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歩いて暮らせるコンパクトなまちづくりの考え方
コンパクトシティの考え方は、新たな都市や地域社会の創造であり、人々のライフスタイルの転換です。本書では、日本における固有な問題と深く関わらせながら、コンパクトシティの考え方を示すとともに、実効性あるものにするための視点を示しています。自治体や都市計画関係者、産業界、まちづくりに関わるすべての人におすすめです。

はしがき
2006年、「まちづくり三法」が改正された。旧「まちづくり三法」以降、とくに地方都市の中心市街地空洞化がきわめて深刻な事態に立ち至ってしまったことを直接的な背景としたこの法改正は、改正議論の過程から、大規模商業施設の立地に対する新たな規制と誘導について、「規制緩和」や「市場重視」の大きな潮流に対する逆行ではないかという激しい批判もあった。
しかし、わが国の地方都市の現実は、市場重視や競争原理では立ち行かないほどのさまざまな課題が山積してきており、その実態や背景、そして今後の都市や地域社会のあり方を探るなかで、これまでの都市計画や中心市街地活性化の発想では到底、持続可能な地域社会として存続させていくことが困難であることが明らかになってきた。
コンパクトシティの考え方は、単に都市計画の方法論や技術論ではない。人口減少・少子高齢社会を迎えたいま、高度経済成長期に培ってきたわが国の価値観を1つひとつ克服していく新たな都市や地域社会の創造であり、人々のライフスタイルの転換ではないかとさえ思えてくるのである。そのことは、環境問題や持続可能性あるいは社会的公正性などの課題を背景にして、諸外国で展開されてきたコンパクトシティの潮流でも明らかである。そこで、わが国における固有な問題と深く関わらせながら、コンパクトシティの考え方を示すとともに、さらにコンパクトシティを実効性あるものにするための視点を示すことが、本書のねらいである。
第1章では、コンパクトシティとはどのようなものかについて、わが国においてその考え方が生まれてきた背景とそのポイントについて概説している。第2章では、深刻さが増しているわが国の中心市街地の現状と課題について、都市や地域社会、コミュニティ、農村や郊外ニュータウンのほか、都市計画上の視点などから検証する。第3章・第4章では、「まちづくり三法」、「福島県商業まちづくり条例」について取り上げ、法制度の概要と課題を考察する。第5章では、自治体における諸計画とコンパクトシティに向けた取組係性について検証し、青森市、神戸市、長野市における事例を分析する。第6章では、中心市街地活性化、大型店問題、コミュニティ再生のほか、域交通マネジメント、住宅政策、都市計画、地域循環型経済システムなど、多岐に渡る課題を提示し、その考え方とさまざまな取組みを提起している。最後に第7章では、あらためて日本版コンパクトシティの実現に向けてのポイントを整理したうえで、現段階で提示されている疑問に対して回答し、政策的原則、グランドデザインの構築について提言する。
コンパクトシティは今後、わが国のまちづくりの基本コンセプトになっていくことが予想されるが、自治体や都市計画関係者、産業界、市民やNPOなどが、今後のグランドデザインを描くうえでの基本的な視点として、本書のコンパクトシティの考え方が俎上にあげられることを期待している。
2007年1月
鈴木 浩
目次
はしがき
第1章 コンパクトシティとは何か
①コンパクトシティの考え方
中心市街地空洞化とコンパクトシティへの動き
コンパクトシティとはどのようなものか
市街地と農村の連携の再構築
コンパクトなまちづくりの展開方向
②コンパクトシティへの道程
地方都市におけるバイパス計画の動向
東北地方建設局「未来都市検討委員会」
城下町における都市計画のあり方
福島県商業まちづくり条例制定
日本商工会議所「まちづくり特別委員会」
③世界の潮流とわが国における課題の特質
日本版コンパクトシティのためのポイント
第2章 中心市街地をめぐる現状と課題
①都市と地域社会の諸問題.
