総合商社論

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総合商社の事業革新について学ぶ

1990年代末に経営破綻の危機にあった総合商社は、2000年代に流通会社からトレーディングと事業投資を柱とする総合事業会社へと事業革新することで危機を逃れました。商社の成功は、物流・商流網を再編し、グローバル分散したことにあります。本書では、総合商社の事業革新について学ぶことで、日本の企業がグローバル化にどのように対応していけば良いのか明らかにしていきます。

榎本俊一 (著)
中央経済社 (2012/11/7)、出典:出版社HP

はじめに

国内経済が長期デフレから脱却できず成長性を喪失しつつある中,我が国企業の多くは内外の企業戦略の見直しを迫られている。1990年代末には経営破綻の危機に瀕していた総合商社が,2000年代に資源・エネルギー市況の高騰などの「追い風」もあったものの,事業ポートフォリオ管理やトータル・リスク・マネジメントを武器としつつ,ビジネス・モデルを変革して事業基盤・収益基盤の再構築に成功し,国際的な「優良会社」に生まれ変わったことは,総合商社以外の企業にとり大いに示唆に富むのではないだろうか。

現在の総合商社の好業績は,「総合事業会社」等のビジネス・モデル上の革新,ポートフォリオ管理やトータル・リスクマネジメントなどのビジネス基盤の構築,グローバル化への積極的な対応に要因を求められると考えるが,本書では,その商社の「強み」について財務データ分析とケーススタディ分析の双方を行い,実態の解明に努めた。総合商社関係者のみならず,我が国でビジネスに取り組む方にとり,本書が商社ビジネスへの理解を深める助けとなれば幸いである。また,総合商社の経営分析・産業分析にあたられる研究機関や研究者にとり,現在の商社ビジネスの展開を考える視点の一つを提供できれば,筆者としては名誉なことである。

また,学生諸氏には,経営学部等において,商社関連文献の研究に取り組んでいる方もあろうかと思う。ただし,総合商社のビジネス・モデル論には,特定商社だけでなく商社全般に援用できるものがないため,個別商社の研究は楽ではない。本書が商社研究の助けとなれば幸いである。若者は「現在」に強く惹かれるものだと思うが,日本経済や世界経済の構造変化の中で,総合商社がいかに変わったか,変わらなければならなかったかを理解することは大切である。今日の商社の成功も,初めから計画や成算があったわけではなく,目的地の見えない試行錯誤の過程で「最善」を尽くすことで勝ち取られたものである。このことを知れば,学生各位がこれから進むリアル・ビジネスへの興味も一層高まるのではないだろうか。

停滞する日本経済を尻目に,新興国等は目覚ましい成長を続けているが,我が国のグローバル企業にとり,国内市場依存から脱却して収益構造のグローバル分散を果たせるかが今後の命運を握る。2000年代央以降,総合商社は海外戦略を「世界企業」化に転換し,収益のグローバル分散に取り組んでいる。ただし,現在の「超円高」の中で中堅・中小メーカーまでが海外移転に社運を儲ける状況を見ると,国内雇用基盤の維持は深刻な問題である。読者各位も,総合商社のグローバル展開に関する考察をお読みいただいたならば,この点にも思いを巡らしていただきたい。

なお,本書は第三者が検証可能であることという学術論文の原則に忠実に,総合商社が公表している有価証券報告書,アニュアルレポート等を含む刊行資料にのみ基づき分析を行った。ご多忙中にもかかわらず多くの実務家・研先者の方々から,ご協力とご指導を頂戴した。本書の内容は一切が著者個人の見解であり,所属組織を含む如何なる特定の団体・組織の見解ではないものの,この場を借りて厚く御礼申し上げたい。

