コンパクトシティ―持続可能な社会の都市像を求めて

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コンパクトシティ入門書

本書は、コンパクトシティに関して、欧米における政策と論争の広範な紹介、日本における都市づくりを取り巻く変化と日本型コンパクトシティの提案を、最新の情報をできるだけ取り入れてまとめたものです。まちづくりに関わる人、環境問題や高齢社会といった新しい条件のもとで望ましい社会の都市像を模索している人におすすめです。

海道 清信 (著)
出版社 : 学芸出版社 (2001/8/30)、出典:出版社HP

まえがき

自動車利用を前提としたスプロール的な都市拡大は、20世紀の都市の大きな特徴となっている。そこから生じたさまざまな課題に対応するために、EUの環境政策、都市政策の空間形態として提起されているのが、90年代のコンパクトシティである。EU加盟諸国は、それぞれの国の独自性をふまえて具体的な政策を実施している。地球環境問題、社会的な公平性、都市中心部の活気の維持、効率的な公共投資、そしてなによりも都市の機能を強め、都市生活の魅力と生活の質を守り高めるために、コンパクトシティはわかりやすい解決策となっている。しかし、このテーマを巡って、欧米においては今でもさまざまな論争が行われて、多面的で実証的な議論や研究も行われている。

わが国においても、コンパクトシティへの関心が高まっており、都市マスタープランなどに取り入れている自治体も増えてきた。しかし、コンパクトシティとは何か、どのように達成するのか、それは可能か、また、期待されているような効果は得られるのか、といった基本的なことについての共通の理解に乏しいのが現状である。本書は、コンパクトシティに関して、欧米における政策と論争の広範な紹介、わが国における都市づくりを取り巻く変化と日本型コンパクトシティの提案を、最新の情報をできるだけ取り入れて、まとめたものである。序章では、コンパクトシティが注目される背景を、経済、社会状況、都市計画の変化に着目して述べている。あわせて、経済発展が優先されてきたわが国の都市政策において、コンパクトシティ論が持っている意義を考察している。

1章は、コンパクトシティの政策的な基礎となっている持続可能性(サスティナビリティ)について、歴史的な概念の展開をまとめている。さらに、EUにおける持続可能な都市(サスティナブル・シティ)とコンパクトシティについて、経緯や近年の政策展開を整理している。2章は、開発コントロールやパートナーシップなどを通じて、強力な政府主導で持続可能な地域、社会、経済を目指している英国を取り上げている。英国の都市・地域計画の仕組みと最新の動向を紹介し、新たな地域戦略であるアーバン・ルネサンスとロンドンを含む南東部地域戦略について、まとめている。

3章は、英国政府の政策や、都市・地域づくりが自治体の現場でどのように具体化されているかを、中規模都市レディング市と、隣接する田園地域のサウス・オックスフォードシャ郡を取り上げて、現地での調査を踏まえて紹介している。4章は、中世以来の自治都市の伝統をもち、環境問題への積極的な取り組みで知られるドイツと、EU諸国のなかでも、計画的な国土づくりで知られているオランダにおけるコンパクトシティ政策とりあげた。5章は、世界でもっとも早く自動車社会となり、都市のさまざまな機能が郊外へとスプロールしてきたアメリカの動向を考察している。また、ニューアーバニズム運動や賢明なる成長(スマートグロース)政策を取り上げている。6章は、コンパクトシティの理念、具体策、効果、実現可能性、社会の支持などを巡る論争を整理している。また、コンパクトシティの基本的な要素である密度、用途混合、モビリティとアクセシビリティなどについてまとめている。

7章は、わが国の都市空間の特徴をコンパクトシティの視点から、考察している。市街地人口密度と施設の立地やひとびとの交通行動、わが国とドイツの都市空間について考察している。8章は、コンパクトシティの考え方を取り入れたわが国の自治体、産業ランナーなどからの提案、関連した国の政策の動向を広範に取り上げている。そして、欧米における取り組みと比較しつつ特徴を整理している。9章は、コンパクトシティの原型ともいうべき中世都市とメガストラクチャー、段階的な空間構成についての提案をまとめた。さらに、長期間構成の変遷を整理し、これからの都市空間を展望している。最後の10章では、コンパクトシティのヨーロッパモデルとわが国の都市、地域の現状をふまえて、日本型コンパクトシティの10の原則を提案している。

本書は、これからのまちづくりや地域のあり方に関わっている研究者や政策担当者、コンサルタント、学生にはもちろんだが、21世紀を迎え、環境問題や高齢社会といった新しい条件のもとで、望ましい社会の都市像を模索されている市民の方々にも、興味深く有益な材料を提供できているものと思う。

海道清信

海道 清信 (著)
出版社 : 学芸出版社 (2001/8/30)、出典:出版社HP

目次

まえがき

序章 都市像の意味
1 はじめに
1 豊かな暮らしと都市のありかた
2 都市や地域の変化
3 都市計画の変化
4 OECDの「日本の都市政策」に関する勧告

2 都市像としてのコンパクトシティ
1 都市像とは
2 原風景としての都市像
3 コンパクトシティ論の意味

1章 EUのコンパクトシティの理念と政策
1.1 コンパクトシティとは

1.2 サスティナビリティとは
1 ローマクラブ
2 ブルントランド委員会
3 サスティナブル・シティの理論

1.3 サスティナブル・シティ戦略とコンパクトシティ
1 提起
2 サスティナブル・シティ・キャンペーン
3 サスティナブル・シティ・レポート
4 専門家グループによる意見書
5 自治体へのEUの影響力

