図解入門業界研究 最新宇宙ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本

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宇宙ビジネスの今後を学ぶ

本書は、宇宙ビジネスの基本的な内容について紹介している本です。宇宙ビジネスの最新動向や基礎知識に加え、プレイヤーの紹介やロケット、人工衛星、宇宙旅行関連のセグメント別のビジネスの動向が説明されています。終盤では、宇宙の進出に意欲的な中国の動きについても紹介しており、宇宙ビジネスが世界に与える影響の大きさが理解できます。

齊田 興哉 (著)
出版社 : 秀和システム (2018/10/20)、出典:出版社HP

はじめに

近年は、日本を代表するロケットH-ⅡA、H-ⅡBについて、打ち上げの失敗といったニュースはまったく耳にしなくなりました。ロケットの打ち上げの成功が続くとそれが“当たり前”になり、メディアに取り上げられなくなる傾向にあります。筆者としてはそれは残念ですが、今は成功が“当たり前”の時代になっています。
人工衛星も同様です。ロケットにより打ち上げられ、宇宙空間の軌道上に投入される人工衛星も、与えられた設計寿命をまっとうするようになりました。人工衛星はそのミッションの途中でさまざまな故障や想定していない動作といった不具合が発生したりしますが、そのような事態が起きても乗り越え、運用実績とノウハウを蓄積することで、設計寿命を超えてもミッションを遂行し続けるといった衛星もあります。

最近、ある専門家の方から「水と空気とGPS」という言葉を教えていただきました。本書でも紹介しますが、GPSという測位衛星は、水と空気のように“当たり前”に日常生活で活用されています。そのうちに、「水と空気と宇宙ビジネス」という言ができるようになるでしょう。

このような“当たり前”を作っていくことが、宇宙ビジネスに課せられたミッションなのかもしれません。
こうした日本の状況は、長年、政府主導で進めてきた宇宙技術開発の賜物といえるでしょう。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、世界の宇宙先進国の一員となるべくリードしてきたため、日本の宇宙技術力は欧米と肩を並べる水準となりました。

これはとても凄いことです。なぜなら、アメリカは宇宙にかける政府予算が年間約5兆円です。日本はどうかというと、年間約3000億円。約7倍近い予算の差があるにもかかわらず、宇宙先進国の一員として認められる日本の技術力はすさまじいものがあるといえます。
しかしながら現在、日本も正直なところ、昔のように大掛かりな宇宙技術を開発する必要性は薄くなり、次の宇宙政策では、ハード面からソフト面へと舵取りを変更する機運が高まっています。
さらに、日本政府、JAXA、ロケット・衛星製造メーカが培った技術やノウハウなどを活用し、新しい宇宙産業の姿を模索し始める状況もあります。

結果として、政府主導の宇宙技術開発の時代から、今までロケットや人工衛星を開発してきた老舗企業、ベンチャー企業、そしてまったく宇宙産業にかかわったことのない非宇宙企業も含め、民間企業が中心となった新しい宇宙ビジネス、「NewSpace」の時代が始まっています。

ところで、宇宙技術というと、ロケットを連想する方が多いようです。これはテレビや新聞などメディアで映像や写真として目にする機会が多いからではないでしょうか。エンジンの轟音とともに、まぶしい光と白煙を噴射しながら大空に向かって真っすぐ進んでいる姿は、迫力があり、多くの人を魅了します。

人工衛星は、そのロケットの先端(フェアリング)に搭載されます。桃太郎のもものように、真っ二つに割れるフェアリングに収まっていますから、外からは姿が見えません。しかも人工衛星は宇宙空間で活動するため、実際の姿がテレビに映る機会がありません。それで、宇宙技術と聞いて、すぐに人工衛星を連想する方は少ないようです。メディアの力、映像の力というのは大きな影響力があるのです。

本書を通じて、宇宙技術、宇宙ビジネスの最新情報、そして基礎知識などをお伝えすることは、意味のあることではないかと考えています。なお、宇宙ビジネスの最新事例等については、筆者が運載している日経XTECH「資日記哉の宇宙ビジネス通信」や拙著「宇宙ビジネス第三の波」(日刊工業新聞社)をベースに作成しています。

より多くの方や企業に宇宙ビジネスを知っていただければ、もっともっと領域が拡大するのではないか、筆者が思いもつかない新しいアイデアを創出する方や企業が現れるのではないかと、大きな期待を持っています。
筆者は、宇宙ビジネスに関するコンサルティングを生業としています。さまざまな方にお会いしますが、よく質問されるのは、これからの展望です。「将来、宇宙ビジネスは、具体的にどのような姿になるのでしょうか?」、この質問が半分以上を占めます。宇宙ビジネスの具体的な未来のイメージが、その成功に直結すると考えていらっしゃるのだと思います。

