「同一労働同一賃金」のすべて 新版

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同一労働同一賃金の背景から改正まで全てを学ぶ

本書は、働き方改革関連法のうち、同一労働同一賃金に関して、改正の経緯や制度・条文の背景等について解説しています。改正の内容やガイドラインの補足等だけを把握したい方から、制度の内容、背景等まで学びたい方まで、幅広い方が読むことができます。

水町 勇一郎 (著)
出版社 : 有斐閣 (2019/9/30) 、出典:出版社HP

はしがき

2016(平成28)年9月に「働き方実現会議」が設置され,同年12月に「同一労働同一賃金ガイドライン」,2017(平成29)年3月には「働き方改革実行計画」が策定された。本書の初版は,その約1年後の2018(平成30)年2月に発行された。その時点ではまだ,パートタイム労働法,労働契約法,労働者派遣法の改正案を含む「働き方改革関連法案」は国会に提出されていなかった。初版では,同一労働同一賃金ガイドライン案,働き方改革実行計画および,働き方改革関連法案の作成過程等を通じて明らかになっていた点を中心に,日本の「同一労働同一賃金」改革の背景と具体的な内容を明らかにすることを心掛けた。

その後,2018(平成30)年4月に働き方改革関連法案が国会に提出され,同年6月29日に成立した。国会で同法案が審議されていた同年6月1日には,最高裁でハマキョウレックス事件と長澤運輸事件の二判決が出され,この改革の動きを加速させることとなった。同法案が国会で成立したことを受けて,同一労働同一賃金ガイドライン案を基本として同一労働同一賃金ガイドラインが作成され,同年12月28日,同法に基づく「指針」として正式に発出された(正式名称は「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」〔平成30・12・28厚生労働省告示430号〕)。これらの動きと並行して,有期雇用労働者と無期雇用労働者間の待遇格差の是正をめぐる裁判例の展開もみられている。

2020(令和2)年4月には,働き方改革関連法によって改正されたパートタイム・有期雇用労働法と労働者派遣法が施行される(中小事業主についてはパートタイム・有期雇用労働法は2021〔令和3〕年4月に施行)。今回の新版では,初版以降の新たな動き・展開を踏まえて内容をアップデートしつつ,全国各地から新たにいただいたさまざまな疑問や質問に答え,改正法の内容についてもQ&A方式をとってよりわかりやすく解説するという工夫を施した。

改正法の施行に向けて,実務に携わる多くの方々が本書を手にとり,より正確な最新情報を踏まえて準備を進めていっていただけたら,そして,改正法の施行準備を越えて,「働き方改革」の先を見据えた企業経営・人事労務管理改革の方向性を考えるヒントを本書からつかんでいただけたら,うれしい。

2019年8月 プールの水も温い盛暑のなかで
水町勇一郎

水町 勇一郎 (著)
出版社 : 有斐閣 (2019/9/30) 、出典:出版社HP

目次

はじめに
「同一労働同一賃金」の衝撃

第1章
法改正の経緯
「一億総活躍」「働き方改革」と「同一労働同一賃金」
1. 伏線
——2015年労働者派遣法改正と「同一労働同一賃金推進法」の制定
2. 一億総活躍国民会議

3. 「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」と「働き方改革実現会議」
(1) 「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」の設置と検討
(2) 「働き方改革実現会議」の設置
(3) 第4回実現会議
(4) 検討会「中間報告」
(5) 第5回実現会議——「ガイドライン案」の公表
(6) 第6回実現会議
(7) 検討会「報告書」
(8) 第8回・第9回実現会議
(9) 第10回実現会議——「働き方改革実行計画」の決定

4. 法案の作成
(1) 労働政策審議会「同一労働同一賃金部会」での審議と報告
(2) 法律案要綱の作成

5. 法案の成立
(1) 国会提出に至るまでの経緯
(2) 国会での審議状況と法案の成立

6. 法施行に向けての準備
——省令とガイドライン等の作成・発出
(1) 労働政策審誠会「同一労働同一賃金部会」での審議と答申
(2) 省令,ガイドライン等の発出と施行に向けた取組み

第2章
法改正の前史
「正規・非正規格差」とこれまでの法的対応
1. 臨時工問題からパートタイム労働問題へ

2. 1993年パートタイム労働法の制定へ
(1) 「パートタイム労働者保護法」「パートタイム労働者福祉法」の頓挫
(2) 「パートタイム労働法」の制定

3. 1993年パートタイム労働法の課題と2007年改正
(1) 1993年パートタイム労働法の性格と課題
(2) 改正に向けた検討・審議
(3) 2007年改正

