やりなおし高校地学 (ちくま新書)

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地学に必須の知識がこの1冊でわかる

この本を読むと、高校地学の内容だけでなく、新しい学習指導要領が目指しているもの、すなわち日本の将来を背負って立つ子どもたちの未来も知ることができます。センター試験の問題と解答解説を挟みながら、地質・気象・天文の順に、高校地学のおさらいをすることができます。

鎌田 浩毅 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2019/9/6)、出典:出版社HP

まえがき

地学は高校で教えられる理科の4科目のうちの一つです。その学習内容の中身を大まかに分けると、「固体地球」、「岩石・鉱物」「地質・歴史」「大気・海洋」「宇宙」の5分野になります。これらはいずれも人類の居場所である地球と密接に関連するものです。すなわち、地学はほかの理科3科目と比べて日常生活に最も近い科目なのです。

いま私たちがこうやってここに居られるのは、地球という「居場所」があるからです。 人類のふるさと、地球はどうやってできたのでしょうか?そして、いつまで私たちはここに居られるのでしょうか?

地球は太陽系の一部です。8つの惑星を持つ太陽系が誕生したのは、今から約3億年も大昔のことでした。宇宙空間に漂っていた岩石や氷、チリが集まって太陽となり、その周囲に地球が回り始めました。今から5億年前の出来事です。

太陽系に水星、金星、火星、木星など惑星ができるなか、地球にとって幸運だったのは、 大量の水があったことです。水は生命を育むうえで不可欠の物質なのです。

水は0℃で凍り、100℃で沸騰する性質を持っています。そして水が液体の状態でいられるためには、温度が0℃と100℃の間でなければなりません。太陽に近い金星は熱すぎて、水がすべて蒸発してしまいました。

その反対に、太陽から遠い火星は寒すぎて、凍り付いてしまったのです。すなわち、地球は偶然、太陽からほどよい距離にあったため、水が液体の状態で残りました。今から10 億年も前からずっと、地表には海が大量の水をたたえてきたのです。

そのおかげで地球にはある温度範囲の安定した環境が生まれ、生命を宿すことができました。生命誕生という今から8億年も前の事件です。

最初に出現した生物はバクテリアのような単細胞でした。ここから多細胞生物へと進化 し、さらに体から手足が出てきて脳ができ、やがて人類にまで進化しました。

ここには厳しい宇宙空間で特異な環境が8億年間も守られてきた歴史があります。実は、 生命が生まれて、一度も途絶えなかったのは、礎の集積と言っても過言ではありません。 というのは、地球上の生物は何度も絶滅の危機を乗り越え、現在まで生き延びてきたからです。地学はこうした壮大な歴史の上に成り立つ学問なのです。

絶滅の生存者が次代の覇者に

さて、「古生代」「中生代」「新生代」という言葉を理科の授業で習ったことがあるでしょう。いずれも地球の歴史を区切る言葉ですが、「生」は生物、「代」は時代を表します。
ここで「生物の時代」と表現するのは、地球の歴史は生物の種類がガラッと変わることで決められたからです。なぜ変わったかというと、その境目で生物が大量に絶滅したからです。
たとえば、5億4000万年前に始まった古生代では、2億5000万年前に全生物種 の3~5%が死滅する大惨事が起きました。そして、生き残ったわずか5%ほどの生物が次代の覇者となって進化していったのです。古生代の次に来る中生代が恐竜の時代であったことは有名です。絶滅を生き延びたものが次代の覇者になったのです。

その恐竜も今から6500万年前に、巨大隕石が地球に落ちて絶滅しました。高さ300mの大津波が陸を襲い、飛散したチリが日光を遮って極度の寒冷化に向かったのです。
その過酷な条件下で生き延びたのが哺乳類で、次の新生代の覇者となって現在にいたります。人類が地球上で繁栄したのは、恐竜が滅びたからでもあるのです。
こうした現象をひとことで言うと「地球の歴史は想定外の繰り返し」です。恐竜にとってはとんでもない想定外、しかし哺乳類にとっては千載一遇のチャンスでした。ほとんどの生物は絶滅するが、全部は死なない。必ず生き残る者がいて、それが次代を作っていきます。地球の歴史はそれを絶え間なく繰り返してきたのです。

したがって、地球上で生物が完全に絶滅していたら人類はここに存在しない。だから、 現存する生物はみな8億年の連続性を持っているのです。言い換えると、我々は全員8億歳と考えられます。
もし20歳の学生ならば3億歳プラス20歳、8歳で還暦を迎えた人は8億歳プラス8歳な のです。こうした見方こそ人類が地球という居場所に存在する意味であり、それを教えて くれるのが地学なのです。

「大地変動の時代」に入った日本

さて、日本列島は2011年3月1日に、マグニチュード9の巨大地震、つまり東日本大震災に見舞われました。このクラスの巨大地震が起きたのは平安時代以来、千年ぶりのことでした。
東日本大震災を境に、日本列島は「大地変動の時代」に入ってしまいました。何枚ものプレート(岩板)が接する日本では、ときどき地震が起きます。日本にやってきた外国人 が一番驚くのが、この地震です。

