プログラム学習で学ぶ行動分析学ワークブック

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初学者に最適なテキスト

本書は行動分析学の教科書である。各項にはエクササイズとプログラム学習というコーナーが設けられ、行動分析学の基本概念や専門用語を無理なく理解できるようになっている。特にプログラム学習は行動分析学の理論を活用した学習方法の一つであるため、行動分析学そのものを行動分析学の知識を生かして学ぶことができる。

吉野智富美 (著), 吉野俊彦 (著)
出版社 : 学苑社 (2016/9/19)、出典:出版社HP

はじめに

本書は、行動分析学のテキスト(教科書)です。大学などで行動分析学を学ぶ際に、本書を併せて読んでいただくことで、行動分析学への理解がより深まることを願って書かれています。したがって、本書は、第1の読者として行動分析学を初めて学ぶ学生のみなさんを想定しています。

本書は、行動分析学を学ぶみなさんに学習していただきたい基本的かつ重要な内容を盛り込んでいます。執筆するにあたって、筆者らは2016年現在、日本で行動分析学の講座を開講している主な大学のシラバス(講義計画)を参照し、どの講座にもほぼ共通して取り上げられている基本的かつ重要なトピックスを洗い出しました。そしてそれらを学習しやすい順に構成した上で執筆しました。大学や大学院で行動分析学の講座を履修している学生のみなさんが、講義の予習や復習として本書を利用することで、さらに行動分析学への理解を深めていただけたらと思っています。

行動分析学は心理学の中でも学習心理学という領域に分類される学問です。行動分析学は、「私たちそれぞれが、なぜある行動をするのか」「なぜある行動をしないのか」「ある行動は続くのに、別の行動はなぜ長続きしないのか」「同じような状況に置かれても、なぜ個人によってやっていることが異なるのか」といったさまざまな「行動のなぜ?」を科学的に理解し説明する学問です。そして、日常や臨床などの場面に実際に適用するための行動の原理をもった学問でもあります。

そうした行動の原理を探るために、行動分析学は徹底的行動主義という哲学の上に、実験的行動分析学、理論行動分析学、応用行動分析学という3つの柱を立てています。つまり、さまざまな人がしている行動を共通した原理によって説明し、その原理を教育、福祉、医療、産業、スポーツ指導などさまざまな場面で適用して役立てようとする科学なのです。

そこで本書は、第2の読者として、親や教師、保育士、医師、看護師、保健師、言語聴覚士、心理士など子どもを育てたり、子育て支援をしたりする立場にある人、医療や福祉領域で誰かを支援する立場にある人、企業などで個人や集団の行動をマネジメントした。りさまざまな課題を解決したりしていく立場にある人も想定しています。

責任のある立場で誰かを支援したり指導したりする場合には、科学的な立場から理論や背景を理解し、共通言語をもって説明し、情報を共有していく責任があります。その一方で、行動分析学の原理を十分理解することなく、技法だけが適用されかねないという危惧を抱いています。「効果的であるから」とすぐに現場に取り入れられることで、マニュアル化されたテクニックとして行動分析学を使う、対症療法的な小手先の技術となってしまわないかということです。筆者らが臨床現場で出会ってきた事例の中には、「発達障害児はほめて育てればよい」「部下もほめて教育したらよい」、逆に「ほめると子どもはダメになる」「子どもの問題行動は無視すればよい」「恐怖症の治療にはエクスポージャーがよいいといった、いわば「○○という症状には△△療法」という医学モデルとして行動分析学を扱っているような例があります。「どうしてそういった対応をしたのですか?」と尋ねても「その症状にはそれが効果的といわれているから」といった回答しか得られないときもあります。それで効果があればまずはよいのかもしれませんが、効果がなかったり、より事態が悪化してしまったりする場合には、それでは済まされないのです。

このように、技法だけが一人歩きしないように、「なぜその対応をするのか?」に科学的な視点から説明できるようになるためには、基礎的な領域を含めた学習が必要となってきます。さまざまな現場にいながら行動分析学を学び、そこで応用していこうとしているみなさんが、具体的なイメージをもって基礎から行動分析学を学んでいけるように、本書では日常にある身近な例を多用しながら解説をおこなっています。

それに加えて本書では、みなさんの自発的で積極的な学習行動を促していくために、次頁で解説するようなエクササイズとプログラム学習を適宜設けています。特にプログラム学習は行動分析学の理論を活かした1つの学習(勉強)方法です。行動分析学そのものを、まさに行動分析学の知識を用いて学んでいこうというわけです。

