自治体行政マンが見た 欧州コンパクトシティの挑戦―人口減少時代のまちづくり・総合計画・地方版総合戦略のために

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海外コンパクトシティの日本の自治体への応用作

本書では、コンパクトシティとまちづくりの先進都市であるフランスのストラスブールとディジョン、ドイツのフライブルクの3都市で、著者が実際に見て調べたまちづくりの成果を紹介します。また、日本の自治体で取り組みを進めるための視点と政策改革の切り口について提案しています。

目次

はじめに 進まないコンパクトシティと行き詰まるまちづくりのヒントを求めて
1 自治体の「焼き畑農業的対応」と続発する高齢者の運転事故
2 欧州のまちづくりの成果を現地で実感するために
3 12年間の計画担当の経験を踏まえ、「地方版総合戦略の抜本改定から始めよう」との提案

第1節 まちづくりと公共交通の「聖地」フランス・ストラスブールへ
1 世界中にインパクトを与えた憧れのLRTに乗車する!
2 日本のバスなどにはない公共交通の質の高さ
3 車中心の都市の衰退 二度と行こうとは思わない街
4 環境派市長の登場による車の規制とLRTの導入
5 「シャッター通り」はどこにもなかった
6 フランスを代表する環境先進都市に

第2節 フランス・ディジョンはワイン造りとバス交通のトップランナーだった!
1 LRTでなくバス交通で都市交通のランキング1位に
2 初めて乗った連接バスで「パンチをくらう」
3 バスの持てる潜在能力を最大限に発揮
4 バス交通が「成功しすぎて」問題に直面する
5 「ワインレッド」の多様な交通施策が展開

コラム ちょっと寄り道(その1)高速の文書作成の切り札、「親指シフト」とは?
1 「あなたは何回打っていますか?」
2 「日本語を指がしゃべる」入力方式
3 「親指シフト」との出会いと涙の別れ
4 無理やり別れさせられた「恋人」との再会
5 職場で「百聞は一見にしかず」で理解を得る
6 「そうだ、親指シフトにしよう!」

第3節 世界初の「移動権」を保障するフランスと「2周遅れのガラパゴス」日本
1 赤字運営でいいの? 日本人視察者のお決まりの質問
2 「世界初の移動権」を実現する交通目的税
3 「連帯運賃」で運営する「水平エレベーター」
4 「周回遅れ」から「2周遅れ」に
5 パリ市長の挑戦と「ガラパゴス日本」の行方

第4節 フランスのまちづくりの到達点を見た! 都市計画、交通、住宅の個別計画一本化でコンパクトシティを推進
1 都市計画マスタープランが生物多様性にコミットする!?
2 市町村の都市計画で電線類の地中化が建設許可の条件に
3 都市計画の規制で国内で最も地味なマクドナルド店に
4 市街地の拡散を抑制して「都市の上に都市をつくる」
5 「土地消費が進行した」との認識と反省から
6 新規住宅整備のCO2試算で建設地域を限定する
7 「交通不便地域解消」や「電線類地中化」は遅れた都市計画制度の現れ
8 「三位一体」の計画で総合的なまちづくりへ

コラム ちょっと寄り道(その2)学習時間を倍増する切り札、「耳からの情報収集・学習法」
1 「あなたは毎日、何時間勉強していますか?」
2 「放送大学」の無料で多彩な講義を活用しよう
3 「池上解説」も「早聞き」で聴こう
4 離れたところでも電波で飛ばして「早聞き」で聴こう
5 毎日の習慣で、勉強時間もあなたも大きく飛躍する!

第5節 ドイツの「環境首都」フライブルクから学ぶ脱原発のコンパクトシティ
1 森の枯死と原発計画を契機として
2 「地域定期券」を支える「シュタットベルケ」
3 ドイツの都市計画制度とフライブルクの取組み
4 「コンパクトシティ政策の三本柱」を駆使して
5 環境首都に相応しいソーシャル・エコロジー住宅地の建設
6 コンパクトな都市をつくるために問われる居住スタイル
7 「自由の街」から学ぶ持続可能な都市のあり方

第6節 コンパクトシティのまちづくりに向けて地方版総合戦略の抜本改定から始めよう
1 「街ごと持って帰りたい」
2 求められる「総合計画」による「総力戦」の対応
3 「コンパクトシティ政策の三本柱」の議論を
4 市街地を拡大させない都市計画の運用に
5 「第2期地方版総合戦略」でコンパクトテシィのあり方を検討しよう
6 根拠なき「目標人口」と「合計特殊出生率」の結果
7 総合戦略の改定は「抜本的な見直し」で進めよう
8 国がやらなくとも「人口ビジョン」を改定しよう
9 国の方針と決別し人口減少を前提とした総合戦略を策定
10 「都市圏総合戦略」を主体的に策定しよう
11 自治体の政策で都市は変わる!