2012年10月
榎本俊一

榎本俊一 (著)
中央経済社 (2012/11/7)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1部 総合商社を巡る論点~高業績を続ける商社ビジネスを支える基盤~
第1章 業績好調を続ける総合商社
第2章 総合商社ビジネスを支える基盤
1 過去の商社ビジネス
1 主要経営指標
2 ビジネス・モデル
3 リスク・マネジメント
4 コーポレート・カバナンスと資本政策
2 現在の商社ビジネス
1 成長性・効率性・財務安全性の3点セット
2 総合事業会社
3 リスク・マネジメントとポートフォリオ管理
4 グローバル戦略
5 コーポレート・カバナンスと資本政策
第3章 本論の検討課題と構成
1 総合事業会社を巡る論点
1 財務データに基づく「総合事業会社」モデル分析
2 トレーディングと事業投資に関する統一的なフレームワーク
3 “Value Chain Design”等の射程
2 リスク・マネジメントとボートフォリオ管理を巡る論点
1 歴史的な試行錯誤の産物としての商社ビジネス・モデル
2 「攻め」のリスク・マネジメントとポートフォリオ管理への変化
3 経営の導入との関連
3 商社の事業・収益基盤のグローバル分散を巡る論点
1 「世界企業」への道
2 商社ビジネス分析における世界経済構造変化への配慮の重要性
4 本書の構成

第2部 総合商社のビジネスモデル
第1章 「総合事業会社」モデルとその問題点
1 伝統的な総合商社ビジネス
2 現在の総合商社ビジネス
1 ビジネス・モデルの転換
2 「総合事業会社モデル」
3 検証
1 総合商社全般の収益構造の推移
2 総合商社各社の収益構造の相違
第3章 “Value Chain Design”モデル
1 “Value Chan Design”モデル
1 三菱商事によるモデル説明
2 自動車のサプライ・チェーンにおける”Value Chain Design”
2 “Value Chain Design” モデルの射程
1 “Value Chain Design”モデルの適用条件
2 “Value Chain Design”モデルの親和的な「商流」
3 “Value Chain Design” モデルは三菱商事的?
3 商社各社により普遍的な「ビジネス・モデル」
1 伊藤忠商事のカンパニーの成長戦略
2 “Value Chain Design” との共通点と相違点
4 まとめ ~「サプライ・チェーン」と商社ビジネス~
第4章 総合商社と投資会社の比較
1 商社ビジネスにおける事業投資の位置づけ
2 外国投資家の総合商社観~なぜ外国投資家は投資会社との比較にこだわるのか〜
3 投資会社に優る収益率を上げる総合商社
1 投資会社の収益率
2 総合商社のROEの推移
4 総合商社に対する投資家の冷静な評価
5 まとめ
第5章 “Value Chain Design” 私論
1 “Value Chain Design” の前提とする市場
2 新興国市場における事業展開
3 「世界企業」化に伴うビジネス・モデルの変換
4 企業活動の多国籍化とビジネス・モデル
補論:総合商社と資源会社との比較
1 資源・エネルギー部門の好調
2 資源会社との相違点
1 資金調達力の劣後
2 資源開発の制約
3 配当の制約
4 その他
3 非資源会社として健闘する総合商社

第3部 優良会社(“Excellent Company”)
第1章 バブル崩壊後のパラダイム転換
第2章 バブル期の企業経営
1 バブル期の企業経営
1 1986~1990年の企業業績
2 「含み益経営」の罠
3 企業の資産取得競争を支えた背景
2 商社経営
3 三菱商事の主要指標の推移
第3章 「バブル崩壊」後の財務体質改善と収益基盤再構築の取り組み
1 「バブル崩壊」に伴うビジネスモデル転換
1 企業収益・財務の急激な悪化と進行
2 「縮み志向」の経営への転換
3 収益基盤の再構築
2 リスク・マネジメントとポートフォリオ管理
1 個別案件対応型リスク・マネジメントの限界
2 「縮み志向」の経営時代のリスク・マネジメント
3 リスク・マネジメント事例
1 三菱商事のポートフォリオ管理
2 伊藤忠商事のポートフォリオ管理
第4章 1990年代後半の”Corporate Governance”改革
1 長期戦化した財務体質改善
2 グローバル・スタンダード経営
3 総合商社の米国型経営への対応
第5章 2000年代前半の「リストラ」成功と「企業統治」改革
1 海外投資家の所有比率の向上が後押しした企業統治改革
2 収益構造の再構築の前提としてのリストラ
1 不良資産償却による資産圧縮
2 具体的な財務体質の改善状況
3 企業統治への米国型経営スタイルの導入
第6章 2000年代の”Excellent Company”改革
1 2000年代の”Excellent Company”
2 「攻めの経営」と”Portfolio”管理の展開
1 「積極投資」時代の「ポートフォリオ管理」の課題
2 個別事例1「三菱商事におけるポートフォリオ管理」
3 個別事例2「伊藤忠商事におけるポートフォリオ管理」
4 三菱商事と伊藤忠商事のポートフォリオ管理の相違
第7章 結び

