからどう進化するのか

ドローン業界のキーパーソンに聞く
ドローンの周辺ビジネスは、今後さまざまなシーンで伸びてくる
——東京大学大学院教授・鈴木真二

第2章 多様化するドローン活用
盛況を見せた「第1回国際ドローン展」
ドローンの特性
ドローンの用途①「飛ぶ」
ドローンの用途②写す
ドローンの用途③運ぶ
ドローンの用途④守る
思いがけない用途が生まれる

ドローン業界のキーパーソンに聞く
「ドローンは落ちるもの」という前提で行動した方が良い
——株式会社BIRDMAN・コバヤシタケル

第3章 システムに組み込まれるドローン
システムの力
ドローンと配送システム
ドローンと建設システム
ドローンと警備システム
ドローンと資産管理システム

ドローン業界のキーパーソンに聞く
目的を明確にして、開発に取り組む
——セコム株式会社・安田稔

第4章 ドローン・ビジネスのバリューチェーン
ネット通販を支えるもの
ドローンのバリューチェーン①企画
ドローンのバリューチェーン②準備
ドローンのバリューチェーン③運用
ドローンのバリューチェーン④保守・点検
ドローンのバリューチェーン⑤後工程
ドローンサービスプロバイダーという発想

ドローン業界のキーパーソンに聞く
既存ビジネスの可能性を広げる、ツールとしてのドローン
——MIKAWAYA2株式会社・鯉渕美穂

第5章 ドローンと規制
赤旗法の過ち
ドローンの課題①飛行
ドローンの課題②操縦者
ドローンの課題③機体の安全性
ドローンの課題④電波
ドローンの課題⑤輸送
ドローンの課題⑥プライバシー
ドローンの課題⑦データ
自動車のない世界に現れた電気自動車

ドローン業界のキーパーソンに聞く
適切な規制が行われることで、市場の拡大が期待できる
——株式会社プロドローン・河野雅一

第6章 空飛ぶロボットとしてのドローン
空飛ぶペースメーカーとジョギングを
単調で汚い、危険な仕事
人にはまねできない働き方
ロボット化を支える技術
ロボット政策に力を入れる政府
ドローンとの競争

ドローン業界のキーパーソンに聞く
世の中の常識は、10年あれば一変する
——首都大学東京・泉 岳樹

おわりに

謝辞

帯写真:Moment Open/Getty Images
本文写真:朝日新聞出版 写真部

はじめに

六本木に現れた「空飛ぶロボット店員」
2015年3月。六本木にある東京ミッドタウンの一画に、“ブーン”というプロペラ音が鳴り響いた。音を立てていたのは、小型の無人飛行機「ドローン」。4つの回転翼(ローター)を持つ、クアッドコプターと呼ばれる形をしている。それが自動で空を飛び、高いところに陳列された靴を取ってくるパフォーマンスを見せていたのだ。その名も「空中ストア」である。靴メーカーのクロックスが、新しく発売された軽量スニーカーのプロモーションとして、3日間限定で行ったイベントだった。
空中ストアが開設されていたのは、東京ミッドタウン内のアトリウムと呼ばれる吹き抜けスペース。そこに高さ5メートル、幅10メートル、奥行き6メートルという巨大なディスプレイが設置された。イベントは観客参加型で、整理券を受け取った観客が、順番に指定した靴をドローンに取ってきてもらうという内容だった。
参加者はまず、陳列棚から少し離れた位置にあるタブレット端末から、好きな色の靴を選ぶ。するとドローンが飛び立ち、指定された靴をめがけて宙を移動する。それぞれの靴の上には、直径6センチメートルの金属製の鉄板があり、ドローンはこれを電磁石アームでつかむ。すると鉄板が持ち上がり、それにぶら下げられた靴も一緒に運ばれる。ゴール地点にはカゴが用意されており、ドローンがつかんでいた靴を放すと、カゴの中にぽとりと落ちるという仕組みになっていた。ドローンは自動で制御され、いったん靴を選択すれば、参加者は待っているだけで良い。スタッフの側でも、緊急時を除いて操作は行わない仕組みになっており、さながら「空飛ぶロボット店員」というところだ。
ただ安全性を考慮して、ドローンが飛行するのは、ネット状のフェンスで隔てられた陳列スペースのみ。ドローンが靴を落下させるカゴも、フェンスの向こう側にあった。また靴をつかむのに必ず成功するわけではなく、筆者が見学に訪れた際には、位置がうまく合わずに失敗するという場面が頻繁に見られた。筆者は娘を連れて行き、ドローンの「操作」をさせたのだが、その時もドローンはピックアップに失敗。何も持たず、申し訳なさそうに戻ってくるドローンを眺めることになった。
ところがおもしろいもので、けなげにチャレンジするドローンの姿を見ていると、むしろ応援したいという気持ちがわいてくる。会場につめかけた多くの観客(アトリウムは3層吹き抜けのため、2階や3階にも人々が集まっていた)も同じ気持ちだったようで、ドローンがスニーカーをつかむのに成功するたび、大きな拍手が起きていた。また前述の通り、操作といってもタブレットから商品を選ぶというだけなのだが、自分もやってみたいという観客が殺到。1時間ごとに行われるデモンストレーションの整理券は、配布開始時間になると早々になくなっていた。

