小さい農業で稼ぐコツ 加工・直売・幸せ家族農業で30a1200万円

【最新 – 農業ビジネスについて学ぶためのおすすめ本 – 農業の現在から将来まで】も確認する

小さい農業できちんと稼ぐコツを伝授!

著者は、30aの畑で年間50種類以上の野菜を育て、野菜セット・漬物などにして物にホームページで販売し、お客さんとのやりとりを楽しみ家族5人で幸せに暮らしています。本書では、一年中切れ目なく収穫する野菜作り、無駄なく長く売るための漬物・お菓子作り、自分らしさをアピールする売り方、ファンを増やす繋がり方など、ゼロから始める家族経営の直売農業できちんと稼ぐコツを伝授します。

西田栄喜 (著)
出版社 : 農山漁村文化協会 (2016/2/5)、出典:出版社HP

はじめに

小さい農業だからこそ幸せに

私は石川県で自称日本一小さい農家「風来」を営んでいます(通称・源さん)。どのくらい小さいかというと、耕地面積は全部で三○a(この中に五・四m×一五mのハウス四棟あり)、通常の農家の一〇分の一の大きさになります。畑の前に店舗兼加工所兼自宅があり、家族五人幸せに暮らしています。いわゆる脱サラ農家でバーテンダー、ホテルマンを経てゼロからスタートしました。

ただ、いざ起農しようとすると、どこに行っても「農業は甘いもんじゃない」、また「農業は初期投資がかかる」と言われました。実際に起農する時の平均借入額を聞いてビックリしたものです。その経営をホテルの支配人時代に学んだ損益計算書の視点でみると、ゼロからスタートする場合、どうみても収支が合わない。稲作農家であれば機械代、施設園芸農家であればハウス代など、まさに固定資産の塊のようにみえました。しかし「本来、農業は鍬一本でできるもの。初期投資をかけなくてもできるはず」。そんな視点から農業を見つめ直してみました。そうすると加工、直売を最初から組み入れることによって小さくても十分やっていけると思い、自己資金のみで風来をスタートしました。

実践していく過程で日本は小さい農業、いわゆる家族経営農家が向いているのではないかと実感してきました。大規模農業も農地を守るという観点からみると必要だと思いますが、大規模農業には大規模農業のやり方が、そして小さい農業には小さい農業のやり方があるのではないでしょうか。規模拡大していくとすると、その過程でどうしてもノウハウ化をすすめていく必要があります。ノウハウ化できるものは資本がある人が有利です。小さい農業だからこそ独自性を持ち生き残れる道があります。

そして生まれたのが「ミニマム主義」です。ミニマムとは直訳すると「最小」「最小限の」。つまり、小さい農家でいきましょうということです。あわよくば面積拡充なんて考えず、最初からコンパクトでいこうという考え方を持つことで投資額が定まってきます。そして面積や規模を制限することによって、土地活用や時間の効率もアップします。また大きな機械を買う必要がないので借金する必要もなくなります。そして地域の人間関係も小さいということでスムーズになりますし、天候などのリスクも、小回りがきくということは大きな強みになってきます。

この時代に農を志す人は、何か今の日本や世界に思うところがある人ではないかと思います。ただ最初はそんな思いがあって農家になったはいいけど、作柄や経営的にうまくいかない、また農的暮らしを目指していたのにいつの間にか下請けのようになって心に余裕がないなど、最初の志どおりいかないというのも現実として多々あるようです。仕事としてキチンと食べていけること、今の世の中ではとても大切なことですよね。

何のためにどのくらいもうけるのか……。ミニマム主義ではその「何」は「幸せ」です。幸せに暮らすにはどのくらいの収入があればよいのか、そのためにはどのくらいの売上げが必要なのか。そうやって考えていくとやることがどんどん明確になっていきます。お金はあればあるだけいい、スピードは速ければ速いほうがいい、小さいより大きいほうがいい、なんてしてたらキリがありません。幸せの原点は「比べない」「足るを知る」です。ミニマム主義ではお金と向き合うけど、キリがない欲望には付き合わないのが前提です。そしてミニマム主義を十分発揮できるのが農業です。小さい農業、家族経営農業こそ幸せにいちばん近い仕事だと感じています。

