言語と行動の心理学―行動分析学をまなぶ

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「言語」と「行動」を学ぶ心理学入門書

「言葉の定義とは?」本書は、行動分析学、機能的文脈主義、関係フレーム理論、ACT(Acceptance & Commitment Therapy)を学ぶことで、この難題について考えていく。日常の出来事や、不安症・うつ病のカウンセリングの具体的な場面にも触れながら、言葉について学ぶことができる一冊となっている。

谷 晋二 (編集)
出版社 : 金剛出版 (2020/4/3)、出典:出版社HP

まえがき

言語について関心をもち学びたいと思っている人は、学生に限らず大きな壁にぶつかるだろう。あまりにも多くの図書や文献があり,どこから手をつけてよいかわからなくなることもある。あなたが学びたいと思っていることは、言語獲得の問題なのか、言語機能に関連する脳の問題なのか,それとも論理的な思考の問題なのだろうか。それが明確になってくると、読むべき本や調べるべき文献が見えてくるだろう。

それでもなお,言語の問題を考えることは、簡単ではない。なぜなら,本を読み文献を調べるということ自体に言語を使っているので、混乱することは避けられないからである。言語について調べようとするなら、言語を手に取ってじっくり観察することが最初に行う行動となる。自分のかけているメガネについて調べるために,眼鏡を外して手に取った瞬間,何も見えなくなってしまうのなら,大きく混乱するだろう。そこで言語という巨大なジャングルを探検するために,言語を使いこなすというユニークなやり方が可能かもしれない。本書が紹介しているのは,そのような方法を使った言語行動の分析である。

本書は「行動分析学と関係フレーム理論(RFT)に基づいた言語の分析」に関する入門書である。入門書の役割は,より高度で洗練された研究図書へ読者を道案内することにある。さらに関係フレーム理論からの言語の分析に興味をもった読者には,次のような本がある。

ニコラストールネク[山本淳一=監修](2013)関係フレーム理論(RFT)を学ぶ――言語行動理論・ACT入門,星和書店,
Kevin L.P., Schoendorff, B., Webster, M., & Olaz, F.O. (2016) The Essential
Guide to the ACT Matrix : A Step-by-Step Approach to Using the ACT Matrix Model in Clinical Practice. Context Press.
Villatte, M., Villatte, J.L., & Hayes, S.C. (2015) Mastering the Clinical Conversation : Language as Intervention. The Guilford Press.
McHugh, L., Stewart, I., Almada, P., & Hayes, S.C. (2019) A Contextual
Behavioral Guide to the Self: Theory & Practice. Context Press.

このうち3冊は,日本語に翻訳されていないが関係フレーム理論とACTの研究者にとっては心躍る内容に満ち溢れている本である。
また本書は、次のような問いをもっている人には最適な入り口となるだろう。

・行動分析学と関係フレーム理論はどのように関連しているのか?
・言語行動(Verbal Behavior)をどのように定義するのか?
・ルールは人間の行動にどのように影響するのか?
・言語行動における一貫性(coherence)とは何か?
・関係フレーム理論とアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)はどのように関連しているのか?
・ACT Matrixとはどんな方法なのか?
・関係フレーム理論の基礎研究はACTをどのように支えているのが
・言語と(言語的)自己概念はどのように関連しているのか?

本書は臨床的な問題から基礎的な問題までを関連づけて学習できるように構成している。第1章は臨床的な技法を取り上げている。第1章紹介しているACT Matrixは日本で初めて取り上げられるACTの実践方法のひとつであるが、世界のACTコミュニティのなかではとてもポピュラーなものである。第2章ではACTの基礎理論である関係フレーム理論について紹介している。スキナーの言語行動の分析から関係フレーム理論への発展について整理し、関係づけ反応と一貫性の問題を紹介している。そして関係付け反応が言語的な自己概念を生み出すプロセスについても紹介している。また,関係フレーム理論の哲学的背景である文脈的行動主義について平易に説明し,関係フレーム理論の基礎的な実験研究でたびたび用いられるIRAPやFASTについて解説を加えた。第3章は,RFTの基礎研究とACTの実践研究を橋渡しする章である。第4章と第5章では,ACTを用いた心理臨床,心理教育,キャリア教育に焦点を当てた。

