同一労働同一賃金の法律と実務(第2版)

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同一労働同一賃金のイメージをつかみ理解する

本書は、働き方改革関連法のうち、パートタイム・有期雇用労働法、労働契約法、労働者派遣法を中心に、同一労働同一賃金に関わる法律を解説します。また、正規労働者と非正規労働者の不合理な待遇格差解消をどこから準備し実際にどう図るのか、さらに、従業員への説明の仕方など、例示とともにわかりやすく解説しています。

服部 弘 (著, 編集), 佐藤 純 (著, 編集)
出版社 : 中央経済社 (2020/4/8) 、出典:出版社HP

第2版 はじめに

働き方改革法のうち,正規労働者と非正規労働者の間の不合理な待遇格差是正を目指した新パートタイム・有期雇用労働法の施行は,大企業については,2020年4月1日から,改正労働者派遣法の施行もまた,同日からなされます。

本書第1版は,丁度,この施行日の1年前である2019年4月1日に刊行されました。施行を1年後に控え,この頃より,多くの企業では同法に即した正規・非正規労働者の不合理な待遇格差解消に向けた体制を構築するべく,具体的な検討がなされ,現に,著者のもとへも具体的実務対応についての質問・相談が多く寄せられておりました。さらに,本書第1版刊行後,ガイドライン,ハマキョウレックス・長澤運輸事件最高裁判決においても判断が示されていなかった分野においても,多くの高等裁判所レベルでの判決が下されました。

お陰様で,本書第1版は何回か増刷を重ねることができ,今般,改訂第2版刊行の機会を得ることができました。この第2版においては,新パートタイム・有期雇用労働法等の施行を控え,著者のもとへ寄せられていた質問・相談の中で多かった,具体的な実務対応の仕方について,そして,第1版刊行後に同一労働・同一賃金をめぐって判断が示されたいくつかの高等裁判所の判決例を踏まえた「Q&A」を追加する等読者諸兄の要望に応えられるような改訂をいたしました。

第1版,今回の改訂版も含め,中央経済社の和田豊氏に大変お世話になりました。心より感謝申し上げます。
新パートタイム・有期雇用労働法,改正労働者派遣法の施行に際し,本書がこれら法律の理解の一助になれば幸いです。

2020年3月
著者一同

はじめに

私たち本書の執筆者である弁護士4名と社会保険労務士5名は,それぞれの実務での経験を踏まえて意見を交換しながら労働法の知識を深め合う労働法の研究会を2年間にわたり行ってきました。

そのような中,平成30年6月29日に,正規労働者と非正規労働者の不合理な待遇差解消をめざす,「同一労働同一賃金」もその柱の1つとした働き方改革法が成立しました。そしてこれも法改正と時期を同じくして,正規労働者と非正規労働者の待遇格差が争点となったハマキョウレックス・長澤運輸事件についての最高裁判所判決が平成30年6月1日に出されました。

正規労働者と非正規労働者の不合理な格差是正をめぐっては,その改正法施行と同時に行政からガイドラインが提示されることとなっていますが,これについてはすでに平成28年12月20日にはガイドライン案が公表され,その後,平成30年12月28日に厚生労働省告示第430号として「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(以下「ガイドライン」といいます)が公示されました。

ハマキョウレックス・長澤運輸事件最高裁判決,同一労働同一賃金をめぐっての改正法の成立,ガイドラインの公表と,正規労働者と非正規労働者の不合理な待遇格差解消をめざした立法及びその法律解釈の基礎は出来上がりましたが,なお,上記最高裁判決,ガイドラインでも言及されていない部分があること,またそれにも増して働き方改革の中での1つの標語として使われてきた「同一労働同一賃金」という言葉ばかりが独り歩きして,今回の法改正の内容が一体どういうものなのかということが,世上,理解されていないこともあり,働き方改革法の成立前後から,クライアントから数多くの質問が私たちに寄せられるようになっていました。

私たち執筆者のメンバーは,こういった質問に答えるべく,議論を重ねてまいりましたが,このほど,その議論の結果をQ&Aの形で,そしてその議論の前提となる同一労働同一賃金についてのパートタイム・有期雇用労働法等の解説・上記最高裁判決の解説を法律編という形で,中央経済社の賛同を得て出版物として出すことになりました。

「同一労働同一賃金」との掛け声の下,正規労働者と非正規労働者の不合理な待遇格差解消をめざしてパートタイム・有期雇用労働法の改正がなされましたが,読者の方々の関心は,ガイドラインに言及されていない待遇格差についてどう対応したらよいかという,まさに直截的に結論を知りたいというものから,最高裁判決を踏まえたパートタイム・有期雇用労働法の体系的な解説書が出ていない中,同法の解釈を一から知りたいというものまで千差万別と思われます。

