メリットの法則 行動分析学・実践編 (集英社新書)

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行動分析の実践書

行動コーチングアカデミー代表である奥田健次氏による、行動分析学の実践例が豊富に書かれた一冊。不登校や暴力、不安症などの問題行動を、行動分析学をどのように用いて改善したのかについての具体的な方法とその解説が詳細に述べられている。

奥田 健次 (著)
出版社 : 集英社 (2012/11/16)、出典:出版社HP

メリットの法則
分析学実践編
奥田健次

まえがき

以前、出演したテレビ番組で、「人間は、その行動をした直後にメリットが生じると、またその行動をするようになるのだ」というテーマから、数ある心理学領域の中でもひときわユニークな「行動分析学」を紹介した。番組ディレクターらは、視聴者にわかりやすく「メリットの法則」という番組用の造語を用いて、行動分析学の専門用語を使わずに番組を構成してくれた。そのおかげもあって、深夜帯であるにもかかわらず大変な高視聴率であったという。スタッフによれば、番組中にツイッターやら2ちゃんねるなどのメディアでもかなりの反響があったそうである。しかし、確かに視聴者にはわかりやすい「メリットの法則」なのであるが、一方では番組企画段階での予想通り、誤解を招いたところもある。そもそも、「メリット」という言葉は、「(目先の利益」という印象を抱かせるようであり、「人間は自己利益のために行動している」と考えたくない人にとって、受け入れがたいものなのかもしれない。もしくは、人間は動物と違うので「報酬」がなくても行動することがあるという信念を持つ人も多い。そうした感覚はおよそ真っ当なものである。人間には、確かに人間以外の動物異なる特徴がある。

ただ、物事を印象や感覚だけでとらえることはよろしくない。「人間は、ネズミやハトなどの動物などと全然違う」と言われる方にお聞きしたい。「そうです、全然違いますね。では、人間にもネズミやハトと共通するところがあるとすれば、それはいったいどんな部分ですか?できるだけたくさんの事実を挙げて下さい」。このように問われると、どのように答えるのだろうか。行動分析学には、多くの実験研究から膨大な知見が集積されていて、そのおかげで、逆に人間が人間以外の動物とどのような点で違うのかという知見についてもまた、数多くの事実を明らかにしてきた。

そして、行動分析学が明らかにした行動の法則は、それが人間社会における諸問題の改善に応用され、大いに貢献していることもまた事実である。集英社新書の杉山尚子氏のベストセラー『行動分析学入門―トの行動の思いがけない理由』において、その行動分「析学の基礎から応用までが十分に概説されている。本書では、行動分析学の基本を押さえつつ、日常生活上の諸問題から臨床事例を多めに解説していく。もう少しやわらかく言えば、周囲の人や自分自身の「よくある行動」に着目して行動の原理に追っていくので、本書を読み終わってから杉山尚子氏の『行動分析学入門』を読まれると、きっと頭の中で整理できるようになるだろう。

第1章の冒頭、頻発する発作で悩む親子への介入事例を取り上げるのだが、こうした生理的・病理的な問題にすら、行重分析学がどのように貢献できるのかをご覧いただき、人の行動の裏に隠された法則を紹介したい。それによって、「人間は製品がなくても行動することがある」と考えている人が見落としていることにもお気づきいただけるだろう。

本書では、数多くの日常例や症例などを取り上げた。人間が目先のメリットで動く場合も、そうでなさそうな場合も、いずれも感覚ではなく、事実として行動分新学に対する理解を深めていただければと願っている。特に、本書は行動分析学の諸原理だけで強迫性障害などの精神疾害のメカニズムを解説した初めての解説書でもある。全国各、世界各国を飛びって数多くの高床活動をしてきた中で、思い出に残っている事例から、行動の法則を浮き彫りにしたい。

