コンパクトシティを考える

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コンパクトシティ入門書

人口減少社会、高齢社会の進展に合わせて都市社会の変革が求められており、コンパクトおよびネットワークという概念が、今後の都市政策の中心的な方向性として位置付けられています。本書は、コンパクトシティ化の問題点について、多角的な視点から論じ、今後のコンパクトシティに関わる都市政策のあり方への助けとなることを狙って書かれています。

浅見泰司 (著), 中川雅之 (著)
出版社 : プログレス (2018/10/18)、出典:出版社HP

まえがき

本書は、コンパクトシティ化の問題について、多角的な視点から論じ,今後のコンパクトシティに関わる都市政策のあり方に資することをねらっている。

コンパクトシティとは,都市の郊外開発を抑制し、市街地の広がりを狭くすることで、公共サービスの効率化、公共交通の利用を促進する都市構造である。コンパクトおよびネットワークという概念が,今後の都市政策の中心的な方向性として位置づけられている。その背景には,すでにはじまっている人口減少社会,高齢社会の進展に合わせて,今後の都市社会の変革が求められているという事実がある。

日本では、20世紀後半の急速な都市化により、都市が外延化し,都市域が急速に広がった。それは端的に、DID(人口集中地区)の急速な広がりに表れている。これにより,都市インフラがカバーしなければならないサービス圏域が広がり、それゆえに,広範囲のインフラ整備がなされた。ところが,現在では、その維持管理が主要課題として都市問題化してきている。

そもそも,都市計画法における区域区分(市街化区域と市街化調整区域の区分)の制度は,都市成長時代の「コンパクトシティ」化を実現するための制度であった。郊外部をややゲリラ的に開発するスプロール化現象を食い止める施策として、区域区分の制度が導入されたのである。都市人口の拡張時代には、市街地の区域を制限するだけで、ある程度都市のコンパクト化を図ることができる。しかし,都市人口の縮小時代には一旦設定した、市街地の区域を縮小することは極めて難しい。そもそも縮小は地区の単位でまとまって発生するものではないからである。そこで、人口減少時代においては、コンパクトシティ化には新たな発想の都市制度が必要となる。すでに、立地適正化計画の仕組みが導入され、部分的にコンパクトシティ化に向けて施策が進められつつある。ただ、これだけでは十分とは言えず,今後も様々な工夫が求められている。

このような背景から、「Evaluation」誌(プログレス発行)のNo.66で「コンパクトシティを考える」と題する特集を行った。本書は,特集で掲載された原稿の一部を加筆修正し,かつ,新たな原稿も募って所収したものである。

本書の総論でコンパクトシティ化の問題を概観した後,Ⅰでは、なぜコンパクトシティ化が必要なのかという問題について論じる。ここでは、コンパクトシティが目指しているものは何なのか、どのような経済的な効果を狙っているのか、その効果はどうなのかなどについて論じる。Ⅱでは、コンパクトシティ実現に関して重要な観点である交通の問題点をあてて論じる。交通と不動産ビジネス、交通施策、その経済効果などについて論じる。特に、コンパクトシティ化でしばしばないがしろにされかねない。コンパクト化から外れた地域の問題や緑地の扱いに焦点をあてて論じている。環境問題と重要なつながりがあることが示されている。

Ⅳでは、実現に向けた公共政策のあり方について論じる。スポンジ化(空き地や空き家が多く発生した地域の増加現象)への対処や、コンパクトシティ化を進める上での時間概念のとらえ方、そして公共施設配置のあり方について論じている。

本書をもとに、コンパクトシティの問題に関する議論が触発され,今後の有効な都市政策が実現されていくことを切に願うものである。
本書を刊行するにあたり、プログレスの野々内邦夫氏には大変お世話になった。ここに記して謝意を表したい。

2018年9月20日
浅見 泰司
中川 雅之

浅見泰司 (著), 中川雅之 (著)
出版社 : プログレス (2018/10/18)、出典:出版社HP

目次

総論 コンパクトシティ化とは

人口縮小時代の都市政策 コンパクトシティ化 [浅見 泰司] 1. コンパクトシティとは2
2. コンパクトシティ化の効果
3. コンパクトシティ化の問題
4. コンパクトシティ化の効果分析
5. コンパクトシティ制度の流れ
6. コンパクトシティ問題の根本的な解決:負担問題
7. コンパクトシティ問題の根本的な解決:不動産権利問題