本書では,通例の法律解釈文献とは異なり,最初に今回の法改正の概要を示し,その後に「Q&A」編を設け,最後に「法律解説」編を設けるという構成をとっています。このようにした理由は次のとおりです。すなわち,「同一労働同一賃金」との掛け声の中で,実際は法律では正規労働者と非正規労働者の待遇の均等・均衡をもって「同一労働同一賃金」であるとしているのですが,この間にはややギャップがあり,「均等・均衡」待遇とは一体どういうことなのかはなかなかわかりづらい点もあろうかと思います。しかし,幸いにしてパートタイム・有期雇用労働法の施行に当たっては,通常の法律の場合とは異なりかなり詳しい解釈のガイドラインが示されており,関係する最高裁判決も出されていて,この中で「均等・均衡」待遇の実際が言及されています。

そこでまず,ガイドライン・最高裁判例等に基づき,正規労働者と非正規労働者の均等・均衡待遇の実例を紹介した「Q&A」編を読んでいただき,「均等・均衡」待遇,そしてこの法律でいう「同一労働同一賃金」とはどういうことなのかのイメージをつかんでいただき,その上で法律解説編を読んでいただくと法律の理解が深まるのではないかと考えて,このような章立てにしてみました。さらにQ&A編のいくつかを読んで,「均等・均衡」「同一労働同一賃金」のイメージがつかめたら,いったん,法律解説編を読んでいただき,またQ&A編に戻って読んでいただくといった使い方もあろうかと思います。

どのような使い方であれ,本書がパートタイム・有期雇用労働法の同一労働同一賃金についての法律改正の理解の一助になってもらえれば幸いです。

2019年1月
著者一同

服部 弘 (著, 編集), 佐藤 純 (著, 編集)
出版社 : 中央経済社 (2020/4/8) 、出典:出版社HP

目次

第2版・第1版はじめに

第1部 概論
Ⅰ. 改正法の目指すもの
Ⅱ. 非正規社員の平均年収は179万円
Ⅲ. 均衡と均等について
1. 2つのキーワード
2. 均衡待遇
3. 均等待遇
Ⅳ. 改正法による統合
Ⅴ. 改正のポイント
1. 概要
2. 同一事業主内
3. 個々の待遇ごとの判断
4. ガイドラインの策定
Ⅵ. 均衡待遇と均等待遇の規定
1. 均衡待遇の規定(新パートタイム・有期雇用労働法第8条)
2. 均等待遇の規定(新パートタイム・有期雇用労働法第9条)
Ⅶ. 派遣社員に関する均衡待遇と均等待遇
Ⅷ. 待遇に関する説明義務(新パートタイム・有期雇用労働法第14条)
Ⅸ. 施行期日

第2部 Q&A編
1. なぜ同一労働同一賃金の改正が行われるのか
2. 同じ仕事をしているキャリア職とパートタイマーの均等・均衡の判断
3. 「同一性」をどのように判断するか
4. 同一労働同一賃金に職能給で対応できるか
5. どこから準備を進めたらよいか
6. 異なる賃金制度の均等・均衡待遇の判断方法
7. 他社での職務経験をどのように扱うか
8. 成果・業績給を導入する場合の注意点
9. 勤続給に違いがあっても問題はないか
10. 昇給をどのようにすればよいか
11. 役職手当をどうするか
12. 家族手当をどうするか
13. 住宅手当をどうするか
14. 地域手当の設定の注意点とは
15. 特殊勤務手当について
16. 単身赴任手当について
17. 資格手当について
18. 食事手当をどうするか
19. 割増賃金の率に差があってもよいか
20. 通勤手当に差をつけられるか
21. 賞与に格差をつけられるか
22. 退職金制度への対応方法について
23. 定年後再雇用者の賃金設定の注意点について
24. 慶弔休暇をどうするか
25. 休職の設定の注意点とは
26. 健康診断の取扱いの注意点について
27. 会社が確保した駐車場の利用について
28. 研修に違いをつけられるか
29. パートタイム・有期雇用労働法の建付けについて
30. 自ら不合理な待遇を認めるのは有効か
31. 裁判における不合理性の主張立証責任は誰にあるか
32. 最新の高等裁判所判決にはどのようなものがあるか
33. 待遇差の説明義務とは
34. 客観的・具体的な実態に基づく判断方法とは
35. その他の事情とは
36. 正社員の待遇を引き下げて対応できるか

