日本の成長戦略と商社: 日本の未来は商社が拓く

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商社のビジネス事例を紹介

医療、食品、資源・エネルギー、コンテンツなどあらゆる分野を手がける商社が、日本経済の成長戦略実現のために果たす役割は大きいでしょう。本書では、分野ごとの、具体的な商社のビジネス事例を中心として記述しており、現在の商社活動および商社が目指す未来像についてわかりやすく紹介していきます。

日本貿易会「日本の成長戦略と商社」特別研究会 (著), 戸堂 康之 (監修)
東洋経済新報社 (2014/5/30)、出典:出版社HP

はじめに

2012年12月に誕生した第2次安倍政権は、長引くデフレからの早期脱却を目指して、「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」という3本の矢からなる「アベノミクス」を打ち出した。金融緩和と財政出動による景気刺激は一定の成果を上げ、足元ではようやくデフレからの脱却が見えつつあるが、その動きを確かなものにするためには第3の矢である成長戦略を着実に実行することが不可欠である。

安倍総理は、2014年1月に開催されたダボス会議において、「法人実効積率の国際的水準への引き下げ」や「国家戦略特区の枠組みを利用した岩盤規制の打破」などを国際公約にし、今後2年間で集中的に改革を推し進めることを表明した。

2014年6月には、これまでの産業競争力会議や規制改革会議でなされた議論なども踏まえ、2013年閣議決定された「日本再興戦略」に続く成長戦略の第2弾が公表される予定であるが、それが着実に実行され、民間の力が存分に活かされることを期待している。

われわれ総合商社は、これまで幾多の困難に直面しながらも、時代の先を読み、新しい市場の開拓者として、また産業基盤の下支え役として、日本経済の発展に寄与してきた。そして、まさに今、わが国は長期のデフレから抜け出し時代の変わり目となりうる重要な時期を迎えているが、このような時代環境の中で商社が果たすことができる役割は大きいといえるのではないだろうか。

こうした認識のもと、商社の業界団体である日本貿易会では、2013~2014年度の重点事業のひとつとして、わが国の成長戦略の実行において、商社はどのような役割を果たしてゆけるかについて掘り下げていくことを目的として、特別研究会を立ち上げた。

この研究会には、総合商社7社(伊藤忠商事、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事)の代表者および日本貿易会の役職員が委員として参画し、国際経済学および開発経済学の専門家、戸堂康之東京大学教授(当時、現早稲田大学教授)を主査に迎えて、「日本の成長戦略と商社」というテーマで議論を重ねてきた。本書は1年以上に及ぶ研究会の成果をまとめたものである。

研究会においては、まず、わが国を取り巻く内外環境を分析し、対処すべき課題を整理したうえで、中長期的な世界経済と日本経済の潮流について考察した。さらに、時代とともに大きく変貌を遂げてきた商社機能の変遷をたどりながら、今後日本が目指してゆく成長戦略の実現に向けて、商社業界が貢献し得るビジネスモデルについて研究し、できる限り、当該ビジネスモデルの各社における具体的な事例を紹介することを主眼とした。

また、戸堂主査には、第4章として、「経済成長の経済学から見た商社の役割」という観点で、アベノミクスの評価および成長戦略実現に向けた商社への期待などについて、経済学者の立場から論評いただいた。

総合商社は事業分野が多岐にわたり、ビジネスの手法も複雑化しているため、わかりにくい、といわれることがあるが、本書においては、分野ごとの、具体的な商社のビジネス事例を中心として記述しており、現在の商社活動および商社が目指す未来像について少しでも多くの方にご理解いただければ幸いである。

最後に、本書を取りまとめるに当たり、戸堂主査、瀧本座長をはじめとする特別研究会の委員の皆さまには、ご多忙の中、執筆などで多大な貢献をいただいたことに、謹んで謝意を表した

2014年5月
一般社団法人日本貿易会
会長 槍田松瑩

日本貿易会「日本の成長戦略と商社」特別研究会 (著), 戸堂 康之 (監修)
東洋経済新報社 (2014/5/30)、出典:出版社HP

「日本の成長戦略と商社」~日本の未来は商社が拓く~目次

はじめに

序章 日本の成長戦略と商社
1 「アベノミクス」の真価を問う成長戦略の実行
2 「失われた20年」と商社の歩み
3 変わり続ける世界、日本が「変わる」ための課題
4 成長戦略実現に向けた商社の役割と本書の意義
5 本書の構成

