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【最新 – 農業ビジネスについて学ぶためのおすすめ本 – 農業の現在から将来まで】も確認する
日本一“使える”新規就農本
農業には中長期的なビジョンが不可欠です。いくら瞬間的に稼げたとしても、それだけでは成功とは言えません。最も重要なことは、「いかにして続けていくか」なのです。農業の面白さや難しさは、この一点に集約されていると言っても過言ではありません。本書は、つてもなく、農業に関する知識もそんなにない人に向けて書かれた、農業を始める前の準備本です。
はじめに
この本は、ツテもなく、農業に関する知識もそんなにない人に向けた新規就農本です。2016年の日本の新規就農者は約6万150人。9歳以下の就農者数に限ると2万2050人。でも、きっとそれ以上に、本当は農業に興味があって、でもどこから動いていいかわからない――それがわかりさえすれば、やってみたいという人が、たくさんいるはずです。この本は、そういう人に向けられたものです。
僕は食べる宝石”と謳ったブランド「ミガキイチゴ」を展開する農業生産法人「株式会社GRA」の代表としての経験をもとに、農業経営について全国各地で講演をしたり、テレビ番組『ガイアの夜明け』などをはじめ、マスメディアでもさまざまなことをお話ししたりしてきました。講演を重ねるなかで、「農業をはじめたい」と思っている人が近年増えていることを実感しています。とりわけ、家庭を持つ現役世代が転職して就農を希望しているケースが多いように思います。また、企業が新規事業として農業に取り組みたいと考えるケースも多く、その真剣味も増してきています。
2011年に東日本大震災で故郷が被災したことをきっかけに、僕は株式会社GRAを立ち上げ、宮城県山元町でイチゴを作りはじめました。それまではIT企業の経営をしていて(いまも辞めたわけではありませんが)、農業のことはほとんど何も知らなかったのです。そんな人間が、いざ「農業をやろう」と思ったときにわかったのは「新規就農に関する情報がとっちらかりすぎていて、めちゃくちゃ不便だ」ということです。また、この本に行き着いたみなさんはご存じかもしれませんが、どういうわけか新規就農に関する本は「俺の成功談」やエッセイみたいなものが多いのです。もちろん、成功された先人の発言には、勉強になることも多い。でもこう言ってはなんですが、汎用性がないこともたしかです。
そういう本を書いている人たちは、自ら試行錯誤しながら少量多品目生産や観光農園に行き着き、成功したわけですが、だからといって、その手法は決して万人にすすめられるものではありません。そんなわけで、僕自身が就農にあたって、どこから手を付けていいものかと迷子になりかけた経験があります。無知だったせいで、事前に申請すればもらえた補助金をもらいそこねたりもしました。この本では、僕のような苦労をしなくて済むように、農業をはじめるときに考えるべき手順を整理してお伝えします。あるていどはどんな就農希望者でも使える、汎用性のあるものを提供したいと思っています。
個人にしろ企業にしろ、就農についての不安や疑問(どこから考えればいいのかわからない、も含めて)、およびその解決方法は通じる部分が多いのです。世の中に数ある新規就農本のように、自分の成功体験に基づいて「これをやれ!」とひとつの手法について言い切っておすすめしたほうが、メッセージとしてはわかりやすいのでしょう。僕のように「農業でやっていくには、いろんなルートがある」「自分の望むワークスタイル、生活スタイルを考えよう。自分に合っていなければ、誰かのマネをしてみたところで、苦痛なだけだ」と言うと、歯切れが悪く聞こえるかもしれません。しかし僕は、ひとつのやり方を押しつけるのではなく、この本を読んだ人が「考える手順がわかり、自分で考える力が身につく」ようにしたいのです。それに共感してくれる人に読んでほしいな、と思っています。
もちろん、もう「やるぞ!」という気になっている人だけでなく、もうちょっと手前の「農業やってみたいけど、でもなあ……」という不安を抱えている人もいるでしょう。安定した収入が得られるのか、都会から地方に移住して大丈夫だろうか、といった疑問が典型的なものです。この本では、まずはそうした「よくある疑問」にお答えし、そのあとで、農業をはじめるときに押さえるべきポイントをお伝えします。農業はどんな作物・作型を選ぶのか、どんなふうに働くのかといったことを自分であるていど設計でき、自由度は高いです。
また、声を大にして言いたいのは、他の職業では得られない喜びがたくさんある、ということです。ただもちろん、他の産業に比べてラクな仕事とまでは言えません。思わぬ落とし穴にはまるリスクだってあります。ただし、自分にとってなるべく苦にならない働き方にすることはできますし、ほとんどのリスクは、施策の組み合わせによって下げることができます。そのためには事前に何を準備し、どのようにはじめるかが重要です。就農前の準備によって、その後が大きく変わるのです。また、これから詳しく書いていきますが、農業には中長期的なビジョンが不可欠です。いくら瞬間的に稼げたとしても、それだけでは成功とは言えません。もっとも重要なことは「いかにして続けていくか」です。農業の面白さや難しさは、この1点に集約されていると言っても過言ではありません。
この本を使えば、自分が農業をやりたい理由(やる目的)が確認でき、自分の望むライフスタイルに合わせて選択肢があるていど絞れ、収益のシミュレーションもできる。どのくらい働いて、どのくらいの収入になりそうかがわかるようになる、そんなところまで、読者のあなたをお連れしたいと思います。
それでは、絶対にギブアップしない農業をはじめましょう。
目次
はじめに
第1部 農業についてのよくある疑問と不安
農業って儲かるの?
