世界のコンパクトシティ: 都市を賢く縮退するしくみと効果

【最新 – コンパクトシティについて考えるためのおすすめ本 – 基礎から世界の実施例まで】も確認する

日本の課題を解決するヒントを探る!

世界で最も住みやすい都市に選ばれ続けているアムステルダム、コペンハーゲン、ベルリン、ストラスブール、ポートランド、トロント、メルボルンの7都市の事例を紹介しています。7都市が実践しているコンパクトシティの取り組みを学ぶことで、日本においてどのようなことを実践すべきかが分かります。

谷口 守 (著, 編集), 片山 健介 (著), 斉田 英子 (著), 髙見 淳史 (著), 松中 亮治 (著), 氏原 岳人 (著), 藤井 さやか (著), 堤 純 (著)
出版社 : 学芸出版社 (2019/12/21)、出典:出版社HP

はじめに

都市の構造をコンパクトにすることにはさまざまなメリットがある。思いつくだけでも、生活利便性の確保、環境負荷の削減、社会基盤の有効活用、行政運営の効率化、地域活性化、健康まちづくりの促進、自然環境の保全、公共交通の経営基盤の改善、交通弱者への配慮といった項目を挙げることができ、一石八鳥とも九鳥とも言うことができる。特に、人口減少時代においては避けては通れない基本的なまちづくりのコンセプトとして期待されている。

その用語自体はようやく広まりつつあるが、日本では制度的な対応が遅れたこともあり、その動きは始まったばかりである。このため、残念ながら、まだ誤解や見当違いの批判も多い。また、1章で後述するように、自治体の担当職員にはその実施が容易ではないと感じている人も多く、その割合は制度化が進んでも変化していない。2014年にしくみ上は立地適正化計画が策定できるようにはなったが、まだどの市町村も恐る恐る計画をたてているのが実際のところといえよう。

最近では、新聞やネット上で都市のコンパクト化が実態としてそれほど進んでいない、といった批判記事を目にする機会も少なくない。ただ、それらの多くは都市のコンパクト化政策をカンフル剤と勘違いしているケースがほとんどである。これは近年の都市政策が規制緩和・活性化を旗印にカンフルを打ち続けることを是としてきたことによる思考停止の結果でもある。特に人口減少が進む日本では、都市のコンパクト化はそのようなカンフル剤ではなく、体質改善策であることをまず理解しなければならない。制度の採用から2~3年で目覚ましい成果を期待することがそもそも筋違いであり、次の選挙までに成果を並べたい政治家にとっては材料にならない政策の代表例ともいえよう。

都市構造を拡散するままに放置しておけば、中長期的にさまざまな問題が悪化する。それはあたかも肥満化した人間が生活習慣病に徐々に罹患していく姿に重なる。都市構造に由来する深刻な問題は生活習慣病と同様にすぐに障害を発症するわけではなく、じわじわとやってくるだけに手が悪い。たとえば、周囲に多少空き家が増えたぐらいでは日常生活に何の影響もないが、それが積み重なると、ある時突然、路線バスや店舗、病院といった都市サービス機能が撤退することになる。地震に伴う津波は瞬時に被害がわかるためにハード・ソフトともに対策がたてられやすいが、都市拡散に伴う「ゆっくり来る津波」にもその影響の大きさからそれ以上の対策とその実行が求められるのである。

ちなみに、なぜ都市のコンパクト化が求められるのかということをたとえれば、肥満化した成人病患者に医者がダイエットを勧めるのと理屈は同じである。その方が都市も人間も健康になるからにほかならない。また、ダイエットの効果を上げるのが容易でないのと同様に、都市のコンパクト化も効果が見えるまで実施することは簡単ではない。共通に求められることは「節制」を継続することである。ダイエットを完遂できる意志の強い人間は少ない。都市も同じである。

なお、自分がダイエットに失敗したからといって、スマートで健康的な体型自体を批判する人はいない。同様にコンパクト化政策に飛びついてはみたものの、思うようにいかないからといってコンパクトシティ自体を間違ったもののように批判するケースが散見されるが、それは筋違いである。なかには「うちのまちはコンパクト化には向かない」ということを平気で宣言する都市もあるが、それは「もう私は糖尿病なんだから、いくら甘いものを食べてもいいでしょう」と言っているのと同じことである。

コンパクト化政策を支える立地適正化制度が導入されて数年が経副したが、そのしくみ自体もまだ十分とは言えず、適宜見直していく必要がある。当初見られたような、「強制的に移住させられる」といった見当違いの誤解はさすがに減ってはきており、市民の理解も向上している。ただ、1章で解説するようないくつかの本質的課題はまだまったく解決しておらず、今後の取り組みが求められる。