第4部 グローバル経営~新興国台頭と「世界企業」への道~
第1章 グローバル・ビジネス
1 総合商社のグローバル・ビジネスの変質
2 長期間に及んだグローバル・ビジネスの転換
3 第4部の構成と狙い
第2章 1990年以降の内外経済の構造転換~2000年代の総合商社のグローバル展開を用意した経済環境の変化~
1 1990年代の世界経済の構造転換
1 ASEAN を「世界の工場」とする生産ネットワーク
2 総合商社におけるグローバルな商流・物流の構築
2 2000年代の世界経済の構造転換
1 日米欧三極から米欧中三極への世界貿易の構造転換
2 「東アジア生産ネットワーク」の変容
3 総合商社におけるグローバルな商流・物流の再編
3 国内市場の停滞と新興国市場の胎動
1 長期デフレと高齢化により成長性を喪失した国内市場
2 海外市場のビジネス・チャンスの拡大
3 総合商社ビジネスの変化
第3章 三菱商事の海外戦略
1 事業基盤再構築にフォーカスした「MC2003」
2 「INNOVATION 2007」~製造業のグローバル展開と中国台頭への対応~
3 「INNOVATION 2007」期間中の変化~国内成長停滞への懸念と「グローバル成長の取込み」への軸足シフト開始~
1 地域戦略の横串化
2 国内成長からグローバル成長への重心移動
4 「INNOVATION 2009」における主役交代~新規産業待望からグローバル・ビジネスへ~
1 グローバル成長の取込みに向けた取り組み
2 リーマン・ショック後も維持されたグローバル成長の取込み戦略
5 「中期経営計画2012」~健全性・効率性に配慮した積極策~
1 ポートフォリオ・マップ上の地域軸の明示
2 新規成長分野もグローバル市場の成長分野にフォーカス
3 新興国等の成長の取込みに舵を切った投資計画
4 積極的な海外事業展開状況
第4章 伊藤忠商事の海外戦略
1 財務・収益基盤の再構築の中での中国・北米戦略の模索
2 「Frontier-2006」~連結純利益の50%を海外で稼ぐことを目標化~
3 「世界企業」を経営理念に打ち出した「Frontier+2008」
1 収益のグローバル分散とビジネスの現地化を目標に
2 北米・中国・アジア市場に注力しアジア大の取引拡充へ
4 海外展開を加速化させた「Frontier e2010」~リーマン・ショック後の海外事業を中心とした業績回復~
5 「Brand-new Deal 2012」~新興国に限定しないグローバルな活動を目標に~
第5章 公表数値による検証
1 伊藤忠商事の海外事業状況~道半ばの世界企業化~
1 連結純利益の6割台半ばに達した海外事業損益
2 売上高・収益より見た海外事業のウェイト
3 純利益・商取引のグローバル分散する「世界企業」へ
2 三菱商事の海外事業状況~国内市場との太い結びつきに立脚する収益構造〜
3 住友商事の海外事業状況~事業間だけでなく地域間にも貫徹されたポートフォリオ管理~
1 地域リスク分散を重視した基礎収済のグローバル分散
2 6割台を維持する国内収益比率
3 リスク分散,事業ポートフォリオのバランスを重視するグローバル戦略
第6章 各社各様の「世界企業」への道

おわりに
参考文献

榎本俊一 (著)
中央経済社 (2012/11/7)、出典:出版社HP