保護者と先生のための応用行動分析入門ハンドブック―子どもの行動を「ありのまま観る」ために

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子供の行動の心理がよくわかる

本書は、「指示に従わない」「パニックを起こす」などの子供の行動をありのままに観察し、なぜそのような行動をとるのかについての仮説を立て、改善方法を実践する過程の中で理解していくという、行動分析学による保護者と教師のためのガイドブックである。本書を通して、子供の行動だけでなく自身の行動も外的環境に影響を受けていることを知り、お互いのためにより良い行動をする意識を持つことができる。

三田地 真実 (著), 岡村 章司 (著), 井上 雅彦 (監修)
出版社 : 金剛出版 (2019/5/30)、出典:出版社HP

監修のことば

「指示に従わない」、「パニックを起こす」など子どもの行動をどのように理解し,対応するかということについての悩みは、保護者も教師も共通しています。私たちはその行動について,「ストレスがあるから」,「反抗期/思春期だから」,「発達障害だから」などさまざまな理由を探そうとします。

しかし、行動の原因を内的なストレス,発達,障害特性というものに求めることで一応の納得は得られても、多くの場合それらの原因が直接的に問題の解決に繋がるわけではありません。それらは一般的な対処法を指南してくれるだけなのです。

本書は、そうした一般的な対処法についてのガイドブックではなく、一人ひとりの個別的な行動に対して、ありのままに観察し,仮説を立て、実践していくプロセスの中で理解していくという、行動分析学による保護者と教師のためのガイドブックです。

行動を機能でみるという技によって、見えてくるものは、大人が「問題行動」と考えているものの多くが,子どもにとってはコミュニケーションであったり、遊びだったりするということです。その中で私たちは「子どもがなぜそのような行動を取らざるを得なかったか」という環境に目を向けていくことになるでしょう。一般的な療育や教育にのらないのは、その子どものせいではなく,またその行動が問題なわけでもなく、その療育・教育環境が子どもにあっていないということこそが問題になるのです。

本書を通して考えていただきたいのは、読者自身の行動もまた自身の環境によって影響を受けているということです。大人の社会が常に正しく、適切に子どもを導けるとは限りません。私たち自身の行動もまた、ありのままに観察し,機能を分析していくことで、すべての人が生活しやすい社会環境に近づいていけるのだと思います。

平成31年4月22日
井上雅彦

三田地 真実 (著), 岡村 章司 (著), 井上 雅彦 (監修)
出版社 : 金剛出版 (2019/5/30)、出典:出版社HP

はじめに

~「ありのままに観る」ことの本当の意味~
「子どものありのままを認めましょう」
「子どもの気持ちに寄り添って」
こういうフレーズは子育てに疲れている親御さんや,自分の指導に悩んでいる教師の心をぐっとつかんで離さないようです。

これらは諸刃の剣で,ややもすると「何もしないで様子をみておく」という大人側の積極的な関わりをストップしてしまう,さらにはどのようにしたら問題を解決していけるかについての「具体的な手立て」を考えること自体を止めてしまうというリスクがあります。

しかし、この本で一番お伝えしたいこともまた,「ありのまま子どもの“行動”を観る」ということに尽きるのです。「そんな簡単なこと?」そう思われるかもしれません。しかし,私たち大人の多くは「ありのままに現象を観る」訓練をほとんど受けてきていません。そのために自分の目の前でどのようなことが起きているのかということを客観的に起きている事実を飛び越して「解釈だらけ」の見方で語ってしまいがちなのです。

たとえば,以下のイラストを見て瞬時にどう思われるでしょうか?

「だらしない」
「授業をサボっている」
「授業をきちんと聞いていない」
「親のしつけがなってない」など

これらはいずれも「解釈だらけ」の主観が入った表現です。

「え?そうなの?」と思われた方は、本書の13ページ以降に詳しい解説がありますので、覧ください。

この子の行動を「そのまま」,つまり「ありのまま」表現すれば,「姿勢が崩れている」というだけで、授業をサボっているとか,だらしないというのは、見ている側の解釈に過ぎないのです。

さらに付け加えれば,ありのままに、つまり自分勝手な主観を入れず,客観的にその子どもの行動を観ることができれば,それだけでもかなりの部分,適切な指導に結び付けられることが、きます。(この具体的な事例については、14~21ページで紹介しています)

逆に解釈だらけの見方をしていると、真の解決策から遠のくばかりか、その子の悪い面ばかりが強調されて大人側の解釈でその子のマイナスイメージが膨らんでいく可能性があります。そのために,指導のヒントはその子が適切に行動できている場面に実はたくさん秘められているということに気づけなくなってしまうという残念なループに陥りがちです。
本書を読み進めて実際にわが子,あるいは担当の児童生徒さんを「ありのままに観る」ことを繰り返していただくうちに、親御さん,そして先生方がその子の気になる面ではなく、むしろ「きちんと行動できている場面」「良いところ」にこそ目が向けられるようになり,そういう良い面を「ありのままに観てさらに伸ばしていける」ようになること、実はそれがこの本の最終的なゴールです。