第1章 大きく変わる世界と日本
(1 リーマンショック後の世界と日本
1 米国発の世界的な金融危機の発生
2 欧州債務問題の長期化
3 明暗の分かれた新興国経済
4 東日本大震災に見舞われた日本
5 資源・エネルギー政策の動向
6 様変わりした日本の貿易収支
(2 世界経済の潮流と課題
1 カギを握るグローバル化の潮流
2 世界経済の持続的成長に向けて
(3 日本が抱える課題
1 日本を取り巻く環境
2 課題先進国としての日本
(4 実行力が試されるアベノミクス
1 課題の解消に向かう2つの方向性
2「日本再興戦略」の実現に向けて

第2章 進化を続ける商社の機能
(1 総合商社の持つ機能とは?
1 商社機能の変遷をたどって
2 総合商社の「いま」
(2 商社に期待される役割とは?
1 商社の特性
2 成長戦略における商社の3つの役割

第3章 日本を元気にする商社ビジネス
1.新たな事業を創造する
(1 農林水産業の未来を切り拓く(農林水産業)
1 わが国の農林水産業を取り巻く環境と商社に期待される役割
2 グローバル・バリューチェーンの構築
3 各国消費市場におけるマーケティング力の強化
4 新技術の活用、異業種連携などへの挑戦
(2 高齢化社会の課題にチャレンジ(医療・介護・健康)
1 超高齢化社会を迎える日本
2 注目を浴びる医療・介護・健康ビジネス
3 商社への期待
4 商社の活動と具体的な取組み事例
(3 先端技術と総合力で市場のニーズに応える(ICT)
1 進化を続けるICT
2 総合力を活かしたECサイト
3 先端クラウド技術の応用的
4 重要度を増すサイバーセキュリティ
(4 クリーンで経済的な社会を目指して(再生可能エネルギー)
1 再生可能エネルギーの位置付けと課題
2 成長戦略の中の再生可能エネルギー
3 再生可能エネルギーへの商社の取組み

2.拡大する国際市場へ挑戦する
(1 インフラ輸出を通じて世界の成長を支える(インフラ輸出)
1 新興国の新規需要と先進国の更新需要
2 インフラ輸出の複合的な波及効果
3 インフラビジネスと商社の役割
(2 商社がはぐくむクールジャパン(クールジャパン)
1 クールジャパンとは何か
2 日本政府の推進するクールジャパン戦略
3 商社にとってのクールジャパン
4 クールジャパンの具体的な戦略や取組み
(3 グローバル展開の先導役として(海外進出支援)
1 国際展開戦略・現地の国家計画に基づいた大型開発
2 長期にわたる取組みとトータルサービスの提供、産業クラスターの形成
3 低炭素社会の実現を目指したスマートシティ開発

3.日本産業の成長基盤を強化する
(1 資源小国日本を支えるグローバルな取組み(資源・エネルギー)
1 世界の資源・エネルギー情勢
2 日本の状況
3 資源・エネルギーにおける商社の役割
4 資源・エネルギーでの商社の具体的な取組み事例
(2 食料の安定調達の担い手として(食料)
1 世界の食料需給と商社の役割
2 「調達」「物流」「販売」における商社の活動
(3 民間の資金や知恵を活用する(国内インフラ)
1 インフラ問題に直面する日本
2 注目を浴びる民間の資金や知恵を活用したインフラ整備
3 商社への期待
4 国内のインフラ整備での商社の活動と具体的な取組み事例

第4章 経済成長の経済学から見た商社の役割(戸堂康之主査)
(1 経済成長のためには何が必要か
1 経済成長の源泉
2 イノベーションを生む「つながり」
3 つながりに対する政策支援
(2 アベノミクスの経済学
1 経済学から見たアベノミクスの評価
2 アベノミクスの成長戦略への期待外
3 成長戦略の課題
(3 経済成長における商社の役割
1 つなぎ手としての商社
2 変革者としての商社
3 商社へのさらなる期待

終わりに

参考文献
日本貿易会「日本の成長戦略と商社」特別研究会・開催状況
日本貿易会「日本の成長戦略と商社」特別研究会名簿
一般社団法人日本貿易会 法人正会員名簿
執筆者紹介

