行動分析学マネジメント-人と組織を変える方法論

【最新 – 行動分析学を学ぶためのおすすめ本 – 入門から応用まで】も確認する

成長し続ける組織を生み出す方法論

本書には、合併したばかりの会社を主人公が行動分析学を使って変えていくというケースストーリーとその解説が、著者が組織・人事コンサルタントとして経験してきたことをベースに書かれている。また、行動分析学のみならず組織活性化の指標や人事制度の再改革など、組織経営の重要コンセプトにも触れているため、組織管理者にはもってこいの一冊となっている。

舞田 竜宣 (著), 杉山 尚子 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2008/12/17)、出典:出版社HP

まえがき

人の行動は、変えられる。組織の文化も、変えることができる。そのための科学的・体系的な方法論を、わかりやすく伝えたい。これが、本書の執筆理由です。
「人は変われる」ということに、異論を唱えたくなる方もおられると思います。「三つ子の魂、百までというではないか」と。その通り。ここで私たち著者が主張するのは、人の性格や人格を変えるということではありません。人の「行動」を変えるということなのです(なので、紛らわしい表現を避けるため、以降、本書では「人を変える」という言い方ではなく、「人の行動を変える」という言い方をします)。

そもそも人は、普段の生活においても、さまざまな異なる面を持ちながら生きています。たとえば会社と家庭では別人のようだとか、趣味の世界に入ると仕事では見たこともないようないきいきした活躍をするとか。こういったことは、ごくありふれた日常茶飯事でしょう。けれどそれは、会社と家庭とで別の人格に切り替わっているわけではありません。趣味に取り組むときと仕事に取り組むときとで、人格が分裂しているわけでもありません。私たちは、いつでも同一の人間です。ただ、行動が異なるのです。

同じ人間が、時と場合でまったく異なる振る舞いをする。真逆なことをすることすらある。なぜ、そういうことが起きるのか。その理由と原理を科学的につかむことができれば、今度は意識的に自他の行動を望ましい方向へと制御することもできる。これが行動理論の考え方です。

この本には、合併したばかりの会社を、主人公が行動分析学を使って変えていくケース・ストーリーが描かれています。この会社は架空ですが、そこで繰り広げられるエピソードは、著者が組織・人事コンサルタントとしてさまざまな会社で経験した実話がベースとなっています。

各ケースの後には解説がついており、ここで行動分析学の理論を説明しています。また、この本は組織管理者向けに書いたため、行動分析学だけではなく、エンゲージメントという組織活性化の指標や、人事制度の再改革といった、組織経営の重要コンセプトについても触れています。

ケースの主人公は、HRビジネスパートナーという役職に就いています。この役割について書きたいと思ったことも、本書の執筆動機の一つです。HRビジネスパートナーとは、分類すれば人事の仕事に入ります。ですが、伝統的な人事とは大きく異なる役割を期待されます。

過去の人事というのは、組織に「治」をもたらす存在でした。みんなが会社で安定的に安心して日々を暮らせるようにする。それが人事の主たる使命でした。ところが、時代は変わり、今や人事は会社の「変革」を司る存在となっています。M&A、リストラ、グローバル化といった激変の中、社員を上手にマネージすることが、人事の重要な使命となっているのです。
しかし、従来型の人事で、それをするのはとても難しい。そこで新しく設けられたのが、HRビジネスパートナーという役職です。今日では、変革を得意とする世界の先進企業には、たいていこのビジネスパートナーがいます。変革を「痛く、苦しい」ものではなく、いかに「楽で、楽しい」ものにするかが、彼ら・彼女らの腕の見せ所です。

日本人は「変革には痛みが伴う」と平然と言い、それを我慢することを人に要求してきました。けれど、痛いものは、本当は誰もやりたくないのです。日本の変革が、内実としてはなかなか進まないのも、実はこうした人間心理を軽視した進め方に原因の一端があるのではないでしょうか。

ともあれ、人の行動を変え、組織を変革するのは、実際にはとてつもなく大変なことです。自分一人で頑張っても、できることには限りがあるかもしれません。また、組織は大物なので、簡単には動きません。気力と知力と体力のすべてをかけても、はがゆいほどゆっくりとしか変わらないこともあるでしょう。しかしそれでも、人や組織の行動が変わった暁というのは感動的です。それまでの苦労が報われたと感じます。一人でも多くの人々に、この感動を味わってもらいたい。本書には、そんな願いも込められています。

この本を書くにあたり、もう一人の著者である杉山先生が主宰する「パフォーマンス・マネジメント研究会」(略称PM研)からも多大な示唆をいただきました。さまざまな会社のビジネスパーソンや大学院生などが、「人と組織の行動は変えられる」という信念のもと、理論と実践を重ねながら技を磨きあう。舞田にとっては、楽しくためになる道場のようなものでした。この場をお借りして、研究会の皆さんに感謝の意を表したいと思います。
また、この本は、たくさんの方々の温かいご支援のおかげで世に出すことができました。改めて謝意を表させていただきます。

