【最新 – 農業ビジネスについて学ぶためのおすすめ本 – 農業の現在から将来まで】も確認する
野菜を売る現場の最新情報がわかる
本書は、農業の情報誌で年4回発売されています。今回は、市場ではどんな野菜に人気があるのか、直売で売れる野菜は何か、飲食店に人気の野菜は何かを紹介しています。売れている野菜がどうして売れているのかをしっかりと把握し、新たな野菜のマーケットにつなげていきましょう。
大局観が求められる農業政策
2019年を振り返ると、生産者への取材中、物流費の値上げが話題にならないことはなかった。レストラン向けの野菜づくりに力を入れ、複数の店舗と直接取引しているある野菜農家は、レストランから相次いで「送料の値上げ分を、料理の価格に上乗せできない」と言われ、取引の一時中断を迫られたという。野菜のおいしさは変わらないのに、まったく別の理由で取引が中断したわけだ。生産者の悔しさをおもんばかるしかなかった。
政府は、生産者の経営安定のために、交付金を含め様々な施策をとっている。だが、輸送費高騰や労働力不足など経営環境の激変を前に、セーフティネットとして機能を十分果たせなくなりつつある。いずれ、政策の枠組みを根本から見直す必要があるのではないか。2019年2月、農水省の食料・農業・農村政策審議会の食糧部会経営所得安定対策小委員会に出て、そう感じた。
小委員会で審議された事項は、2020年産からの畑作物の直接支払交付金の単価をどうする かだった。大豆、麦類、テンサイ、ナタネなどの畑作物を対象に国が出す交付金を「ゲタ」という。これらは輸入品との競争にさらされ、国産といえども、販売価格は安価な輸入品の影響を受け、生産コストが販売価格を上回る「コスト割れ」が起きている。そのコスト割れを直接支払交付金で補う(つまり、ゲタを履かせる)というものだ。
交付金単価は、TPPや日米貿易協定などの国際情勢の動き、産地の事情など考慮した上で決められる。今般の小委員会で、農水省が示した交付金単価に対し、出席した委員全員から「妥当」との意見が出た。その上で、生産者の委員を中心に「小麦の輸送費は全て生産者負担。(輸送費が上がっても)販売単価に上乗せができない」「農地の流動化は進みつつあるが、肝心の担い手がいない」などさまざまな課題が出された。交付金制度の範ちゅうを超える内容であることを承知した上で、あえて現場目線で発言したと思われる。交付金はセーフティネットとして機能してきたが、これだけでは経営安定は難しくなってきた。経営環境の変化を見据え、生計として成り立つ農業をどう組み立てていくかという視点が求められる。委員の方々のそんな思いを、座長席に座りながら感じた。
生産現場の経営環境のみならず、流通との関係についても考える必要がある。現在、農水省はスマート農業を推進するため、産地での大々的な実証実験をおこなっている。成果が出るのはこれからたが、実証実録画する生産者の1人から「生産現場だけスマート化しても、流通や消費行動が変わらなければあまりメリットはない」という話を聞いた。
キャベツを例にとると、最も労力が必要な収穫の機械化が開発中にある。この生産者は、試験的に使ってみたがロスが5~7%発生した。地面に対し、斜めに育つキャベツがあるが、収穫機が微調整せず、結球部も切断すると、売り物にならないからだ。
別のキャベツ農家は「収穫機が開発されても自分は使わない」と話す。同じ畑に同じ時期に植えたキャベツでも生育のスピードが異なり大きさがばらつく。どうしても人間の目で見て、そろったサイズを収穫することになる。海外の小売店のように、グラム売りが当たり前であれば、サイズの大小はあまり問題にならず、収穫機は役立つだろう。「だが日本では1個売りで固定価格。店側もそろったサイズをほしがる。この売り方が続く限り、手作業が続くだろう」とのことだった。収穫機を含め、工程全体がスマート化すれば、省力化につながり、働力不足の解決につながるかもしれない。だが、野菜の規格や消費者の購買行動が従来と変わらない以上、本当の意味で省力化にはならない。斜め切りを調整し、大きさを見極めながら収穫する機械がいずれ開発される可能性があるが、普及台数が増え、価格が下がるまでには相当な年数を要する。それより、生産スタイルの変化に対し、流通業者や消費者に理解や協力を求めていくほうが手っ取り早い。こうなると、進んでいるスマート農業の実証実験も、小売店での販売まで含めて実施・検証する必要がある。あらためて、社会や経済の情勢を踏まえてあるべき農業とはどういうものか、農業を継続していくために、利害関係者に求めるものはなにかなど大局的な視点に立った政策が必要になってくる。
株式会社ベジアート 代表取締役社長 古川愼一
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