農業のマーケティング教科書 食と農のおいしいつなぎかた

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「食」と「農」をつなぐ

農業は人々の幸せを支えている産業です。しかし今日、「売れない」「儲からない」「うまくいかない」と悩む農業者が少なくありません。どうすれば農業者がもっと元気になり、どうすれば農業が活性化するのでしょうか。そのためのキーワードは「マーケティング」です。本書では、うまくいっている農家は何が違うのか、生活者は何を求めているのかなど、全国調査から見えてきた「食」と「農」をつなぐ道を紹介しています。

岩崎 邦彦 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2017/11/3)、出典:出版社HP

はじめに

高品質なモノはたくさんある

日本は、高品質の農産物とおいしい食があふれるすばらしい国だ。豊富な山の幸、野の幸、海の幸が存在し、農業の技術レベルも高い。全国各地で生産者に聞いてみると、多くの人がこう答える。

「味では負けない」
「品質には自信がある」
「技術では負けない」

しかし、その後に決まって続くのは、次のような言葉だ。

「だけど、売れない」
「だけど、儲からない」
「だけど、うまくいかない」

味、品質、技術で負けていないのに、なぜ、うまくいかないのだろうか。

消費者は「食べるモノ」でなく「食べるコト」を買う

あなたは、次の文の空欄にいくらと入れるだろうか。
●トマトの購入に1回あたり、(  )円まで払うことができる。
●茶葉の購入に1回あたり、(  )円まで払うことができる。
実際に、全国2000人の消費者に金額を入れてもらった。それぞれの平均値は、 次のとおりだ。

「トマト」 329円 、「茶葉」 848円

では、次はどうだろうか。
●おいしさの感動に (  )円まで払うことができる。
●リラックスしたひと時に (  )円まで払うことができる。
消費者2000人が答えた金額の平均値は、以下の通りだ。

「おいしさの感動」 5292円、「リラックスしたひと時」3943円

価格は「価値」のバロメーターである。前記の消費者の支払許容額は、消費者が感じる 「価値」の高さを示しているとみていいだろう。「おいしさの感動」は「トマト」の3倍。「リラックスしたひと時」は「茶葉」の約5倍だ。そう、消費者は、トマトという「農産物」を買うのではなく、「おいしさ」を買っている。 消費者は、「茶葉」が欲しいのではなく、お茶を飲んで「リラックスしたい」のである。消費者の関心は、農産物そのものではなく、その商品が自分にとって、どのような価値 があるのかだ。だから、単にトマトを売り込もうとしても、うまくいかない。単に茶葉を 売り込もうとしてもうまくいかない。

売り込まれて、買いたくなる人はいない

「農産物を売り込もう!」
「地域産品を売り込もう!」

全国各地でこういったキャンペーンをよく見かける。 しかし、考えてほしい。売り込まれて買いたくなる人はどれほどいるだろうか。 「売り込もう」の発想では、消費者の買いたい気持ちは喚起しにくいし、財布のひもは緩まない。「売ろう」と思えば思うほど、逆に顧客の財布のひもはかたくなる。押されれば押されるほど、人は感情的に引いてしまうものだ。誰かが自分を説得しよう としていると感じると、人は無意識に身構えてしまう。 発想を変えてみよう。21世紀の農業で大切なのは、売り込みという「押す力」ではない。消費者をひきつける 「引く力」(引力)だ。

「食」と「農」をつなごう

農産物の品質を決めるのは、作る人ではなく「食べる人」である。おいしさが生まれるのは、農場でもなく、売り場でもなく、「生活の場」だ。単に農産物を生産するだけの農業は、すでに終焉しているのかもしれない。時代とともに農業の概念も進化していく。1世紀の農業は、農産物を作って終わりではなく、作ったものを売り込むことでもない。農産物の引力を高め、消費者をひきつけ、「食」と「農」をつなぐことである。

では、どうすれば「引力のある農産物」をつくることができるのだろうか。どうすれば、効果的に食と農をつなぐことができるのか。これが本書のメインテーマである。キーワードは「マーケティング」だ。 さあ、ここからは、食と農の“おいしい。つなぎ方を考えていくことにしよう!

岩崎 邦彦 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2017/11/3)、出典:出版社HP

目次

はじめに
第1章 農業を再定義しよう
「農」と「食」が強い国の共通点
「おいしい」が意味すること
「農」と「食」と「幸せ」の関係

第2章 農業にマーケティング発想を
マーケティングとは何か
「食べるもの」の日がなぜ普及しないのか
「食べるモノ」から「食べるコト」へ
マーケティングへの関心の高まり
「販売」と「マーケティング」は違う
消費者目線になっているか?
顧客と同じ方向を向こう ?
言うは易く、行うは難し

・「生産者目線」を強制的に「消費者目線」に変える方法
1「売る」という言葉を禁句にし、「買う」と言い換える
2「何」ではなく、「なぜ」で発想する
3「食べるモノ」ではなく「食べるコト」をイメージする
4「農産物をつくる」ではなく、「顧客をつくる」と考える
5 小売店に行って、自分が生産した農産物を自腹で買ってみる 0