Ⅰ なぜコンパクトシティ化が必要か

コンパクトシティ政策がめざす 都市や地域とは [海道清信] 1.コンパクトシティはいかにして政府の推進する目標となったか
2. 集中と分散のトレンド
3. 画一化と地域性および人口と世帯
4. コンパクトシティ政策は住みたくなる都市や地域を実現できる

コンパクトシティと集積の経済 [中川雅之] 1. なぜコンパクト化が必要なのか
(1) 理論的な整理
(2) 実態上の意味
2. なぜ都市のコンパクト化が困難なのか
3. 行動経済学の視点
4. どのようにして漸進的なコンパクト化を進めるか
⑴ なぜ公共施設の削減が難しいのか
(2) いかにして公共施設廃止・居住地集約の利害調整を行うか

コンパクトシティ化と都市財政・都市政策 [沓澤 隆司] 1. コンパクトシティ化の都市財政・都市政策上の意義
2. コンパクトシティ化の内容と指標−標準距離の設定−
3. 標準距離の大きさが都市財政に与える影響
⑴ モデル
⑵ データの推移
⑶ 推計結果
4. 標準距離に影響を与える都市政策
5. 終わりにコンパクトシティ化の課題

Ⅱ 交通とコンパクトシティ

コンパクトシティ政策の動向と不動産ビジネスの転換 [谷口守] 1. はじめに
2. その動向
3. 多様な目的とクロスセクター・ベネフィット
4. コンパクトシティ政策の現実
5. 不動産業界にとってのコンパクトシティ政策
6. 公共事業としての減築
7. コンパクト化を目指す上での留意事項

交通からコンパクトシティを考える [森本章倫] 1. コンパクトシティをどうやってつくるか
2. 街の形成過程と交通の役割
3. 次世代交通が果たすべき役割
4. 自動運転技術が都市に及ぼす影響
5. 交通からみたコンパクトシティ形成

コンパクトシティ化の経済効果−富山市を例に− [唐渡広志] 1. はじめに
2. 人口
3. 公共交通
4. 住宅
5. 商業機能
6. おわりに

Ⅲ 環境とコンパクトシティ

日本の風土に根ざした新たな田園都市 [横張真] 1. 都市計画の守備範囲
2. オープンスペースからの発想
3. オーバーレイにもとづく都市農村計画
4. 風土に根ざした計画体系
5. 変わる空間,変わらない仕組み
6. 日本型の田園都市

コンパクトシティと環境 [松橋啓介] 1. 都市と環境
(1) 都市と公害
(2) 都市部における交通公害
(3) 都市に残された環境問題

2. 地球温暖化対策とまちづくり
(1) 環境的に持続可能な交通
(2) 低炭素社会 2050124
(3) 地球温暖化対策地方公共団体実行計画
(4) 低炭素まちづくり
(5) パリ協定

3. コンパクトシティと乗用車 CO2排出量
(1) 市町村別の乗用車 CO, 排出量
(2) メッシュ規模別の乗用車 CO, 排出量
4. コンパクトシティと家庭部門 CO2排出量
5. 環境からみたコンパクトシティの展望

Ⅳ コンパクトシティの実現に向けて

都市のスポンジ化とコンパクトシティ [餐庭 伸] 1. 都市の空間はスポンジ化していく
2. 都市の拡大期に都市にはどのような問題が発生するか
3. 都市の拡大期の都市計画
4, 都市の縮小期の都市計画
5. 立地適正化計画
6. 民間の動き
7. 過疎が顕在化しない都市をつくる
8. 残された課題

コンパクトシティと「時間」 [玉川英則] 1. はじめに
2. ある「時間」の情景
3. 計画論における「時間」とコンパクトシティ
4. テクノロジーの変化という「時間」
5. 政策が機能していく「時間」
(1) 集約化と緑地転換による影響
(2) 集約化と人口減少による影響
(3) 集約化、人口減少と緑地転換による影響
6. 結語

施設再配置の必要性 人口分布と病院立地の関係− [豊田奈穂] 1. はじめに
2. 二次医療圏の持続可能性
3. 人口分布と医療資源の関係
4. 立地の調整と既存制度
5. おわりに

浅見泰司 (著), 中川雅之 (著)
出版社 : プログレス (2018/10/18)、出典:出版社HP