日本貿易会「日本の成長戦略と商社」特別研究会 (著), 戸堂 康之 (監修)
東洋経済新報社 (2014/5/30)、出典:出版社HP

序章 日本の成長戦略と商社

1 「アベノミクス」の真価を問う成長戦略の実行

日本経済は1990年代初めに始まったいわゆる「失われた20年」の長期にわたる停滞からようやく明るさを取り戻しつつあるように思える。
2012年12月16日の衆議院議員選挙での自民党圧勝を経て成立した第2次安倍政権は発足当初から、長年にわたるデフレからの脱却と日本経済の再生、および日本経済・企業が抱える6つのハンディキャップ、すなわち過度な円高、高い法人税率、自由貿易協定への対応の遅れ、不安定な電力事情、厳しい環境規制、製造業派遣禁止などの労働規制という、いわゆる六重苦の克服に向けて、矢継ぎ早に経済政策を打ち出した。
第1の矢、デフレマインドを一掃するための「大胆な金融政策」、第2の矢、湿った経済を発火させる「機動的な財政政策」、そして第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」、すなわちアベノミクスの3本の矢がそれである。それは同時に、民主党時代の「縮小均衡の分配政策」から、「成長による富の創出の好循環」への政策転換でもあった。
第2次安倍政権の本格稼働から1年あまりを経過した現在、消費者物価指数が上昇に転じるなど、長らく続いたデフレにも歯止めがかかり、同時に株価の上昇、超円高の修正、あるいは雇用者数の増加、企業収益の改善、さらには賃金上昇への期待など、今のところアベノミクスは成長の好循環に向けて順調な歩みを続けているように思える。しかし、これまでのアベノミクスの順調な滑り出しは、第1の矢の「金融政策」と第2の矢の「財政政策」の2本の矢の効果に負うところが大きく、安定的かつ持続可能な経済成長とそれによる富の創出の好循環を確実なものにするためには、第3の矢である新たな「成長戦略」の実行が欠かせない。
新たな「成長戦略」は、第1の矢、第2の矢によりようやく国民や企業が自信を回復しつつある中で、その自信回復を確実なものとし、安定的、持続的成長へのしっかりした道筋を具体的かつ明確に示すものでなければならない。
そうした成長戦略への期待の中、2013年6月には安倍政権の成長戦略のコアである「日本再興戦略―JAPAN is BACK―」が閣議決定され、2013年末には、臨時国会で産業競争力強化法案、国家戦略特区域法案など成長戦略関連の9つの法案が成立した。「日本再興戦略」は、民間の活力を最大限に引き出すことを主目的に、10年間平均で実質成長率2%程度、10年後には1人当たり名目国民総所得の150万円以上拡大という数値目標とともに、産業基盤の強化と国内・海外の市場開拓を目指すアクションプランから構成されている。
具体的施策の中には踏み込み不足のものや、法人税減稅など期待されながら盛り込まれなかった施策もあり、また優先順位が必ずしも明確でないとの批判もあるが、その豊富な内容と、主要政策について過去の成長戦略に比べより具体的な中長期の工程表が示されていることなど、総じて評価できるものとなっている。
成長戦略は、過去政権交代のたびに打ち出されたが具体的かつ有効な政策の実行が伴わず大きな成果が得られなかったきらいがある。今回の安倍政権の成長戦略についても、これからの具体策の実行力が真に問われるところであり、積み残し案件や医療・介護、農業などにおいてさらに踏み込むべき施策を付け加えるとともに、そのメニューの確実な運用・実行が強く期待される。

