地学ノススメ 「日本列島のいま」を知るために (ブルーバックス)

【最新 – 地学を学ぶためのおすすめ本 – 中学から大学の教養科目レベルまで】も確認する

おもしろくてためになる

大地変動の時代が始まった日本列島に住む人に向けた地学の教養書です。ところどころに挿入されているコラムも楽しく、生々しい地学の現状を知ることができます。地球の成り立ち、構造、地震のメカニズム解明、鎌田浩毅先生の説明が素晴らしく、吸い込まれるように読むことができます。

鎌田 浩毅 (著)
出版社 : 講談社 (2017/2/15)、出典:出版社HP

はじめに

地球は宇宙空間に浮かぶ一個の星です。そのことは誰でも知っています。では、その知識はどうやって得たのでしょうか。そもそも「地球」と言っても、地面が丸い球でできていることを実感することはできません。小学生でも知っている「地球は丸い」ことを証明するのは、それほど容易なことではないのです。

二一世紀に生きる私たちは、おびただしい量の知識が集積した上で暮らしていますが、その一つ一つは、先人たちが大変な苦労を積み重ねて獲得した知識です。その「知」の歴史をたどることは、人類の活動そのものを知ることでもあるでしょう。しかも、知的好奇心を満たすだけではなく、私たちの住む地球がいかに特殊で、かけがえのないものであるかを認識することにも繋がるのです。

私は地学を専門とするようになって四〇年ほど経ちますが、その間に地球の不思議にたえず魅せられてきました。とくに、この二〇年は京都大学で学生と院生たちへ地学を教えながら、その面白さと生活上の有用性を説いてきました。講義では「人はいかに地球を認識してきたのか」という話が、初めて地学を学ぶ若者たちを惹きつける格好の材料でした。たとえば、人間の「自然を知りたい」という知的好奇心によって地学がどのように誕生したか、は大変おもしろいテーマです。さらに、四〇〇年前にデカルトによって自然科学の方法論が確立されて以来、科学者たちの努力によって驚くべき地球の姿がいかに明らかになったか、といった「教材」は、地学を最初に学ぶ上で最も興味深いアイテムのひとつでしょう。と同時に、今後の地球がどうなるかを占う未来予測にとっても非常に重要な知識なのです。

こうした理由から、以前より私は京大での講義で「おもしろくてタメになる」というモットーを掲げながら、知識が学生たちの将来に役立つように工夫してきました。

しかし残念ながら、京都大学のように研究を主目的とする大学の講義はあまりおもしろいものにはならず、学生たちの評判は決して高いものではありませんでした。私が担当する一・二年生向けの「地球科学入門」の講義も、ご多分に漏れず若者の興味を惹くものではありません。
そこで私は、京大の講義がおもしろさと有用性を併せ持つものとなるように、二〇年ほど腐心してきました。その一つの試みが、縦書きの「新書」を教科書に使って講義を行うというものでした。

通例、理系科目は数式が並んだ横書きの厚い教科書を使います。しかし私は、これでは初学者に興味を繋ぐことは難しいと考えて、『富士山噴火ハザードマップで読み解く「Xデー」』(講談社ブルーバックス)を執筆し、これを教科書として使いました。結果は上々で、閑古鳥が鳴いていた「地球科学入門」の講義は、立ち見が出るまでになりました。

本書はこのときの経験を活かして、地学の素人の方々にもわかるように平易に、かつ身近な話題を用いて「地学の全体像」が理解できるように組み立てたものです。なぜこのような本を書こうと思ったかというと、講演会の質疑応答などを通じて、「地学とはどういう学問なのか」が一般社会ではよく知られていないことに気づいたからです。そもそも「地学とは何か」を解き明かすベーシックな本が、世の中になかったのです。

地学は「地を学ぶ」と書き、われわれ人類が生きている基盤を学習する学問です。具体的には、硬い岩盤のある地球(固体地球と呼びます)、水や空気が流れている海洋と大気(流体地球と呼びます)がどうしてできたのかを明らかにします。さらに、固体地球や流体地球を取り囲む太陽系の成り立ちを考え、太陽系から銀河系、宇宙へと領域を広げていきます。

