地政学世界地図:超約 国際問題33の論点

【最新 – 地政学を理解するためのおすすめ本 – 超初歩的から専門的な内容まで】も確認する

世界史と国際関係の要点を解説

地図は地理のツールですが、政治の道具にもなります。例えば、フランス人にとって、ヨーロッパを世界の中心に置くことは精神的な安心感につながっています。また、ロシアはアフリカ大陸の半分に過ぎませんが、地図では並外れて巨大な国家に見えます。本書は、世界史と国際関係の要点を丁寧に解説した、地政学の入門書です。

Baptist Cornabas (原著), バティスト コルナバス (著), 神田 順子 (翻訳), 倉嶋 雅人 (翻訳), & 2 その他
出版社 : 東京書籍 (2020/8/31) 、出典:出版社HP

序文

現在使用されている地図のほとんどは間違っている。あなたが子どもだった頃、教室に掛かっていた世界地図は?間違っていた。一○代の頃にあなたの部屋の上に飾られていたグローブランプ(地球儀型のランプ)は?間違っていた。オフィスの机に敷かれるデスクパッドの世界地図は?間違っている。いや、これらの地図は間違っているというよりも、完全なる真実を伝えるものではない。ただし、早とちりしないでもらいたい。これらは、想像上の王国、ファンタジーの国、ノームやエルフらが住人といった国をそこここに配した地図だからフェイクだ、と言いたいのではない。

あなたは「牛のように体を大きくしたい」と望んだ蛙のおとぎ話のことを覚えているだろう。あの蛙はどんどん膨らんで、膨らんで、自分と向き合っている巨大な動物と張り合おうとした。しかし、蛙はただ見かけを大きくしようとしただけであり、実際の蛙は牛よりはるかに小さい動物であることを誰もが知っている。すべては「それがどのように見えるか」という問題である。地図作成は、ある意味、権力の道具をつくることに等しい。メルカトル図法による地図はいまだに一般大衆が最も使うものであるが(学校に通ったことがある人にはお馴染みの例の地図だ)、実に四五〇年もの長きにわたって完全にねじ曲げられている。いくつかの国々は、世界地図というチェス盤の上で占める大きさによって、おとぎ話の蛙どころではない、深謀遠慮のあるブラフをかけているのだ。それらの国々は一見大きく見えるが、実態はそれほどでもない。なぜなら地図は我々が世界に抱くイメージの反映だからだ。球体の世界を平面で表現しようとするメルカトル図法は、赤道から離れれば離れるほど比率が歪められ、領土を実際よりも拡大して見せることになる。したがって、世界地図で見るロシアは我々には並はずれて巨大な国家に見える。しかし、ロシアはアフリカ大陸の半分に過ぎない〔ロシアの面積は約一七一二万平方キロメートル、アフリカ大陸の面積は約三〇三七万平方キロメートル〕。しかも、実際のアフリカ大陸は、グリーンランドより一四倍も大きい。

しかし、それではなぜこのように不正確な地図を今もなお教室で使い続けているのだろうか。我々の住む世界をこれほど間違った姿で描くことが広まっているのはなぜだろうか。

その理由はおそらく、かつて植民地主義・帝国主義の宗主国であった「北側」の国々にとってメルカトル図法は、自分たちがそうだと自負している大国のイメージを視覚化するのに適していたからだろう。北側の国々はその後何世紀にもわたって、この図法を他国、特に南側の国々に押し付けている。

地図の表現法には、メルカトル図法以外のものもあり、完璧とはいえないがかなり真実に近い図法も存在するが、地図はつまるところ権力の道具なのだ。地図は、一見したところ人畜無害だが、集合的無意識を形成する力を持っている。フランス人にとって、ヨーロッパを世界の中心に置くことは精神的な安心感につながる。自分たちの国が世界の中心にあるならば、世界の注目の的であり、権力と経済の中心地でもあるに違いない、という心地よい幻想を味わうことができる。もしも、中国が中心に置かれている地図の使用が、世界中の学校で強制されたらどうなることだろう?世界の大国と比べてのフランスの立ち位置を、我々は今までと同じようにとらえることができるだろうか?

地図は地理のツールだが、政治の道具にもなる。ゆえに、ひとことでいえば、実に面白い。なぜなら地政学は非常にシンプルにも見えるが、また同時に非常に複雑でもあるからだ。まずは地球全体に視線を向けよう。すると、我々を多くの考察へと導く扉が開く。

なぜ朝鮮半島には二つの国家(北朝鮮と韓国)が存在するのだろう。シリアは?ニュースでよく取り上げられる国だ。おや、リヒテンシュタインってどんな国だか、聞いたことがないな。そもそも国境線はどのようにして引かれたのだろう。誰が国境を管理しているのだろう?では、地球の管理は?そして宇宙は?