本書は行動分析学を1から学んでいけるよう、基礎的な領域の学習からスタートし、それらが私たちの日常でどのように応用されているのかまでを解説しています。したがって、ページの最初から順に学習していくことをおすすめします。

筆者らは行動分析学に関する教育や臨床活動をおこなっています。行動分析学さえあれば他には何も必要ないとは決して考えていません。一方で、行動分析学がさまざまな領域に適切に広まっていったなら、今よりもよりよい他者理解や生産的な問題解決がおこなわれていくと予測しています。私たち一人ひとりが、行動分析学の知識をもって、家庭、学校、大学、職場などで出会うそれぞれの問題に向かい合い、それらを理解し、解決へと進めていくことができたらなら、今よりもよりよい社会になるだろうと期待しています。

吉野智富美

吉野智富美 (著), 吉野俊彦 (著)
出版社 : 学苑社 (2016/9/19)、出典:出版社HP

本書の目的と使い方

本書では、次の2つを大きな目標として掲げています。

本書の到達目標
①行動分析学の基本概念や専門用語を理解し説明できる。
②自分や他者の行動を行動分析学を用いて説明できる。

これらの目標を達成していくために、本書では行動分析学の学習にあたって、適宜エクササイズとプログラム学習(programmedinstruction)のコーナーを設けています。
エクササイズのコーナーでは、行動分析学を学習するみなさんが、私たちの行動のさまざまな側面について自由に考え、学習したことをもとにして新たな見方で行動を説明することを目的にしています。このコーナーでは、みなさんが自分のことばで自由に思考したり説明したりすることを重視していますので、1つだけの正解というものは用意していません。
エクササイズのコーナーでは、たとえば次のような設問を設けて、みなさんの自由な思考を促し、ご自身のことばで自由に説明をしてもらいます。

エクササイズ
近くで小さな子どもが泣いています。それを見ているあなたは、その子どもがどうして泣いているのか、どのように説明しますか?どのような理由で、なぜ泣いているのかについて、あなたならどのようなことばを使って説明しますか?

一方のプログラム学習のコーナーでは、行動分析学がもっている概念や専門用語を、できるだけ効率よく無理なく学習していけるように、みなさんの学習をサポートする目的で設けています。ドリル形式のコーナーで、問題を読み、答えを書き、解答をすぐにチェックするという方法を採用しています。
プログラム学習とは、これから学習をしていく行動分析学の創始者であるアメリカの心理学者スキナー(BurrhusFredericSkinner,1904-1990)が考案した学習(勉強)方法です。新しい知識や学問を身につける際、その学習を効果的に進めていくために行動分析学の見地を活かした点に特徴があります。
プログラム学習では、学習すべき目標を決め、それを習得するまでのステップを細かく設定し、スモールステップで無理のない順に学習を促していきます。プログラム学習は、次の3つのステップから構成されています(図1)。①学び手である読者のみなさんはこれから学ぶ内容の解説や説明文を読む→②続いてそれに関する問題や課題が呈示されていますから、それらに答える→③すぐにその場で自身の解答をチェックする。
学習する内容をスモールステップで呈示すること、学び手の積極的な反応を促すこと、自分自身の解答をすぐにチェックすること、学習するみなさんが自身のペースで学習することを基本原則としています(Skinner,1958)。

①学習内容の解説・説明文を読む
②問題や課題を読んで解答する
③すぐにその場で解答をチェックする

ここで、プログラム学習が具体的にどのようなものなのかを体験してみましょう。

いかがでしょうか。プログラム学習とはどのようなものかを体験することができましたか?問題が難しかったり、間違えてしまったりした場合は、最初に答えを見ながら問題を何回か読み、続いて答えの部分を紙などで隠して、問題を読み、解答するという手順を繰り返してください。このようなエクササイズとプログラム学習のコーナーを活用しながら、スモールステップで行動分析学を学んでいきましょう。本書ではみなさんが日常的に具体的に行動分析学を学べるよう、できるだけわかりやすい表現で日常的な例をたくさん盛り込みながら解説をおこなっています。ただし、行動分析学では共通言語としてみなさんと共有したいキーワードがいくつも登場します。日常ではあまり使わない用語だったり、普段使っている意味とは少し違う意味で登場したりします。最初は馴染みのない聞き慣れないキーワードかもしれませんが、繰り返し読み、自らも説明し、日常の中で使っていくうちに次第に覚えていくものですから、ぜひ学習を続けてください。ノートを用意して何度も何度も繰り返し学習をしてくださったら、きっと今とはまた違った世の中やものごとが見えてくるかもしれません。そして、その新しいものごとの見方は、今よりもみなさんの生活を楽しく豊かにしてくれるでしょう。それでは、行動分析学の学習を始めましょう。