それらのすべては、人類の「生存の基盤」を知ることと結びついています。本書はそのための基本的な事項を知ってほしいと考えて書きました。地学のアウトラインを学んだ結果、地学に関心を持つ人々が増え、さらに「地学をやってみよう」という若者が一人でも多く生まれることを願っています。-地学をめぐる問題は、もう一つあります。高校の理科には「地学」の教科が用意されていますが、最近の地学の履修率がきわだって低いのです。

普通科のすべての生徒が選択する基礎科目では、「化学基礎」や「生物基礎」が九〇パーセントを超えるのに対して、「地学基礎」は三四パーセントでしかありません。さらに、その先で6「地学」を選択する生徒は、わずかに一・二%しかいないという報告があります。すなわち、日本人全員の一○○分の一しか高校できちんと地学を学んでいないのです。

これは地学に関心がないのではなく、大学受験用の科目として地学が選ばれにくいのが原因です。以前は理科の四教科はすべてが必修であり、私が通っていた筑波大附属駒場高校の地学は、生徒にとって非常に興味をそそる科目の一つでした。ところが現在では、大学が受験に指定する科目が物理・化学・生物の三科目であることがほとんどで、そのため、地学を開講する高校が激減してしまったというのが実情です。

しかし、高校の地学には、二一世紀になってからの研究の最先端が教えられるという特徴があります。ほかの科目と比べてみると、違いがよくわかります。

数学では一七世紀までに発達した微積分などの内容が教えられ、化学では一九世紀までに発見された内容までが教科書に載ります。また物理では二〇世紀初頭に展開された原子核物理学までが教えられ、生物では少し時代が下りますが二〇世紀後半に進歩した免疫や遺伝子操作までが入っています。

これに対して地学では、まさに今世紀になって新しい研究が展開中のプルーム・テクトニクスや、地球温暖化問題が教科書で扱われているのです。私が「出前授業」で高校生に地学を教える際にも、前の週に印刷された論文の最新の内容を紹介したりしています。つまり、地学には、現代に生きる人々に身近でかつ必要な材料がそのまま使われているのです。

近年の私は、専門領域である火山研究に加えて、「科学の伝道師」としての活動を行っています。その大きな理由は、地学は日本人にとってきわめて重要な知識だと考えるからです。

日本列島では地震や噴火が頻発していますが、これは二〇一一年に起きた東日本大震災(いわゆる「3.1」)と関係があるのです。あのマグニチュード9という巨大地震によって、日本列島の地盤は不安定になりました。最近よく起きる地震と噴火は、地盤に加えられた歪みを解消しようとして発生しているのです。

こうした事実に対して私は、一○○○年ぶりの「大地変動の時代」が始まってしまった、と警鐘を鳴らしてきました。おそらく今後、数十年という期間にわたって、地震と噴火は止むことはないと予想されています。

これに加えて、おびただしい数の人を巻き込む激甚災害が近い将来に控えています。すなわち、首都直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山をはじめとする活火山の噴火などの、地球にまつわる自然災害が、いつ起きても不思議ではない時代に入っているのです。こうした大事なことを学校で学ぶ機会が減っているのは、国民的損失ではないかと私は危惧しています。-地学の知識は、単に好奇心を満たすだけではなく、災害から自分の身を守る際にもたいへん役立つものです。その意味からも、私は一人でも多くの日本人に、地学に関心を持っていただくことを願っています。そのために日本列島で始まった種々の地殻変動がいかなるメカニズムで起きでいるかを理解し、効果的な対処をしていただきたいのです。

イギリスの学者フランシス・ベーコンが説いた「知識は力なり」というフレーズは、まさに現代の日本社会に当てはまるものです。本書では地学の中でもわれわれに身近なテーマに絞り、ポイントをわかりやすく解説しました。読み終えた暁には、地学が「おもしろくてタメになる」ことに賛同していただけるのではないかと思います。では、人類が三〇〇〇年もかけて築き上げてきた地学の世界へご案内しましょう。

鎌田浩毅

鎌田 浩毅 (著)
出版社 : 講談社 (2017/2/15)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 地球は丸かった
人類がそのことには気づくまで
「一年の長さ」が決まるまで地球はどうやら球形らしい。
「地球の大きさ」に挑んだ男
子午線の長さを測る
地球は本当に球形か
「地球の形」をめぐる国際論争
人工衛星で地球を測る
歩いて地球を測った男