おわりに 今こそ、「コンパクトで開かれた都市」を創ろう!
1 初めて見た光景
2 日本で見た光景
3 「移動回数を減らさない」都市政策とまちづくり
4 6か国語対応のLRT券売機と9か国語の運賃説明
5 探し求め、たどり着いた、まちづくりの実践
付録ブックレビュー「“ミシュラン”フランス地域巡り
著者紹介

はじめに

1 自治体の「焼き畑農業的対応」と続発する高齢者の運転事故

「焼き畑農業的対応」と近年の自治体の姿勢を批判するのは、東洋大学の野澤千絵教授である。人口減少時代では市街地の拡大を抑制し、中心部に都市機能 や居住を誘導・集約して、人口集積が高密度なまちを形成する「コンパクトシティ」を目指すことが求められている。しかし、人口を確保したい自治体は、開発が規制された地域に、相続対策用のアパートなどが大量に作られることを認めるなど、未だにスプロール化につながる無計画な郊外の開発を許容しているとして、冒頭のコメントを一昨年の日本経済新聞で述べていた。

実際、同紙の調べでは、「コンパクトシティを目指す」として国土交通省が制度を設けた「立地適正化計画」を策定した116市町においてさえ、6割の自治体が誘導区域外の開発に何も手を打たず、さらには、同計画の策定が区域外の開発の抑制に「効果的」と答えたのは1自治体のみであった。つまり、人口減少時代においてコンパクトシティの推進は不可欠であると認識されているものの、欧州のように「計画なければ開発なし」の原則に基づき、都市のスプロール化と中心部の空洞化を食い止める政策が、日本においては実行されていないのである。

また、人口減少・高齢化に関係する昨今の大変気になるニュースとして、高齢者が運転して子どもをひいてしまうなど、高齢者による悲惨な自動車事故の続発が挙げられる。そして、それを報道するマスコミの論調はいつもお決まりで、運転能力が備わっていないのに運転をした本人を批判し、運転を許した家族を責め、また行政に対しては、もっと強力に免許を返納させる取組みを進めろと迫る。このようなマスコミの主張は間違ってはいないのだが、本質的な議論になっていないと、ずっと違和感を抱いていた。つまり、高齢者が自ら運転しなくとも生活できるように、これまでの車依存のあり方を改めて、今こそ公共交通の再生・充実によるまちづくりを進めるべきとの議論がなぜ巻き起こらないのか、いらだちさえ覚えていた。

2 欧州のまちづくりの成果を現地で実感するために

このような最近の問題意識から、以前から関心を持っていた欧州の都市政策について、改めて学ぶ必要があると思ったのである。なかでも、フランスやドイツの先進都市では1980年代からLRT(次世代型路面電車)を中心とした交通政策と都市計画によって、移動距離の短いコンパクトなまちづくりに取り組み、まちの再生と活性化に成功し、日本の地方都市の象徴とさえなっている「シャッター通り」がないといわれている。

フランスやドイツの先進都市の政策については、日本の文献でも多数紹介されているが、やはり「百聞は一見にしかず」である。本当に「シャッター通り」がないのか確認したいとの好奇心もあって、優れたまちづくりの成果を現地で実感するために、2017年の暮れから2018年にかけて渡欧したのである。今回、コンパクトシティと公共交通のまちづくりの先進都市として訪問したのは、フランスは、まちづくりの「聖地」といわれているストラスブール、そしてバス交通で都市交通ランキング1位となったディジョン、ドイツは、「環境首都」と呼ばれているフライブルクである。内陸地方の寒さがこたえる冬の時期だったが、各都市に3日~4日ずつ滞在して、単身、朝から晩まで街を巡り、これからの日本のまちづくりのヒントを探したのである。

3 12年間の計画担当の経験を踏まえ、「地方版総合戦略の抜本改定から始めよう」との提案

そこで、本書では、これらの三都市での見聞と自分の調べを併せて紹介するものである。そして、本書の結びとして、今後、日本の自治体で取組みを進めるための視点と政策改革の切り口について提案している。筆者の前の職場は企画部企画経営課で、総合計画の策定や改定に 12年間携わり、最後は課長として現行計画の策定を総括した。そこで、自身の経験と反省を踏まえつつ、これからの総合計画や地方版総合戦略の改定のあり方について、「コンパクトシティのまちづくりに向けて地方版総合戦略の抜本改定から始めよう」とのタイトルで、最終節において具体的な問題提起と提案を行っているところである。

それでは「欧州コンパクトシティ見聞の旅」に、どうぞ最後まで、お付き合いいただきたい。