5Gビジネス (日経文庫)

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5Gとビジネスやテクノロジーとのあり方

5G通信の今までの通信方式との違い、世界の状況はどうなのか、何に使えるのか等について、単に5Gのみの視点に留まらず、最先端のテクノロジーやビジネスの在り方と絡めて解説しているところが、特徴的な一冊です。とても読みやすい本で、5Gの入門書としてオススメします。

亀井 卓也 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2019/6/15)、出典:出版社HP

まえがき

2020年の春に、いよいよ日本における5Gサービスが開始されます。通信の大変革をひかえ、さまざまなメディアで「5G(ファイブジー、第5世代移動通信システム)」という言葉を目にすることが多くなっています。本書はこの5Gについて、技術や通信ビジネスにくわしくない人にもわかりやすく理解いただけるように、かみくだいて解説したものです。

5Gは、「スマートフォンが速くなる」「映画が数秒でダウンロードできる」など、現在の4Gよりもさらに高速な通信として広く認識されています。ですがそれは、5Gの技術的革新の一部にすぎません。5Gはスマートフォンやタブレットに限らず、われわれの生活をとりまく幅広いシーンにおいて活用される可能性を秘めています。

また、5Gは生活シーンだけでなくビジネスシーンへの幅広い活用も期待されています。さまざまな産業・業界の企業が、自社のビジネスを5Gでどう進化させるかを考えているのです。あらゆるビジネスパーソンに、5Gが事業機会をもたらすことでしょう。

本書では、5Gに関する先進的な取り組み事例をとりまとめ、われわれのライフスタイルやビジネスが5G時代にどのように変わっていくのか、その一端をご紹介しています。具体的な説明に入る前に、プロローグでは5G時代のライフスタイルを予想し、架空のケースとして紹介しました。

第1章では、5Gへの基本的な理解を深めるべく、移動通信の歴史をひもとき、技術革新の具体的な内容をできるだけわかりやすく説明しました。日本と世界における5Gの現状や、今後の見通しについても触れています。

第2章では、5Gがわれわれのライフスタイルをどう変えるかについて、先進事例の紹介を通じて見ていきます。スマートフォンの進化だけでなく、エンターテインメント、モビリティ、医療・介護といった生活を取り巻くサービスがどう進化するのか。そしてすべてのサービスを底上げする認証やパーソナライズがどうなっていくのかについて取り上げています。都市がどう変わるのか、スマートフォンの次のパーソナルデバイスは何なのかといった点についても見通しました。

第3章では、5Gがビジネスに与える影響を、産業・業界ごとにまとめています。電気・ガス・水道といったユーティリティ産業や製造業、防犯・警備といった公衆安全、そして公共交通産業がどう変わるかについて紹介しました。また、5Gは通信業自身にも変化をもたらします。特に重要なのが「B2B2X」へのビジネスモデルの転換です。これについても、くわしく解説を加えています。

第3章までは5Gのもたらすメリットに光をあてていますが、第4章は5Gの影の側面、つまりどのようなリスクがもたらされるかについて取り上げています。そして第5章では、5G時代に向けてわれわれは何をすべきか、という具体的な処方箋を提案しています。本書では5Gのみならず、その他の通信技術や、業界のホットトピックも随所にちりばめています。通信業界を理解し、その影響を幅広く知るための入門書としても活用できると思います。

なお本書は、2019年4月時点での情報をもとにしています。また、本書で取り上げた各種事例において特に出所の明記がないものは、各社の発表および公式ホームページを参考にしました。

2019年6月
亀井 卓也

亀井 卓也 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2019/6/15)、出典:出版社HP

目次

プロローグ
202X年、ある日の風景

第1章 5Gが話題になる理由
1 移動通信システムは、こう変わった
2 5Gを支える技術革新
3 5Gをめぐる国際競争
4 「使い方の開発」で先行する日本

第2章 5Gが変える生活
1 スマートフォンの革新
2 エンターテインメントに新たな体験をもたらす
3 「コネクテッドカー」への革新
4 医療・介護現場での変化
5 認証とパーソナライズの革新
6 スマートシティからソサエティ5.0へ
7 スマートフォンの次に来るもの

