「発酵」のことが一冊でまるごとわかる

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発酵の幅広い活躍を解説

発酵食品には、味噌、醤油、納豆など日本古来の食品から、パン、チーズ、ヨーグルトなど世界中に様々なものがあります。日本酒やビールなどの酒類も全て発酵食品です。本書では、本書では、化学者である著者が、炭水化物やタンパク質、微生物などの基礎知識から始まり、調味料、野菜、魚、肉、乳製品などの「食」と、「衣・住」にまつわる発酵の活躍を優しく解説していきます。

齋藤 勝裕 (著)
出版社 : ベレ出版 (2019/1/17)、出典:出版社HP

はじめに

健康への関心が大きくなってきていることもあり、「発酵」への注目度も高くなっています。発酵とは、微生物が行なう行為のことです。微生物は食品に作用し、それを変化させて「発酵」を起こしますが、「腐敗」という面もあります。
発酵と腐敗の違いは「人間の役に立つかどうか」で決まります。食品の品質を悪化させ、有害な物にするのが腐敗です。それに対して匂いや味を向上させ、栄養分を増加させるのが発酵です。
微生物には多くの種類がありますが、発酵に関与するのは主に麹、酵母、乳酸菌です。麹はでんぷんなどを分解してグルコースにし、酵母はグルコースに作用してエタノールと二酸化炭素にします。お酒はこのエタノールを利用したものであり、パンは二酸化炭素を利用したものです。
乳酸菌というとヨーグルトを思い出しますが、日本人に欠かせないお漬物も乳酸菌が無ければ、ただの「野菜と塩水の混合物」にすぎません。お漬物にあのような香りと味があるのは、乳酸菌による乳酸発酵のおかげなのです。
乳酸菌はお酒にも作用します。日本酒で「山廃仕込み」などというのは、乳酸菌の種類を指しています。乳酸菌のおかげで酵母は雑菌に邪魔されることなく、アルコール発酵をすることができるのです。このように、乳酸菌は多くの食品に作用しています。
実は、発酵は食品に限ったものではありません。麻布をつくるにも、和紙をつくるにも、発酵が利用されています。植物を分解して繊維質だけをとり出すには、発酵を用いるのが一番よいからです。
それだけではありません。陶器などの焼き物にも発酵が利用されています。陶器は粘土を成形して窯で焼いたものですが、この粘土は各地の粘土を混ぜて保存し(寝かせ)、成形しやすく焼いて、味のある粘土とします。この保存している間に、粘土に含まれる有機物が発酵し、粘土の質を向上させるのです。もちろん、焼成すれば微生物は消滅します。

発酵というと、すぐに食品分野、農業分野を考えがちですが、現代の発酵は「発酵科学」として科学産業面にまで広がろうとしています。たとえば、発酵に伴う発熱は産業エネルギーあるいは地域暖房に使われようとしています。枯渇が心配されている石油さえ、微生物の力によって二酸化炭素からつくられようとしています。プラスチックの原料も、微生物の生産する乳酸などの有機物を用い、自然に還りやすい性質のものもつくられつつあります。
本書は、このような素晴らしい発酵の世界を科学的な見地からご紹介する試みです。お読みいただいたら、発酵の有用さ、素晴らしさに目を見張り、そのような働きをしてくれる微生物にいとおしささえ、感じられるかもしれません。
最後に本書の製作に多大なご努力を傾けてくださったベレ出版の坂東一郎氏、シラクサの畑中隆氏、並びに参考にさせていただいた書籍の著者、並びに出版社の方々に感謝いたします。

齋藤 勝裕

齋藤 勝裕 (著)
出版社 : ベレ出版 (2019/1/17)、出典:出版社HP

CONTENTS

はじめに

第1章 微生物がもたらしたプレゼント、それが発酵食品だ!
1-1 発酵食品に囲まれている生活
———味噌汁、パン、お酒・・生活を潤す発酵食品たち
1-2 発酵食品の歴史
———最初は、偶然が生んだ産物だった
1-3 微生物とは何なの?
———バイ菌? ウイルス? 細菌? プランクトン?
1-4 微生物はどこにいるの?
———限られた場所に生きる生物
1-5 微生物の種類と働き
———食品を分解することで「人の役」に立っている

第2章 発酵って、そもそも何だろう
2-1 麹菌、酵母菌、乳酸菌、納豆菌、酢酸菌
———発酵食品をつくる微生物たち
2-2 発酵のしくみは?
———2つの化学反応が起こっている
2-3 腐敗、食中毒と微生物
———何が原因で起きるのか?

