わかりやすい「同一労働同一賃金」の導入手順

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対話形式で賃金制度設計のポイントを解説

同一労働同一賃金の実現に向けた働き方改革関連の法改正などの動きを踏まえたうえで、企業がこれらに対応する人事・賃金制度の設計と運用を進めるための、制度見直しの基本的な考え方や具体的な手順を解説しています。対話形式で読みやすく記述されています。

二宮 孝 (著)
出版社 : 労働調査会 (2018/11/1) 、出典:出版社HP

はじめに

同一労働同一賃金に向けて、巷ではさまざまな意見がかまびすしく飛び交っています。ガイドライン案、関連法案をみたとき、「これは大変なことになりそうだ。改正の方向性は理解できるが、どのように見直せばよいのか検討もつかない」というのが、率直な印象でした。見直す範囲、手順や方法、社員への説明の仕方や実際の運用はどうあるべきか、いまだもって手探りという状況ではないでしょうか。

法案が提出される前段階のガイドライン案策定にあたって、西欧諸国の労働慣行及び法規を参照したとのことですが、日本とは歴史的にみても雇用環境が大きく異なっています。これは、どちらが正しいというものではありません。西欧の同一労働同一賃金論のベースは歴史的経緯からみて「男女平等」から来ているようですが、今回の法改正は、非正規社員と正規社員との格差解消ということが一番の名目に挙げられています。このことからも混乱が生じているようです。

今回の法改正は、包括的で抽象的なものにとどまり、判例を積み重ねることによって具体的な基準やルールを確かにしていくという趣旨のようです。「判例は法になり得る」とは学生のときに学んだことですが、考えてみれば、判例は個々の企業での実例に即したものである以上、それぞれが別個の案件であることには違いありません。最高裁判決までいけば新たな基準として位置づけられるのは当然ですが、なかにはきわめて特異な例もあったりして、果たしてこれが参考となるのかどうか、また新たな悩みの種となります。

私が長年営んできた人事コンサルタント業は、現場サイドに立ったきわめて現実的なものです。一歩間違うと、独りよがりの決めつけに陥る心配もありますが、抽象的な理想論を振りかざしても、すぐに「どうぞお引き取りを」の世界です。その企業にとってその時点で何が適策と言えるのか、「押してもだめなら引いてみな」流で日々悩みながら実践に臨んでいます。発生する問題に対し、1つひとつ解決しながら、試行錯誤のもとに“行きつ戻りつ”の世界にどっぷり浸っているのです。

あらためて中小企業において求められる人事制度は何かを考えてみます。いわゆる“ブラック企業”とレッテルを貼られるのは問題外ですが、かと言って完全にホワイト企業で突き進められるのかと言えば、経営困難に陥ってしまいかねない危うさを常に感じています。私はこれを人事のリスクマネジメントとして重視してきました。中小企業にとってやってはならないことは何か、すぐにやらなくてはならないことは何か、じっくり時間をかけて見直すべきことは何なのか、これらのことははっきりととらえていく必要に迫られています。あいまいなところを埋めていくのが我々の役目だと感じています。

企業はまずは存続し、さらに発展を期すことを前提とした存在です。ときに反目することもありますが、私は会社側も労働者側も同じ価値観のもとでの相互の関係であると信念を持って関わってきました。人事は、対象が今ここに生きている“ヒト”であるということを常に認識しつつ、情報を共有し、相互理解のもとに動機づけられ、切磋琢磨してヒトは成長し、企業は発展していく、これに尽きると信じています。やる気をなくしてうまくいく人事は何ひとつありません。法は、このことについて配慮してくれるものではありません。

本書は法の解説書ではありません。まさに企業経営は生き物であり、コンサルティングはその都度その都度の決断が求められる世界です。中長期的な視野に立って企業の将来を真摯に考えること、一方で現場サイドの目線で足元をしっかり見据えながら、ステップアップ方式で着実に改革を進めていくこと、これを前提に記述したものです。ときに関連法規及びガイドライン案の表面的な趣旨にそぐわないところに違和感を持たれるかも知れませんが、本書はあくまでも現場で日々現実に対応していくことを重視するものですので、この点ご容赦ください。

二宮 孝 (著)
出版社 : 労働調査会 (2018/11/1) 、出典:出版社HP

目次

はじめに

第Ⅰ編 同一労働同一賃金に向けて
1 これまでの人事労務管理
2 雇用環境の変化を振り返る
3 社員の側からみる
4 ガイドライン案をみる
5 改革に向けての基本スタンス
6 これからどう変わるか?
7 労働時間管理の行方~時間で管理するマネジメントからの脱却
第Ⅱ編に向けて

第Ⅱ編 実際のトータル人事制度設計−−コンサルティング事例から
序章 トータル人事コンサル開始前の相談

第1章 キックオフから現状診断へ

第2章 コース設定
人事制度のフレームワーク
コース区分の明確化
職掌の区分
パート等の契約社員

第3章 等級制度
人事システム全体の位置づけ
等級制度の設計

第4章 役割・職務分析
役割分析の意義
管理職の複線化としての見方
簡易版の職務評価

第5章 昇格・昇進制度
昇格・昇進制度の見直しの方向性
昇格基準・昇格判断の方式

第6章 月例賃金制度
賃金体系全体から
複合型賃金体系としてとらえる
年収単位で賃金要素をとらえる
職掌別にとらえる
手当の設計
基本給の設計
管理専門職の複線型賃金制度

第7章 賞与・退職金制度
賞与制度の再設計
退職金制度

第8章 人事評価制度
評価制度の基本的な考え方
評価制度設計のステップ
評価の区分
評価制度への具体的落とし込み
評価の運用

第9章 パート社員等非正規社員
パート社員の人事制度の基本的な考え方
パート社員の賃金制度の設計
パート社員の人事評価
有期から無期契約への転換
参考:人事制度運用規程の例

第Ⅲ編 同一労働同一賃金化のポイント−−キーファクター
序 非正規社員の側からみた優先実行課題とスケジュール
1 現状分析を進めるポイント~将来を見据え、自社の現状を直視する
第Ⅱ編第1章
2 人事区分を再編成するポイント
第Ⅱ編第2章
3 人事フレーム構想を再設計するポイント
4 賃金を再設計するポイント
5 人事評価を再設計するポイント
第Ⅱ編第8章
6 非正規社員の人事賃金の再設計
第Ⅱ編第9章
7 関連して実行すべきポイント
あとがき

※本書において、「ガイドライン案」とは、「同一労働同一賃金ガイドライン案」(2016年12月20日公表)を指します。

二宮 孝 (著)
出版社 : 労働調査会 (2018/11/1) 、出典:出版社HP