行動分析学入門 ―ヒトの行動の思いがけない理由 (集英社新書)

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行動分析学の基本がよくわかる

行動分析学は、ヒト及び動物の行動の原因を心ではなく外部の環境に求め、「行動随伴性」という概念によって明らかにしていく、心理学の一体系である。本書は、そんな行動分析学の基礎から応用までを、過去の研究や実際の事例を用いながら詳細に解説してくれている。行動分析学への初めの一歩には最適な一冊である。

杉山 尚子 (著)
出版社 : 集英社 (2005/9/16)、出典:出版社HP

行動分析学入門
ヒトの行動の思いがけない理由
杉山尚子
集英社新書

まえがき

私がかつて二夏を過ごした米国ウェスタン・ミシガン大学の心理学者、アラン・ポーリングは、『A Primer of Human Behavioral Pharmacology ヒトの行動薬理学入門』という本の冒頭で、「Drugs and sex are two topics about which most people have strong opinions and weak understanding.(薬物とセックスというのは、多くの人々が独自の見解を強くもちながら、実態についてはろくに理解していない2大テーマである)」と述べている。薬物とセックスだけでなく、「こころ」についても同じことがいえるのではないだろうか。

多くの動物種の中で、人間だけが自分と他者の心について関心を寄せてきた。それは心の研究をする心理学者だけに限ったことではない。日常生活の至るところで、私たちは自分はもとより、他者の心についても語っている。心理という言葉は、心理学の専門家だけが振りかざす言葉ではなく、「心理戦」「女性の心理」、はては「優先席の心理」という具合に、日常用語として定着しているといってよい。

とりわけ、「21世紀は心の時代」という言葉に代表されるように、現代では、20世紀の物質文明からの転換の必要性を多くの人が認識している。また、昨今の社会状況下で発生する、犯罪や児童虐待といったさまざまな痛ましい出来事に対して、人々は強い関心を寄せ、心の復権の重要性を唱えている。専門家のみならず、あらゆる人々が心について解釈と説明を試みてきた。

しかし、本書の第1章でも述べるように、心理学という分野は一枚岩ではない。人それぞれ心についての見解があって、しかも強く自己主張するのは、何も一般の人々に限った話ではなく、アカデミックな心理学の世界でも同じであり、心に対する考え方は多様なのである。

そのような状況の中で、本書は、1930年代に米国の小田学者B・F・スキナー(1904-1990)が創始した、行動析学と呼ばれる心理学について、できるだけわかりやすく述べたものである。行動分析学とは、文字通り行動を分析する科学である。行動を分析することがなぜ心理学になるのだろうか。その謎解きは本文を読んでいただくとして、人間の「こころ」を考える際に、心理学という言葉から連想される、これまでの常識的な見方とはだいぶ異なる視点を提供していきたいと思っている。」「新書判である以上、紙幅の制約があり、行動分析学が過去70余年にわたって蓄積してきた知見を、ここですべて披露することはとうていできない。したがって、本書が狙ったのは、行動分析学が人間の問題を扱う時の核となる考え方を伝えることである。

本書によって、読者の皆様が人間の問題を考える際にこれまでと違った新しい視点を獲得し、それを面白いと思ってくだされば幸いである。

杉山 尚子 (著)
出版社 : 集英社 (2005/9/16)、出典:出版社HP

目次

まえがき

第1章
心理学をめぐる誤解
-心とこころ
心理学にはいろいろある
行動分析学は行動の原因を解明する
行動の科学は成り立つのか
行動分析学は行動の問題を解決する
心理学の研究対象
3つのレベル
行動分析学が受け入れる説明
行動分析学的行動観
行動分析とは行動の実験的分析である
行動の原因をどう考えるか
行動にはられたラベルと医学モデル
操作不能の原因
行動分析学が考える行動の原因
行動とは何か
行動とは死人にはできない活動のこと
行動には見えないが行動といえるもの
行動の種類(レスポンデント行動)
オペラント行動
オペラント行動の法則
行動随伴性
個人攻撃の罠

第2章
行動の原理
好子出現の強化
嫌子消失の強化
嫌子出現の弱化
好子消失の弱化
行動は無意識のうちに強化/弱化されるともある
消去と復帰
消去
復帰
先行刺激による行動の制御
スキナー箱
般化

第3章
行動をどのように変えるか
新年の誓いはなぜ破られるか?
知識こそが行動の源なのか?
具体的な指示を出す一行動的翻訳一
技能に問題がある場合の対処法
シェイピング
チェイニング
随伴性を変える
60秒ルール
抹殺法
新しい随伴性を加える
代替行動という考え方
消去
弱化と消去
行動を増やすには

第4章
スキナーの思想と実験的行動分析
スキナーの哲学
はじめはネズミ、そしてハトへ
系統的再現
実験室における人間の行動
嘘は強化できる
強化スケジュール
消去抵抗
バースト
部分強化
なぜ実験か?
偶然を排除するには
単一被験体法という考え方
節約の原理

第5章
言語行動
人間の特徴は、言語の使用である
スキナーの『言語行動』
言語は行動である
言語はなぜ行動なのか
言語共同体とは何か
話し手と聞き手の随伴性
言語行動の種類
マンド
タクト
聞き手は話し手の言語行動を強化する?
イントラバーバル
エコーイック
文字が関与する言語行動
言語を随伴性で見るということ
行動の形式と機能美
言語行動としての非言語行動
言語獲得
指さしと言語
私的出来事のタクト

あとがき
引用・参考文献

杉山 尚子 (著)
出版社 : 集英社 (2005/9/16)、出典:出版社HP