コンパクトシティを問う

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コンパクトシティの現状と問題点がわかる

急激な人口減少や巨大災害の切迫などの動向に対処するため、政府は今後10か年の国土づくりの方向性を示す国土形成計画を決定しました。国土づくりにおける重要な鍵となるのが、コンパクトシティの都市構造を基礎とし、この連鎖によるコンパクト+ネットワークの考え方です。本書では、コンパクトシティそのものについてや各政策分野についての課題点や改善点、提言を行っています。

山口 幹幸 (編集)
出版社 : プログレス (2019/5/23)、出典:出版社HP

はじめに

わが国は今、急激な人口減少や巨大災害の切迫など、国土に係る状況の大きな変化の最中にある。こうした動向に対処するため、政府は、2015年(平成27年)8月、概ね10か年の国土づくりの方向性を示す国土形成計画を、前年に策定した「国土のグランドデザイン2050」をふまえ決定した。

この国土づくりにおける重要な鍵となるのが、本書のテーマである「コンパクトシティ」の都市構造を基礎とし、この連鎖による「コンパクト+ネットワーク」の考え方である。つまり、今後の社会では、それぞれの地域において各種サービスを効率的に提供するには、都市の集約化、すなわちコンパクト化を図ることが不可欠とする。地域がそれぞれに個性を磨き、連携とネットワーク化によって圏域を拡大し、各種の都市機能を確保することが必要としている。こうして,人・モノ・情報の高密度な交流のもとにイノベーションや賑わいを創出し、国全体の生産性を高めようとするものである。

国土形成計画とは、新しい時代を見据え、国内外の状況変化に適応しつつ国民生活の安定と経済の持続的成長を遂げるという、いわば国土形成の構想を実現する戦略としての重要な意味をもっていよう。とはいえ、長期的・広域的計画という面からの不確実性は否定できない。前身の数次にわたる全国総合開発計画は,国の統一した上位計画として大きな役割を果たしてきたものの,地域格差を是正できなかったとか、環境破壊・過度のインフラ整備等をもたらしたなどの批判や,何ら実行力を伴わない計画と指摘もされた。

今日では、地政学上の様々なリスクが自国経済に大きく影響する先行き不透明なグローバル社会にあるほか、どの国も経験したことのない人口減少・超高齢社会に突入することを考えれば、将来を展望することの極めて難しい時代にある。それ故に、この背景のもとに描かれる構想・計画には、実現性が一層憂慮されるのも確かであろう。こうしたなかで,国土形成計画の実効性を高めるには,将来のあるべき姿に変革する具体的なシナリオが不可欠となる。この意味で、計画の肝となる「コンパクト+ネットワーク」の実現を図るため、2014年(平成26年), 都市再生特別措置法の改正で導入された「立地適正化計画」は重要な位置付けをもつものといえる。現在、この計画策定が全国の自治体で進められているのである。

この立地適正化計画が制度化された背景には,今後の急激な社会変容に危機感を抱く厳しい現実がある。2050年には、現在の居住地域の概ね6割以上の地点で人口が半分以下に減少し、うち2割が無居住化し、地域消滅の危機にあるとされている。高齢化率も4割に達し、増大する空き家・空閑地の発生のほか、地域衰退にともなう自治体の厳しい財政運営も予期されるのである。さらに、都市政策の上からは、これまでの自動車依存社会のなかで郊外化が進み、市街化区域の拡散や中心市街地の衰退が顕著となっており、これを打開する有効な手立てが見つからない状況にもある。こうした点に鑑みれば、都市のコンパクト化は説得力のあるひとつの考え方といえる。

しかし、全国の都市を見渡せば、長期的には地域衰退の傾向は否めないものの、2000余りの市町村が一様に消滅の恐れがあるわけでもない。未だ人口増加が続いている都市や、過疎地域でも地域再生や地方創生の動きから、1ターン・Uターンによる地方回帰の動きも見られる。また、国全体の生産性を高めるとはいえ、コンパクト化による効率的な都市形態を志向する考えにも異論があろう。それは一つには、コンパクト化が、必然的に、地域に住む人々の暮らしを直撃し、居住生活の変容を余儀なくする恐れがあるからだ。また,われわれが現在享受している豊かな暮らしは、効率性・画一性のもとに進められてきた経済の成長発展によることは疑う余地もないが、一方で経済優先の社会が潤いのない無味乾燥な都市・居住環境を生み出してきたことも否めない。今後の成熟社会では、利便性に偏重せず、人間性・快適性とバランスのとれた都市・国土形成が望まれる。この意味で、効率化を強引に進める先に、人々の生き生きとした地域生活像が見えないからでもある。