空への憧れ

フランス国立図書館に、いまから1世紀以上前の1910年に描かれた、「西暦2000年の未来予想図」が残されている。遠隔操作で建物を建てるロボットや、巨大な飛行船、さらには本の内容を電線で人の頭に送り込む装置など、その想像力には限りがない。中でも頻繁に登場しているのが、空を自在に活用する人々の姿である。一人乗りの飛行機に乗って都市の上を飛び回る人々や、それを取り締まる空飛ぶ警察官。背中にコウモリの翼のような装置を着け、空を飛んで消火や救助活動を行う消防士。ヘリコプターのような機械に乗って、夜間に空から偵察活動を行う人。そして飛行機用のドライブスルーといったところだろうか、飛行機に乗ったまま空中で飲み物を受け取る人、などなど。さまざまな空の活用法を思い描いている。

考えてみれば、未来の社会を予想した絵やSF作品には、必ずといっていいほど「空飛ぶ機械」が登場している。それだけ宙を自在に移動し、空という空間を利用する能力には、人間の夢をかきたてる何かがあるのだろう。ネットを通じた小口決済サービスのペイパル創業者で、ベンチャーキャピタル界の大物であるピーター・ティールも、かつてこんなことを述べている。

「空飛ぶ車がほしかったのに、手にしたのは140字だ」

起業家たちにツイッター、すなわち140字の短文を投稿するというウェブサービスを開発する程度で満足するのではなく、もっと大きな志を持つことを呼びかける言葉だが、そこで引き合いに出されるのが「空飛ぶ車」というところに、100年前と変わらぬ空への憧れを感じることができるだろう。
ただ、この言葉、起業家の背中を押すという趣旨には賛同できるとしても、はたして適切な喩えと言えるだろうか。たしかに100年前に描かれたような、小型飛行機が町中を飛び交うという未来はまだ到来していない。しかし先ほどの「空中ストア」を見れば、少しずつ時代が前に進んでいるとわかるだろう。
それとも「スニーカーを運んだぐらいでは」と思われただろうか。それでは米国発のベンチャー企業、マターネットを紹介しよう。モノ(Matter)のネット(Net)という奇妙な名前がつけられた会社だが、彼らが構築しようとしているのは、まさにこの名前通りのシステムだ。自律で動くドローンをあちこちに配置し、ちょうどバケツリレーのようにして荷物を遠くまで運ぶ、空の配送ネットワークを実現しようというのである。独自に開発中のドローンは、本書を執筆している時点で、2キログラム以下の荷物を20キロメートルまで輸送可能な性能を実現している。ハイチやブータン、パプアニューギニアといった国々ですでに実証実験を行っており、2015年夏には、スイス国際航空と共同でスイス国内での実験を開始する予定となっている。
マターネットの計画が順調に進めば、小型の飛行機が忙しく空を飛び回るという、まさにSFのような光景が実現されるかもしれない。さすがに飛躍しすぎだろうか?ところが彼らの計画には、現実的なメリットが存在している。マターネットがアフリカ・レソト王国のマセル地区を対象に行ったケーススタディーでは、50の拠点を設置し、150台のドローンを導入した場合、必要なコストは。90万ドルと算出された。これは1レーンの道路2キロを敷設した場合のコスト100万ドルよりも少ない。地上に道路を敷設するよりも安く、物流網を整備できる可能性があるのだ。
