現代日本政治入門

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広い視野で日本政治を学ぶ入門テキスト

本書は、現代日本の政治が抱える問題についてわかりやすく解説されており、初学者には最適の一冊となっています。また、中央政府の政治と対比して、自治体という地方政府の歴史と制度実態が詳細に記されており、入門的な概説テキストとして活用できます。

新藤 宗幸 (著), 阿部 齊 (著)
出版社 : 東京大学出版会 (2016/2/26) 、出典:出版社HP

まえがき

政治の変化は、じつに激しい。ここ三〇年ほどの日本政治をとりあげてみても、自由民主党の一党優位のもとで安定的に推移していたかにみえた体制は、一九九〇年代に入って流動化の度合いを加速した。一九九三年の自民党の下野、九四年の連立政権のもとでの自民党の政権復帰、二〇〇九年から一二年にかけての民主党政権、そして二○一二年からの自民・公明党による連立政権といった具合である。しかも、現在の安倍政権のもとでは、特定秘密保護法、集団的自衛権の行使を可能とする安全保障法制の制定、これらと密接に関係する立憲主義のありかたなどをめぐって多くの論争がおきているし、政権の政治指向にたいする世論はかつて以上に分裂状況にある。

政治なるものを抜きにして市民の生活は成り立たない。政治は良かれ悪しかれ市民の生活を左右する。政治の織り成す事象について関心をもち考察することが、これほど問われている時代もないのではなかろうか。

この本は、大学の専門課程で「日本の政治」を学ぶ学生だけではなく、選挙権年齢の一八歳への引き下げによって政治を考える機会が増えるであろう高校生、また政治の動きに関心をもち学習をかさねる市民を念頭に、入門的な概説書として書かれたものである。当然、民主主義政治体制のもとでは、政治にたいするアプローチは多様であってよいし、政治をみる眼もそれぞれの人間のよって立つ場により異なってくる。

この本はその意味で現代日本の政治についての一つの見解である。とはいえ、激動している日本政治の背景にあるものは、どのような価値観であり思想であるのか、日本政治の基本的枠組とその制度実態はどのようなものであるか、また、多くの論争を生んでいる政治の動きをどのように理解すればよいのか、に焦点を絞りつつ、入門的テキストとしてまとめてみた。そして、もうひとつこの本の特徴を記すならば、中央政府の政治とならんで自治体という地方政府の歴史と制度実態にページを割いたことである。中央政府の政治や行政と自治体のそれが、高度に融合関係にあるのはいうまでもない。けれども、そうした大きな枠組のなかで市民に身近な政府の政治が展開されている。中央政府の政治(国政)のみならず自治体の政治を考察することは、トータルに日本の政治を学ぶにあたって不可欠と思えるからである。

ところで、ここで本書の成り立ちについてふれておきたいと思う。一九八六年度から八九年度まで放送大学の専門科目として「日本の政治」がおかれた。放送大学の科目終了後の一九九〇年一〇月に、「日本の政治」を担当した阿部齊・川人貞史・新藤宗幸の共著として、印刷教材をアップ・トゥ・デイトした『概説 現代日本の政治』を、東京大学出版会から刊行した。さすがに二一世紀に入るとこの本はアウト・オブ・デイトとなり、改訂せねば読者に失礼となった。

こうして改訂が著者間で話し合われたのだが、著者の一人である川人貞史・東京大学教授は諸般の事情から作業にくわわるのが難しかった。そうこうしているうちに、共著者である阿部齊は、二〇〇四年三月に放送大学を定年退職し、わずかにできた時間の余裕を利用して懸案であった心臓手術をうけた。当初、術後の経過は順調にみえたのだが、その後急速に様態が悪化し、二〇〇四年九月、残念なことに逝去した。

それからすでに一○年余の時間が経過する。本書はこうした事情と時間の経過ゆえに、『概説 現代日本の政治』の改訂版としてではなく、この激動する時代を理解するために新たな現代日本政治の入門書として執筆したものである。ただし、日本の政治の動きをたえず批判的に考察し民主主義政治体制の充実を追究した阿部齊の遺志を受け継ぎ、『概説 現代日本の政治』において阿部齊が執筆した部分を基本的に生かし、新たな動きなどの修正をくわえ阿部齊との共著として刊行することにした。こうした新藤の意図をご理解いただき共著とすることをご快諾いただいた、阿部齊のパートナーであった中田京さんに感謝申し上げるしだいである。

一国の政治は、国内・国際環境の変化に絶えず影響をうけて動く。したがって、日本の政治はより一段と流動化の速度をはやめていくことも予測される。そこでは新たな政治体制を模索する動きもでてくるかもしれない。そして、学問的には大きな論争が展開されることにもなろう。とはいえ、将来おこりうる事態も、しょせん、過去、現在の政治の営みと無縁のものではない。したがって、どのような変化や論争が生まれるにせよ、本書で述べたことが意味を失うことはないであろう。本書が現代日本政治の洞察に寄与でき、民主政治の発展の一助となるならば幸いである。