このように、コンパクトシティについては両極に立った見方がある。これまでも数多くの識者によって語られ、各論者の立ち位置によって様々な意見等があり、賛否両論が併存しているというのが実際のところであろう。では、コンパクトシティが、社会一般のなかで,どう受け止められているのだろうか。過疎化が進んで村や島を離れざるを得ない状況に追い込まれた地域の人や、地域の再生・活性化に尽力されている一部の方以外は、大方,他人事のように感じているのではないだろうか。コンパクト化に係る問題は、国土レベルのマクロ的視点というより,地域レベルの立地適正化計画で具現化したときに顕在化しょう。しかし,立地適正化計画が策定されても、コンパクトシティのイメージや総花的な内容だけで、住民には,十分な理解が届かず、自分事の問題と自覚されていないのが現実といえる。

人々が暮らす身の回りの環境が悪化し、手遅れになってからでは遅い。かといって、計画が地域実態をふまえ、住民と認識を共有したものでなければ,その実現性も覚束ないのは明らかである。この意味で、地方自治体は都市経営的な視点と地域運営の難しさに直面しているといえる。こうした現状をふまえ、本書は「コンパクトシティを問う」と題し、コンパクトシティ、これを制度化した立地適正化計画の推進について、ひとつのも問題定期をしたものである。

コンパクトシティそのものに対する考え方をはじめ、各政策分野や関連諸制度についての課題や改善点、提言を行っている。本書を通じ、コンパクトシティとその推進についての多様な見方・考え方、問題点などを明らかにし、社会一般の方々の認識と理解を深めるとともに、適切な制度運用により現実的で実現性のあるコンパクトシティに導くことを目的としている。このため、関連性の深い部市計画・住宅・経済・不動産・福祉・緑農地・交通の各分野に係る,学識経験者、研究者、実務家、行政経験者による多様な考えを集約し,より広い見地から考察したものである。

本書は、厳しい時代背景のもとで国土政策や都市政策の舵取りが難しいなか、国・都道府県の政策部局,立地適正化計画を立案する市町村の関係部署のほか、都市コンサルタントや開発事業者,都市・まちづくりに関心のある方々にとっても有益な書となることを目指した。なお、本書のとりまとめや執筆にあたっては,(株)プログレスの野々内邦夫氏には数々のアドバイスをいただくなど大変お世話になり,執筆者を代表して謝意を表する。本書が,今後の都市づくりを考えるうえで,少しでも寄与できれば望外の喜びとするところである。

平成31年4月30日
山口 幹幸

山口 幹幸 (編集)
出版社 : プログレス (2019/5/23)、出典:出版社HP

目次

序論

岐路に立たされる自治体のコンパクトシティへの期待[牧瀬 稔]

1. はじめに
1.1 本章の問題視覚
1.2 本章の目的
1.3 先行文献の類型化

2. 自治体におけるコンパクトシティの歴史
2.1 新聞記事にみるコンパクトシティの歴史
2.2 議会質問にみるコンパクトシティの歴史

3. 自治体におけるコンパクトシティの現況
3.1 自治体におけるコンパクトシティの定義
3.2 コンパクトシティを進める行政計画

4. おわりに コンパクトシティを確実にするために
4.1 コンパクトシティの定義化
4.2 先進事例の過程を重視したコンパクトシティ
4.3 コンパクトシティと地方創成の矛盾

コンパクトシティ政策推進の鍵は何か[米山 秀隆] 1.はじめに

2. 北海道夕張市
2.1 破綻に至るまでの経緯
2.2 まちの集約の必要性
2.3 集約の具体的な進め方
2.4 住推進策の鍵
2.5 財政再建から地域の再生へ

3. 富山市
3.1 コンパクト化に取り組んだ経緯
3.2 LRT 整備と沿線への集住施策
3.3 まちなかの賑わい創出の仕掛け
3.4 コンパクトシティの世界の5都市に

