国際社会を支配する地政学の思考法 歴史・情報・大衆を操作すれば他国を思い通りにできる

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権力者たちは、遠い昔から、他者を支配して従わせようとする野心を持っていました。地政学は、できれば全世界を、そうでなくとも出来る限り広い範囲を支配すると同時に、他社に全く、または必要以上に支配されないことを目的に用いられています。本書は、25年にわたり地政学についての調査と研究をしてきた著者が、新聞・雑誌の記事や論文をまとめたものです。

ペドロ・バーニョス (著), 金関 あさ (翻訳), 村岡 直子 (翻訳), 神長倉 未稀 (翻訳)
出版社 : 講談社 (2019/12/12) 、出典:出版社HP

著者の言葉

本書は、私の25年にわたる調査と研究を総括し、多種多様な新聞・雑誌に寄稿してきた記事や、共著で発表した論文や序文をまとめたものである。この四半世紀の間、私は軍関連機関、大学、センター、財団などで地政学、戦略、諜報、防衛、セキュリティ、テロリズム、国際関係に関する何百もの授業やカンファレンスを行ってきたが、そのために作成した数知れないノートも参考にしている。本書を執筆するにあたって、スペイン国軍高等学校参謀本部で国際戦略や国際関係に関する教鞭をとってきたことや、国防省地政学分析チームを率いてきた長年の経験がどれだけ役立ったかわからない。

さらに大量の文献から集めた情報も加えた。引用部分は必ずしも原典と一字一句同じにはせず、もとの意味はそのままに、より読みやすくなるように言い回しを変えているものもある。本書が、最先端の専門家から、こういうテーマに興味のある方、好奇心旺盛な方、単にエンターテインメントとして読みたいという方など広い読者層の方々に楽しんでいただける作品になるよう心がけた。

第三者の具体的な考え方やコンセプトを紹介する際は、それが誰のものなのかをできるだけ記載したが、読者が退屈しないようそれ以外のものは参考文献にまとめている。

本書で例に挙げた歴史上の出来事のなかには、いくつもの戦略が重なって存在していると気づく読者もいるだろう。また、一部の国により多くのページを費やしていると、偏りが気になる読者もいるかもしれないが、それは、そういう国は強国で、ここに挙げている戦略を駆使して世界を支配しているケースが多いからだ。私はどこの国のイデオロギーも宗教も否定しないし、とくに誰かを非難するつもりもない。ただし、自分たちが支配しやすいよう、弱者や教育を受けられない人たちの状況をあえて改善せず、その人たちを食い物にするような者は例外だ。

本書の記述をできるだけ正確なものにするため、専門的なサイトも一般的なサイトも閲覧し、記載したすべての情報に誤りがないかを確認した。またとくに興味深いと思った情報については、さらに詳細を知りたいという読者のために、脚注で引用元を紹介しているものもある。

序文

権力の本質とは敵の行動に影響を与えることである。
ロバート・D・カプラン

はるか遠い昔から、権力者たちは人々を意のままに動かそうとし、自ら影響力を与えられるところに痕跡を残そうと努めてきた。16世紀まで、このような権力がおよぶ地域は地理的にかぎられていたが、アメリカ大陸発見がきっかけとなり、その範囲はしだいに広がっていった。そして産業革命が最後のひと押しとなって、それまで知られていなかった地球の隅々にまで権力者の手が届くようになった。

時の流れとともに権力者の顔ぶれは変わっていったが、その根底にある野心は変わることはなかった。彼らは、自分の行く手に存在する人間集団すべてを支配しようとするだけでなく、軍事的、経済的、宗教的に自分を脅かす敵となりうる者が自分の領土に侵入するのを阻止してきた。その歴史はいまもなお変わることなく、時代にかかわらず、今後もずっと続いていくだろう。科学技術が進歩し、人間が野望を遂げる方法は変わっても、他者を支配して従わせようとする野心はこれから先も消えることはない。地政学はいまや“地政権力学”(“地政支配学”あるいは“地政統治学”と呼ぶこともできる)の道具と化している。そしてこの道具は、できれば全世界を、そうでなくともできるかぎり広い範囲を支配すると同時に、他者にまったく、または必要以上に支配されないことを目的に用いられている。

そのため、権力者たちが周りの世界をこれまでどのように操ってきたか、現在どう操っているのかを知る必要がある。用いられてきた戦略のなかには、何世紀も前から使われてきたものもあれば、近年になって利用されたものもある。いずれも、将来多少の修正が加えられたとしても、すたれることはないだろう。したがって、ここで取り上げる「16の地政学的戦略」とは、この地政権力学を実際に応用し、地理的影響力が国際社会でどう行使されてきたかを具体的かつ現実的に示したものにほかならない。

