学校では教えてくれない地政学の授業

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予備知識ゼロでも学べる地政学

1945年の敗戦から日本は戦略的思考を放棄し、経済発展だけを考えてきました。しかし、ロシアや中国、インド、同じ敗戦国のドイツでさえも、国家の生き残りのために戦略的思考を磨き、情報を集めています。本書は、戦略的思考の典型である地政学を、予備知識がない人にも理解できるように、専門用語をできるだけ避けて解説したものです。

茂木 誠 (著), 文化放送 (著)
出版社 : PHP研究所 (2016/9/21) 、出典:出版社HP

まえがき

日本ではじめて、だと思います。
「地政学」という「禁断の学問」を大手メディアが番組で、しかも半年間のシリーズ物として取り上げたのは。文化放送さんの英断に、心から敬意と感謝を表したいと思います。
一九四五年の敗戦のショックで、日本人は戦略的思考を失ってしまいました。
「戦略(ストラテジー)」という言葉はもともと軍事用語で、「戦術(タクティクス)」と対になる考え方です。「あの島を奪うのには、どれだけの兵力と武器が必要で、どこから攻めるか」というような、現場の部隊長が考える個々の作戦が「戦術」です。
これに対し、戦争に勝つためには、どこの国と同盟関係を結び、どのような産業を興し、どうやって情報を集め、国際世論にどのようにアピールして味方を増やすか、というような、政治・外交・経済・思想も含めた長期的、大局的な作戦を練るのが「戦略」です。
「そんなこと、政治家にやらせておけばいい」、という考えは大間違いです。日本のような民主主義国家においては、政治家は国民が選ぶのです。国民一人一人が戦略的なものの見方を身につければ、戦略的な思考のできる政治家を見分けることもできるようになり、彼らを選挙で当選させ、政権を担わせることで、日本の国力自体を強くできるのです。
地政学は戦略的思考の典型です。本書のタイトル通り、地政学は学校では教えません。米軍(GHQ)占領下で、アメリカは二度と日本人に戦略的思考を持たせぬように、これを危険思想として封印しました。サンフランシスコ平和条約で日本が再び独立したのちも、日米安保条約で日本はアメリカの世界戦略に組み込まれ、在日米軍が日本の防衛を担うという状態が70年続いてきました。日本政府は、「アメリカ様のあとについていけば大丈夫」、とばかりに戦略的思考を放棄し、経済発展だけを考えてきたのです。マッカーサーはかつて、敗戦後の日本のことを「十二歳の子ども」と評しました。悔しいですが、この指摘は当たっています。自国の安全を他国に依存する国は、国際社会では「子ども」なのです。
他の国々は違いました。ロシアも、中国も、インドも、イギリスも、日本と同じ敗戦国のドイツでさえも、国家の生き残りのために戦略的思考を磨き、情報を集め、自分の足で立ってきたのです。
米ソ冷戦がアメリカの勝利に終わり、「世界の警察官」を自負したアメリカもイラク戦争と金融危機で疲れ果て、二〇一六年の大統領選挙では、日本・韓国・欧州に展開する米軍の撤収を公言するドナルド・トランプが共和党の大統領候補に選ばれました。日本という子どもが、アメリカというお母さんのスカートの陰に隠れ、守られた時代は終わるのです。
「自国の安全は自国で守る」ためには、世界の主要国がどのような原理で動いているのか、その行動原理を知る必要があります。そのとき、地政学は非常に役に立ちます。

文化放送の「オトナカレッジ」は、砂山アナウンサーを進行役に専門分野の講師が、毎回テーマを決めて講義を展開し、リスナーに学びの機会をつくる番組です(番組については後述)。番組プロデューサーの岩田さんから、「世界史学科という枠で、地政学、やりませんか?」とお声がけをいただきました。国民の意識改革の一助になればと考え、喜んでお引き受けしました。
予備知識ゼロのリスナーにも理解できるように、専門用語をできるだけ避け、ラジオ番組なのに、地図をふんだんに使いました(地図は番組ツイッターで見られるようにしました)。
「日本で一番やさしい地政学の講義」ができたのではないかと自負しています。これまでの放送内容の一部は「オトナカレッジ」の番組ホームページ内のポッドキャストポータルサイト「聴く図書館」で聴くことができますが、出版社のPHPエディターズ・グループさんのご協力により、本という形に残すことができました。本書の出版を機会に、より多くの方に地政学に触れていただき、この国の自立に少しでも貢献できれば嬉しく思います。
地政学についてもう少し詳しく知りたい方向けに、『世界史で学べ! 地政学』(祥伝社)という本も書きました。電子書籍でも読めます。参考文献などは、こちらの巻末に載せてありますので、本書では割愛させていただきます。

※二〇一三年秋から始まった「オトナカレッジ」は、「経済・ビジネス」「趣味・教養」をテーマに多様な学科を設け、専門の講師が講義をする番組です。「茂木誠の世界史学科」は二〇一五年秋から半年間放送。「地政学」の視点での講義は、リスナーには新鮮かつ充実した内容で、放送後配信のポッドキャストのアクセス数も全講義の中で常に上位でした。

茂木 誠 (著), 文化放送 (著)
出版社 : PHP研究所 (2016/9/21) 、出典:出版社HP

学校では教えてくれない地政学の授業 もくじ

まえがき

第1章 「地政学」って何?
第2章 アメリカ大統領選挙後の世界はどう変わる?
第3章 日米戦争も日米同盟も、目的は「あの国」だった!
第4章 「ランドパワー」中国の最大の敵は?
第5章 なぜ、中国は今、海に進出しようとするのか?
第6章 半島国家・朝鮮の高度な「生き残り戦略」
第7章 地政学から見た日韓関係の近現代
第8章 ロシアという隣人といかに付き合うか?
第9章 ロシアはなぜ欧米と対立するのか?
第10章 ヨーロッパの移民問題から日本が学ぶべきこと
第11章 イギリスが脱退! EUで何が起きているのか?
第12章 シリア、イラクの内戦はなぜ終わらないのか?
第13章 イランが目指す中東の新秩序
第14章 親日国トルコはどこへ向かうのか?
第15章 大国インドは、なぜ日本に接近するのか?
あとがき

装幀:戸塚みゆき(ISSHIKI)

茂木 誠 (著), 文化放送 (著)
出版社 : PHP研究所 (2016/9/21) 、出典:出版社HP