第3章 ビジネスをどう変えるのか
1 5Gが業界・産業に与えるインパクト
2 エネルギー・ユーティリティ産業の革新
3 工場が変わる、活用現場も変わる――製造業の革新
4 空から、陸から監視。AIも導入――進化する公衆安全
5 乗り物から「モビリティサービス」へ――公共交通産業の革新
6 キーワードはB2B2X――通信業界自体も変わる

第4章 5Gがもたらすリスク
1 「高すぎる期待」が失望に変わる危険性
2 プライバシー情報を抱えるリスク
3 広がるスコアリング
4 都市と地方、地域間での「デジタル格差」が拡大
5 5Gへの移行が進まないリスクも

第5章 5G時代にわれわれは何をすべきか
1 主役の交代
2 基本となるアーキテクチャ
3 センターB事業者のとるべきアクション
4 XaaS型のサブスクリプションサービスへ州
5 ビヨンド5G、そして6G

亀井 卓也 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2019/6/15)、出典:出版社HP

プロローグ202X年、ある日の風景

本書では、5Gとは何なのか、そして5Gによってわれわれの生活やビジネスがどう変わるのかを解説しています。ですが、その詳細に入る前に、5Gサービスが普及した先の未来が、いったいどのような社会になっているのか、ちょっとのぞいてみることにしましょう。

都市在住、彩(20代)の場合

今日は土曜日、仕事がお休みの彩は、友達と好きなアーティストのライブに行く約束をしています。少し早めに家を出て、買い物をしてから待ち合わせに向かうことにしました。平日は電車通勤ですが、スマートフォンのアプリで乗り換え検索をしてみると、「ライブ会場近くのショッピングモールで駐車場の空きがあります」「自宅のマンションに備え付けのカーシェアリングサービスが1台使えます」との回答結果。

「じゃあ、今日は気分転換にクルマでショッピングモールまで行こうかしら。ちょうど買い物もしたかったし」と、自分で運転してショッピングモールに向かうことにしました。

彩の利用するカーシェアリングサービスには「1day利用」の保険が付帯していますが、彩は運転が丁寧なので保険料が減額され、カーシェアリングサービスを安く使えるのでお気に入りです。今日の運転でまた保険料が安くなりました。

5G時代の乗り換え検索サービスは、電車やバスだけでなく、カーシェアや自転車シェア、そしてマイカーまでが対象になり、目的地までの移動手段が最適化されます。また、この例のような保険が可能となるのは、運転中の多様な情報をクルマが吸い上げることができるからです。

ショッピングモールに到着しました。入り口のゲートで彩のスマートフォンのアプリが自動認証されます。ウインドウショッピングを楽しんでいると、本屋の前に置かれたディスプレイが反応し、彩が毎月買っているファッション雑誌の特集映像が流れます。「あ!今月買うの忘れてた」と、急いで本屋に入りその雑誌を手に取ると、そのまま本屋を後にします。

5G時代には認証が高度化し、自動認証や常時認証が可能となります。この例では、入り口のゲートで認証しているため、レジで支払いをする必要はありません。アプリに登録したクレジットカードから自動的に引き落とされることになります。

ショッピングモールを後にして、ライブ会場の入り口ゲートで友達の麻衣と落ち合い、会場に入ります。もちろんスマートフォンアプリに登録されたライブチケットが自動認証されています。会場に入ると、思ったより広くて、彩は買った座席がどのエリアにあるかわかりません。あたりをきょろきょろ見回していると、スマートフォンアプリに通知が。「あなたの座席は反対側の入り口から入ってすぐのところです」とのこと。彩と麻衣は反対側から入りなおし、自分の座席を見つけ、無事にライブの開始に間に合うことができました。

認証の高度化がもたらすメリットは多岐にわたります。この例では、ライブ会場に設置されたカメラが彩や麻衣の挙動を検知し、「迷っている」と判断し、2人のスマートフォンに正しい座席情報を送信したのです。

そしてライブ開始。しばらく2人は楽しんでいましたが、ダンスが見せ場の楽曲が始まり、彩はもっと近くで見たくなりました。

「もっと近くで見られたらいいのにね」と彩が言うと、麻衣はバッグから二つ折りにされたスマートフォンを取り出し、開きます。「座席の移動はできないけど、これで見られるよ」と、彩にスマートフォンの画面を見せます。そこにはライブステージをすぐ近くから撮影している映像が流れています。彩はこの楽曲だけは、麻衣から借りたスマートフォンで楽しむことにしました。