これらの戦略を知っておけば、世界を支配する策略家たちの手中で操り人形のように踊らされないよう、最大限の警戒ができるようになる。だが、それでもなお、私たちの生活にのしかかってくる外からの巨大な影響力と、それから逃れることがいかに難しいかを、つねに自覚しておかなければならない。

私たちは、自分たちは自由であり、進むべき道、嗜好、服の着こなし、振る舞い、さらには食べるものや余暇の使い方まで、好きなように選べると思っている。しかし実際には、行動も意思決定も態度も、すべてはそうするように仕向けられているのだ。私たちになりかわってすべてを決定する者たちのやり方はどんどん巧妙になっており、生き方、社会モデル、思想などを他者に押しつけては、自分の意図に従わせようとする。世界中に偽の情報があふれているが、そうした状況を、“脱 真実”と定義する現代においては、この構図はかつてないほど明らかに見える。もっとも、一般の人々に届く情報は真実に見せかけた大いなる嘘であるという点では、“脱 真実”というより“前嘘”あるいは“多 嘘”とでも名付けるほうが的を射ているかもしれないが。

このような地政学的現実を知るだけでも、「人間の安全保障」が優先される世界を私たちが実現するにはまだまだ道は遠いと思い知らされるのではないだろうか。

ペドロ・バーニョス (著), 金関 あさ (翻訳), 村岡 直子 (翻訳), 神長倉 未稀 (翻訳)
出版社 : 講談社 (2019/12/12) 、出典:出版社HP

目次

著者の言葉
序文

第1章 地政学と地政戦略学

第2章 世界とはどのようなものか
世界は校庭のようなもの
地政学の大原則は「偽善」
影響力ゲーム
争いごとは人間の本質
なぜ、暴力はなくならないのか?
なぜ、戦争はなくならないのか?
暴力はコントロール可能なのか?
地政学的に、いかに生き残るか?

第3章 武器としての経済
国家は大きく育ちたい「生き物」
経済による支配
戦争中こそビジネスチャンス
天然資源をめぐる強国の欲望
宇宙を制する者が未来を制する
経済が先か、紛争が先か
ポエニ戦争の経済的原因
経済から見たナポレオンの戦争
新旧のパワーバランスで起きたキューバ戦争
第一次世界大戦――英国vs.ドイツの経済戦争
第二次世界大戦――米国資本主義vs.ヒトラーの経済戦争
中東の戦争――石油と権力をコントロール
リビア攻撃とフランスの経済事情
ドルに致命傷を負わせる覚悟の中国
北朝鮮の「お宝」を米国が狙う
ソロスが仕掛けた金融ファンド戦争
中国が支配する新グローバリゼーション
世界経済を支配する富豪ファミリー・トップ5

第4章 歴史の確かな重み
新リーダーは歴史を歪める?
歴史と地政学
アフガニスタンに学ぶ「歴史の繰り返し」
「国」でなく「民族」の歴史を知る
ほとんど知られていない北朝鮮の人々の歴史
同盟は損得勘定で決まる
同盟とは偽善的な外交ゲーム
ナチス・ドイツと米国の狭間にあったソ連
北朝鮮の背後で続く日米のゲーム
自分の力だけを信じろ

第5章 抑止力と包囲網のゲーム
他者を操る抑止戦略
抑止力の3つの柱
米国と中国のチェスゲーム
包囲と逆包囲のポイントは海峡
北極を制する者が世界を支配する
米国とNATOがつくったロシア包囲網
ロシアの野望vs.ジョージアの逆襲
ベネズエラと組んだロシアの戦略

第6章 ハシゴを蹴り倒す戦略
自由貿易のハシゴを蹴り倒す
自由貿易で一人勝ちした英国
“ディスコのドアマン”の核兵器コントロール
ハシゴを蹴り倒す戦略の地政学的使い方

第7章 隣人を弱らせる戦略
実は経済競争だったペロポネソス戦争
ビスマルク体制
世界一“隣人”が多い中国の本音
グローバル化で増加する“隣人”たち
もし“隣人”が強国で、しかも感じの悪いライバルだったら?
隣人だから信用するなら

第8章 上手にあざむく演技派の戦略
中国4000年の歴史で培われた演技力とは?
真実が隠すもの

第9章 ブレイキング・ポイントの戦略
スペインの弱点を突いた米国
レーニンはドイツの道具? ロシア自滅作戦
地政学的に脆弱な中心地

第10章 分裂させる戦略
アラブを分裂させるための罠
よそものに分裂させられたリビア
21世紀版、分裂の戦略

第11章 間接的に支配する戦略
ペンタゴンとハリウッドによる間接的支配
恐怖による間接的支配
ソロスが操る、多国籍グループの間接的支配
選挙運動への介入
民主主義が拡大する中での間接的支配

第12章 法を歪曲する戦略
合法の名のもとに自国を正当化
中東における“保護する責任”
国連の得意技は偽善
国際的な合法性を悪用する連中にうんざり
民主主義の皮肉な乱用
9・11後に正当化された“対テロ戦争”
“人道的”という陳腐で便利な主張
中国流・国際法の解釈
宇宙に広がる国際規則の違反