2「失われた20年」と商社の歩み

総合商社は、この「失われた20年」において、1990年代にはIT革命により商社の仲介機能が必要なくなる、いわゆる「商社不要論」が叫ばれ、またバブル崩壊とその後遺症による日本経済の悪化、低迷と軌を一にして業績が低迷、不採算事業の整理や不良債権の償却など経営体質の改善を余儀なくされた時期もあったが、特に2000年代に入り、日本経済が低空飛行を続ける中で、必ずしも平たんな道ではなかったものの、総じて成長を続け、業績を伸ばしてきたといえる。
1990年代初めから現在に至るこの時期は、日本においては「失われた20年」であるとともに、世界経済においても大きな構造変化がもたらされた20年といえる。日本経済は、それまでの高度成長とそれが頂点に達したバブル経済から一転、バブル崩壊とその後の低迷期に突入した。一方世界経済は、冷戦構造の崩壊により東西の融合が進み市場経済化が進展、拡大していくとともに、先進国が低成長を余儀なくされる一方でBRICsに代表される新興国が台頭、フロンティア市場が拡大していったが、新興国の急成長は資源需給の逼迫と資源価格の上方シフトをもたらした。同時に成長著しい新興国を巻き込んだ二国間経済連携や地域経済連携の拡大など世界的な貿易自由化も大きく進展、その間IT技術も格段の進歩を遂げた。言いかえれば、世界はグローバリゼーションと情報化の進展により大競争時代を迎えたといえる。
日本経済における「失われた20年」は、ある意味グローバリゼーションや情報化の進展により世界の産業構造や地軸が大きく変化し、大競争時代が到来する中で、日本としてその大きな変化への対応を怠り、世界経済の潮流に乗り遅れた20年ではなかっただろうか。一方、総合商社は、その成立以来それぞれの時代の中で、世界・日本経済の発展度合いや環境の変化に対応して、すなわち「変化への適応力」という総合商社の本質を駆使して、その時代時代に必要とされる機能を磨き、役割を演じることによって、ビジネス基盤を拡大、成長を続けてきた。
1990年代以降世界経済がグローバリゼーションと情報化により大きく変化していく一方で日本経済が長期低迷を余儀なくされた間も、総合商社は「変化への適応力」というコア・コンピタンスを研ぎ澄まし、グローバリゼーション、情報化など時代の潮流に対応し、情報産業分野など新たなフィールドへの事業展開、新興市場・フロンティア市場へのシフト、資源・エネルギー権益確保への取組み、バリューチェーンの構築・展開による事業拡大など、その役割と機能を進化、拡大させ、また長年にわたり培われ、構築されてきたグローバルなネットワークを活用し、時代を先取りしたビジネスを創造し成長を続けてきている。

3 変わり続ける世界、日本が「変わる」ための課題

グローバリゼーションと情報化が進展を続ける世界においては、変化のスピードとそのマグニチュードは従来の比ではなく、世界は今も変わり続けている。途上国・新興国の成長も、いわゆるLeap Frog(蛙とび)現象といわれるように、従来先進国が経験した経済成長とはまったく違った経路をたどる可能性が高い。
足元の世界経済は、高成長を続けてきた新興国経済にも構造問題の顕在化や資金フローの変調などから総じて逆風が強まるなど、2000年代に入り続いてきた先進国低成長、新興国高成長の構図が崩れかけている感があるが、一方で、人口動態から考えれば新興国・途上国の経済発展は疑うべくもなく、特にアジア地域における中間所得層の拡大は、今後とも世界経済に大きなインパクトを与えることは間違いない。変わり続ける世界では、足元の状況、短期的な動きと中長期にわたる潮流をきっちり峻別して見極めるとともに、地域・国によって一様ではない変化を読み取っていくことが肝要である。
翻って日本を見れば、先の「日本再興戦略」で指摘されるまでもなく、六重苦に代表される、「失われた20年」、すなわち日本が世界の潮流に乗り遅れている間に積み重なったさまざまな課題、さらには2011年3月に日本を襲った東日本大震災により、震災復興のみならず、原子力発電停止に伴う電力・エネルギー問題などの課題も顕在化し、さらにより中長期的には、少子高齢化や持続可能な社会保障制度の構築など、対応、克服すべき課題は山積している。