2章 英国のアーバンルネサンスとコンパクトシティ
2.1 英国政府によるコンパクトシティ政策の推進
1 中央政府と地方政府の関係
2 都市計画における計画主導システム
3 コンパクトシティ政策の背景
4 コンパクトシティを目指す戦略
5 計画方針ガイダンスPPGSの役割
6 アーバンビレッジ
7 ロンドンの新しい開発パターン

2.2 政府による南東部地域政策
1 地域の概況と地域政策素案の策定
2 南東部地域の開発戦略
3 アーバン・ルネサンスの実現

3章 英国の自治体が目指す都市づくり
3.1 地域の状況
1 レディング 市の概況
2 都市の発展と地域構造

3.2 都市が目指すもの
1 自治体の再編成と広域計画
2 サスティナブルコミュニティの実用
3 商業立地と都市センターのあり方
4 交通の改善を目指して

3.3 開発のコントロール
1 開発コントロールの実際
2 ローカルプランと基本方針
3 プランニング・ブリーフからみた戦略

3.4 田園と町を守るサウス・オックスフォードシャの地域づくり
1 サウス・オックスフォードシャの概況
2 田園景観を守る仕組み
3 ローカル・プランの扱い
4 ローカルプランの見直しへ
5 住宅地開発の考え方
6 商業施設の開発
7 開発コントロール体制
8 議会の積極的な活動

3.5 美国の自治体が無指す都市像と実現方法

4章 ドイツ・オランダのコンパクトシティ政策
4.1 ドイツの都市の空間構成と都市像
1 街の中心部のにぎわい
2 歴史的都市空間の価値の継承
3 ドイツにおけるコンパクトシティ戦略
4 ドイツと日本の都市空間の比較

4.2 オランダ政府によるコンパクトシティ政策
1 政府の基本戦略
2 コンパクトシティを実現する方法

4.3 ヨーロッパ諸国のコンパクトシティ政策の流れ

5章 アメリカにおける都市スプロールへの抵抗
5.1 郊外化の実態と問題
1 アメリカにおける郊外化の実態
2 都市スプロールの原因
3 郊外化のプロセス
4 自動車に過度に依存した結果

5.2 郊外化に対抗する市街地像
1 歩行者ポケット(ペデストリアン・ポケット)
2 ニューアーバニズムと伝統的近隣開発(TND)
3 カルソープの公共交通指向開発モデル(TOD)の具体化
4 軌道系公共交通重視のトランジットビレッジ

5.3 アメリカの自治体政策
1 成長管理政策とスマートグロース
2 シアトルのアーバンビレッジ政策

6章 欧米におけるコンパクトシティ論争
6.1 コンパクトシティの原則と特性
1 コンパクトシティの原則
2 コンパクトシティによる効果
3 コンパクトシティを実現するための都市、地域政策

6.2 コンパクトシティを巡る論争
1 英国における田園居住志向
2 コンパクトシティ論争

6.3 コンパクトシティの検証
1 代替モデル180
2 エネルギー効率、廃棄物削減効果
3 都市形態と交通行動
4 都市のコンパクト性と社会的公平さ
5 都市の強化
6 密度について
7 複合機能、混合用途

7章 都市形態と生活環境
7.1 計画の理念と中心市街地
1 部分と全体の有機性
2 空間の論理

7.2 市街地人口の低密化
1 歴史都市の人口密度
2 DID人口密度の低減傾向

7.3 自動車の保有と利用
1 先進国の自動車の普及と人口増加
2 都市形態と自動車保有
3 都市形態とガソリン消費量
4 自動車保有世帯の特徴
5 街なかの公共交通の衰退と再生

7.4 都市形態と交通行動
1 人口密度と生活施設へのアクセシビリティ
2 都市形態による交通行動への影響

8章 わが国におけるコンパクトシティ提案
8.1 コンパクトシティへの関心・注目

8.2 コンパクトシティをテーマとする構想や提案
1 行政による構想・計画
2 調査研究機関、研究者、プランナーからの提案
3 産業界からの提案

8.3 コンパクトシティを目指す施策

8.4 わが国におけるコンパクトシティ構想を巡る特徴
1 政府の戦略としての位置づけの弱さ
2 自治体主導
3 多様な強い
4 公共事業的手法への依存
5 批判的視点の弱さ

9章 コンパクトシティの空間像
9.1 20世紀のさまざまな都市像

9.2 コンパクトシティの空間像
1 中世都市(有機的な自律都市)
2 メガストラクチャー(自己完結型の人工都市)
3 地域空間の段階構成

9.3 都市空間の変遷とコンパクトシティへの展望

10章 日本型コンパクトシティにむけて
10.1 新しい都市づくりの時代へ―欧米の取り組みと日本の課題
1 持続可能な都市を目指すEU
2 アーバン・ルネサンスを目指す英国
3 地域自治によるスマートグロースを目指すアメリカ
4 日本の都市の課題と可能性

10.2 日本型コンパクトシティの10の原則と三つのモデル
1 近隣生活圏(アーバンビレッジ)で都市を再構成する
2 段階的な圏域で都市や地域を再構成する
3 交通計画と土地利用との結合を強める
4 多様な機能と価値をもつ都市のセンターゾーンを再生、持続させる
5 徒歩の時代の「町割り」を活かす
6 さまざまな用途や機能、タイプの空間を共存させる
7 アーバン・デザインの手法を適用して美しく快適なまちをつくる
8 都市の発展をコントロールして環境と共生した都市を持続させる
9 都市を強化する
10 自治体空間総合計画に基づく都市経営を進める
11 日本型コンパクトシティの三つのモデル

10.3 21世紀都市へ

参考文献
索引
あとがき

海道 清信 (著)
出版社 : 学芸出版社 (2001/8/30)、出典:出版社HP