商社マンの「お仕事」と「正体」がよ~くわかる本[第2版]

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商社マンの生活を知る

モノをつくる人とモノを欲しがる人をつなぐ仕事をするのが商社マンであり、私たちの暮らしにとって商社の存在は、実はとても身近なものです。しかし、多くの人にとってその存在はとても遠いものであるのが現実です。そんな不思議な存在の商社マンは、どのような仕事をしていて、どのような人なのだろうか。本書は、商社マンの「お仕事」と「正体」を紹介しています。

秋山謙一郎 (著)
秀和システム (2016/12/15)、出典:出版社HP

プロローグ 商社マンという世界

人と人を繋ぐ仕事。モノをつくる人とモノを欲しがる人を繋ぐ仕事、これが商社マンといっていいだろう。わたしたちの暮らしにとって商社とは、実にその存在は身近なものである。にもかかわらず多くの人にとって、その存在はとても遠いものであるのが現実だ。一般消費者であるわたしたちにとって商社との直接の関わりがないためである。商社とは、おもに生産者である企業(=メーカーなど)と販売者である企業(=流通など)を繋ぐ存在である。ゆえに一般消費者であるわたしたちと直接の関わりはほとんどない。

それでもわたしたちの多くは、商社に行けばなんでも手に入るということをおぼろげながら知っている。その昔、商社をあらわすのに用いられた「エンピツからロケットまで」という言葉が頭の片隅にあるからであろう。ある商社マンはいう。

「商社に相談してもらえれば、なんでも欲しいものは揃う。そう思って貰っていい。ありとあらゆる顧客のニーズに応えられる存在。それが商社という存在意義だから」

ありとあらゆる顧客のニーズに応えることは当然、ときに顧客の望むニーズを上回るサービスを提供し、またあるときは、こんなアイディアがあれば顧客が喜ぶだろうと思うサービスを提案するのが商社である。

「いってみればビジネスの場での『ドラえもん』のような存在が商社。顧客が『こんなものが欲しいのだけど』といわれれば、そのニーズを汲んで、顧客が求める以上のなにかを取り出す。なにかお困りのことがあれば、こちらからアプローチして、なにかを取り出す。もっとも取り出すなにかがなければ、商社マンとはいえない。商社マンとは研究者やマスコミの記者とおなじで、ネットワークひとつでシゴトをする、とても創造性あるシゴト」

ある五十代の商社マンの言葉だ。もともと商社とは、自分たちでなにかをつくり出し、販売するという存在ではない。だからこそ商社は、どれだけのネットワークを持ち、そこからどれだけのビジネスに繋がるアイディアを提供できるかが勝負の世界なのである。そのため商社マンも、どれだけのネットワークを持ち、企画力や発想力が問われるシゴトとなることはいうまでもない。でも、商社マンに求められるのは、こうしたネットワークやアイディアだけがすべてではない。

・商社マンに求められるセンスとは?
では、商社マンに求められるセンスとはなにか。この商社マンに求められるセンスと商社で伸びていくヒトを推し量る有名な心理学的小噺がある。

ある外国にふたりの商社マンが出張を命じられた。その外国では靴を履く習慣がなかった。

ある商社マンA「この国ではビジネスチャンスはありません。まだ靴を履く習慣もない場所で、かつ産業も手付かずの状態なので、一からビジネスを起こしても成功の見込みは薄い。ビジネスとしての伸び代も感じない。時間の無駄なので、すぐに帰国します」

ある商社マンB「この国にはビジネスチャンスを大いに感じる。靴を履く習慣もまだないので、まず靴を売れば、きっと喜んで貰えるはず。また産業がまだ手付かずなので産業を掘り起こせば、この国の人たちも潤い、またわが社にとっても商機となる。すぐに応援を寄越して欲しい」

もちろん商社マンAは、商社に向いている人材ではないことはいわずともわかるだろう。商社マンBのようなバイタリティこそ、時代を問わず商社が求めている人材である。
「もちろんさっと見切りをつけることも大事。しかしまず見切る前に、なにかビジネスチャンスはないか。そしてただ自社が儲けるだけではなく、このケースのように出張した国の経済を潤すことまで考えなければ商社マンとしてはダメ」(前出・五十代商社マン談)

どこまでも前向き、押しが強い――。そんな人材が商社マンというヒトたちの共通項であるようだ。もちろん商社には、後ろ向きで押しが弱いヒトもなかにはいるだろう。とはいえそれはあくまでも「商社マンのなかでは」という枕詞がつく。日本のみならず世界を相手に大きなビジネスを繰り広げる商社は、総合、専門とその形態、企業規模を問わず、どこまでも前向きに、そしてみずからの持てるネットワークを広げて、大きなビジネスに繋げ、そして世界の人々すべてを潤わせよう…という志を本気で持ったヒトたちの集まりなのだ。