吉野智富美 (著), 吉野俊彦 (著)
出版社 : 学苑社 (2016/9/19)、出典:出版社HP

目次

はじめに
本書の目的と使い方

1人の行動のなぜ?
人の行動の「日常的」な理解の仕方
「なぜ泣いているの?」「どうして勉強が続かないの?」にどう答えますか?
トートロジー(同義反復)という落とし穴
人の行動の「科学的」な理解の仕方――行動分析学
トートロジーの落とし穴から抜け出そう
最初に覚えるキーワード学習と行動

2レスポンデント行動
馴化と脱馴化、鋭敏化
熱いものに手が触れたら?無条件刺激と無条件反応
パヴロフ型条件づけ(レスポンデント条件づけ、古典的条件づけ)
パヴロフ型条件づけ①―興奮性条件づけ
パヴロフ型条件づけ②一抑制性条件づけ
刺激般化と般化勾配、分化
特殊な条件づけ(味覚嫌悪学習)と準備性

3オペラント行動
オペラントの定義
「そうするのはなぜ?」「その行動が続いているのはなぜ?」一強化の原理
「それをしないのはなぜ?」「その行動が続かないのはなぜ?」一弱化の原
私たちの行動を左右するもの好子(正の強化子)・嫌子(負の強化子)
さまざまな好子・嫌子
「普通は好きでしょ?嫌いでしょ?」は意味をもたない
お手伝いをするのはお小遣いのため?それとも……..?
一付加的強化随伴性と行動内在的強化随伴性
大好きなケーキも毎日だとうんざり?真夏の炭酸飲料は最高!一確立操作
オペラント条件づけの4つの基本パターン
反応強化子随伴性と随伴性ダイアグラム
よくある間違い
もはやその行動には意味がない!?――消去の原理
これまでやっていたことをしなくなる理由
ボールペンのインクが突然出なくなったら?―消去誘発性行動変動
消去された行動が再び生じる一自発的回復
消去と反対の原理——復帰
どちらも行動が弱まるけれど?――弱化と消去の違い
時や場所をわきまえて行動するのはなぜ?――刺激性制御
街で友人によく似た人を見かけたら?―一般化
「あらかじめ○○しておこう」「予防策を張っておこう」阻止の随伴性
行動の直後には何も変化がないけれど
許可の随伴性と阻止の随伴性
阻止の随伴性の4つのパターン
回避条件づけと回避行動
行動の強化や消去に影響を与える条件——強化スケジュール
強化スケジュールと消去抵抗の関係
言語行動
ルール支配行動と随伴性形成行動

4生活への応用――応用行動分析学
私たちの生活をよりよくするために
困った状況ってどんな状況?しなくて困る、し過ぎて困る
行動の未学習・未定着の場合どうするの?行動形成
ステップ1:目標行動を具体的に決める
ステップ2:行動に結果を伴わせる好子出現による強化と嫌子消失による強化
ステップ3:好子を探る――「十人十色」「蓼食う虫も好き好き」をお忘れなく
ステップ4:まだ獲得していない行動を形成するシェイピングと漸次接近法
ステップ5:複雑な行動を単純な単位に分ける課題分析とスモールステップ化
ステップ6:単純な行動をつなげていく―行動連鎖
ステップ7:行動が起こりやすくなるような事前の手助けをする
行動の誤学習の場合どうするの?困った行動を減らす
ステップ1:その行動が生じる理由を知る――機能分析(機能的行動アセスメント)
ステップ2:予防策を取る、前もって状況を変えておく
ステップ3:ダブルの対応で効果アップ一望ましい行動の分化強化+困った行動の消去
ステップ4:できるだけ使うことを避けたい方法——弱化
行動分析学の日常行動への適用

あとがき
文献
索引

吉野智富美 (著), 吉野俊彦 (著)
出版社 : 学苑社 (2016/9/19)、出典:出版社HP