経済集積としての都市の高層化
全国総合開発計画の変容とグローバリゼーション
地域経済の流動化、全国ネットワーク化
市街地と農村の連携の希薄化
コミュニティの衰退と地域社会を支える力のアンバランス
②中心市街地の現状と課題
市街地の拡大とモータリゼーション
中心市街地空洞化と郊外ニュータウン衰退の同時進行
都市計画上の諸問題
街なか居住問題
第3章 まちづくり三法とコンパクトシティ
①「まちづくり三法」制定の背景と制定後の経過
「大店法」廃止と「まちづくり三法」制定
「まちづくり三法」の内容
「まちづくり三法」制定後の状況
自治体・商工業界の動き
②「まちづくり三法」の改正
「まちづくり三法」見直しの経過
中小企業4団体からの要望
国土交通省「アドバイザリー会議」
中間報告-コンパクトでにぎわいあふれるまちづくりを目指して一
海外の制度調査、
「まちづくり三法」改正のポイント
③まちづくり三法とコンパクトシティ
「まちづくり三法」改正と今後の課題
コンパクトなまちづくりへの第一歩
第4章 福島県商業まちづくり条例
①「福島県商業まちづくり条例」の構成と内容
特定小売商業施設の立地規制
「商業まちづくり基本方針」の策定
広域調整
地域貢献活動
「商業まちづくり審議会」の設置
②「商業まちづくり基本方針」
誘導地域の前提設定
合併しない自治体への配慮
広域公共交通システムの整備
③コンパクトなまちづくりに向けて一条例制定後の課題
求められる今後の課題
全国の自治体がめざすべき方向性
第5章 自治体計画におけるコンパクトシティ
①自治体における地域計画
都市計画の論理
計画の論理とそれに潜む計画矛盾
計画矛盾の克服
自治体における計画の整合性
②自治体におけるまちづくりの展開―コンパクトシティへの道
青森市の取組み
神戸市の取組み
長野市の取組み
③自治体における今後の対応の方向
旧来の価値観・システムからの転換
行政における計画評価と進行管理
広域行政とコンパクトシティ
市場主義、規制緩和の潮流と社会的公正性
第6章 日本版コンパクトシティのための課題
①中心市街地活性化問題と大型店問題
中心市街地と既成市街地の定義
中心市街地と既成市街地の構成要素
郊外住宅地とニュータウンとは
中心市街地活性化問題の本質
② コミュニティ再生とキャパシティ・ビルディング
公団住宅のコミュニティ維持
欧米のコミュニティ教育
行政の支援によるキャパシティ・ビルディング
③住宅政策とコンパクトシティ
住宅政策の転換一「住宅建設計画法から「住生活基本法」へ
中央集権型住宅政策から地方分権型住宅政策へ
地域居住政策の視点へ. 地域居住政策の展開方向
地域居住政策のための課題
マンションブームと街なか居住
街なか居住の具体的検討
④安全安心のまちづくり
都市インフラの分節化
墨田区の減災対策
⑤ 交通インフラ整備と広域公共交通マネジメント
道路計画の検証
パークアンドライド
ポートランドの交通まちづくり
⑥都市計画と農村計画の連携
都市計画の軌道修正
農村における土地利用
都市計画制度とその手法の根本的な見直し
⑦地域循環型経済システムの構築
地域循環型経済のための都市と農村の連携
地域における住宅供給システム
地域循環型経済を支える金融システム
第7章 日本版コンパクトシティの実現をめざして
①わが国におけるコンパクトシティの潮流と論点
コンパクトシティにつながる自治体の取組み
日本版コンパクトシティの論点一実現への疑問に対する回答
②日本版コンパクトシティの原則
コンパクトシティの政策展開における原則
③持続可能性と地域再生のためのグランドデザイン
地域における政策形成能力と合意形成能力
地域再生のグランドデザイン
参考資料
福島県商業まちづくり条例
福島県商業まちづくり基本方針
事項索引
あとがき