第2章 地球の歴史を編む
地層と化石という「古文書」
地層累重の法則
地層の対比と「鍵層」
「古文書」としての化石
時代を示す「示相化石」
世界初の地質図の誕生
地質学の原点は「露頭観察」

第3章 過去は未来を語るか
斉一説と激変説
「ノアの洪水」は起きたのか
博物学の誕生
「地球の年齢」をめぐる格闘
ハットンの「斉一説」
キュビエの「激変説」
斉一説と激変説の論争
放射年代による地球の年齢決定
現在の仮説:巻き返してきた激変説

第4章 そして革命は起こった
動いていた大陸
世界地図からのひらめき
なぜウェゲナーだけが気づいたのか?
中央海嶺の発見
大陸移動説の復活
「海洋底拡大説」の誕生
「地磁気の逆転」を発見した日本人
プレート・テクトニクス説の誕生
地球科学の「革命」
ヒマラヤ山脈の誕生
ヨーロッパ・アルプスの形成
アルプス山脈の内部構造

第5章 マグマのサイエンス
地球は軟らかい
火山は地球の熱を効率よく放射している
火山ができる場所は三通り
地球最大の火山は中央海嶺
「沈み込み帯の火山」が密集する日本列島
マグマとはマントルが水を吸収して溶けたもの
冷たい水がマグマをつくる
ダイアピルの上昇と停止
岩石を溶かす「二つの方法」
「減圧」によるマグマが最も多い
火の三つのモデル

第6章 もうひとつの革命
対流していたマントル
プレートの下には軟らかいマントルがある
固体も「流れる」
新しい視点と新しい用語
地震の波でプレートが見える
コールドプルームとホットプルーム
プルーム・テクトニクスの成立
核内部の大循環
対流が生じるメカニズム
生命を守る地球の磁場
生命と地球の「共進化」

第7章 大量絶滅のメカニズム
地球が生物に襲いかかるとき
二億五○○○万年前の大量絶滅
シベリアの洪水玄武岩
コールドプルームがもたらす地磁気の逆転
ホットプルームが引き起こした「プルームの冬」
洪水のように溶岩が噴出する!
超大陸パンゲアの分裂
マグマが大陸を割って入る
ペルム紀末の巨大火成岩石区
地球の歴史区分の考え方
地球の歴史に「例外は当たり前」

第8章 日本列島の地学
西日本大震災は必ず来る
地震を起こすのは「プレートの動き」
巨大地震はどうして起きるのか
いまだに止まない余震
内陸で起きる直下型地震
首都直下地震
発生前から命名されている「西日本大震災」
南海トラフ巨大地震の被害予測
南海トラフ巨大地震は約二〇年後に起きる
前代未聞の直下型地震――熊本地震
「豊肥火山地域」の特異な地質構造
大分-熊本構造線は中央構造線の延長
プル・アパート構造と右横ずれ運動
南海トラフ巨大地震との関係は?

第9章 巨大噴火のリスク
脅威は、地震だけではない
大噴火期に入った桜島
九万人が犠牲となった巨大噴火
世界中で夏が消えた
白頭山の「史上最大の噴火」
白頭山噴火で起きたこと
もしまた白頭山が噴火したら
巨大地震と連動するか
地下のマグマ観測
ピナトゥポ火山の大噴火
文明を滅ぼした噴火
日本列島の巨大噴火

コラム
①鎌田先生はなぜ地学の研究者を志したのですか?
②地学を研究していて最も驚いたことは?
③日本の地学研究や地学教育は世界の大学で地学を学ぶにはどんな学部で盛んなほうですか?
④日本の地学研究者はどのような業績をあげていますか?
⑤最近の地学で最も目ざましい研究成果は何ですか?
⑥地学研究において鎌田先生が最もこだわっているものは?
⑦大学で地学を学ぶにはどんな学部に進めばよいですか?
⑧独学で学んだことを生かせる仕事にはどんなものがありますか?

あとがき
さくいん

鎌田 浩毅 (著)
出版社 : 講談社 (2017/2/15)、出典:出版社HP