・農家の「見かけの所得の低さ」に騙されるな
作物を作ったのに、売れなかったらどうするの?
・農業では市場に卸すかぎり「まったく売れない」ことはない
・直販や契約栽培にもそれぞれメリット・デメリットはある
天候が原因で不作になったら、借金まみれになるのでは?
・全国的に不作なら、数量は減っても販売単価は上がる
・丈夫なハウスを建てて保険をかければ天候リスクは下げられる。
農協ってよく批判されているけど、使わないほうがいいの?
・農協を通したほうが個人で市場に出すより単価は上がる
・農家と農協と市場の関係
・農協によってルールは違う
都会出身の人間が地方に移住してやっていけるものなの?
・ぽんぽん土地を変えられないことはたしか
・地元の名士や農業のレジェンドを味方に付けよう
農地を借りる、買うのはやっぱり大変?
・農地が確保できなくて就農できないことも
・耕作放棄地がたくさんあるのに農地取得が容易ではない理由
やっぱり修業に何年もかかるんでしょう? そのあいだは低収入になるんですよね?
・農業のノウハウ習得に時間がかかるのは、植物を高速で育てるのがムリだから
・すでにノウハウを持っている人・集団に教わるほうが結局、早い
・取れるデータは全部取る
補助金って、頼るとよくないんでしょ?
・補助金を使わないで、使っている農家との競争に勝てますか?
・自分が使える補助金を知りたければ相談できる窓口に行こう
有機農業のほうがいいの?
・「有機」「オーガニック」に決まった定義はない
・「有機で儲ける」には販路確保が重要になる
どの作物が儲かるの?
・作るのが大変な作物の単価は高く、簡単なものは安い
・規模の経済が効く作物・作型なのかを見極めよう
・初期投資が大きいものは参入障壁が高い。ということは…?
観光農園って儲かるんですか?
・作物、作型のコスト構造(原価の構造)によって向き不向きがある。
・直接お客様とふれあいたい、たくさん来てほしい場合にもおすすめ
6次産業化ってよく聞くけど、やったほうがいいんですか?
・安易な6次産業化をおすすめしない理由
・大手ができないことで戦えるなら、アリ
オランダみたいに日本も農産物輸出大国を めざすべきだと思うんですが、どうですか?
・ASEAN市場は言うほど大きくないし、日本勢は負けている
・輸出ビジネスは国内ビジネスより数段ハードルが高い
AI、IoT、ロボットを投入すれば 農業も革新できるのでは?
・すでにある課題を解決するためにテクノロジーを使わないなら無意味
・最新技術だからといってすぐに成果が出るとは限らない
農家になったら「24時間365日」 心血を注がないとダメですか?
・ブラック農家みたいな考えでは、従業員を雇うことができない
・労働強度をいかに下げるか
・魅力的なワークスタイルの提示が重要
で、結局、何を入り口にしたらいいですか?
・農業体験は「労働者としての農家」の体験しかできない
・時間とお金があるなら農業大学校は良い選択肢
・農業ビジネスの全体像を学ぶことを意識してであれば、農業法人への就職もアリ
・ロールモデル (お手本)を見つけよう:
第2部 農業をはじめるための6つのステップ
ステップ1 農業をやる目的を言葉にする。
ステップ2 自分が望む生活スタイル (収入、時間の使い方)を決める
・農業は働く季節が選べる
・労働時間の設計もできる
・農業ビジネスに従事する個人の「収入」が何なのかの定義は難しい
・手取りの所得を設定すると、ぐっと選択肢が絞られてくる
ケース1 転職としての就農―研修生・高泉博幸さんの場合
ステップ3 作物・作型 (育て方、こだわり)を考える:
・消費量が少ない作物は難易度が高い
・「作るのが簡単で単価が高い新規就農者におすすめ」ではない。
・将来的に市場が激減しそうなものは避けよう
・輸入の脅威が大きいもの、政府の方針に左右されるものも難易度が高い
・日本人全体のライフスタイルの変化も考えよう
・数字の向こう側にある、人間の心理を見る
・世界全体の中での動向も見てみよう
・作りたいものがあるなら、妥協で他の作物を選ぶべきではない
・多品目をうまくやるための考え方
ケース2 多品目露地栽培という選択——内藤靖人さんの場合
ステップ4 10年間の経営のビジネスプランを数字に落とし込む
・他の農家はどうなのか?を統計から理解する
・10年間のビジネスプランの作成手順
・売上、費用のイメージをつかんだら、他の選択肢を検討していく
ケース3私がギブアップした理由――あるシイタケ農家の場合
ステップ5 資金調達の方法
・「事業の継続性」を見る銀行との付き合い方
・新規就農者向けの特別な融資メニューもある
・事業の成長性」を見る投資家との付き合い方
コラム 経営のゴールをどこに設定するか
ステップ6 情報収集とネットワーク作り
・「みんなで勝つ」「地域に貢献する」
・情報をシェアする人間にこそ、情報は集まる
第3部 モデルケースを見てみよう
~就農2年目・國中秀樹さんの場合~
まとめ 10年間の経営計画表の書き方