4. 岐阜市
4.1 公共交通の衰退
4.2 バス路線の再編とBRT導入
4.3 市民共働型コミュニティバス
4.4 地域公共交通網形成計画と立地適正化計画

5. 宇都宮市
5.1 メリハリのない都市構造
5.2 LRT 新設による東西交通軸の整備
5.3 居住誘導区域設定の考え方
5.4 富山市,岐阜市,宇都宮市の比較

6. 埼玉県毛呂山町
6.1 厳しい財政状況
6.2 ゴーストタウン化の懸念
6.3 意欲的な数値目標の設定

7. コンパクトシティ政策推進の鍵は何か
7.1 各事例の特徴
7.2 政策の推進力となるもの
7.3 公共交通の選択肢
7.4 居住地域の絞込み

8. おわりに

コンパクトシティの本質を考える[川崎 直宏]

1. はじめに

2. 住宅政策とハウジングの変遷
2.1 わが国の住宅政策の変遷とコンパクトシティの動向
2.2 地域社会再生,地域居住政策への視座
2.3 住生活基本計画以降の住宅政策と地域居住

3. ハウジングとまちづくりの現在
3.1 グローバリズムの中での地域居住とハウジング
3.2 人口減少時代の地域居住とハウジング

4. コンパクトシティ政策の実態と課題
4.1 コンパクトシティの取組み状況
4.2 コンパクトシティ政策の硬直性

5. コンパクトシティ化を担うハウジングビジネス
5.1 現在のハウジングビジネスの背景・要因
5.2 ハウジングビジネスの今後の方向としてのスモール化
5.3 ハウジングビジネスのスモール化の意味

6. 地域居住政策・地域マネジメントの必要
6.1 コンパクトな地域循環に向けた地域マネジメント
6.2 コンパクトシティを担うマネジメントに向けて

7.おわりに

暮らしの目線から「都市のコンパクト化」を考える[中川 智之]

1. 「コンパクトシティ」とは何か? 何を目指すものなのか?
2. 武蔵小杉駅周辺と夕張市を比較してみると

3. これまでの都市化抑制政策
3.1 広域的,俯瞰的視点から都市構造を規定
3.2 線引き制度による市街化抑制

4 なぜ、いま立地適正化計画の策定が必要なのか?
4.1 都市のスポンジ化対応
4.2 制度・施策の重層化による対応

5. 本来考えるべきことは何か?
5.1 人本位の計画づくりと実践
5.2 分野連携・多主体連携
5.3 時間軸のなかでの動態的な展開

6.「都市のコンパクト化」を事例から読み取る
6.1 立地適正化計画に依らない独自の取組み——神奈川県横浜市
6.2 段階的・時間軸を考慮した都市のコンパクト化―北海道夕張市
6.3 過疎地域の持続的な暮らしを支援する——奈良県十津川村

7.まとめ

地域包括ケアのまちづくりとコンパクトシティに向けての提言[神谷 哲朗][辻 哲夫]

1.はじめに 超高齢人口減少社会の到来とまちづくり
1.1 超高齢社会の到来と地域包括ケア
1.2 超高齢・人口減少社会の必然の道としてのコンパクトなまちづくり

2. 地域包括ケアを通したまちづくりの展望
2.1 地域包括ケアの背景
2.2 地域包括ケアの概念と深化

3. 柏プロジェクトの取組みを通したまちづくりの展望
3.1 柏プロジェクトの取組み
3.2 24時間対応の在宅医療と在宅ケアシステム
3.3 生きがい就労の推進
3.4 介護予防システムの再構築
3.5 地域の生活支援システムの展開

4 コンパクトシティ政策への提言
4.1 コンパクトでサスティナブルな(持続性のある)まちづくり
4.2 コンパクトシティに向けての提言

5 おわりに 地域包括ケアと多世代居住のコンパクトなまちづくりは都市の生き残りの必須条件

「都市と緑・農の共生」における産業政策の限界―新たな目標「市民緑農地」[佐藤 啓二]

1. はじめに

2. 都市農業振興基本法と都市農業振興基本計画
2.1 コンパクトシティのポジとネガ
2.2 生産緑地の2022年問題
2.3 コンパクトシティ政策の一環としての都市農地保全

