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同一労働同一賃金への対応を解説
現在、企業にはパート・アルバイト、契約社員、定年再雇用者、派遣社員といった雇用形態で数多くの人が働いています。2018年に成立した働き方改革関連法で、正規・非正規雇用労働者の不合理な待遇差が禁止されました。これが「同一労働同一賃金」です。本書では、厚生労働省のガイドラインの解説に加えて、同一労働同一賃金の先進事例や関連判例、自社の対応方針が検討できるように解説しています。
まえがき
働き方改革関連法が,2018年6月に成立しました。今回の法改正では,次の3点が最大のポイントとなります。
①時間外労働の上限規制の導入
(大企業:2019年4月~,中小企業:2020年4月~)
②年次有給休暇の確実な取得
(大企業,中小企業とも,2019年4月~)
③正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の禁止
(大企業:2020年4月~,中小企業:2021年4月~)
このうち,「③正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の禁止」が,いわゆる「同一労働同一賃金」の内容です。非正規雇用労働者とは,パート・アルバイト,契約社員,定年再雇用者,派遣社員といった雇用形態で働く人たちのことです。
同一労働同一賃金については,2020年4月から,猶予期間が設けられている中小企業でも,2021年4月から適用となります。これまでも同一労働同一賃金のルールが皆無だったわけではありませんが,これからはより厳格に,正社員と非正規社員の間の不合理な賃金差や待遇差が問われることになります。
企業の経営者や人事・総務担当者にとっては,労働時間関連の対応を行ったあと,すぐに対応方針を検討しなければなりません。しかも,時間外労働や有給休暇の問題以上に複雑で,どこまで対応すればよいのかの判断が難解なテーマといえるでしょう。
企業の経営者や人事担当者は,法律の施行までに,非正規社員を中心とした人事処遇制度を見直す必要があります。厚生労働省はガイドラインを示していますが,不明確な点もあり,それだけを頼りに社内のルールづくりを考えていくことは難しいと思われます。本書では,ガイドラインの解説に加えて,同一労働同一賃金の先進事例や関連判例,各社の対応状況などを紹介しながら,自社の対応方針が検討できるように解説しています。
同一労働同一賃金の新しいルールに積極的に取り組んでいけば,この状況をチャンスに変えることもできます。社内に「攻めの人事制度」を構築すれば,非正規社員を中心に人材確保や定着につながり,社内を活性化させることができるからです。ただし,これには人件費の大幅な上昇をともないます。一方,現時点で必要不可欠な項目に絞れば,社内制度の改定を必要最小限にとどめることもできます。そうすれば,一定のコンプライアンスを維持しながら,人件費の上昇を抑制することも可能です。
このように,今回の「同一労働同一賃金」への対応については,会社によって大きく対応が異なるでしょう。本書が,法改正や他社の状況を正確に理解したうえで,自社の人事方針に沿った適切な対応をするための一助となれば幸いです。
2019年8月
山口俊一
もくじ
まえがき
第1章 同一労働同一賃金と働き方改革関連法の関係
1 大企業に先行導入,中小企業は1年の猶予がある
2 今回の改正前から同一労働同一賃金は存在していた
3 法改正の「考え方」を読み解く
4 中小企業の定義
5 均等待遇と均衡待遇
6 派遣労働者の均等・均衡待遇
7 非正規社員に対して待遇差を説明できなければならない
8 訴えやすくなる(訴えられやすくなる)
9 法律に「同一労働同一賃金」という言葉は出てこない
10 「同一労働同一賃金」で,よく聞く疑問
第2章 同一労働同一賃金に関して押さえておくべき前提
1 雇用形態別の実態と傾向
2 雇用形態別の賃金水準
3 関連する法律:改正労働契約法
4 関連する法律:高年齢者雇用安定法
5 「抜け穴」問題
第3章 注目の判例と企業の対応
1 「契約社員に扶養手当不支給」は合理的か
2 「アルバイトにも賞与を支給すべき」と全国初の判断
3 「退職金不支給」でも全国初の判断
4 「定年後の給与水準引き下げ」に対する判例
第4章 人事担当者に聞いた対応方法~企業の取り組みアンケート調査結果~
1 賛成と反対が拮抗
2 大手企業の取り組み状況
第5章 先進企業の事例紹介とポイントの解説
1 エフコープ生活協同組合
2 株式会社りそな銀行
3 コストコホールセールジャパン株式会社
4 アウトソーシングA社のコールセンター部門
第6章 賃金制度見直しの方向性
1 同一労働同一賃金に対応した人事と賃金の考え方
2 企業がとるべき選択肢
第7章 自社の基本給・賞与・手当などの改定方針を考える
1 基本給:ガイドラインの解説
(1) 基本給:正社員水準に合わせるケース
(2) 基本給:正社員も含めて再設計するケース
(3) 基本給:仕事区分を明確にし,現状の賃金を維持するケース
2 賞与:正社員に合わせるか,一定引き上げか,しばらく待機か
3 手当,福利厚生,教育訓練
(1) 手当:ガイドラインに例示されている手当の見直し方
(2) 福利厚生:ガイドラインに例示されている福利厚生の見直し方
(3) 教育訓練:ガイドラインに例示されている教育訓練の見直し方
(4) 手当,福利厚生,教育訓練を実務レベルで考えてみる
(5) 家族手当をどうするのか
(6) 住宅手当をどうするのか
4 人件費増加シミュレーションが重要!
第8章 定年再雇用制度の考え方,見直し方
1 定年後社員(定年再雇用者)の賃金水準実態
2 ガイドラインにおける定年再雇用者の賃金に関する記述
3 定年再雇用者の賃金に関する裁判所の判断
4 定年再雇用や高齢者雇用に関する最近の企業トピックス
5 定年再雇用者の賃金水準をどのように設計するか
6 賃金水準と勤務内容がポイント
7 コースや役割の仕組みをどのように設計するか
8 給与・賞与制度をどのように設計するか
第9章 まとめ「やることリスト」
(1) 企業が対応すべきこと
(2) 処遇改定方針書の作成
同一労働同一賃金に基づく処遇改定方針書の記入例