発酵―ミクロの巨人たちの神秘 (中公新書)

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微生物の神秘的世界をのぞく

嗜好食品から医薬品、洗剤の製造、抗生物質、ビタミン、微生物タンパク質の製造まで、発酵の作用は広く利用されています。本書では、世界各地の発酵文化に今日のバイオテクノロジーの原点を探り、目に見えない微生物の神秘的世界を宇宙スケールで捉えていきます。発酵についてあまり知らない人でもじっくり読めば理解できる内容になっています。

小泉 武夫 (著)
出版社 : 中央公論新社 (1989/9/1)、出典:出版社HP

はじめに

「発酵」とは英語でfermentationである。これはラテン語のservereから生まれたもので、その意味するところは「湧く」である。おそらく、アルコール発酵の際に生じる炭酸ガスがしなって盛り上る現象をさして、こう名付けたのであろう。
だが、発酵とはそんなに簡単なものばかりをさすのではなく、今日では非常に広範囲な微生物の応用を総称した意味に使われている。その今日的発酵を筆者なりに定義すると、細菌類、酵母類、糸状菌(カビ)類、藻菌類などの微生物そのものか、その際類が有機物または無機物に作用して、メタンやアルコール、有機酸のような有機化合物をしたり、炭酸ガスや水素、アンモニア、硫化水素のような無機化合物を生じ、なおかつその現象が人類にとって有益となること
となる。
したがってその発酵作用を応用した工業の領域のなかには、私たちの身近にみられる酒類やアルコールの醸造、発酵食品産業のみならず、有機酸、アミノ酸、核酸関連物質、抗生物質、生理活性物質、糖関連物質、酵素製剤、微生物タンパク質などの発酵工業も含まれ、またそのような工業的領域を超えて、人間をとりまく自然界における環境浄化という重要な微生物活動もまた、発酵の分野に入ることになる。もしも、人類社会にとって発酵という微生物の巨大な恩恵がなかったならば、人類はもちろんのこと、動物や植物までもこの地球上に存在しないことになるのは、本書を読むことによって十分に理解されることだろう。
とかくこれまで「発酵」というと、酒やチーズの製造といったごく限られた狭い範囲内でとらえられてきたが、本書のねらいとするところは、もっと大きな視点からこれを見つめることにある。読者がそこから、目にも見ることのできない微細な巨人たちの驚異的世界を覗きこみ、それによって発酵というその仕事ぶりの意義を感じ、そして今日までその発酵を発展させてきた人間の知恵の深さや発想のすばらしさなどもあわせて把握されれば、本書の役割は十分果たされたものといえよう。

一九八九年九月
小泉武夫

小泉 武夫 (著)
出版社 : 中央公論新社 (1989/9/1)、出典:出版社HP

発酵・目次

はじめに

第一章 地球と微生物
地球の誕生
生命の誕生
地球以外に微生物はいるのか
地球上での微生物の分布
発酵微生物の地球的役割
地球上の微生物の数

第二章 微生物と発酵の発見
微生物の発見
微生物の発生をめぐる二つの説
発酵をめぐる二つの説

第三章 発酵技術の進歩
今日的発酵の定義
発酵技術の第一期
発酵技術の第二期
発酵技術の第三期
発酵技術の第四期

第四章 日本人と発酵
日本の酒のはじまり
口噛み酒から麹酒ヘ
奈良と平安の発酵物
画期的、種麹の発明
パスタールを超えた日本人
近世から現代へ

第五章 発酵を司る主役たち
カビ
酵母
細菌
発酵生産物の菌体外分泌

第六章 今日の発酵工業
酒類の醸造およびアルコール類の発酵工業
発酵食品産業
有機酸の発酵工業
アミノ酸の発酵工業
核酸関連物質の発酵工業
抗生物質の発酵工業
生理活性物質の発酵生産
糖類関連物質の発酵工業
酵素の発酵生産工業
微生物菌
体タンパク質の発酵生産
炭化水素からの発酵物の生産
環境浄化発酵
バクテリア・リーチング

第七章 奇跡の発酵
毒抜きとアク抜き
奇跡の「固体発酵」
珍しい発酵嗜好物
染料の発酵
日本各地に伝承された知恵の発酵

あとがき
参考文献

小泉 武夫 (著)
出版社 : 中央公論新社 (1989/9/1)、出典:出版社HP