いまこそ知りたいAIビジネス

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AIビジネスの新しい働き方

私たちの仕事にAIがどのように関わってくるか、AIについてざっくりよくわかるAIビジネスの入門書です。AI時代に生きるためにすべきこと、AIは何ができるのか?など、AIにまつわる疑問や不安を解消してくれます。文系の方やITの知識がない方にもおすすめの1冊です。

石角 友愛 (著)
出版社 : ディスカヴァー・トゥエンティワン (2018/12/13)、出典:出版社HP

はじめに

この本を手にとってくださった読者の皆さんは、「AIビジネス」と聞いて、どんなことをイメージするだろうか?

「事務的な仕事はロボットが代わりにやってくれるようになる?」
「自分の仕事がAIに奪われて、職を失ってしまう?」
「今の仕事がAIによって大きく変化するのかもしれないが、正直、あまりイメージできない……」

日本では毎日のようにAIについてのニュースが流れている。にもかかわらず、AIを使えば自分たちの仕事や暮らしがどのように変わるのか、その実情について適切に解説されるケースがほとんどない。
また、アメリカをはじめとする多くの国では「AIに仕事が奪われる」のではなく、「人間がしなくてもよい仕事をAIに任せることができる」「人間はもっとクリエイティブな仕事に挑戦できるようになる」と捉えられているが、そういった考え方も日本ではあまり紹介されていないのが現状だ。
その結果、日本では、「AIはよくわからないもの」「AIは自分たちの仕事を奪うかもしれない技術」といった、漠然とした不安を生んでいる。
AI人材を育てるべく、幼少期からさまざまなプログラムを準備しているアメリカに比べると、その差は歴然だ。

また、その逆で「AIは万能なもの」として、過剰な期待を持っている人も多い。
たとえば、ある金融関係者の方から相談を受けたときのこと。依頼内容は、「人間を超えた“AI神”のような、金融商品レコメンドエンジンを作ってほしい」というもので、AIと神が同じ文脈で語られていることに違和感を持ったのを覚えている。
「AI=神」は極端にしても、「AIで何でもできる世の中になる」と考えている人は少なくないだろう。
あるいは、先日帰国して女友達と話をしていたときのこと。私がシリコンバレーを拠点にAIビジネスをしていると話すと、彼女たちはみな「AIに解決してもらいたいことがいっぱいある!」と言う。
「どんなこと?」と聞くと、一人が「子宮頸癌検診の検査が嫌。あれって、そろそろAIで何とかならないの?」と言い、周りのみんなも「それ、わかる!」と盛り上がっている。「AIは何でもできる万能装置」と思われていることを、ここでも痛感した。
もちろん医療現場にもAI技術は使われている。CT画像やMRI画像を分析し、正常な画像との差異(つまり病変)を見つけることは機械学習の得意とすることだ。
しかし子宮頸癌検診では、物理的に子宮内の細胞を取り出さなくてはならない。それにはどうしたって身体的な接触が必要だし、将来的にもAIに置きかえられることではないだろう。

では、このように非専門家である一般の人たちがAIについてさまざまな誤解をしている一方で、技術者コミュニティはどうだろうか。
私が普段接するデータサイエンティストやエンジニアにこのようなエピソードを話しても、「え?そんな人もいるんだ」というような反応が返ってくるのみである。技術者は技術者で、「一般人が何を理解できないのかが、理解できない」状況になっているのだ。

AIに対して過剰な期待あるいは不安を持つ一般層と、それを理解できない技術者層。そのどちらが正しくて、どちらが間違っているなどという話をしたいわけではない。(どちらも間違っているわけではないのだから)
ただ、その二つの層に大きな隔たりがあるのが今の日本だということは、指摘しておきたい。そして、その隔たりが大きくなればなるほど、日本はAIビジネスにおいて競争力を失い、取り返しがつかなくなると私は考えている。

そうした危機感が、本書を執筆することにした大きな理由である。

AIがインフラになる時代に、私たちはどう働き、どう生きるか

私はシリコンバレーに拠点をもつ、パロアルトインサイトというAIビジネスデザインカンパニーを経営している。
まだAIという言葉が日本では一般的に認知されていなかった頃から、グーグル本社で機械学習のプロジェクトに参加し、そこでシニアストラテジストとして働いたのち、起業した。現在は、一年の約4分の3をシリコンバレーで、4分の1を日本で過ごし、企業のAIビジネスデザインを進めている。

「AIビジネスデザイン」といわれても、多くの皆さんには聞き慣れない言葉だろう。
ひと言でいうと、AIビジネスとは、「AI技術を使って企業の課題を解決する方法を提案し、実装すること」。そして、AIビジネスデザインとは、「経営者や事業担当者とデータサイエンティストの間に立ち、AIビジネスを創造する仕事」である。
私自身も、CEO兼AIビジネスデザイナーとして、過去に50社以上の日本企業にAI技術活用に関するアドバイスや実装、導入を行なってきた。
そして、これまでの実務的な導入経験から、日本企業のAIビジネスには共通した課題があると感じてきた。課題というよりは、焦点のズレといったほうがいいかもしれない。それは、さきに述べたような、AIに対する認識不足だ。