商社マンとは、キホン、皆、前向き、会社にしがみついて給料さえ貰えればいい……、そんなタイプの人間はいないという。「もし社内で腐るようなことがあれば、さっさと自分でなんとかする。周りもフォローを惜しまない。そういうタイプが多い」(前出・同)のだとか。つまりいるヒト、モノすべてをどこまでも上手に使い、繋がるネットワークすべてにおいてWINWINの関係を築くのが上手なヒトたち。それが商社マンといっていいだろう。

・たくさんの商社があれど「商社マン」のお仕事と正体はひとつ……
商社とは、いわゆる総合商社だけが商社ではない。たとえば特定のなにか……、プラスティックの原材料であったり、食材のなかでも、鶏肉、牛肉などなどでは、他の追随を許さない、そんな専門商社も存在する。
総合商社であっても、専門商社であっても、商社マンのシゴトに、そんなに違いはない。それはただひとつ、人(=企業)と人(=企業)を結びつける役割だ。こうした商社マンのお仕事では、意外にも、というか当然というか、商社マン同士は同業他社との連携が強いという。

「出身大学のルートもあるが、意外なところでは学生時代の就職活動時出会った同業他社の商社マン。これは意外に強い。とくに二次、三次面接まで残ったところで親しくなり、結果として、おなじ社ではないが、よその社にいったヒトもおなじ商社マン仲間。ビジネスでなにかあったときには支えあう仲間でもあり、ライバルでもある」(前出・同)

このある四十代の商社マンによると、学生時代、就職活動時に知り合った他社の同期、面接で一緒になり、異業種に進んだ人と、いまでも折に触れて連絡を取り合い、これはビジネスの場でも活きているとか。もちろんお互いにWIN-WINの関係で、だ。

「昔、ある事業部で営業をしていたとき、ちょっとしたミスから納品する商品が足りなかった。一瞬、ひやっとした。でも、まったく困らなかった。就職活動時に一緒だった専門商社に進んだ他大学の同級生に頼めばなんとかなると踏んだから。かなり無理してもらったが、結果は、きちんと納品できた。社内でも助けてくれる人もいるが、社外でも助けてくれる人がいる。逆にいえば社内なら、おなじ会社ということで誰でも助けてくれる。しかし社内で解決できないときは、社外に頼るしかない。そういうネットワークをどれだけ持てるかが勝負」(前出・同)

もちろん公(おおやけ)、表向きのルートではない。いわば裏の繋がりだ。でも、この「裏の繋がり、を、どれだけ持っているか――。これが商社マンとしての成功の鍵(かぎ)でもある。つまり人と人の繋がりをどれだけ持っているかが商社マンとしてのもっとも大きな資質であるといっていいだろう。ましてや、かつて商社の屋台骨とされた「資源・エネルギー分野」での凋落著しい時代、七大総合商社といえども創業以来初の巨額赤字を計上する時代である。社の垣根を超えて商社マンたちは「横の繋がり」が求められる時代だ。
商社マンに必要なのは、この人と人の繋がりから、金脈を見つけ出し、ビジネスに繋げられるかどうかである。

「目的と手段、若くてもその違いを理解しているかどうか。よく商社マンといえば、まず英語が話せて……といわれているが、英語が上手なだけなら、それを専門としている方には敵わない。英語がデキるに越したことはないが、英語を使ってなにをするかがわかってなければならない。商社マンならばビジネスしかない。でも商社志望の学生さんなんかと話をしていると、やたら外国語が話せるとかコミュニケーションスキルがあることを強調するが、そんなものは商社マンならあって当然。その一歩先のなにがデキるのかが大事」(五十代のある商社マン談)

これから商社マンになろうと思っている若い人には、むしろ、世間でわたしたちが考えている商社マン像”とは、真逆のタイプの人のほうが商社マンに向いているという。

「商社マンのシゴトは営業だけではない。シンクタンクやマスコミにもひけを取らない調査とか、あるいはファイナンスも、商社の大事なシゴト。これらのシゴトはむしろ物静かで黙々とこなすヒトのほうが向いている」(前出・同)

・求められる役割をこなしつつそれを上回るなにかを発揮するのが商社マン
営業、調査、ファイナンス、経営企画、総務………と商社マンのシゴトは幅広い。そんな商社では、まずなににでも興味を持ち、それを自分のモノにデキるヒトでなければ勤まらない。たとえ自分の興味のないものでも、それを自分の興味あるものに繋げていくくらいのバイタリティがなければだめだ。

「七つの海を駆け巡る商社マンに憧れて商社入り。配属されたのは経理部。面白くないなと腐っていたら、当時の上司からいわれた。『数字に強い商社マンになるための修行と思え』と。そしてこうもいわれた『誰も営業をするなとはいっていない』と。商社の配属先とは自分が責任を持つ場であって、自社の利益になり、多くの人が喜ぶビジネスモデルを考えられるのならば、営業でもなんでもやっていいのだと気づいた。そういう職場はほかではすくないのではないだろうか」

どのような状況でも、そこに自分をあわせて、そしてビジネスを切り開いていくのが商社マンである。これが時代を問わない商社マン像」だ。そんな商社マンとは、はたしてどのようなシゴトをし、どんなヒトたちなのだろうか。これからその「お仕事」と「正体」を詳しくみてみよう。

秋山謙一郎 (著)
秀和システム (2016/12/15)、出典:出版社HP

Contents

プロローグ 商社マンという世界

第1章 商社マンとして採用「入社1年目」
01商社マン人生最初の半歩 単なる秀才クンではダメ?
お勉強はデキて当然!遊び上手で、情報のアンテナ高く
商社志望「OB・OG訪問」はしなければダメ?