以上のような問題意識をもとに、本書ではコンパクトシティに関連するさまざまな観点から海外の先進諸都市を紹介する。国内外を問わず、都市にはそれぞれの都市の個性があり、したがって都市構造に対する政策の打ち方もそれぞれに異なる。コンパクト化政策という名称は共通でも、都市によっては冒頭に示した一石八鳥や九鳥の目的のうち、どれを主眼としているかによってもその対応の仕方は異なってくる。他都市のコンパクト化政策をそのままコピーしてもうまくはいかないが、広く支持される多様な都市の実態を学んでおくことの意義は大きい。本書での都市の紹介においては、その対応方策の幅広さがうまく伝わるよう、対象と内容を厳選している。

具体的には、まず1章でコンパクトシティ政策の現在までの道のりと、今後見直しを進めていくうえでの本質的な課題を整理する。その上で2章以降は、アムステルダム(オランダ)、コペンハーゲン(デンマーク)、ベルリン(ドイツ)、ストラスブール(フランス)、ポートランド(アメリカ)、トロント(カナダ)、メルボルン(オーストラリア)を取り上げ、それぞれ特徴的なコンパクトシティ政策を解説する。

これらの諸都市の中には日本がコンパクトシティ政策に向き合う以前から時間をかけて取り組んできたところが少なくない。本書では、トロントにおけるスマートシティとの連動など最新の情報収集を心がけたが、その一方でコペンハーゲンのフィンガープランやベルリンの拠点集約といった時代が経っても色あせない、むしろ古典としての輝きを増している取り組みも積極的に紹介している。これら諸都市の情報が今後の持続可能な都市づくりに少しでも貢献できることを期待したい。

谷口守

 

谷口 守 (著, 編集), 片山 健介 (著), 斉田 英子 (著), 髙見 淳史 (著), 松中 亮治 (著), 氏原 岳人 (著), 藤井 さやか (著), 堤 純 (著)
出版社 : 学芸出版社 (2019/12/21)、出典:出版社HP

目次

はじめに

1章 日本におけるコンパクトシティの課題と解決策 谷口守
1 コンパクトシティの概要と効果
2 コンパクトシティ政策の系譜
3 時間を要した日本の制度づくり
4 多様化する導入目的
5 残された本質的課題(解決に向けて) 6 今後の方向性を考える

2章 オランダ・アムステルダム 持続可能な経済成長を支える都市政策 片山健介
1 アムステルダムの概要
2 オランダの空間計画制度
3 オランダの国土空間政策とコンパクトシティ
4 アムステルダムのコンパクトシティ政策
5 日本への示唆

3章 デンマーク・コペンハーゲン 駅周辺に都市機能を集約する住宅・交通政策 斉田英子
1 コペンハーゲンの概要
2 デンマークの都市計画制度
3 コペンハーゲン都市圏におけるフィンガープラン
4 コペンハーゲン市のコンパクトシティ政策
5 日本への示唆

4章 ドイツ・ベルリン サービスやインフラへのアクセスを確保する拠点づくり 高見淳史
1 ベルリン=ブランデンブルク首都圏の概要
2 地方行政の体系と空間計画のしくみ
3 コンパクト化が要請された背景
4 首都圏の中心地システムと都市整備
5 コットブス市の拠点の設定方法
6 日本への示唆

5章 フランス・ストラスブール 都市交通政策を軸とした住みやすいまちづくり 松中亮治
1ストラスブールの概要
2 フランスにおける都市内公共交通を支える制度
3 ストラスブールの都市交通政策
4 交通政策を中心とした都市政策の成果
5 日本への示唆

6章 アメリカ・ポートランド 住民参加によるメリハリある土地利用と交通政策 氏原岳人
1 ポートランドの概要
2 ポートランドの都市政策
3 都市政策の成果
4 日本への示唆

7章 カナダ・トロント 多様性とイノベーションを生むスマートシティ開発 藤井さやか
1 トロントの概要
2 コンパクトな都市構造を支える都市計画
3 未来型スマートシティの構想
4日本への示唆

8章 オーストラリアメルボルン 急激な人口増加に対応する都市機能の集約 提純
1 メルボルンの概要
2 オーストラリアの行政機構
3 メルボルン大都市圏の交通政策の変遷
4 メルボルン2030:スプロール抑制と拠点の整備
5 メルボルンプラン2017-2050:メトロ整備と知識集約産業の集積
6 日本への示唆

おわりに

谷口 守 (著, 編集), 片山 健介 (著), 斉田 英子 (著), 髙見 淳史 (著), 松中 亮治 (著), 氏原 岳人 (著), 藤井 さやか (著), 堤 純 (著)
出版社 : 学芸出版社 (2019/12/21)、出典:出版社HP