高速大容量通信を可能とする5Gでは、複数のカメラによるライブ映像をストリーミングで配信することも可能です。ステージ上を撮影するカメラによって、ライブ会場にいながらにして、多様な視点で楽しむことが可能となるのです。
また、高精細な映像を楽しむのには大画面のディスプレイが最適ですが、それを「折りたたみ型」とすることで携帯性を高めているスマートフォン端末が登場しています。

そしてライブは終わり、興奮冷めやらぬ2人はショッピングモールのカフェバーに入って感想を言い合います。終わったばかりのライブ映像を麻衣の折りたたみ型スマートフォンで流しながら、お気に入りの瞬間を振り返ります。そろそろ帰ろうかとライブ映像を終了させると、今日ライブをしたアーティストのファンが好む、他のアーティストのライブがレコメンドされます。麻衣は「来月はこのライブ行こう!」と彩を誘います。彩も大賛成。彩がライブを自分のスマートフォンのスケジュールに登録すると、自動的にカーシェアリングも予約されました。

レコメンデーション機能もますます高度化します。レコメンドされたサービスを利用すると、その他のサービスも連動し、利用者の利便性を高めます。そろそろ帰宅の時間です。彩はあまりの興奮に、カフェバーでお酒を飲んでしまいましたので、電車で帰ることにしました。駐車場に停めているクルマは、お酒を飲んでいない麻衣が自宅まで乗って帰ることになりました。彩は「じゃあまた来月のライブでね」と麻衣と別れました。家に着いた彩は眠る準備をして、買った雑誌をベッドで開き、パラパラと眺めます。スマートフォンに「何か音楽をかけて」と言うと、来月ライブに行く予定のアーティストの楽曲が流れてきます。もう夜も遅いので、リラックスできる曲調のものだけが選定されています。「来月のライブが楽しみだわ」と、彩は眠りにつくのでした。

認証の高度化によって、カーシェアのようなシェアリングサービスは、より柔軟性が高まります。また、多様なサービスが認証によって紐づくことで、あるサービスで選択したことが、別のサービスを最適化します。利用者の選択だけでなく、時間や天候、寝室という場所、といった周辺環境情報もサービスの最適化に考慮されるようになります。

工場勤務、健太(40代)の場合

自動車部品工場で、生産管理の責任者を務める健太は、自宅からマイカー通勤をしています。自宅近くのインターチェンジからいつものように高速道路に乗り、しばらく走っていると前方が詰まってきたので、追い越し車線に出ようとすると、後方から迫るクルマを検知して、「ピピピ!後方からクルマが近づいています。車線変更は控えてください」と、アラートが出されました。

健太のクルマはドアミラーがなく、代わりにカメラで後方を撮影し、その映像をフロントガラスに投影して後方を確認することができる仕様となっています。投影される後方の映像には、近づくクルマの映像に加えて、健太のクルマまでの距離、車両速度、あと何秒で追いつくかが表示されています。建太のクルマは比較的遅いスピードで走っていたので、車線変更をすると接触していたかもしれません。「あぶなかった。ありがとう」と健太はつぶやきました。

5Gでは、クルマに搭載されたカメラが撮影する映像をリアルタイムで伝送することも可能です。ミラーの代替として単純に後方を表示するだけでなく、そこに付加情報を重ねてドライバーにフィードバックすることにより、安全運転支援を強化します。

高速道路から一般道路に降り、しばらく走って交差点に入りました。健太の前方を走るクルマが左折しそうなので、健太はそれを右に避けて直進しようとしたところ、「ピピピ!対向車線のバイクが右折します。注意して直進してください」と、またクルマからアラートが出されます。健太のクルマのフロントガラスに、前方車両のさらに前方の映像が投影されており、対向車線から右折してくるバイクの姿が見えます。前方車両がカメラで前方の映像を撮影し、それを健太のクルマに送信することで、健太は前方車両のさらに前方の状況を把握することができるのです。「まったく、あぶないバイクだな」と思いながら、健太は職場へと向かいます。