4 成長戦略実現に向けた商社の役割と本書の意義

そして今、変わり続ける世界の中で、こういった山積する課題を克服しつつ、日本経済における「失われた20年」を脱し健全で安定的かつ持続可能な経済成長を実現していくための成長戦略の推進が求められているこの時代に、これまでも日本や世界の変化に対応して、幅広い分野で、時代を先取りしたビジネスをグローバルに展開してきた総合商社、世界に張り巡らせたネットワークを通じ世界の変化をリアルタイムで感じることができる総合商社が、ビジネスや事業を通じて、日本の成長戦略実現に貢献できる可能性は大いに高まっているのではないだろうか。
本書でも詳しく紹介するように、商社が取り組んでいる、あるいは取り組もうとしている事業・ビジネスには、既に成長戦略を先取りして展開しているケースも数多く見受けられる。
本書では、以上のような問題意識をベースとして、わが国を取り巻く内外環境の変化と中長期的な世界と日本の潮流を理解しつつ、日本経済の持続的成長の実現に欠くことのできない成長戦略の必要性とその課題を考えるとともに、商社が日本の成長戦略の実現に向けて果たすべき機能は何か、役割は何かを、数多くの具体的事業・ビジネスを紹介、参考にしながら、考えていきたい。
総合商社が世界経済、日本経済をその中長期的な先行きも含めどのように認識しているのか、そのうえで長年にわたり培われた総合商社の機能を活用し、どのようなビジネスや事業で、日本経済の持続的成長の実現に貢献しようとしているのかを理解する一助にしていただきたい。

5 本書の構成

第1章「大きく変わる世界と日本」では、世界経済の現状をあらためて確認するとともに、中長期的な世界経済と日本経済の潮流を考察する。前半では、リーマンショック以降の環境変化を踏まえた世界経済の現状と課題、さらに日本においては2011年3月1日に発生した東日本大震災の影響、特に資源・エネルギー政策の動向と日本の貿易収支・経常収支の動向に焦点を当てている。後半では、中長期的な世界および日本経済の潮流を考える。世界経済においては、引き続きグローバル化が進展する中で、比較的高い成長が期待されながらも構造的脆弱性を抱える新興国と、成熟化が進み経済成長が低下していく先進国が今後ともwin-winの関係の構築を進めていく必要があるが、基礎的なインフラ整備、各種資源・エネルギーの供給不安、省エネ・環境問題、あるいは経済連携・地域経済統合などwin-winの関係構築、世界経済の成長のために対応すべき課題や潮流について考えていく。また日本経済については、上記のような世界的課題に加え、東日本大震災からの復興、少子化・高齢化と労働人口の減少、健康・医療・介護問題、財政再建問題という中長期的な課題と、その処方箋としてのアベノミクスについても考えていきたい。
第2章「進化を続ける商社の機能」では、時代とともに変化を続ける商社機能の変遷をたどるとともに、成長戦略実現に向けた商社の機能と役割について考えてみたい。第2次大戦後の日本の経済発展段階に応じて商社が果たしてきた機能と役割、特に1990年代から現在まで世界がグローバル化と情報化の中で迎えた大競争時代における商社の機能と役割を考えるとともに、現在商社が持っている機能をベースにして、日本産業の下支え、新たな事業創造、市場開拓、海外進出に向けた先導役など、成長戦略の実現、日本経済の成長実現に向けて商社に期待される機能と役割についてあらためて整理してみたい。
第3章「日本を元気にする商社ビジネス」では、具体的なビジネスの事例を数多く紹介し、成長戦略実現に向けて商社が実際にどのようなビジネス、事業を展開しているか、しようとるかを見ていただく。10の事業分野を「新たな事業を創造する」(農林水産業、医療・介護・健康、ICT、再生可能エネルギー)、「拡大する国際市場へ挑戦する」(インフラ輸出、クールャパン、海外進出支援)、「日本産業の成長基盤を強化する」(資源・エネルギー、食料、国内インフラ)の3つのカテゴリーに分け、商社がいかにダイナミックに成長(戦略)実現に向けしているかを具体的事例とともに理解していただければ幸いである。
第4章「経済成長の経済学から見た商社の役割」では、本書全体を通じて監修いただいた戸堂主査より、経済学の立場から、経済成長の源泉や成長に必要な政策、アベノミクスの評価、および成長戦略実現に対する商社への期待について論じていただく。経済成長の源泉であるイノベーションを生む「つながり」の重要性、排他性と衰退の悪循環を回避するための多様なつながり、よそ者とのつながり構築を支援する政策、アベノミクスの評価とその成長戦略への期待と課題、最後に、経済成長においてつなぎ手としての商社、変革者としての商社が果たすべき役割と商社への期待について提言いただく。

日本貿易会「日本の成長戦略と商社」特別研究会 (著), 戸堂 康之 (監修)
東洋経済新報社 (2014/5/30)、出典:出版社HP