本書では「読んだ人が日本の農業に未来を感じる」ではなく、「読んだ人が自分の農に未来を感じる」そんな内容になればと、私がゼロからスタートした夫(失敗も含め)の数々、そしてその時々で思ったことをここまで書いていいのかな?と思うぐらい書かせていただきました。おかれた環境が違うということもあるので、それぞれのやり方があると思います。読んだ人が少しでもヒントになり、また自信を持っていただければ幸いです。

二〇一六年二月
西田 栄喜

西田栄喜 (著)
出版社 : 農山漁村文化協会 (2016/2/5)、出典:出版社HP

目次

はじめに 小さい農業だからこそ幸せに

第1章 小さい農業の魅力
❶ 小さい農業って何?
借金しない家族経営の直売農業
私が見たオーストラリア農業
日本ほど直売に向いている国はない
お手本は「百姓」

❷ 一日の仕事、一年の仕事
毎朝畑の写真を撮ってフェイスブックに投稿
十時から野菜セットの荷造り
午後は畑仕事とデスクワーク
妻は漬物、お菓子など
月ごと大きく変わる一年の流れ

❸ 小さい農業のいいところ
混植による危険分散
時間もコストもかからない
高額な機械もいらない
少量多品目は飽きない
家族経営には余裕がある

第2章 野菜つくり コンスタントに育てる
❶ 少量多品目で継続的にとる
当初から無農薬栽培
身近な材料でボカシ肥料作り
炭素循環農法へ
安全で味がいい野菜を育てたい

❷ 混植で効率よくとる
ウネは一列ごとに作付け管理
一ウネに一種類はもったいない

❸ 生長を助け、虫食いもなくなるマメ科混植
トマト、ナス、ピーマンのウネの肩にエダマメ
ニンニクやタマネギもマメ科と
トマトとバジル、青ジソ
お互いの終わりの時期を揃える

❸ 育苗で畑をムダなく使う
葉野菜を何度でもとる
直播きするものも苗で欠株対策
サツマイモの収穫と同時に冬ジャガイモを植え付け

❹わき芽収穫で連続どり
収穫は一度だけではもったいない
連続どりに向いた品種
一回目の収穫時期が大切
春キャベツと冬ハクサイも

❺ キャベツ、レタス、ハクサイの超密植栽培
春の端境期にとれる
小型だから直売向き
究極の超密植栽培は苗

❻ 野菜セットのための品種選び
変わり野菜はほどほどに
トロリとした絶品「在来青ナス」
春の端境期にビーツ、フダンソウ

❼ 漬物のための品種選び
品種から選べるのは農家の特権
キムチに向くハクサイは「健春」
キュウリは四葉系「イボ美人」
ナスは肉質が緻密な「千両二号」
ダイコンは主に二種類
ウリの粕漬けには「黒瓜」

第3章 漬物・お菓子作り 長く売れる加工品を作る
❶ 生で売るより加工して売る
販売期間を延ばせる
目的は所得を上げること
毎日食べられる味と価格

❷ 浅漬けで売る
浅漬けタイプのハクサイキムチ
醤油三:みりん三:酢一が基本
浅漬けを長持ちさせる氷温管理

❸ 昔ながらの漬物
意外に若い人に人気
寒干しタクアン
小回りのきく少量販売

❹ ヨモギ団子とかきもち
漬物と比べて一気に売れる
母の直伝レシピ

❺ 加工に必要な機器
お金をかけないで始める
パソコンとプリンターを購入
すぐに少しだけラベル印刷できる
簡単に封ができる脱気シーラー
二坪冷蔵庫と氷温冷蔵庫
加工所は車庫を改造
支援を受けるなら返す気概を

❻ 必要な免許
それぞれの免許に場所が必要
菓子と惣菜の免許を取得
菓子免許でヨモギ団子など
加工技術は習うより慣れろ
無限に可能性が広がる

第4章 売り方 個人を出して売る

❶ 引き売りで学んだ売り方
スタートはキムチの自力販売
販売能力があれば小さくてもやっていける
引き売りができれば怖いものなし
「人がいる」だけでは売れない
普段使いもできる軽ワゴンで
テーブルとパティオタープで演出
鍛えられたポップの書き方
代名詞になるような目玉商品を
リスクが少なくて効果が大きい
引き売り視点の直売所の売り方