4. 2012年労働契約法改正と2014年パートタイム労働法改正
(1) 2009年政権交代と新成長戦略
(2) 2012年労働契約法改正
(3) 2014年パートタイム労働法改正
(4) 小括——現行法の状況と課題

5. 法改正前の学説と裁判例の状況
(1) 学説の状況
(2) 裁判例の状況
(a) 公序違反性が争われた例
(b) 「差別的取扱いの禁止」規定違反性が争われた例
(c) 「不合理な労働条件[待遇]の禁止」規定違反性が争われた例

第3章
改正法の内容
改革の趣旨と改正法条文解説
1. 本改革の趣旨・目的

2. パートタイム・有期雇用労働法(パートタイム労働法,労働契約法改正)
【題名】
【定義】
【基本的理念】
【労働条件に関する文書の交付等】
【就業規則の作成の手続】
【不合理な待遇の禁止】
(1) 改正前の規定との関係と本条の趣旨
(2) 本条の射程と性格
(a) 「待遇」
(b) 比較対象となる「通常の労働者の待遇」
(c) 短時間労働者であることまたは期間の定めがあること「を理由とする」か?
(d) 「有利な」待遇も禁止されるか?
(e) 「不合理な」「相違」の意味——「均衡」か「均等・均衡」か?
(f) 本条と異なる労働者の希望等を考慮してよいか? 本条の強行法規性
(3) 「不合理」性の判断
(a) 判断枠組みと考慮要素
(b) 判断のポイント・留意点
(c) 具体的判断
(4) 立証責任と効果
【通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止】
(1) 本改正による適用対象者の拡大
(2) 本条の内容と射程
(3) 効果
【福利厚生施設】
【事業主が講ずる措置の内容等の説明】
【指針】
【紛争の解決等】
【施行期日・経過措置等】

3. 労働者派遣法改正
【契約の内容等】
【不合理な待遇の禁止等】
(1) 不合理な待遇の禁止——「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」
(2) 不利益取扱いの禁止
【職務の内容等を勘案した賃金の決定】
【就業規則の作成の手続】
【待遇に関する事項等の説明】
【派遣先への通知】
【派遣元管理台帳】
【適正な派遣就業の確保等】
【派遣先管理台帳】
【紛争の解決】
【公表等】
【施行期日・検討規定】

4. 留意点
(1) パートタイム・有期雇用・派遣労働者以外はどうなるか?
(2) 企業(事業主)を超えた企業間・産業間の待遇格差はどうなるか?
(3) 非正規労働者の待遇改善のために正規労働者の賃金等を引き下げてよいか?

第4章
法改正の基礎
外国法(フランス法,ドイツ法)の概要と日本との異同

1. 欧州の法制度の枠組み
(1) 「客観的理由のない不利益取扱いの禁止」原則
(2) 同原則の特徴

2. 格差を正当化する「客観的理由」
(1) 「客観的理由」の分類と内容
(2) 「客観的理由」の判断の方法

3. 日本の「同一労働同一賃金」改革
——欧州との共通性と日本の独自性
(1) 「同一労働同一賃金」改革の骨子
(2) 欧州との共通性
(3) 日本の独自性

4. 小括——今後の課題

むすび
「同一労働同一賃金」の実現に向けて

巻末資料
巻末資料1 一億総活躍国民会議 第5回 資料(水町勇一郎)
巻末資料2 「ニッポン一億総活躍プラン」
巻末資料3 「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会中間報告」
巻末資料4 「同一労働同一賃金ガイドライン案」
巻末資料5 「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会報告書」
巻末資料6 「働き方改革実行計画」
巻末資料7 労働政策審議会 同一労働同一賃金部会 「同一労働同一賃金に関する法整備について(報告)」
巻末資料8 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」
巻末資料9 働き方改革関連法に伴う省令・告示案
巻末資料10 「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(同一労働同一賃金ガイドライン)
巻末資料11 「労使協定方式(労働者派遣法第30条の4)『同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準』について」

あとがき

水町 勇一郎 (著)
出版社 : 有斐閣 (2019/9/30) 、出典:出版社HP

はじめに
「同一労働同一賃金」の衝撃

「本年取りまとめる『ニッポン一億総活躍プラン』では,同一労働同一賃金の実現に踏み込む考えであります。」

2016(平成28)年1月22日,通常国会冒頭の施政方針演説において安倍晋三内閣総理大臣が述べたこの一言で,『同一労働同一賃金』の実現が急きょ政治スケジュールに上った。『一億総活躍国民会議』での議論を経て,同年6月2日に閣議決定された『ニッポン一億総活躍プラン』では,