第3章 品質を決めるのは消費者である
生産者目線の品質
消費者目線の品質
「おいしさ」が生まれるのは、農場ではなく、食事の場である
人は、舌だけで味わっているのではない

・知覚品質をいかに高めるか
1 「ブランド」で知覚品質が高まる
2 「見える化」で知覚品質が高まる
3 「言える化」で知覚品質が高まるの
4 「物語」で知覚品質が高まる
5 「掛け算」で知覚品質が高まるの
6 「陳列」で知覚品質が高まる
7 「価格」で知覚品質が高まるカ

第4章 うまくいっている農家にはどのような特徴があるのか
第5章 どうやって強いブランドをつくるか

469の農業者を調査
好業績に影響を及ぼす要因

・好業績の農業者の特徴
1 消費者と交流をしている、消費者の声を聞いている
2価格競争に巻き込まれにくい
3 安定的な販売先を確保できている
4 核(シンボル)となる商品がある
5 女性の力を積極的に活用している
6 「農産物を収穫するところまでが主な仕事」とは考えていない

ブランド化とは何か?
ブランドは「品質」を超える
モノづくり # ブランドづくり
ブランドで表面をつくろうことはできない

・ブランド力を評価する方法
1 名前の後ろに、「らしさ」という言葉をつけてみるが
2 目を閉じて、頭にイメージを浮かべてみる
「ブランド」と「名前」の違い

・ブランドに関する誤解
1「知名度を高めれば、ブランドになる」という誤解
2「品質を高めれば、ブランドはできる」という誤解
3 「広告宣伝費がないと、ブランドはできない」という誤解
4 「まずは、ロゴをつくろう」という誤解
5 「数の多さを売りにして、ブランド力を高めよう」という誤解

・「強いブランド」にはどのような特性があるのか
1 ブランド・イメージが明快である
2 感性に訴求している
3 独自性がある
4 価格以外の魅力で顧客を引きつけている
5 情報発生力がある
6 口コミ発生力がある

第6章 「違い」が 価値になる
「普通」の農産物は、ブランドにならない!
個性化は「特殊化」ではない
「二番煎じ」は、ブランドにならない
危険な「ヨコ展開」という発想

・いかに個性を出すか
1「味覚、香り、食感」で個性化
2「形状」で個性化
3 「サイズ」で個性化
4「色」で個性化」
5 「パッケージ」で個性化
6 「生産方法・栽培方法」で個性化
7 「肥料・エサ」で個性化」
8 「品質基準」で個性化
9 「生産場所」で個性化
10 「ずらし」で個性化
11 「ストーリー」で個性化
12 「利用シーン」で個性化
13 「用途の限定」で個性化
14 「売る場所」で個性化が
15 「逆張り」で個性化

・ダメな違いの出し方
1 「一本のモノサシ』で測ることができる違い」
2「消費者が気づかない違い」
3 「消費者にとって価値がない違い」

第7章 どうすれば六次産業化は成功するのか
マーケティングに問題を抱える六次産業化

・六次産業化に関する誤解
1「規格外品の活用のために六次産業化をする」という誤解
2「六次産業化は、新商品開発である」という誤解
3「『加工食品業』の土俵に乗る」という誤解
六次産業化の成功要因は何か?

・六次産業化成功の3つのポイント
1「独自性がある」
2「販売チャネルの確保」
3 「高品質・安心安全」
いかに売れ続ける商品をつくるから

・ロングセラー商品を生み出すポイント
1 おいしすぎない
2 「変わらないもの」と「変わるもの」のバランス
3 近視眼にならない

第8章 農業の体験価値を伝えよう
コトの中に農産物を位置づける
1の体験は、100の広告に勝る
消費地に行くより、産地に来てもらおう
「農業」と「観光」を掛け算しよう

・農村観光にひかれる人々は、どのような特性を持つのか
1「現地の人々との出会い・交流」を重視している
2「自然」を重視している
3「学び」を重視している
4「体験」を重視しているの
5 「その地域ならではの商品や食」を重視している
「農業」と「飲食業」を掛け算しよう

・「農家レストラン」にひかれる人々の特徴
1 小規模店志向である
2 健康志向である
3 食の口コミ発信源である
4 グルメ志向である
5 環境志向である
6 リピート志向が強い

・農家レストランにおけるマーケティングのポイント
1 軸は、あくまで「農業」である
2 メニューの「足し算」をやめよう
3 「核となる商品」をつくろう
4 「ライブ感」を大切にしよう
5 「飽きない」を意識しよう

第9章 さあ、前に踏み出そう!
・マーケティングの失敗を招く4つの誤解%
1 「○○離れ』だから、厳しい」という誤解
2 「後継者がいないから、厳しい」という誤解
3 「規模が小さいから、競争力がない」という誤解。
4「経営改善をすれば、強くなれる」という誤解
さあ、行動しよう!

おわりに
参考文献

岩崎 邦彦 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2017/11/3)、出典:出版社HP