❷ 直売という販路を持つこと
品揃えを増やせる
実験販売もできる

❸ 単品よりセットで売る
野菜の単品は安い
ダイコンを三本も入れてはダメ
冬場には鍋セット
地域にしかないセットを売る
まずはお中元、お歳暮から
小さく始めれば、やり直しもきく

❹ 原材料にこだわる
小さいからこそできる仕入れ
肥料も地域の材料で自作
団子の材料は地域の農家の米を製粉
原価率を考える
人気の洋菓子は原価率が高い

❺ 大きさを変える
米を一升単位で売る
米を一合ずつ真空パックで売る

❻ 情報を発信する
農家であることを売る
自分の体験した一次情報を出す
人柄ごと売る
過程を見せる
ブログを毎日発信する
パソコンは今や農機具の一つ
ネットで販売しなくてもいい
年配の強みを活かす

❼ ネットの使い方
情報の出し方の使い分け
キャッチフレーズとモットーを
風来は「日本一小さい農家」
愚痴でなく楽しさを伝える
正しいことはチャーミングに
公的機関のネット勉強会を活かす

第5章 つながり方 ファンを増やす
❶ 風来のつながり方の変遷
直売所、インターネットの台頭
ネットのおかげで遠くの人と近しくなれる
遠いのに近い関係の「知域」
「知域」を経て「地域」へ

❷ つながると売上げは一〇倍になる!?
大もとからの発想の転換
畑の草むしり体験を呼びかける
とれすぎた野菜で漬物教室
仲間でイベントのやり方を学ぶ

❸ 農の体験教室を開く
知恵を持つお年寄りが尊敬される
市民講座で知恵を伝える
月一回二○〇〇円+材料費
農家の知恵が求められている
イベント告知はフェイスブック
農産物は有限、知恵は無限
知恵は減らない、奪われない

❹ 地域の農家どうしでつながる
月一度の近況報告をする
やりたいことが整理される
野武士のネットワークを作る
個人ブランドどうしでつながる
大きい農家とつながる

❺ 農コンを開く
有料の体験教室
農家の話を聞きたい
「かかりつけの農家を見つけよう」と呼びかけた
農家一二人に対して参加者二八名
つながりを求めている人は多い

❻ クラウドファンドでつながる
「擬似私募債」という資金調達法
志に共感してくれると資金援助を受けられる
手軽なクラウドファンディング
二二万円を一日で達成
出資者がファンにもなってくれる
出資金が集まる仕組み
申し込みから審査、公開まで
出資のお返しは野菜セットなど
事務局との文書作成のやり取り
目標達成度は一九二%
地元農業を応援したい
想いの強さに尽きる

❼ビジネスプランを考える
CO2を削減する「三方よし」の融資の仕組み
スーパー経営者の「家庭菜園ビジネス」案
農業はアイデアの宝庫

第6章 小さい農業の考え方
❶始める前にやっておきたいこと
小さい農業ならハードルは低い
始めるための準備は四つ
農業研修をする
なりたい農家像を突き詰める
最大限収量で売上げを計算してみる
専業にこだわらなくていい

❷ミニマム主義とは
農地の制約が始まり
個人を出せる時代だからできる?
直売とつながりが核になる
独立しているから幸せになれる

❸スモールメリット
日本の農業にスケールメリットはあるか
傾系が多くて機械が高価
会社は三〇年、家族経営は数百年
町のパン屋さんに学ぶ
特色があれば価格勝負しなくていい
この時代、どこにこだわるか

❹お金との向き合い方について
お金を手元に引き寄せる
無駄遣いがなくなる「個人通貨」
買わないで自分で作る
欲を出さず、足るを知る
基準金額は毎年家族で決める
売上げのストレスがなくなる
客層が個人のお客さん中心に

❺命の価値観
農業は究極のサービス業
命の価値観で物事を見る
都会と田舎、命の価値観が高いのは?
それ、命的にどうよ?
農は価値観を変える扉
付録1 風来の年間作業一覧
付録2 風来の歩み年表

西田栄喜 (著)
出版社 : 農山漁村文化協会 (2016/2/5)、出典:出版社HP