彼らから見れば人が住んでいることを不思議に思うほどの地理的条件にあります。にもかかわらず、日本の高校・大学ではいま、「地学離れ」が進み、高校での履修率は5%と極めて低い状態です。つまり、大多数の日本人の「地学リテラシー」は中学レベルで止まったままなのです。複数のプレートがひしめく日本で生き延びるには、本当は地学の知識が不可欠です。
これまで私は「科学の伝道師」として、専門である地学の「おもしろいところ」「ため になるところ」を学生や市民に伝えてきました。本書はそのエッセンスを一冊に詰め込んだものです。
さらに、地学のセンター試験など大学入試に用意された問題を解きながら、じっくりと地学を学んでいきます。解答と解説の中で、地学の知識をわかりやすく織り込みました。
具体的には、地球内部の構造から、日本列島の成り立ち、地震と噴火のメカニズム、地球温暖化問題、さらに宇宙の歴史まで解説します。

日本人にとって必須の地学の教養を今こそ身につけていただきたいと切に願っています。 言わば、すべての日本人に捧げる「サバイバルのための地学入門」という意味を込めて書きました。
それでは入試問題を解きながら、楽しく高校地学を学んでみましょう。

鎌田浩毅

鎌田 浩毅 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2019/9/6)、出典:出版社HP

目次

まえがき
絶滅の生存者が次代の覇者に/「大地変動の時代」に入った日本
第1章 地球とは何か
1 地球はどのようにできたのか?
原始太陽ができたおかげで惑星ができた/マグマオーシャンが冷えることで地球の核と大気・ 海洋ができた
2 地球の形と大きさ
地球が丸いことに気づいたのは?/地球の大きさはどうしてわかる?/ニュートンが考えた回 転楕円体/ジオイドで知る、地球のかたち/アイソスタシーとは何か/ある地点における「重 力」は、どのように計算するか
3 地球は巨大な「磁石」である
地磁気とは何か/地磁気はなぜできたのか?/生命を守る地球の磁場

第2章 地球は生きている!―その活動をさぐる
1 地球の内部はどうなっているのか?
地球の内部構造を卵に置き換えて考える/地球内部の熱はどこから来たのか
2 大地は動く――地球の活動の謎を解く
大陸移動説とは何か――中央海嶺の発見/海底は動いている/地磁気の逆転が、日本の千葉で起 こっていたT/プレートとはどんなもの?/プレートの運動でさまざまな現象が解決する/沈み込んだプレートの行方――プルーム・テクトニクス/地震が起こるのもプレート・テクトニクスのため/火山はどうしてできるのか

第3章 地球の歴史を藩く
1 地球の「変化」「成長」の手がかりとは
時代の情報と環境の情報/地層を「読む」ための基本ルール
2 地質学とは何か
地層を「つないで」推測する/世界中に分布した化石を利用する方法/各年代と生物にとっての大事件/地質学の誕生―スミスの功績/放射性元素を利用する
3 岩石の「読み方」
岩石の「でき方」/火成岩は何からできているのか/火成岩の種類/岩石から時代の情報を読み解くには/岩石を生む「変成」とは何か

第4章 日本列島の成り立ち
1 日本列島は地学的にはどのようなキャラなのか?
4つのプレートが押し合いへし合いする現場/日本列島は地震の巣である
2 日本列島はどのような岩石からできているか
日本列島は大陸から分離してできあがった/ホットプルームと日本列島/日本列島へ「岩石が 付加される」とはどういうことか?/日本列島はこのように形作られた
3 日本列島の形ができるまで
日本列島の起源と形成のプロセス/フォッサマグナとは何か/活火山を背骨とする日本列島/ プレート運動が各地の地形を作った
4 日本列島の特徴
火山活動が地上に残す爪痕/火山と共存するための心構え/富士山が世界にも稀な火山であるワケ/西南日本が警戒すべき巨大断層・南海トラフとは/九州にも「地震の巣」がある/液状化現象という二次被害/津波の発生するメカニズム

第5章 動く大気・動く海洋の構造
1 地球を覆う大気の構造
大気が気象の「決め手」となる/大気はどのような構造をしているか
2 地球上の温度が一定に保たれる仕組み
太陽エネルギーが地球を暖める/地球から出ていくエネルギーもある/「温室」効果をもたらす気 体/日本の「猛暑」は温暖化のせい?/ヒートアイランドはなぜ起こる?/地球規模で見ると….
3 大気が大循環するメカニズム
緯度によって変わる気流/赤道近くで大気はどう動くか/中緯度・高緯度地域ではどう動くか /地球の自転が気流にどうかかわるか
4 海洋も大循環している
水が動けば気象も変わる/大循環する海水の不思議/海水の動きには月と太陽も影響する/風 と海流によって起こるエルニーニョ現象/地球は「ミニ氷河期」に向かっている?

第6章 宇宙とは何か
1 宇宙の誕生と構造
宇宙の始まりはビッグバン!/宇宙に元素ができるまで/宇宙に銀河ができるまで/ダークマ ターと宇宙の構造
2 恒星の誕生と進化
恒星ができるまで/主系列星の大きさと寿命/恒星の終焉と赤色巨星/赤色巨星以降の恒星の 進化と終末/恒星の進化がわかるHR図
3 私たちの銀河系
銀河系の構造/銀河系の公転と中心部
4 さまざまな銀河と膨張する宇宙
銀河の形による分類/活動する銀河/膨張する宇宙
あとがき
地学の勉強法/人類の存立基盤について知る/高校地学をめぐる現状/「大地変動の時代」の地 学/「長尺の目」で地球を考える

参考文献

索引

編集協力=水野昌彦
本文図版=朝日メディアインターナショナル

鎌田 浩毅 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2019/9/6)、出典:出版社HP