本書は構成案の作成から編集にいたるまで、東京大学出版会編集部の斉藤美潮さんのひとかたならぬご努力にささえられている。斉藤美潮さんに心よりお礼を申しあげたいと思う。

二〇一五年一二月二五日
新藤宗幸

新藤 宗幸 (著), 阿部 齊 (著)
出版社 : 東京大学出版会 (2016/2/26) 、出典:出版社HP

目次

まえがき

1 日本国憲法体制と政治の枠組
政治とは何だろうか
明治国家の前近代性
日本国憲法に集成された戦後民主改革
「民主化」政策に内在した限界
自民党一党優位体制の成立
連立政権の時代――大手を振るう新自由主義
新国家主義の台頭
政治の変容と岐路

2 「国権の最高機関」としての国会の機能
三権分立と優位する国会
二院制
国会に求められる機能
議院内閣制のもとの国会
国会審議期間
委員会中心主義の国会審議
不透明な議事手続き
議員の活動とスタッフ機関の体制
代表と公開

3 日本の立法過程
内閣と議員による法案提出
法案の審議手続きと成立
立法過程の特色と変化
内閣提出法案と官僚の役割
自民党政務調査会との協議・同意
連立政権の時代と立法機能
民主党政権と立法機能の行方
第二次・第三次安倍政権と立法機能

4 日本の官僚制
官僚制の多様なイメージ
ウェーバーの官僚制概念
日本における近代官僚制の形成
原理の転換と公務員
戦後近代化と官僚制
行政手続法と規制緩和
官僚制組織の特徴
公務員制度改革

5 政策と政策の形成・実施
政策の概念と実施手段
政策体系と政策実施
政策の準備と作成
戦略的政策——集団的自衛権の行使容認のケース
実施政策と官僚制
法案要項と政権与党
与党事前審査制の問題点

6 予算と政治・行政
予算の意義と機能
予算制度の概容
予算編成——基本的枠組
国債の累積と予算政治

7 行政改革
概念の多義性
第一次臨時行政調査会
その後の行政改革
「小さい政府」論の台頭
第二次臨時行政調査会
政治改革としての行政改革
連立政権の時代
行政改革会議による行政改革―――首相発議権
中央省庁体制の再編成
独立行政法人の設立
二〇〇一年改革以降

8 選挙制度
政治改革としての選挙制度改革
小選挙区比例代表並立型
参議院議員選挙
定数不均衡——衆議院
定数不均衡――参議院
選挙制度と代表性

9 マス・メディアの政治機能
マス・メディアと政治
新聞の日本的特質と変容
テレビと政治
マス・メディアと世論
権力としてのマス・メディア

10 地方自治の歴史と制度
近代国家と地方自治
明治地方制度の論理と構造
工業化と都市化の影響
戦後改革と地方自治
戦後改革の裏面と修正
高度成長期の地方自治
ポスト近代化時代の地方自治

11 地方政治の変遷
画一的な自治体政治・行政制度
追い付き型近代化のもとの地方政治
住民運動・市民運動と「革新」自治体の叢生
「革新」自治体の衰退と多党相乗り選挙
平成の市町村合併
人口減少時代の地方政治に問われるもの

12 地方議会と地方選挙
地方議会の意義と役割
「強い首長・弱い議会」の制度と実態
議会改革の動きと課題
議会の予算責任
ジェンダーバランスと代表性
著しい投票率の低下

13 地方分権改革
政治改革としての地方分権改革
地方分権推進委員会の設置と活動
二○○○年の第一次地方分権改革
「三位一体」改革の虚構
地方分権改革推進委員会と政権交代
自民党政権の復活と地方分権改革のゆくえ

14 日本の民主主義
日本における民主主義の起源
大正デモクラシー
戦後の民主主義
日本的特徴
「官僚政治」の伝統と民主主義
政治倫理と民主政治
「観客民主主義」と大衆迎合主義
参加民主主義と討議民主主義

15 日本の自由主義
日本における自由主義の起源
天皇制国家と自由主義
「私化」と自由
私的自由と自律的個人
経済的自由主義の追求

16 保守主義の政治
戦後政治における保守と革新
日本人の保守性
一九五五年体制と保守・革新
対抗軸なき政治と保守性の強まり
保守主義の政治と新自由主義の政治

17 平等化と平等主義
平等主義社会
日本における平等化
平等主義社会の政治
平等主義社会と差別
差別の解消
平等主義社会の教育

18 日本のナショナリズム
ナショナリズムの起源
明治国家のナショナリズム
超国家主義への移行
ナショナリズムの崩壊
日の丸・君が代・天皇制
国際化とナショナリズム

19 日本の政治課題
東日本大震災と原発事故
政治の責任と信託
「決められない政治」批判は妥当なのか
政治主導――政治と官僚の関係
立憲主義の原点に立つ

参考文献

新藤 宗幸 (著), 阿部 齊 (著)
出版社 : 東京大学出版会 (2016/2/26) 、出典:出版社HP