第3部 法律解説編
第1章 わが国における同一労働同一賃金法制
Ⅰ 働き方改革関連法の成立
Ⅱ 非正規雇用労働者(短時間労働者,有期雇用労働者,派遣労働者)の待遇に関する改正法の概要
Ⅲ 非正規雇用労働者の待遇に関する現行法上の制度
1. 同一労働同一賃金原則
2. 労基法(第3条)
3. パートタイム労働法
(1) 2007(平成19)年改正パートタイム労働法
(2) 現行(2014(平成26)年改正)パートタイム労働法第8条,第9条
4. 労契法(2012年改正労契法第20条)
(1) 改正の趣旨・概要
(2) 要件
(3) 効果
Ⅳ パートタイム労働法,労契法改正(2014(平成26)年)前の「同一労働同一賃金」についての裁判例の状況
1. 丸子警報器事件(長野地裁上田支部平成8年3月15日判決 労判690号32頁)
2. 日本郵便逓送事件(大阪地裁平成14年5月22日判決 労判830号22頁)
3. 京都女性協会事件(大阪高裁平成21年7月16日判決 労判1001号77頁)

第2章 パートタイム・有期雇用労働法-
Ⅰ パートタイム・有期雇用労働法の成立
Ⅱ パートタイム・有期雇用労働法の建付け
Ⅲ 短時間労働者,有期雇用労働者の定義(パートタイム・有期雇用労働法第2条)
Ⅳ 不合理な待遇の禁止(パートタイム・有期雇用労働法第8条)
1. はじめに
2. 本条の要件
(1) 「待遇」
(2) 「通常の労働者の待遇」
3. 不合理性の具体的判断
(1) 基本給
(2) 賞与
(3) 手当
(4) 福利厚生
(5) その他
4. 本条の効果
(1) 強行法規性
(2) 無効となったときの救済方法
Ⅴ 差別的取扱いの禁止(パートタイム・有期雇用労働法第9条)
1. はじめに
2. 条項の分説
(1) 「待遇」
(2) 「差別的取扱い」
(3) 「短時間・有期雇用労働者であることを理由として」
(4) 「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」
3. 効果
Ⅵ その他の改正点
1. 福利厚生施設(パートタイム・有期雇用労働法第12条)
2. 説明義務(パートタイム・有期雇用労働法第14条)
3. 指針(パートタイム・有期雇用労働法第15条)
4. 紛争の解決
Ⅶ 施行期日・経過措置等
1. 施行期日
2. 中小事業主に対する適用猶予

第3章 定年後再雇用者の賃金
Ⅰ 高年齢者の雇用促進対策
1. 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の成立
2. 高年法の展開
Ⅱ 定年制の有効性
Ⅲ 定年後再雇用者の待遇
1. 概説
2. 裁判例
(1) トヨタ自動車ほか事件(名古屋高裁平成28年9月28日判決 労判1146号22頁)
(2) 九州惣菜事件(福岡高裁平成29年9月7日判決 労判1167号49頁)
(3) 学究社事件(東京地裁立川支部平成30年1月29日判決 労判1176号5頁)
(4) 長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日判決 労判1179号35頁)
(5) 長澤運輸事件最高裁判決後の下級審裁判例
Ⅳ 今後の対応

第4章 労働者派遣法
Ⅰ はじめに
Ⅱ 待遇に関する情報の提供等
1. 情報提供義務
2. 情報提供義務の実効性確保のための諸制度
3. 均等・均衡方式と労使協定方式
(1) 均等・均衡方式
(2) 労使協定方式
4. 具体的取扱い
(1) 基本給
(2) 賞与
(3) 手当
(4) 福利厚生
(5) その他
(6) 協定対象派遣労働者
5. その他の改正

第5章 労契法第20条に関連する2つの最高裁判決(ハマキョウレックス事件最高裁判決と長澤運輸事件最高裁判決)
Ⅰ はじめに
Ⅱ ハマキョウレックス事件
1. 事案
2. 労契法第20条の解釈及び適用に関する事項
(1) 労契法第20条の趣旨について
(2) 「期間の定めがあることにより」の解釈
(3) 「不合理と認められるものであってはならない」の解釈
(4) 「不合理と認められるものであってはならない」の主張立証責任
(5) 私法上の効力の有無について
(6) 補充的効力の有無について
(7) 無効とされた労働条件の就業規則の解釈による認定について
Ⅲ 長澤運輸事件
1. 事案
2. 労契法第20条の解釈及び適用に関する論点
(1) 労契法第20条の趣旨について
(2) 「期間の定めがあることにより」の解釈
(3) 「その他の事情」の解釈(「その他の事情」として考慮される事項)
(4) 「労働条件の相違」の判断方法
(5) 「不合理と認められるものであってはならない」の解釈
(6) 補充的効力の有無について
(7) 無効とされた労働条件の就業規則の解釈による認定について
Ⅳ まとめ
1. 2つの最高裁の判断
2. 今後の課題

服部 弘 (著, 編集), 佐藤 純 (著, 編集)
出版社 : 中央経済社 (2020/4/8) 、出典:出版社HP