すべてのクルマが「つながるクルマ」となることで、他のクルマが撮影した映像、取得したデータを、自分のクルマに活用するといった応用も可能となります。工場の駐車場に到着した健太は、クルマを自動運転モードに切り替えます。今日のスケジュールを確認している間にクルマは駐車スペースに到着し、健太はクルマを降りて事務所に立ち寄り、着替えて工場内に入ります。車道で完全自動運転を実現するには時間がかかりますが、駐車場内など、限定的な空間においてはより早いタイミングで実現されるでしょう。5Gでは、特定のエリアや建物内という限定的な環境において、誰もが「通信事業者になれる」という仕組みも用意されています。

工場内の生産ラインはすべて自動化されています。ロボットアームによる協調作業はスムーズで、逐次、海外の本社によってクラウド上の制御アルゴリズムが最適化されています。健太の仕事は国内における発注状況を踏まえて、生産量をコントロールすることです。顧客である自動車メーカーからの過去の発注だけでなく、自動車自体の需要や景気動向をAI(人工知能)が予測して最適生産量を算出してくれます。健太はAIの出した数値に加え、取引先と普段接している中で想定される見込み発注量を勘案して最終判断し、生産ラインに反映させます。工場内のさまざまな機器が通信するようになると、品質の異なる複数の通信が同時に発生します。5Gにはそのような状況を管理するのに最適な技術が組み込まれています。

午後になり、今日の生産ラインへの指示は大体メドがついたので、生産ライン管理の業務を部下に任せ、健太は営業の翔太とともに、取引先を訪問することにしました。取引先は駅前なので、電車で向かいます。取引先は健太が生産管理する部品の品質を高く評価し、さらなる大型契約を獲得することができました。

取引先からの帰りの電車の中、翔太は健太に「大型契約のお祝いに、一杯いきますか!」と誘います。健太はクルマでの出勤でしたが、スマートフォンアプリで調べると、次の駅からバスが健太の自宅近くまで走っています。健太は「そうだな、行くか。でも次の駅で飲めると家に帰りやすくて助かるよ」と答えると、電車の中に設置された広告配信用のディスプレイが、健太たちを検知して、次の駅の近くに新しくできた居酒屋の紹介映像を流しました。どうやらちょうど空き席もあるようです。翔太は自分のスマートフォンで、その店を予約します。

いまの電車内ディスプレイで配信される広告は、あらかじめ決まった動画を繰り返し再生するものですが、5Gが組み込まれることで、周辺環境情報を踏まえたより精度の高い広告を表示できるようになります。

電車を降りると、店を予約した翔太のスマートフォンが居酒屋までの道をナビゲーションしてくれます。居酒屋で乾杯を繰り返すうちに、健太のバスの最終出発時間ギリギリになってしまいました。2人は大急ぎで店を出て、健太はバスに飛び乗ります。もちろん、翔太が予約したときに認証されているので、会計は自動で引き落とされます。「助かったよ」と健太は翔太にメッセージを送り、帰路に就いたのでした。

アクティブエイジング、源(70代)の場合

長く勤めた会社を定年退職した源は、都心で暮らす息子夫婦からの隣居の誘いを断り、地方で妻と2人で暮らしています。長く歩くと少し疲れるくらいで、心も体も健康、アクティブな生活を楽しんでいます。若いときからの趣味だったカメラをスマートフォンに持ち替えて、今日もカメラ同好会の集まりに出向きます。外出中に移動するのには電動車イス型のパーソナルモビリティを使っています。パーソナルモビリティに乗った源は、「いつものコミュニティセンターまでナビをして」と言いました。パーソナルモビリティは「承知しました」と、自宅を出発します。「右に曲がります」「信号が赤なので、停止します」というようにコミュニティセンターまでのナビゲーションをしながら、自動で駆動するパーソナルモビリティに、「はい、お願い」と源は応えるだけです。

5Gによって電動車イスのようなパーソナルモビリティが高度化します。まずはナビゲーション、そして操縦支援も可能となるでしょう。同じころ、源の息子である真一のスマートフォンに「源さんがコミュニティセンターに向けて自宅を出発しました」という通知が届きます。源のパーソナルモビリティは真一からのプレゼントで、真一は源に、「このパーソナルモビリティは、親父が使うときや、万が一転倒したときなどに、俺のスマートフォンに通知してくれるんだ」と伝えていました。源としても、離れて暮らす息子がパーソナルモビリティを通じて見守ってくれることをありがたく思っています。