奥田 健次 (著)
出版社 : 集英社 (2012/11/16)、出典:出版社HP

目次

まえがき

第1章
その行動をするのはなぜ?
実用的な心理学
奇声をあげるアキラくん
奇声をあげたら、お母さんと離れ離れに
通常学級に入学したアキラくん
陥りがちな「循環論」の罠
原因を「行動随伴性」で考える
身近な例で考える行動分析学
すぐに弱音を吐くタカシさん
「甘えているから」では、問題は解決しない」

第2章
行動に影響を与えるメカニズム
(基本形)
原因と結果を「真逆」に考える
「症状」と「行動」は異なる
行動とは何か?
「試験勉強」「破壊行為」は具体的でない
行動の前に原因がある「レスポンス行動」
行動を強める「強化」の原理(基本形)
「好子」出現の強化
「嫌子」消失の強化
行動を弱める弱化の原理(基本形)
嫌子出現の弱化
好子消失の弱化
四つの行動原理で、あらゆる行動を説明する

第3章
行動がエスカレートしたり、叱られても直らないのはなぜ?
行動の直後に何が起こったのかに注目せよ
なぜダイエットが難しいのか
行動が消えてしまうメカニズム
(消去の原理)恋に破れて、行動が消去される
とても大切な消去の原理
社会生活に重大な変化を及ぼす
「強化スケジュール」
強すぎる消去抵抗、消去バースト消去の連続に耐える。
叱られてもやめられないのはなぜ?
(回復の原理)失敗はこうして繰り返す
「アメとムチ」という発想を捨てよう
「ムチ」の副作用

第4章
行動に影響を与えるメカニズム
(応用形)
日常の行動はもっと複雑
人間の行動をより深く理解するために
行動を強める強化の原理(応用形)
嫌子出現「阻止」の強化
嫌な思いをしないために
好子消失「阻止」の強化
持ち物が増えると悩みが増える
行動を弱める弱化の原理(応用形)
嫌子消失「阻止」の弱化
好子出現「阻止」の弱化
「じっとしている」は死人にもできる
阻止の随伴性に伴うリスク
強迫性障害を形成するメカニズム
不安を引き起こす刺激を与え続ける
刺激を自動的にシャットアウトする
阻止の強化による強迫性障害
エクスポージャーを行動分析学でとらえ直す
不安を減らそうとしてはいけない

第5章
行動は見た目よりも機能が大事
行動の機能は四つしかない
物や活動が得られる
注目が得られる
逃避・回避できる
感覚が得られる
同じ行動のように見えるが同じ
行動ではない、という落とし穴
機能の重複
家庭での問題から(不登校の連鎖、そして回復へ)
不登校三きょうだい
不登校を支える行動随伴性
学校に行かない兄は「かわいそう」
“こころの中身”は不毛な議論
ウソを簡単に見抜く方法
学校を休むと家で遊べる(物や活動)
母親と一緒にいられる(注目)
学校に嫌なことがある(逃避・回避)
機能が複合している場合、シフトしていく場合
てんびんの法則
家庭で過ごす理由
おのずと学校に行く確率を高める方法
奇声をあげる男の子
嘔吐を繰り返す女の子
リストカットがやめられない女子学生

第6章
日常のありふれた行動も
トークンエコノミー法
トークンエコノミー法とは何か
店がポイントカードを作る理由
視覚的な達成感
トークンエコノミー法は「さじ加減」が決め手
手応えのある仕事
トークンエコノミー法のバリエーション
不登校と「そもそも」論
「ワクワク感」を大事にしよう
ポイントを減点するレスポンスコスト
FTスケジュール
ニューヨークでのこと
「わんこそば」式
強度行動障害者の施設にて
その日のうちに表れる明確な効果
迷信が形成されるメカニズム
迷信行動とエクスポージャー
“任意の努力”を目指して
「したいからやる」行動随伴性を

あとがき
主要参考文献

奥田 健次 (著)
出版社 : 集英社 (2012/11/16)、出典:出版社HP