疑問、あやふやな知識、先入観が渦を巻いてぶつかり合い、答えを求めている。上記でおわかりのように、答えはシンプルなものに思えるかもしれないが、完全にシンプルな答えなど決して存在しない。無駄な問題提起はいっさいない。学習は幸福と自己実現に不可欠な要素である、というのが私の持論だ。自分が生きている世界について何も知らない人間が、どうやって自己実現できるというのだろう。知識はそれをマスターする人間にとって恐るべき武器となるが、知識を持っていると自慢することに意味はないことを謙虚な人は知っている。我々人間の複雑さをよりよく理解するためには、知識を得ることを目指すだけで十分なのだ。こうした知識は、意見交換、言葉、文字を通して伝えられる。本書を構成する各章は、人間と社会に対する目を養うために有益であることは間違いない。扱われているのは、いずれも一冊の本が書けるくらいに複雑なテーマであるので、この本が与える「答え」は簡潔過ぎるかもしれないが、多くの人に知識の門戸を開くものだ。我が同志〔本書の著者〕バティスト・コルナバスが歴史の知識を普及するためにYouTubeで流している動画と同じように。知識の獲得は結局のところ、この本が持つ、より深い目的に貢献する。我々の世界とその機能に関して明確かつ理解しやすいパノラマを読者に与える、という目的である。我々は大きな機械の中の小さな歯車に過ぎない。しかし自分で自分のメンテナンスができる歯車は、前進する一つの機械である!

バンジャマン・ブリヨー[ノタ・ベーネ]

日本語版出版にあたって
親愛なる日本の読者へ。僕の本を手にとってくれたことに感謝します。世界のいくつかの地域が今日なぜ不安定なのかを理解するのにお役に立てれば幸いです。過去を知ってこそ、より良い未来を築くことができる、このことを忘れないようにしましょう。
バティスト・コルナバス

Baptist Cornabas (原著), バティスト コルナバス (著), 神田 順子 (翻訳), 倉嶋 雅人 (翻訳), & 2 その他
出版社 : 東京書籍 (2020/8/31) 、出典:出版社HP

目次

序文――バンジャマン・ブリヨー[ノタ・ベーネ] 日本語版出版にあたって――バティスト・コルナバス

1 すべての地図は間違っているのか?
2 国境線はどうやって引かれたのか?
3 なぜ欧州連合(EU)の加盟国は変わり続けるのか?
4 トルコはヨーロッパなのか?
5 アルザスはフランスなのか、ドイツなのか?
6 グリーンランドはどこに属しているのか?
7 BRICSとは何者か?
8 国連の目的とは何か?
9 宇宙は誰のものか?
10 なぜジブラルタルは英国領なのか?
11 「ロシアの飛び地」カリーニングラードとは何か?
12 キプロスはどこに属しているのか?
13 リヒテンシュタインとはどんな国?
14 マケドニアが「北マケドニア」になった理由とは?
15 香港は中国なのか?
16 ナウルは滅びた楽園か?
17 キューバ、時間が止まった国?
18 なぜ二つの国家が朝鮮半島に存在するのか?
19 ミャンマー(ビルマ)は統一できるのか?
20 インドとパキスタンの間に何が起きているのか?
21 なぜ中東に紛争と危機が集中するのか?
22 なぜシリアでは混迷が続くのか?
23 イスラエル・パレスティナ紛争はなぜ解決できないのか?
24 ユーゴスラビアはどこへ行ったのか?
25 なぜクリミア半島は緊張状態にあるのか?
26 アラル海はなぜ消えたのか?
27 なぜアルジェリア国民は蜂起したのか?
28 エリトリアには自由があるか?
29 なぜスーダンは危機に陥ったのか?
30 なぜイエメンは瀕死の状態にあるのか?
31 リビアはまだ存在しているのか?
32 ベネズエラで何が起こっているのか?
33 中国はどこへ向かうのか?

監訳者あとがき――神田順子
掲載図版一覧

Baptist Cornabas (原著), バティスト コルナバス (著), 神田 順子 (翻訳), 倉嶋 雅人 (翻訳), & 2 その他
出版社 : 東京書籍 (2020/8/31) 、出典:出版社HP