遠隔からの見守りは5Gでなくても可能ですが、パーソナルモビリティが通信機能を持つことによる便益といえるでしょう。利用者の承諾や、見守りに必要な最低限の情報のみ通知するといった、プライバシーへの配慮が重要なテーマとなります。

源はコミュニティセンターに到着し、カメラ同好会の仲間と、撮影した写真を見せ合い、評論し合っています。源はスマートフォンを腕時計型のウェアラブル端末から操作して、一風変わった構図の写真を撮るのにハマっています。このウェアラブル端末は腕時計やスマートフォン操作の機能だけでなく、常に源の心拍や心電図をかかりつけの病院に伝送する機能を持っています。何かあった場合には源だけでなく真一にもアラートが届くようになっているのです。以前、ウェアラブル端末からの情報が異常値を示した際に、病院からのアラートに対して源から応答がなく、真一が源に電話してもつながらなかったため、真一は救急医療を依頼しました。源の位置情報をもとに救急車が駆けつけ、事なきを得たということもあり、源はそれ以来ウェアラブル端末をいつも身につけているようにしています。

ウェアラブル端末はスマートフォンとは違う役割を持つことで普及する可能性があります。5Gでは心拍や心電図といった情報を医療機関とリアルタイムに共有することができますので、万が一の際に速やかに検知することができます。

真一が「親父は今日もカメラ同好会か。相変わらず元気だな」と安心していると、息子のタカシが駆け寄ってきます。タカシは「パパ、今日の野球の試合、どっちが勝つかな」と、今夜の野球観戦を楽しみにしています。真一の家族は源、真一、タカシと3代にわたる野球ファンなのです。カメラ同好会の仲間との写真談義に花を咲かせていた源は、スマートフォンに真一からのメッセージが届いていることに気づきました。メッセージには「今夜の試合、18時からだから、遅れずに準備していてくれよ」とあり、野球の試合があったことを思い出します。源は急いで自宅に戻ることにしました。

自宅に到着した源はオーディオルームに入ると、ソファに腰をかけVRヘッドセットを頭に装着しました。VR(Virtual Reality:仮想現実)によって、自宅にいながらまるでスタジアムにいるかのような感覚で野球観戦を楽しむことができます。もうすぐ18時、試合開始に間に合いました。VRは通信するデータ量が大きく、またリアルタイム性が必須であるため、5Gならではの利用用途といえるでしょう。

一方、真一とタカシはスタジアムに到着しています。タカシが「おじいちゃん、準備できたかな」と言うと、真一のスマートフォンに「VRヘッドセットが準備されました」と通知が来ます。「うん、大丈夫だ」と真一が言うと、真一とタカシは客席にセットされたタブレット端末を起動します。このスタジアムではバッターボックスをあらゆる角度から撮影していて、手元のタブレットで自分の好きな角度からの映像を見られたり、見逃したシーンをもう一度見られたりといったことができるようになっています。真一とタカシの声を源に届けたり、源の声を真一やタカシに届けたりすることもできます。

源も真一たちも、試合開始の準備が整いました。そしていよいよ、プレイボールです。源、真一、タカシの応援するチームからの攻撃です。先頭打者がバッターボックスに立ち、第1球が投げられたと思ったら、なんとホームラン!興奮するタカシの声に、源も思わず声が出ます。源は真一やタカシとの野球観戦を、心ゆくまで満喫したのでした。5G時代には、一方向のストリーミングにとどまらず、双方向のインタラクティブなコミュニケーションも可能となるでしょう。

いかがだったでしょうか。5Gがもたらす未来の一端を、3人のストーリーを通じてご紹介しました。4Gまでと同様に、5Gもまた、誰も予想していなかったサービスを生み、われわれの生活やビジネスを変えていくことになるでしょう。5Gの仕組み、そして5Gがどのような変革をもたらすのかを、第1章からじっくり見ていきましょう。

亀井 卓也 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2019/6/15)、出典:出版社HP