第3章 食品の成分を科学の目で見る
3-1 「炭水化物の種類と構造
———単糖類、二糖類、多糖類に分けてみると
3-2 タンパク質の種類と構造
———自然界は「おいしい」ものだけを選択してつくる?
3-3 タンパク質の立体構造
———片方はよい味、片方は味がない?
3-4 タンパク質と酵素
———酵素が無ければ始まらない
3-5 油脂の種類と構造
———脂肪酸の分子構造の違いに由来

第4章 味覚と調味料の関係を科学の目で見る
4-1 「味」は何で決まる?
———5つの基本味とは?
4-2 味を決める5つの要件
———甘味、塩味、酸味、苦味、そして旨味
4-3 味覚の科学
———「味の違い」が数値でわかる?
4-4 味の抑制効果、対比効果とは?
———調理で味が変わるしくみ

第5章 味噌・醤油……..発酵調味料をもう一歩知りたい
5-1 発酵調味料の歴史をひもとくと
———その主役は常に「大豆」だった
5-2 大豆の栄養素と発酵
———発酵食品は健康維持にどう役立つか?
5-3 味噌の発酵はどうなっているのか
———色の違い、趣の違い、そして味噌ができるまで
5-4 醤油、お酢の違いは?
———濃口、薄口、再仕込み、そして米酢、穀物酢?
5-5 世界の発酵調味料
———日本ではちがう酢と醤とはどんなもの

第6章 野菜の旨味を引き出す発酵のちから
6-1 植物の構成要素
———炭水化物は植物がつくる太陽エネルギーの缶詰
6-2 アルコール発酵
———パンづくりにも、発酵利用するものとしないもの
6-3 乳酸発酵でできるお漬物
———他の細菌を死滅させる殺菌作用
6-4 「善玉菌、悪玉菌って?
———乳酸菌の働きで腸内環境をよくする
6-5 野菜の発酵食品のいろいろ
———乳酸発酵した食べ物は腐敗の心配がない?

第7章 魚介類の旨さは発酵から生まれる
7-1 魚介類の発酵って?
———旨味が確実に増す
7-2 日干しと塩蔵という発酵方法
———経験と知恵を凝らした発酵食品の数々
7-3 世界に誇る「鰹節」の発酵
———鰹節のつくり方、トラフグ毒の除去
7-4 熟れ鮨の発酵
———自家製はご用心

第8章 肉の旨さと発酵にはどんな関係があるのか
8-1 熟成と発酵はどう違うか?
———自家酵素か、他人の酵素かの違い
8-2 生ハムの熟成
———発酵させるのは「生ハム」と「中国ハム」のみ
8-3 発酵ソーセージ
———ドライとセミドライがある
8-4 発酵肉食品のいろいろ
———発酵ソーセージの変形がほとんど

第9章 乳製品の発酵食品にはどのようなものがあるか
9-1 牛乳の成分は?
———乳糖を分解しておく
9-2 ヨーグルト
———牛乳がダメでも、ヨーグルトなら大丈夫
9-3 乳の特定成分を発酵させたもの
———発酵クリーム、発酵バター、ナチュラルチーズ

第10章 発酵されたお茶・紅茶・お菓子はどうつくられるか
10-1 お茶、紅茶、ウーロン茶
———酸化発酵をどの程度までさせているか?
10-2 珈琲
———コピ・ルアクは腸内発酵による最高級コーヒー?
10-3 発酵和菓子
———酒まんじゅう、桜餅の葉っぱ、伝統的な柚餅子
10-4 発酵洋菓子
———バニラの香り、チョコレートも発酵によって誕生
10-5 タバコの発酵?
———発酵したままの葉っぱを巻いたのが「葉巻」

第11章 「お酒と発酵」の関係を探る
11-1 ワインと発酵
———ポリフェノールを含む醸造酒
11-2 日本酒と発酵

齋藤 勝裕 (著)
出版社 : ベレ出版 (2019/1/17)、出典:出版社HP