いずれの章も執筆者は、入門書としてわかりやすく書きながらも、正確さを失わないように注意を払いながら書いている。本書を足がかりに,言語と認知の行動的な科学である文脈的行動科学(CBS)の世界を訪れてほしい。

2020年2月16日
立命館大学
谷 晋二

谷 晋二 (編集)
出版社 : 金剛出版 (2020/4/3)、出典:出版社HP

目次

まえがき

第1章 言語と行動の機能分析
ACT Matrixを使った行動のセルフマネジメント
ACT Matrix
ACTのセラピスト-クライアント関係
あなたの大切な人・大切な事柄
困難な出来事で身動きが取れなくなっているとき
行動の機能分析——随伴性をトラックする
創造的絶望
文献
コラム①[研究者紹介]ベンジャミン・ショーエンドルフ(Benjamin Schoendorff)
②ハピネストラップ
③価値のワーク
④釣り針エクササイズ
⑤創造的絶望

第2章 関係フレーム理論
スキナーの言語行動の定義
言語共同体
言語行動の種類
スキナーの分析の優れた点
ルールとルール支配行動
参考図書
コラム⑥「この部屋暑いね」
⑦ルールに従うこと/従わないこと
関係フレーム理論
スキナーの定義からの発展
関係反応と一貫性(Coherence)
影響源に敏感になるために
アナロジー
参考図書
コラム⑧「数字はいくつ」「考えないようにする」エクササイズ
言語的自己概念
自己概念
行動分析学,RFT,自己概念
3つの機能的に異なる言語的自己
柔軟な自己
柔軟な自己の発達を支援する
参考図書
コラム⑨[研究者紹介]マシュー・ヴィレット(Matthew Villette)
文脈的行動科学
⑩[研究者紹介]イアン・スチュアート(Ian Stewart)
関係反応を測定する――IRAPとFAST
IRAPの成り立ちについて
IRAPの基本構造
IRAPのデータ処理
IRAP得点の解釈
IRAPを用いた研究
FASTの成り立ちについて
FASTの構造
FASTのデータ処理と解釈
まとめ
コラム⑪[研究者紹介]ナンニ・プレスティ(NanniPresti)
⑫知能と関係フレーム理論
文献

第3章 アクセプタンス&コミットメント・セラピーと関係フレーム理論
アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)
ACTとは何か?
心理的柔軟性モデル
オープンな(open)スタイル
従事した(engaged)スタイル
集中した(centered)スタイル
再びACTとは何か?
コラム⑬モデルを使うことのメリットとデメリット
関係フレーム理論とACT
心理的柔軟性モデルを関係フレーム理論(RFT)から考える
オープンなスタイルをRFTから考える
従事したスタイルをRFTから考える
集中したスタイルをRFTから考える
RFTとACT
参考図書
コラム⑭[研究者紹介]リサ・コイン(Lisa Coyne)
文献

第4章 ACTを用いた心理療法と心理教育プログラム
抑うつとACT
抑うつ
ACTにおけるうつ病の概念化のポイント
うつ病に対するACTの実際
ACT経過の概要
うつ病に対するACT適用の留意点
不安とACT
不安症
ACTにおける不安症の概念化
不安症に対するACTの実際
ACT経過の概要
不安症に対するACT適用の留意点
行動活性化療法/動機づけ面接
参考図書
ACTを用いた心理教育プログラム(ACT Training)
障害のある子どもの家族へのACT
支援者のためのACT
看護師のバーンアウトとACT
教師のバーンアウトとACT
ACTの効果研究
先延ばし
健康な食習慣
コラム⑮[研究者紹介]ジョバンニ・ミセリ(Giovanni Miselli)
文献

第5章 ACTと働くということ
働くことの機能
キャリア教育
コラム⑯サバティカル
エントリーシートを活用する
文献

あとがき
索引

谷 晋二 (編集)
出版社 : 金剛出版 (2020/4/3)、出典:出版社HP