もちろん陸路と空路では、運べる荷物の重さや天候による影響など多くの違いがある。すでに効率的な物流網が構築されている場所では、簡単には「ドローン空輸」への移行は起きないだろう。しかし途上国のように、これからインフラ整備を行う地域では、ドローンによる空輸の方が安上がりになる可能性もある。しかもドローンは人間のドライバーが不要で、休まず働くことができ、これからさらなる性能の向上も期待できる。私たちの知らない、まったく新しい物流の姿が生まれ、そこから新しい社会の形も生まれてくるかもしれない。
たしかに私たちが大人になっても、空飛ぶ車は普及していなかった。しかし空飛ぶロボットの方は、すぐそこまで来ている。

本書について

本書の目的は「ドローン」と呼ばれる小型の無人飛行機、中でもビジネス向けのドローンがどのように活用されつつあるのか、またそれによって私たちの社会がどう変わりつつあるのかを見ていくことである。そのためにいま研究されているドローン技術や、実際のドローン運用に向けた実証実験など、具体的な事例を見ていきたい。

第1章「なぜいま『ドローン』か」では、本書で扱う「ドローン」とは何かを定義した上で、それが注目される理由や、今後の技術展開について見ていく。
第2章「多様化するドローン活用」では、ドローンがビジネスにおいてどのような特性を持ち、主にどのような用途で活用されているのかを整理する。
第3章「システムに組み込まれるドローン」では、主なドローンの活用事例の中から、より大きなシステムの一部としてドローンを導入しているものを取り上げ、それがいかに大きな価値を生み出すのかを解説する。
第4章「ドローン・ビジネスのバリューチェーン」では、ドローンのビジネス活用を成立させる上で、どのような周辺技術やサービスが必要になるのかを見ていく。
第5章「ドローンと規制」では、ドローンが抱えるさまざまな課題を整理した上で、それにどのようなルールや法規制が課されようとしているのかを解説する。
第6章「空飛ぶロボットとしてのドローン」では、ドローンが持つ「空飛ぶロボット」としての側面に注目し、それが私たちの社会をどう変えていく可能性があるのかを考える。
また本書の執筆にあたって取材させていただいた方々の言葉を、インタビュー形式でその都度紹介していく。
ある技術がどう発展するのか、またそれが社会の中でどう普及していくのかを正確に予測することは難しい。世界初の有人動力飛行を成し遂げたライト兄弟の一人、三男のウィルバー・ライトも、「人類は1000年たっても飛ぶことはできないだろう」と周囲に漏らしていたそうである。しかし1903年、彼らはライトフライヤー号を飛ばすことに成功した。そして米国における最初の定期商業航空会社が誕生したのは、わずか11年後の1914年のことだったのである。その後飛行機は、米国における重要な社会インフラとして順調に発展していった。
ドローンも飛行機と同じように、関連インフラの整備やビジネスモデルの確立が急速に進む可能性がある。あらゆる可能性を否定せず、現状を見ていくことにしよう。