宇宙ビジネスは、正直なところ、まだまだ事業リスクが高い市場です。ロケットや人工衛星の開発や製造はコストがかかりますし、特殊な技術やノウハウも必要です。失敗したときのリスクも考えなければなりませんし、失敗により被る損害など、他の産業よりもリスクが高いのです。
政府主導で動いてきた宇宙ビジネスの市場(OldSpace)は、このような事業リスクに耐えうる大企業が請け負う傾向にありました。企業なども固定化しており、新しいアイデアや発想は出にくい状況であることは否定できません。

しかしながら最近は、従来の宇宙ビジネスの主流であった大型ロケットや人工衛星以外にも、小型のロケットや小型の人工衛星、それらのデータを利活用したビジネス、小型だからできるビジネスなど、参入できる範囲が広がっています。だからこそ、宇宙ビジネスとまったく無縁であった人や企業が参入し、新しいアイデアや発想を持ち込んでいます。

宇宙ビジネス業界に新しい風が吹いてくれることを筆者も期待しています。サプライチェーン自体も今後改革が進んでいくでしょう。ロケットや人工衛星をいかに安く製造できるか、どう信頼性を高められるかがキーポイントとなります。

このような視点から、宇宙ビジネスを皆さんにお伝えするというミッションを持って、本書を執筆しました。世界では、これからどのような宇宙ビジネスが展開されようとしているのでしょうか。一緒に見ていきましょう。

二〇一八年初秋
著者

齊田 興哉 (著)
出版社 : 秀和システム (2018/10/20)、出典:出版社HP

How-nual 图解入門 業界研究
最新宇宙ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本

目次

はじめに

第1章 宇宙ビジネスの最新動向
1-1 日本の宇宙ビジネスの市場規模
1-2 世界のロケット開発・製造
1-3 リモートセンシング衛星
1-4 通信衛星と測位衛星
1-5 惑星探査機
1-6 大型衛星と小型衛星の違い
1-7 宇宙旅行と宇宙ホテル
1-8 惑星への移住計画
1-9 惑星の資源を探査
1-10 宇宙資源の利用に向けた法整備
1-11 日本の宇宙ビジネスの課題

第2章 宇宙ビジネスの基礎知識
2-1 ロケットとは何か
2-2 ロケットと飛行機の違い
2-3 ロケットの構成について知る
2-4 ロケットの打ち上げ輸送サービス
2-5 世界には射場がいくつあるか
2-6 人工衛星とは何か
2-7 ロケットの歴史を知る
2-8 ロケットの開発と進歩に貢献した科学者たち
2-9 日本のロケット開発
2-10 旧ソ連と米国の人工衛星開発装争
コラム 人工衛星のデータは、リアルタイム活用の時代へ

第3章 宇宙ビジネスのプレイヤーたち
3-1 宇宙ビジネス業界はピラミッド構造
3-2 世界の宇宙機関
3-3 New Spaceで活躍するベンチャー企業
3-4 大型ロケット、人工衛星の主な企業
3-5 コンポーネント企業
3-6 部品・部材企業
3-7 国際宇宙ステーションにかかわる企業
3-8 宇宙旅行を手掛ける企業
3-9 ロケットや人工衛星の保険を扱う企業

第4章 ロケットビジネスの最前線
4-1 ロケットの新たな打ち上げ方法
4-2 日本で進んでいるマイクロ波ロケットの開発
4-3 ロケットのコスト削減策
4-4 注目される超大型ロケット市場
4-5 爆発的に拡大する小型ロケット市場
4-6 小型ロケットをめぐる日本の動き
4-7 ロケット射場ビジネスの最新事例

第5章 人工衛星ビジネスの最新事例
5-1 活気づく小型衛星コンステレーション
5-2 NECなどの小型レーダー衛星ビジネス
5-3 ビッグデータや仮想通貨関連ビジネスでの活用
5-4 衛星も大量生産される時代へ
5-5 人工衛星データを経済分析に活用
5-6 天候・災害に対するリスクヘッジやコスト算出
5-7 測位情報を活用したビジネス
5-8 VRを活用した宇宙ビジネス

第6章 宇宙旅行関連のビジネス最前線
6-1 宇宙旅行ビジネスの現状
6-2 宇宙旅行とともに広がるビジネス
6-3 惑星資源探査ビジネス
6-4 実現へ向けて進む惑星移住計画
6-5 日本らしい技術が光る宇宙機器
6-6 エンターテインメントビジネス
6-7 宇宙でお葬式をあげる

第7章 中国の宇宙ビジネスの動き
7-1 宇宙強国を目指す中国の政策
7-2 無人宇宙実験室「天宮2号」の打ち上げ
7-3 中国の人工衛星をめぐる動き
7-4 民間も宇宙ビジネスに参入
7-5 進む中国の宇宙技術

参考文献
索引

齊田 興哉 (著)
出版社 : 秀和システム (2018/10/20)、出典:出版社HP