電気や電話やインターネットがそうであったように、AIは近い将来、間違いなく私たちの生活のインフラになる。AI導入は企業サイズにかかわらず、“now or never”の状況。すなわち、「今やらなければ手遅れになる」状態にあるというのが世界的な共通認識だ。
それなのに、ここまでAIについての理解が追いついていないと、日本企業の競争力が下がるばかりではなく、日本人のこれからの働き方の選択肢が極端に狭まってしまう。

残念ながら、日本のAIビジネスはアメリカから5年遅れているといわれている。
しかし、実際に日本企業を対象にAIビジネスを進めている私は、日本にもまだチャンスは残されていると感じる。これまでに培ってきたものづくりやB2B(企業向け)製品開発の分野などでは、AI技術をうまく活用することによって国際競争力を取り戻せる可能性もある。
あるリサーチファームの研究によると1、AIが経済に融合したら、日本のGDPは現在の3倍以上に伸びるという。アメリカの伸び率は1.7倍なので、ポジティブな見方をすれば、日本は「AI伸びしろ」が大きいといえる。このチャンスを逃すべきではない。

ヘンリー・フォードが車を一般層に大量生産しはじめた1900年代初め、一般層はまだ馬車を使っていた。そのときフォードは、「車とはこんなにすごい技術を使っているのですよ」と言わずに、「車とは“馬なし馬車”なんですよ」と伝えて理解を促すことに成功したといわれている2。
これまでの日本社会では、AIやディープラーニングの技術面重視で論じられてきて、「結局AIとは何なのか」という世間一般の疑問に対して答える努力が十分になされてこなかったのではないだろうか。
今ここで一歩足を止めて、AIについても「馬なし馬車なんですよ」とわかりやすく伝える試みをしたい。それが、本書を執筆した動機のひとつだ。
そうすることで、私たち日本人がAIに対する理解を深め、AIがインフラになる時代を生きていくための一助となればと考えている。

本書の活用法

「AIで何かしなくてはいけないと思っているが、何から始めればいいのかわからない」という経営者。
「自分たちのビジネスにおいて、AIがどのように活用できるのかイメージできない」という事業担当者。
「AIが導入されたら自分の仕事やキャリアがどう変わるのかを知りたい」というビジネスパーソン……。

このような不安や疑問をかかえている、AI技術の専門家ではない方々に向けて、本書ではできるだけ専門用語を使わずに、わかりやすく噛み砕いた表現でAIビジネスについて説明していく。
これからの時代に、自分の仕事がどのようにAIとかかわっていくのかを知りたい学生やビジネスパーソン、経営者の手助けになればと考えている。
また、本書は、AIビジネスを推進する立場にいる人や、エンジニア、データサイエンティストにとっても役立つはずだ。専門家や技術者の人たちには、AIのプロフェッショナルではない一般企業のクライアントが何を理解できず、どんな場面でつまずきやすいのかを知るツールとして使ってもらえるとありがたい。

本書では、これまで日本のAI書籍でほとんど語られてこなかった「AIビジネス」について、①具体性、②将来性、③国際性の3つの見地から解説する。

第1章では、日本のAIビジネスにおいて勘違いされている点とその理由を解説する。
第2章では、最新AIビジネスで起きていることを、事例を交えて紹介する。
第3章では、実際にAIを導入する際にどんなステップを踏めばよいのかを教える。
第4章では、AIビジネスの課題について、世界各国の動きを交えつつ論じる。
第5章では、AI人材と日本の今後について解説する。
そして第6章では、AI時代に求められる人材についてまとめながら、私たち個人がこれからのキャリアをどう形成すべきかについて考えたい。

AI導入と働き方の多様性は、コインの裏と表だ。AI時代の働き方は、これまでにない多様性を持つことになる。これからは、より自由度の高い働き方も可能になる。
ただし、ビジネスにおいて優位性を保つためにも、個人のキャリアにおいて自由度をあげるためにも、「AIで何ができるか。私たちの仕事はどう変わるのか」を正しく理解することは不可欠なのだ。

本書が、皆さんのビジネスやキャリアデザインの一助になることを願っている。

石角友愛

*1 Accenture website :
https://wwww.accenture.com/us-en/insight-artificial-intelligence-future-growth
*2 https://www.loc.gov/rr/news/topics/horseless.html

本書は書き下ろしですが、部分的に、著者が下記メディアに寄稿した記事をもとにしています。

Business Insider Japan
https://www.businessinsider.jp/
現代ビジネス
https://gendai.ismedia.jp/
THE21オンライン
https://shuchi.php.co.jp/the21/
毎日新聞「経済観測」

石角 友愛 (著)
出版社 : ディスカヴァー・トゥエンティワン (2018/12/13)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 ここがヘンだよ、日本のAIピジネス
「AI=ロボット」という勘違い
「AIが動いている姿見せてください」
「AIの〇〇ちゃん」と擬人化することの弊害
「AI“が”××する」ではなく、「AI“で”××する」
なぜ日本人は「AIが仕事を奪う」と考えるのか
エンジニアを社内にかかえるアメリカ、外注する日本
「AIビジネスは自分には関係ない」という勘違い
中小企業ほどAI活用が重要になる
街の歯医者にもAIは必要
AIを活用すれば業績が伸びる業種は全体の7割

