ヤバい決算書 (日経ビジネス人文庫)

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決算書の基本が学べる

新型コロナウイルスの影響により、ある日突然、経営危機や粉飾決算が表面化していきます。本書はベーシックな経営分析にとどまらず、企業の存亡にかかわるリスクを事前に察知する方法まで分かりやすく解説されています。また図解が豊富なので、初心者の方も決算書の基本から理解することができます。

長谷川 正人 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2020/10/2)、出典:出版社HP

文庫版へのまえがき

本書は2017年4月に刊行した『ヤバい決算書』(単行本)を文庫化したものですが、文庫化にあたり序章を新たに書き下ろしました。
序章は2020年に発生した新型コロナウイルスで大きな影響を受けた8社の最新事例です。

近年、大企業をめぐる「有事」の状況、すなわち「ヤバい」ニュースが増えています。
〈2020年文庫版で序章を書き下ろした時点〉
「新型コロナウイルスの感染拡大後、レナウンが上場企業として初めて破綻」
「コロナの影響で需要が激減したことにより、多くの企業が赤字に転落」

〈2017年単行本を刊行した時点〉
「東芝が、粉飾決算に次いで米原子力事業の巨額損失で債務超過に、相次ぐ事業売却で解体へ」
「三菱商事、三井物産が減損損失で初の連結最終赤字転落」
「排ガス不正、燃費不正を起こしたフォルクスワーゲン、三菱自動車が赤字転落」

本書はこうした急速な経営悪化、粉飾、破綻、経営不振で事業の売却、不祥事、巨額買収など「有事」に直面した企業の決算書、すなわち「ヤバい決算書」の変化・特徴をわかりやすく説明したものです。
本書は、読者の方に次の3点を理解していただくことを目的に書いています。
3点に関わる重要なポイントは、各章の企業の決算書データの図表に吹き出しで説明しています。さらに本文でも解説を加えることで、数字の変化の意味を理解しやすくしています。

① 実際の「有事」における企業の数字の変化を通じて、決算書を読むスキルを身につけること
「有事」に決算書の数字は激変します。何が起きると決算書のどの数字がどう変わるのかということを学ぶのに、これら「有事」の企業は絶好の題材なのです。損益計算書、バランスシート(貸借対照表)、キャッシュフロー計算書のダイナミックな相互関係を理解するために、各章の表ではこれら財務3表の重要データを一覧で掲載し、「有事」の前後における数字の変化に着目した解説を図表の吹き出しおよび本文に加えています。
また必要に応じて、バランスシートやキャッシュフロー計算書の変化をビジュアルに直感的に理解してもらうために、これらを図解しています。

② 「有事」の企業に関わるリスクを事前につかむチェックポイントを知ること
優良企業が突然破綻したり経営不振に陥ることはありません。そこには必ず何らかの兆候があります。その兆候はいつごろから決算書のどこに、どのように表れるのかを実際の企業の数字から理解することで、投資家や取引先などはリスクを避けるか減らすことができます。
各章の決算書データ表においては、重大なリスクイベント(コロナによる需要激減、破綻、粉飾発覚、巨額投資・買収など)が発生した決算期には上から黒いラベルをつけ、その前後にどのデータがどのように変化したか吹き出しおよび本文に解説を加えています。これにより、リスクイベントの前にどの指標が「ヤバい」状態の兆候として表れていたかを確認できるようにしています。

③ 最近の企業決算で注目されるキーワードの意味を理解すること
最近の企業決算をめぐっては「減損損失」「のれん」「IFRS(国際会計基準)」などのキーワードがよく出てきます。キーワードに関係ある企業の実際の決算書を通じて、これらの意味を理解できるようにしています。

上記3点を通じて読者の方が、これからも続々と出現してくるだろう「有事」の企業のニュースに接したときに、その背景・意味をよく理解して適切な行動(投資判断、取引先の評価や就職先・転職先としての判断など)をとるための助けになれば幸いです。

本書を読んだ後では、「ある企業が1000億円の赤字に転落」というニュースを見たときの受け止め方も変わってくるはずです。
多くの人は「1000億円の赤字か、あの会社も大変だな」にとどまると思われますが、その1000億円の赤字が営業損失なのか、純損失なのかで意味は変わってきます。
1000億円の純損失だとして、その会社の自己資本の大きさ(自己資本1兆円の会社なのか、1000億円の会社なのか)との相対的な比較をしないと、「1000億円の純損失」の本当の意味は理解できません。本書には、このようなニュースや決算書の意味を読み解くための実践的なノウハウをたくさん盛り込んでいます。