本当の意味での「ありのままにその子の行動を観る」「その子に寄り添った指導ができる」
ようになるために、一つずつステップを進めていきましょう。

平成31年4月30日
三田地 真実

この本の使い方

この本を手に取ってくださった皆様は、おそらく親御さんのお立場で,あるいは先生のお立場で、目の前のわが子あるいは児童生徒さんの問題行動・気になる行動を「応用行動分析学(Applied Behavior Analysis,略してABA)」を使って、何とかしたいと思われている方でしょう(本書では、問題行動・気になる行動・困っている行動などはこの後「気になる行動」として表記します)。

いますぐに気になる行動を何とかしたいという方は,第1部にお進みください。
まずは行動の原理をしっかり学んでから、気になる行動に向き合いたいという方は第2部へお進みください。
指導の実際をまず知りたいという方は,第3部をご参照ください。

第1部と第2部はどちらから読んでいただいても,ゴールには辿り着けるようになっていますが,皆様の興味関心の強い章から読み進めていただいた方が皆様にとってよりこの本が役立つ=「機能」すると思います。第3部は実際の指導のプロセスを辿れるようになっていますので、家庭で,あるいは学校現場でのリアルな進め方が知りたい方はそちらから読まれることをお勧めします。

また本書で紹介している事例や記録用紙は、できるだけ①親御さんの立場での理解を進めるものと,②教員の立場での理解を進めるものとの両方をできるだけ並列しています。これについてもご自身のお立場に合った事例・記録用紙をまずじっくりと見ていただき,次に別の立場のものを見ていただくと、理解がさらに深まると思います。

最後になぜ、親御さんの立場と先生方の立場の両方でこの本が書かれているのか、少し考えてみていただければと思います。
その答えは、「おわりに」に記したいと思います。

三田地 真実 (著), 岡村 章司 (著), 井上 雅彦 (監修)
出版社 : 金剛出版 (2019/5/30)、出典:出版社HP

目次

監修のことば
はじめに~「ありのままに観る」ことの本当の意味~
この本の使い方

第1部 子どもの「気になる行動」に対処するための指導ステップ
ステップ1ありのまま上手への道
ステップ2理由づけ上手への道
ステップ3観察上手への道〜ターゲット行動の記録を取る~
ステップ4ほめ上手への道~強化の原理を使おう!~
ステップ5工夫上手への道~適切な行動をうまく引き出すのがコツ!~
ステップ6ふり返り上手への道~うまくいかなかったときも大丈夫!~
ステップ7自分観察上手への道

第2部 応用行動分析学(ABA)の基礎の基礎
~機能に基づくモノの見方に慣れよう!~
1.日常的な直観に頼った,行動の理由づけ~循環論に陥りやすい~
2.科学的に行動を観るために~ABCのフレームで行動をありのままに観る~
3.行動はその直後に起きている事象によって、続いて起こったり起こらなくなったりする〜基本の原理~
4.行動が増えたり,維持したりする原理~強化の原理~
5.行動が減る原理~弱化の原理~
6.強化されていた行動が強化されなくなったとき〜消去の原理~
7.先行事象「A」の役割~インストラクションは「A」~
8.応用行動分析学(ABA)の真髄〜機能に基づくモノの見方~

第3部 ABAの原理をもとにした指導の実際~リアル追体験してみよう!~
1.実際の指導場面から
2.具体的なケース集
3.ケースを通してわかること~1つ1つを丁寧に~

巻末付録
おわりに

コラム
なぜ具体的な行動にするのか?「触れるのは具体的な行動だけ」
関西弁ネイティブだった私が今や東京弁話者に?!
生き延びるために首が伸びたのか,首が伸びたから生き延びたのか
「記憶」に頼るな、「記録」に頼れ!~記録を取らないと行動のパターンはわからない!~
趣味とは何か?「強化の原理」で考えると
用語がバラバラ(その1)
先生は先行事象を調整するプロ?!
「刺激」か「事象」か,はたまた「条件」か?~用語がバラバラ(その2)~
どっちが楽?~目の前にあるお菓子の誘惑~
工夫上手は「舞台設営のプロ」
黙ってみたら動き出した!
ペアトレにも「マインドフルネス」
なぜ人は行動の理由を行動の「前に起きた事象」に求めるのでしょう?
法律は「正の弱化」の原理の明文化
ポジティブ行動支援(PBS)の考え方
ハウツーからの脱却
ファシリテーションとは?!
自分の行動にも適用できる

三田地 真実 (著), 岡村 章司 (著), 井上 雅彦 (監修)
出版社 : 金剛出版 (2019/5/30)、出典:出版社HP