第2章 AIビジネスの最先端を見てみよう
AIはどんなシーンで活用されているか
コーディネートをAI+スタイリストで
ユーザーにすすめる商品をAIで決める
AIで新しい基準値を作る
AIの判断をスタイリストに検証させる
AIでトレンドを予測する
配送の最適化にもAIが使われる
商品のピックアップもAIで管理
顧客中心主義実現できるのはデータサイエンスの力
すべての仕事がAIに置きかわるわけではない
AIと人間の協働スキームをつくる
コンピュータが得意なこと、人間が得意なこと
テスラの自動運転は、人とAIの協働で進化する
AIはビジネスモデルを変える
AIとAR技術で「試し塗り」が可能に
イノベーションは顧客の課題解決から生まれる
日本企業に今求められているのは、ビジネスモデルの変革
AIビジネスは、どこで収益を得ればいいか
カメラの概念を変えたセキュリティサービス
「借りる」と「所有する」の境目をなくすビジネスモデル
新しい課題を解決するには、新しいビジネスモデルが必要
Go to Marketの発想で考える
Go to Market戦略とは
プロダクトアウトの落とし穴
ウーバーの課題解決法

第3章 AIを導入したい企業がすべきこと
ビッグデータを集めればAIを導入できるわけではない
肝入りのAIプロジェクトが頓挫した理由
日本企業の多くは「データ集めなきゃいけない病」
せっかくのデータをゴミデータにしないために
データは「21世紀の石油」
課題は何か? データは揃っているか?
症状がわからないのに薬は処方できない
サンプルデータから何が診断できるのか
これが企業の持つデータを分析するプロセスだ
事前にサンプルデータ検証するメリット
AIはクッキーの型抜きではない
解決したい課題がはっきりしていない場合は?
健全な危機感がAI導入につながる
まずは課題を棚卸しする
AIビジネスには仮説検証サイクルが必須
効率化と売上増加の二軸で判断する
AI導入はゴールではない
AIビジネスに立ちはだかる「定着の壁」
現場の声を拾いあげて、はじめてAIが活用できる
「導入の壁」を乗り越える
効果検証できなくては意味がない
AI実装のプロセス
AI導入には会社のコミットが必要
「環境スキャニング」でビジネスチャンスの大きさを調べる
プロトタイプの重要性
プロトタイプがあれば、変更のコストも抑えられる
アウトプットを想定して開発する

第4章 AIビジネスの課題とは
AIの判断は中立か?
バイアスの取り除き方が今後の課題
グーグル翻訳で指摘されたAIの課題
AIは黒人より白人を3倍見分けやすい
目的を持ったAI(AI with Purpose)という対応策
プライバシーはどう守られる?
フェイスブックスキャンダルがもたらしたこと
選挙に行く人を34万人増やした、個人情報の力
GDPRは日本企業にどんな影響を及ぼすのか
GDPRによってAIビジネスはどう変わるのか
GDPRの施行は日本にとってチャンス?
日本企業が今すぐ取り組むべきこと
今後、個人背報を暗号化する事業が増える
AIと著作権
機械学習用のフリー画像
AIが作る作品の著作はどこに?
「クリエイティブ」「アート」の定義が変わる

第5章 AI人材とこれからの日本
AIビジネスに必要な人材
データサイエンティストはどんな仕事?
エンジニアにもさまざまな職域がある
AIビジネスデザイナーとはどんな仕事?
AI人材を育てるために今後必要な教育とは
AI人材は今後ますます高騰する
1億円のAI人材リクルートコンペ
フェイスブックの平均年収は3600万円
海外に流出する優秀な人材
インドから才能を輸入したメルカリ
AI人材争奪戦。日本企業の選択肢は?
グローバルマーケット人材を採用するには?
日本のモノづくりが持つ、ひとつの可能性
モノづくりのスキルをAI時代に生かす
B2B企業にも活路はある
京都のモノづくりに見る日本の活路
世界のTOP2にどう食い込むか

第6章 AI時代における私たちの動き方
AIは私たちの仕事を奪わない
人間+AI=スーパーパワー
「僕の仕事はどうなりますか?」
AI時代に増える職業
AIトレーナーに必要な資質
AI時代に増える仕事
AI導入は省人化のためではなく、作業に均質化のため
中国企業が米国でAIロボットを使って生産工場を開設
AIロボット導入で雇用を増やし賃金も上げたアマゾン
すべてがAI化されるわけではない
AI化によって生産性を上げていく
AI時代に生き残れる人、生き残れない人
これから生き残る3つのタイプ
アメリカで「CBO」という役職が生まれた意味
AIバイリンガルを育てる
私たちはこれから何を学べばよいか
社会人になっても学び直しの時代に
企業の再トレーニングも加速
日本は2018年リカレント教育元年
自分のキャリアを自分でデザインする

おわりに

石角 友愛 (著)
出版社 : ディスカヴァー・トゥエンティワン (2018/12/13)、出典:出版社HP