第13章 権利と権力の戦略
そこをどけ、おれの番だ
革命の種はどのように芽を出すのか?
「宗教+イデオロギー」はドラッグより強力
ケーキをカットする者が「一番いいところ」を取る
第二次世界大戦への米国の参戦
努力は他者にさせるもの
海賊は“国家公務員”だった?
戦争における最小限の努力
偽旗作戦
現代の傭兵は民間軍事会社
米国の間接的戦略
テロリストは女性と子どもを操る
完全犯罪? カラチ事件の真相
悪意に旗はない

第14章 敵をつくり出す戦略
NATOはロシアという敵で再生する
軍需産業こそ“仮想敵”の生みの親
カダフィを悪魔に仕立てた多国籍軍
釣り合い重り

第15章 大衆を操る戦略
大衆の操作とプロパガンダ
万華鏡の千の色
ゲッベルス流・プロパガンダの原則
情報操作の10の戦略
レーガン時代のCIAによるプロパガンダ
ロシアもまた混乱をもてあそぶ
CNN効果
世界のメディアを支配する巨大な6社

第16章 フェイクニュースの戦略
シリアとイラクの偽情報戦争
戦争における情報操作
キューバ戦争とイエロー・ジャーナリズムの誕生
メディアは諜報機関のために働く
モッキンパード作戦
買収されたジャーナリストたち
サウジアラビアがオイルダラーでメディアを支配
皆のための表現の自由

第17章 貧者の名のもとの戦略
「奴隷解放宣言」はリンカーンの人員削減政策?
貧困からの脱出をさまたげるイデオロギー
“人道的介入”は軍事作戦の口実
ポストモダンの虎

第18章 不和の種をまく戦略
不満分子をけしかける
内部対立を拡散する
若年層の脆弱性
スペイン領キューバに不和の種をまいた米国
不和の種をまく者同士の間に不和の種をまく
脆弱性につけ込まれたシリアの命運
米国、キューバで破壊的SNSを創設
民衆を操る、感情にもとづく作戦
ロシアの諜報活動は偽情報のマエストロ

第19章 宗教を使った戦略
打算的解釈で歪められた「ジハード」の意味
努力が報われない優秀な若者を利用
十字軍とはキリスト教徒のラ・ジハード
北コーカサスが火薬庫である理由
ナチス・ドイツによるイスラムの利用
ヒトラーの軍隊にはユダヤ人がいた
中東を舞台に冷戦を再現
アフガニスタンで始動した地球規模のラ・ジハード
信仰の名のもとに

第20章 善人主義という戦略
ソフト・パワーで頭と心を征服
米国の善人主義的野心
地政学上のニーズの創出
金が欲しければ、戦争を準備せよ

第21章 マッドマン戦略
元祖“マッドマン”ニクソン
トランプや金正恩もマッドマン戦略を使うのか?
怖がらせるほうがいい
敵の敵は“一時的な”味方

第22章 「民族性」への無理解
なぜ「民族性」という言葉を理解すべきなのか?
無理解が紛争の燃料となる
『ランボー3』が教えるアフガニスタン戦士の実力
永遠に理解されないパシュトゥン人
ペトレイアスが学んだ(学ばなかった)こと
知られていないアラブ世界
スペインとフランスの多民族とのつきあい方
ベトナム戦争が教える民族性のパワー
理解されないソマリア
シア人を理解しないという過ち
ヒット映画の核心は復讐
「蛮族」が来る!

第23章 不測の事態に対する心構えのなさ
それでは、どのように行動したらよいのか?
戦争は柔軟性を要求する
柔軟性のなさが大惨事を招く
未来の不確実性には適応力で備える
ダメージを受けずにあっという間に勝てると思い込む
指導者だけでなく、民衆も間違いを犯す
ソ連・フィンランドの冬戦争
未来予想図を見誤ったサウジアラビア

第24章 宗教を敵にまわす愚かさ
牛と豚によって起きたシパーヒーの反乱
宗教的タブーに起因する悲劇
文化的知性の欠如によるコーラン焼却事件
賢い統治者は宗教を利用する

第25章 地政学上の8つの大罪
大罪1 利己主義
大罪2 色欲
大罪3 怠惰
大罪4 貪食
大罪5 怒り
大罪6 羨望
大罪7 強欲
大罪8 傲慢
権力への欲望

終わりに
謝辞
原注

※本文中の書籍からの引用箇所について:出版社名・訳者名が明記してある書籍以外は、本書訳者によって原書より翻訳しています。

ペドロ・バーニョス (著), 金関 あさ (翻訳), 村岡 直子 (翻訳), 神長倉 未稀 (翻訳)
出版社 : 講談社 (2019/12/12) 、出典:出版社HP