①労働契約法,パートタイム労働法,労働者派遣法の的確な運用を図るため,どのような待遇差が合理的であるかまたは不合理であるかを事例等で示すガイドラインを策定する(2016年度から2018年度までに策定・運用)

②欧州の制度も参考にしつつ,不合理な待遇差に関する司法判断の根拠規定の整備,非正規雇用労働者と正規労働者との待遇差に関する事業者の説明義務の整備などを含め,労働契約法,パートタイム労働法,労働者派遣法の一括改正等を検討し,関連法案を国会に提出する(2018年度までに制度の検討,法案提出,2019年度以降に新制度の施行)

③これらにより,正規労働者と非正規雇用労働者の賃金差について,欧州諸国に遜色のない水準を目指すことが掲げられた。

2016年9月には,安倍総理を議長とし関係閣僚と民間有識者を議員とした「働き方改革実現会議」が設置された。そこでの議論を踏まえ,同年12月20日には,正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保することを目的とした「同一労働同一賃金ガイドライン案」が策定された。

2017(平成29)年3月28日には,働き方改革実現会議において「働き方改革実行計画」が取りまとめられた。そのなかで,

①司法判断の根拠規定(均等・均衡待週)の整備
②労働者の待遇に関する使用者の説明の義務化
③行政による裁判外紛争解決手続の整備
④派遣労働者に関する法整備

を主な内容とする,パートタイム労働法,労働契約法,労働者派遣法の改正を図ることが謳われた。この「働き方改革実行計画」の決定を踏まえ,安倍総理は,

「働き方改革実行計画の決定は,日本の働き方を変える改革にとって,歴史的な一歩であると思います。戦後日本の労働法制史上の大改革であるとの評価もありました。……文化やライフスタイルとして長年染みついた労働慣行が本当に改革できるのかと半信半疑の方もおられると思います。…しかし後世において振り返れば,2017年が日本の働き方が変わった出発点として,間違いなく記憶されるだろうと私は確信をしております。」と述べている。

以上の政府方針をもとに,同年4月から,厚生労働省労働政策審議会の3つの分科会(労働条件分科会,職業安定分科会,雇用均等分科会)にまたがる同一労働同一賃金部会が設置された。同部会で「同一労働同一賃金に関する法整備について」の審議が重ねられ,同年6月には報告・建議,9月には法律案要綱の諸問・答申がなされた。

この答申に基づき作成されたパートタイム・有期雇用労働法案,労働者派遣法改正案等を含む「働き方改革関連法案」は,同年9月の衆議院解散,10月の総選挙を経て,2018(平成30)年4月6日,同年の通常国会に提出された。同国会冒頭の施政方針演説において,安倍総理は,

「長年議論だけが繰り返されてきた『同一労働同一賃金』。いよいよ実現の時が来ました。雇用形態による不合理な待遇差を禁止し,『非正規』という言葉を,この国から一掃してまいります。」と述べていた。

同法案をめぐる国会審議では,企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大に関する「不適切データ」問題を受けて裁量労働制に関する部分が法案(労基法改正案)から削除されるといった経緯を経て,法案が国会に提出された後,同年5月31日に衆議院本会議で可決,6月29日に参議院本会議で可決・成立した。この法律の「同一労働同一賃金」に関する部分(パートタイム・有期雇用労働法,改正労働者派遣法)は,2020(令和2)年4月1日に施行される(中小事業主についてはパートタイム・有期雇用労働法の施行は2021〔令和3〕年4月1日)。

2016年1月に政治的に打ち上げられ,2018年6月に国会で改正法が成立し,2020年4月から改正法が施行されることとなった「同一労働同一賃金」改革は,その議論の「スピード感」のみならず,その「内容」面でも日本の企業や労働組合などに衝撃1) を与えるものとなっている。正規労働者と非正規労働者問のすべての待遇について均等・均衡待遇の確保を図ろうとするこの改革は,旧来の「正規・非正規」格差を大きく狭めようとするだけでなく,正規労働者を中心とした日本の伝統的な人事労務管理制度に見直しを迫るものであるからである。また,その改革のスピードの速さと規模の大きさゆえ,改正法が成立し施行時期が近づいてきている現段階でも,その趣旨や具体的な内容について,法曹関係者や現場の労使等の間でなお誤解が残っている部分は少なくない。

本書は,「同一労働同一賃金」をめぐる今回の改革の背景と具体的な内容を明らかにすることによって,改革がその趣旨に沿って着実かつ円滑に進められるよう,当事者や関係者に本改革の正確な理解を促すことを目的としたものである。

水町 勇一郎 (著)
出版社 : 有斐閣 (2019/9/30) 、出典:出版社HP