02どうすれば商社マンになれる? 過酷な採用試験をクリアするには
面接ではなにを聞かれる?/圧迫面接はこう切り返せ!
筆記試験の対策は

03商社マンになる前に覚えておきたいこと どういう商社マンになりたいのか
どんなシゴトをしたいのかは考えておこう!
覚えておきたい商社マンのドレスコード

04商社マンの第一歩 新人時代はまだラク
新人研修ではなにを学ぶ?/登山もすれば漫才も行う新人研修

05商社で生き残るには? いわれる前にシゴトを片付ける
考えながら動け!動いたら結果を出せ!
スペシャリストさん、ゼネラリストさん、経営候補さん

06近年の採用動向は? 難関と呼ばれる採用実態をレポート
総合商社の採用人数は概ねー40名程度
近年、増えつつある一般職採用希望の女性
やはり気になる出身大学・学部の有利・不利は?

ColumnCASE1 面接は「自分らしく」勝負!

第2章 商社マンの考え方「商社マンの目指すもの」
07目指せ!七つの海を駆け巡る商社マン 長い下積み期間中でも責任は大
十年間の新人期間、中ならミスしても会社の責任/商社マンの育てられ方は?

08頭で勝負? それとも体力で挑む?商社マンの正体
商社マンの考え方/商社にはどんなヒトが働いている?
商社で伸びるのはどんなヒト?

09元商社マンたちのその後 商社OBの誇りを胸に外で活躍!
ドロップアウトではなくスピンアウト!/三人の元商社マンたち

ColumnCASE2 接待とは情報戦!

第3章 商社マンという生き方 「キャリアパス」
10厳しく育てられるか。それとも優しく育てられるか 若手時代
一年目社員でも百億規模のプロジェクトに携われる世界
総合職入社ならほぼ全員が入社十年以内に海外駐在を経験/MBAを取って早期退職

11キャリアはオーダーメイド?それともレディーメイド? 若手から中堅へ
会社員としてのキャリアパスは年功序列?
商社マンとしてのキャリアパスは「巡りあわせ」か「みずから切り開く」か

12定年まで残る?それとも早めに第二の人生を? 商社マンでいられる時間
定年まで商社に勤めたとして稼ぐ額は/役員は年収一億円超も
役員にまで昇り詰められなかった商社マンのその後は?

ColumnCASE3 シゴトがデキるヒトは勉強上手?

第4章 商社マンの業務 「ワークス」
13事業部が違うとまるで別会社? おなじ社内でも異なるカラー
ゼネラリスト志向でなければ勤まらない商社マン
採用選考時、入社後「希望しています!」とはいってはいけないシゴトとは

14商社における事業部ごとのカラーは? 目指すところはおなじでも
時代を問わず商社の屋台骨~金属・鉄鋼事業/世界を狭くするビジネス~機械・建機事業
人に関するビジネス~食品事業/人に纏わるビジネス~繊維事業
いまや商社の花形事業?~資源・エネルギー、化学品事業

15スペシャリスト集団! バックオフィス商社を支える縁の下の力持ち
営業経験のあるヒトの職種とスペシャリスト職種が混在
経理の専門職として存在感抜群~財務・会計部門
年々、重要性増すシステム技術者〜商社におけるシステム専門家のシゴトとは?

16総合職・一般職 崩れつつある垣根
総合職と一般職の関係/総合職と一般職の違いとは?

17追跡!現役商社マンの一日のスケジュール いくつになっても激務は続く?
三人の総合職の一日から/二人の一般職の一日から

ColumnCASE4 採用面接ではどこをみている?

第5章 商社マンの私生活 「お休みの過ごし方」
18OFFタイムの過ごし方は? 商社マンにも休日はある!
ほんとうに休日は休める?/お休みは「週休二日+d」
実録ルポ「二人の商社マン」の休日

19商社マンの住宅事情は? 寮や社宅など
集団生活の独身寮で学ぶべきことは数知れず
独身寮で好かれるヒト・嫌われるヒトは?/商社マンの社宅は?

20商社マンの懐具合は? ほんとうに高給取りが多い?
商社マンの初任給は各社あまり変わらず?
やはり高給取り!総合商社では社員平均年収一千万円超…7

21商社マンの恋愛・結婚事情は? 出会いの場は多いが縁あるヒトは
社内結婚のほかにも「職場結婚」もあり/商社マンはモテる?

ColumnCASE5 自分を囲む他人は自分を映し出す鏡

エピローグ 商社マンというヒトたち

秋山謙一郎 (著)
秀和システム (2016/12/15)、出典:出版社HP