それから、私を長い間いつも支えてくれて、常に一歩前に踏み出す勇気を与えてくれる妻、白根。ほんとうに、ありがとう。

二〇〇八年秋
舞田意宣

舞田 竜宣 (著), 杉山 尚子 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2008/12/17)、出典:出版社HP

目次

序章
今こそ組織・人材マネジメントに「行動の科学」を
行動分析学とは何か
行動上の問題の原因は何なのか
行動の真の原因は行動の直後にある

第1章
褒めてやらねば、人は動かず――好子による強化と弱化
ケース
ポジティブな反応がポジティブな集団を作る
あの会議で何が起こったのか
行動の原理に基づいたテクニック

第2章
鬼の上司が会社を伸ばす?嫌子による強化と弱化
ケース
上司の何気ない言動が部下の士気を落としている
問題の捉え方:標的行動の定義
随伴性ダイアグラムの書き方
嫌子消失の強化
四つの基本随伴性
嫌子による行動の制御の危険
それでも人は嫌子を使う

第3章
ネガティブ社員はこう扱え―消去
ケース
皮肉屋の本音に迫れ
人にレッテルを貼るな
「皮肉を言う行動」の随伴性
消去の手続き
バースト
消去と弱化
消去は行動の変動性を高める

第4章
活発な職場を取り戻す――復帰
ケース
職場の風土は上司が作る
笑顔と感謝を練習せよ
なぜ職場が不活発になるのか
トリアージ
復帰と自発的回復
学習性の無気カ

第5章
上手な褒め方、無意味な褒め方――強化スケジュール
ケース
強化につながる正しい褒め方
手ごたえのある職場
強化スケジュール
消去抵抗
部下を褒める行動は誰が強化するのか

第6章
「頑張れ」というだけでは業績は上がらない――課題分析
ケース
ターゲット行動を絞り込め
課題分析とは何か
行動の科学とその実践・行動と所産
パフォーマンス・マネジメント

第7章
ハイパフォーマンス集団の作り方――シェイピング
ケース
短期間で強い営業組織を作る
高度な行動を早く形成する
シェイピングの手順
シェイピングは「甘やかし」ではない
シェイピングの秘訣

第8章
「勝ち味」を覚えさせよ―チェイニング
ケース
自信を持たせる仕事のさせ方
「10年かけて一人前」では間に合わない
チェイニングとは
チームワークの重要性
新しい行動を身につける五つの手法

第9章
裏表のない組織を作る―刺激弁別
ケース
「人見知り」はなぜ起きる?
先行刺激による行動の制御
相手によって態度を変える理由
裏表のある性格
行動のABC分析
行動を制御する随伴性は一つではない

第10章
お互いの悪い癖を直す――プロンプト、代替行動
ケース
ゲーム感覚で楽しく克服
適切なタイミングで行動を起こす方法
プロンプトのタイプ
フェイディング
癖を直すさまざまな技法

第11章
表彰制度はこう変えよ―好子の種類
ケース
全員参加で選び選ばれる
組織行動のマネジメントシステム
生得性好子と習得性好子
トークン
表彰制度の心理学

第12章
フィードバックで新人を育てる――フィードバック
ケース
正しい「仕事の教え方」
教え方を教える
行動分析学的フィードバック
行動的翻訳と課題分析の重要性

第13章
マンネリが組織を不活性化する――確立操作
ケース
好子の遮断で喉を乾かせ
好子や嫌子のカは刻々と変わる
いろいろな確立操作
ビジネス場面における確立操作

第14章
過去の自分と決別する―自己強化と抹殺法
ケース
仕事中のパチスロがやめられない
仕事をさぼるのは行動の原理から見て不思議ではない
行動の自己管理
強化のための好子
抹殺法

第15章
「苦手な顧客」の克服法|レスポンデント条件づけ
ケース
苦手意識と「パブロフの犬」
パブロフの条件づけ
ワトソンの実験恐怖症
苦手意識のメカニズム
レスポンデント消去と系統的脱感作
恐怖反応だけではない

第16章
コンプライアンスを高める――ルール支配行動、トークン
ケース
ミスを隠す組織からミスの発見を評価する組織へ
なぜ規則が守られないのか
ルール支配行動
よりよいコンプライアンスのためのさまざまなルール
組織文化のマネジメント

終章
伸び続ける会社を作る
行動分析学で会社は成長する

あとがき
参考文献

舞田 竜宣 (著), 杉山 尚子 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2008/12/17)、出典:出版社HP