本書に記載の財務データ、様々な情報などは、文庫版で書き下ろした序章については2020年8月末までに、また1章以降については単行本を執筆した時点の2017年2月末までに明らかになった各社の決算情報をはじめとした公表情報に基づいて、筆者が解釈・コメントしているものです。なお1章以降の記述(事実関係、会社名、肩書き等)はすべて、2017年4月の単行本刊行当時のままです。
解釈・コメントはすべて筆者個人として行っており、筆者が所属する機関などの見解を示すものではありません。

本書の執筆に際しては以下を参考文献としています。
『コンサルタントが毎日やっている会計センスの磨き方』(長谷川正人著、日本経済新聞出版)
『決算書で読む ヤバい本業 伸びる副業』(長谷川正人著、日本経済新聞出版)
『モデルで学ぶ有価証券報告書の仕組みと作り方』(新保秀一著、中央経済社)
『財務3表一体理解法』(國貞克則著、朝日新聞社)
『最近の粉飾 第7版』(井端和男著、税務経理協会)
『事件は帳簿で起きている』(前川修満著、ベストセラーズ)
『会計士は見た!』(前川修満著、文藝春秋)
週刊エコノミスト2016年2月20日号 「粉飾 ダマし方見抜き方」(毎日新聞出版)
『IFRSのしくみ〈最新版〉』(あずさ監査法人IFRSアドバイザリー室編、中央経済社)

本書では、新型コロナウイルスによる影響を原則「コロナ」もしくは「コロナ禍」と表記しています。
また社名に「ホールディングス」とある場合には原則「HD」と表記しています。

本書の出版に際しては、日本経済新聞出版の雨宮百子さん、赤木裕介さん、友安啓子さんに最初の企画段階から完成まで大変お世話になりました。この場を借りて厚くお礼を申し上げます。

2020年9月
長谷川正人

長谷川 正人 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2020/10/2)、出典:出版社HP

ヤバい決算書 目次

文庫版へのまえがき

序章 コロナで「需要が蒸発」した決算書の衝撃
コロナで時価総額が激変

レナウン
なぜ世界最大規模だった名門会社は破綻したのか
親会社からも見放される

HIS
コロナで「消滅」してしまった旅行需要

三越伊勢丹HD
かつては小売の王様だった百貨店

三井不動産
8年連続で増収増益

JR東海
景気変動の影響を受けない優良企業にも異変

オリエンタルランド
財務面でも有数のエクセレントカンパニー

日本マクドナルドHD
コロナでも業績を伸ばした企業の秘密

ヤマトHD
宅配便シェア4割台で首位

決算書の見方1 財務3表の関係

1章 飛べない航空会社たち―破綻はこうして忍び寄る
日本航空vs.スカイマーク
日本を代表する航空会社の破綻劇
紙くずになった株券
「空の暴れん坊」がハマった落とし穴
差別化のはずが……新鋭機A330も空振り
決算書の見方2 粉飾決算の典型的な手口とチェックポイント

2章 嗚呼、黒字倒産!―「増収増益」にだまされてはいけない
アーバンコーポレイションvs.江守グループ
キャッシュフローで見える「突然死」
増収増益とキャッシュフローとの不整合
決算書の見方3 会計基準の違い

3章 あの投資判断は失敗でした―減損という隠れリスク
三菱商事vs.三井物産
「売上」の概念が一般と大きく異なる商社
商社業界の序列を変えた減損
決算書の見方4 有事の会社はバランスシート、キャッシュフロー計算書に注意を

4章 こうして決算書は嘘をつく―粉飾にだまされるな!
東芝vs.オリンパス
老舗名門企業、東芝粉飾の衝撃
自己資本急減で債務超過の危機
やむをえず虎の子を売却
社長解任から始まった粉飾決算事件
決算書の見方5 リスク情報の開示とチェックポイント

5章 企業のリスク、ここで読み解く!
ソフトバンクvs.サントリー
1兆円超の巨額海外買収のリスク
投資会社への色彩を強めるソフトバンク
サントリー、世界の蒸留酒ランキング3位に

フォルクスワーゲンvs.三菱自動車
自動車メーカー、不正の代償は?
排ガス不正問題の衝撃
またか、三菱自動車!
コラム 売上7割減でもヤバくならない任天堂の秘密

長谷川 正人 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2020/10/2)、出典:出版社HP