3. 実現した法制度と税制改正(平成29年~平成30年)

4. 農業政策の限界と保全の課題
4.1 意欲ある農家への重点化政策
4.2 取り残された地方都市
4.3 田園住居地域について

5. 必要になった再整理
5.1 韓国の都市農業基本法
5.2 ヨーロッパの市民緑地・農園制度

6. ドイツのクラインガルテン
6.1 クラインガルテンの概要
6.2 ドイツ連邦クラインガルテン法

7. 我が国の市民農園制度
7.1 「農園利用方式」の市民農園
7.2 一般的な市民農園
7.3 町おこしのための「○○クラインガルテン」

8. クラインガルテン制度から学ぶべき点
8.1 都市住民が利用する緑・農空間
8.2 都市緑地確保政策による位置付け
8.3 多様な利用目的(耕作だけでない)と長期間の安定利用
8.4 利用者のコミュニティによる自主管理

9. 農地利用と緑・農空間をめぐる新たな動き
9.1 農地利用を都市住民に拡げる取組み
9.2 農的空間を公園緑地の中に位置付ける取組み
9.3 多様な利用目的と長期間の利用
9.4 利用者のコミュニティによる自主管理

10. 緑・農の新たな将来像「市民緑農地」
10.1 「市民緑農地」の提案
10.2 「市民緑農地」の実現に向けた基本的な考え方
10.3 農地と「市民緑農地」の重複的な位置付け
10.4 農地税制と公園緑地税制
10.5 地域ごとの課題
10.6 必要となる今後の制度整備
11. まとめ

交通の革新がコンパクトシティの未来を左右[阿部 等]

1.都市と交通の関係
1.1 都市と交通の関係の振返り
1.2 人口減を前提とした都市と交通の未来
1.3 人口減を覆す交通の革新
1.4 都市の未来を拓く主体は自動車ではなく鉄道

2 都市の活性化に貢献する鉄道の未来
2.1 超高頻度化により全ての鉄道の利便が向上
2.2 中速新幹線ネットワークによる地方創成
2.3 北海道の鉄路の活用による地方創成
2.4 満員電車ゼロによる郊外回帰

3. 交通の視点からのコンパクトシティと日本の未来
3.1 「コンパクト+ネットワーク」を支える地域公共交通
3.2 自動車の自動運転とシェアリングによる交通と都市の変容
3.3 MaaSによるモビリティ革命
3.4 交通の革新が日本の未来を拓く

4. 地方鉄道を蘇らす2つの具体例
4.1 長野県の諏訪平
4.2 新潟県の上越市~旧新井市

不動産市場から見た立地適正化計画の影響と課題[櫻田 直樹]

1. はじめに

2. 対象都市の位置付けと立地適正化計画における区域設定等の概要
2.1 対象都市の位置付け等
2.2 対象都市の立地適正化計画における居住誘導区域等の区域設定の概要

3. 地価動向等から見た立地適正化計画の影響
3.1 対象都市の地価水準等
3.2 立地適正化計画の区域指定と地価動向等

4. 需要者等から見た居住誘導の影響と課題
4.1 誘導施策の経済的なメリットの概算
4.2 居住誘導区域内外の住宅地供給事例等の整理
4.3 不動産市場から見た立地適正化計画の課題

都市のコンパクト化の必要性と可能性[山口 幹幸]

1. はじめに

2. 首都圏にある都市の立地適正化計画
2.1 本庄市の現状
2.2 立地適正化計画上の問題点
2.3 立地適正化計画の策定に求められる実質的な議論

3. 大都市東京のコンパクト化を考える
3.1 東京における人口減少・少子高齢社会の影響
3.2 東京におけるコンパクト化の必要性
3.3 公共・公的住宅団地を中心とするコンパクト化の推進
3.4 木造密集地域におけるコンパクト化の推進

4. 事例を通じて浮かび上がるコンパクトシティの論点
4.1 都市のコンパクト化を推進することの是非
4.2 立地適正化計画制度の妥当性
4.3 技術革新の進む社会との適合性
4.4 地域の存続と文化・歴史の継承

5. おわりに

山口 幹幸 (編集)
出版社 : プログレス (2019/5/23)、出典:出版社HP